第40話
ここは真っ暗 私自身の体しか見えない
私はここから抜け出せない
ここ最近毎日多くの人の悲鳴を嫌というほど聞いてきた
「元気?」
私が目の前に現れて訊いてくる
「元気なわけない」
私は答える
「もうやめて!誰の悲鳴も聞きたくない!」
私は私に向かって叫ぶ
「あら?やってる事は何も変わってないはずだけど?
邪魔をするものを殺しまくる」
「そうかも…しれないけど……あなたのは惨すぎるよ」
「今はそんなことはどうでもいいわ。
ちょっと耳を澄ましてごらん?」
「嫌…誰の悲鳴も聞きたくないって言ったじゃない」
「いいからいいから」
私は私に言われた通り耳を澄ましてみる
―…ぉん…ねおん…―
誰かが叫んでる
誰だろう? 私の名前を呼んでるみたいだけど
―祢音!―
―お姉様!―
「お兄ちゃん!奏!生きてたの!?」
「よかったねぇ。助けに来てくれたんだよ」
―ぐあっ!―
真っ赤な銃弾がお兄ちゃんの足を打ち抜く。
「お兄ちゃん!」
「感動の再会なんてないわよ。この2人が今から死ぬんだから」
続いて奏が私の攻撃を受けて吹き飛ぶ。
「嫌!!もうやめて!!」
「もっと絶望しなさいよ。それが私の力になるんだから」
―祢音!闇に負けてんじゃねぇよ!―
無理。私は勝てない。勝てる気がしない
―お姉様!戻ってきて!―
無理だってば
そんな私の声もお兄ちゃんと奏には届かない
―祢音!戻ってこねぇとお前の部屋もオレの部屋として使っちまうぞ!―
いや、それはできればやめてほしい
私の名を呼ぶ声さえ苦痛に思えてくる
でも……できるなら戻りたい
みんなでまた笑いたい
勝たなきゃ どうやって?
ここは私の心の中だ
今は目の前の私の物かもしれないけど元々は私の物
負けない 勝ちたい いや、勝つ!
「わっ」
すると真っ暗で闇しかなかったこの世界に一筋の光が放たれる。
「祢音さん!」
そこから現れたのは白い羽を持った私。
これで私が3人になった。
顔だけ見るとみんな一緒だからややこしい。
「くっ、出てきたか」
「あなたが希望を持ったおかげで私は闇の牢から抜け出せました。
今度は私があなたを助けます」
「でもどうするの?あなた程度の光で私の闇に勝てる?」
そう。現時点では闇の方がはるかに強い。明るくなったのは天使の私の周りだけ。
「大丈夫。ここは祢音さんの世界。祢音さん、希望を持って強く願って下さい。
私は闇に負けない。負けるのは闇の方だと。そして躰を取り戻せると」
「わかった、やってみる」
私は勝てる 闇なんかに負けない
すると辺りがわずかに明るくなる。
「させるか!」
世界を再び闇が包む。
「希望を捨てないで!」
絶望感や苦痛が私を襲うけど私は負けない
―祢音!!―
―お姉様!!―
私は…勝つ!!
その瞬間、世界は闇を吹き飛ばすほど強力な光に包まれた。
「力が漲ってくる」
すると今まで2枚だった天使の羽が新たに4枚生え、6枚になる。
「闇を封じよ!」
目が眩むほどの光が放たれ、この世界に闇は全くない。
「くそっ!やめっ…ちぇっ、もう限界かな。
仕方ない。躯は返してあげるし、しばらくは大人しくしといてあげる。
だけど私は消えないわよ。
こいつがあなたのプラスの想いなら私はあなたのマイナスの想いそのもの。
あなたは私で私はあなた。あなたが消えない限り、私は絶対に消えない。
それに封じたことは絶対後悔することになる。
いつか必ず私の力が必要になる。その時は……ふふふふっ」
そして悪魔の私は光の中へ消えていった。
「これでこの躰はあなたのもの。よかったです。
では私はこれで…。力が必要になったら呼んでくださいね」
「うん。ありがと」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
〜無月SIDE〜
逃げ回っているのも限界に近づいてきた頃、
いきなり数秒悪魔の体が視界を覆うほど強く光り出し、思わず目を閉じる。
「何だ!?」
そして次に目を開けた時、悪魔の姿はなくそこには祢音がいた。
背中に黒い羽もない。紛れもない祢音だった。
「お兄ちゃん!!」
祢音はオレの姿を確認するとダッシュで向かって来て、直前でダイブする。
オレは蹌踉めきながらもしっかり祢音を抱き締める。
「ただいまっ!」
「おう!お帰り!」
そして続いて奏と抱き合う。
「ただいまっ!」
「お帰り」
「あ、そうだ。お兄ちゃんなんで生きられたの?
悪魔の私のせいで死んだかと思ってたのに…」
「それは―――」
「そこまでだ」
ヘルが持つ骨でできた船に乗ったロキが現れた。
傍には船の持ち主であるヘラもいる。
「よう、元に戻ったみてぇだな。祢音」
「ロキ…!」
祢音は憎しみの籠もった眼でロキを睨む。
「でだ、またこっちに来―――」
「嫌よ」
即答だった。
「そうか。まぁいい、もうお前の役目は済んだ。良く役立ってくれた」
「ロキ!お前をここで殺す!」
オレは船へ向かって飛び立つが強固なバリアに守られて弾かれてしまう。
「今日はこれで帰らせてもらう。置き土産置いてってやるよ」
すると2人が召還魔法を使いオレたちの周囲に何人もの巨人の兵と骸骨兵を召還した。
「じゃあな」
そう言ってロキは船と共に次元転移して去った。
オレたちは視界一杯の敵兵に囲まれる。
オレと祢音と奏は背中合わせになる。
「そうだ。メデスからこいつを預かってきた。使え」
オレは祢音に新しく銃を渡す。
「名は『フリューゲル』。色々と強化してあるっぽい」
「ありがと。今回は2つ使わせてもらうよ」
祢音は2つの銃を構える。
「じゃお前ら、オレの背中は任せたぞ」
「私の背中も頼むよ」
「任せた」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「よかった!ホントよかったよ!!オレ涙が止まんねぇよぉ」
オレと祢音と奏で敵兵を全滅させてからようやくメデスはこの世界にやってきた。
そして早速祢音に抱きつき、号泣する。
「はは…ただいま」
久しぶりの再会だからか、祢音は苦笑いしながらも振りほどこうとはしない。
「いや〜またこの胸の感触が感じられて嬉しいょ―――」
『祢音流 瀬苦覇羅滅殺拳』
バキィ
祢音のパンチが炸裂し、きりもみ回転でメデスは吹っ飛び、芝生の上をピョンピョン跳ねる。
しかも地面に完全に着いた後も数m滑っていく。
「せっかくの感動の再会なんだからも少し手加減を…」
「5割!これなら文句ないでしょ?」
これで5割!?
「そうスね…」
遥か遠くでメデスはボソリと言った。
「………と、いうわけで一旦本部に戻るぞ。
オーディンが祢音ちゃんに訊きたいことがあるみてぇだ」
左頬を異常な程赤く腫らしたメデスを先頭にして
スキーズブラズニルに乗り込み、本部へ戻ることになった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
本部に着くとすぐに長老の間に向かうとオーディンとレミア、フェイトがいた。
「まず一つ訊かせてもらおう。別の人格になった時の記憶はあるのか?」
「はい。悪魔になった時のなら少しだけですが」
「では悪魔へと人格が変わった後の話を聞かせてもらおうか」
「はい」
ついに祢音が戻ってきました!よかったよかった。
これで無月も一つ肩の荷が下りたってモンです
感想&評価待ってますよ〜