第33話
「ここです」
雫の後をついていき、校内をしばらく歩くとある他のとは少し大きな扉の前で止まる。
「¢∬≪£∀¶……」
聞いたことのない呪文の詠唱を終えるとゆっくり扉は開き、校長室の中に入った。
「この方がハイリヒレーベン魔法学校長リーガル校長です。
校長、こちらが先ほど加勢してくれた如月無月さんと奏さんです。
そして私はこの2人を臨時教師として推薦します」
「ほう」
そう言ってオレたちを見たのが校長。
なんか偉そうなヤツだな、というのが第一印象だ。
決して力強いとは言えない体つきで金髪のサラッサラヘアーで長さはオレと同じくらいだ。
服の所々に付いてある宝石がキラキラと輝いている。
「…………は?」
突然の宣言にオレはふぬけた声を上げて雫を見る。
「さっき敵が襲ってきたでしょ?アレのせいで教師がけっこう逃げちゃいまして。
その点生徒の方はあまり逃げた人はいないです。まったく生徒の方がたくましいなんてねぇ。
それで教師が不足してるんですよ。困ったものです」
「オレは他人に戦い方を教えたことはないし、第一オレの使う魔法とこの国の魔法とは違う。
それに元々オレは教える気なんてない。
ちなみにこいつは基本無口だし無表情で無感情だし何かを教えるなんてガラじゃない」
「なら模擬戦の相手でもしてもらいましょうか」
(無月、この人の言う通りにした方がいい。そうすればここにいる口実にもなる)
念話で奏が話しかけてきた。
確かにそうでもしなければいさせてくれそうな場所ではない。
「じゃあ模擬戦だけならいいですよ。
その代わりしばらくここにいさせてもらいますから」
「そのつもりです。いいですよね?校長」
「いいじゃろ。では明日から頼もうか」
そうしてこの学校の臨時教師となったオレたちは校長室を後にした。
「今日は休みか?生徒の姿がまばらだな」
結構ここにいたが生徒なんてあまり見ない。すれ違う人数は2桁もない。
「そうですね、残ってくれてる生徒は大勢いるんですがこんな状況ですしね。
休みの日だけでもできれば自宅の方にいてもらってます」
「そうか」
学校の教師ってのも大変なんだな。
ま、そんな事は後で嫌でもわかりそうなんだがな……。
「ここは無月さんの部屋です。
こんな広い学校ですからね、空き部屋は結構あるんです。
奏さんの部屋はこっちです」
と言って雫は歩き始めたのだが奏はついて行こうとしない。
「どうしたんですか?」
「………私もここでいい」
「「…………へ?」」
奏のTPO(Time、Place、Objectの事だ)によっては
爆弾発言とも思える発言にオレと雫の声がシンクロする。
「何言ってんだ、お前は」
「私もここでいいって言った」
「いやぁですけどここ一人部屋ですし……色々と…ねぇ……」
雫はなんとか説得してほしいとでも言ってるような眼でオレを見る。
「無月は私がいないとダメ…」
多分血の事を言ってるんだろうがそんな言い方するとオレがダメ人間みたいじゃねぇか。
「そうですね、じゃあそうしましょうか。丁度2人用の部屋もありますし」
何か閃いたような顔と声を上げると、
オレに反論の余地を与えずスタスタと歩き出してしまった。
それはオレがついてこないからと言って止まることはない。
「…はぁ」
んなわけでオレは奏と同室になってしまったのだ…。
ちなみに学校内での魔玉の捜索は今日のところは中断。
なぜならあれから反応が一切ない。
だがここにあるのは間違いなさそうなので引き続き捜索することにするつもりだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「さて、探しますか」
次の日の朝、オレが必要になる模擬戦まではしばらく時間がある。
その間にオレと奏は反応をしらべながら校内を歩き回ることにした。
すれ違って行く生徒の中には見ない顔だからか怪訝な顔をしてすれ違う生徒や
興味津々な眼で見る生徒、見ない生徒様々だ。
図書室に入ったり、職員室の前まで来たり色んな所を回ったが
稀にほんのわずかに反応するだけで反応らしい反応はない。
そんな事をしているとオレたちの出番が来てしまった。
模擬戦は広い広い校庭で行われるようだ。
現在オレと奏は雫の後ろについて行ってる。
なぜ医者である雫が模擬戦の場に向かっているかというと
人数が足りないからたまに先生として教えているようだ。
職員室の前まで来た時は結構話し声が聞こえた気がする。
生徒がそれ以上に多いんだろうか、かなりこの学校は広いし。
ゴーンゴーンと授業開始の鐘が鳴る。
どんな鐘かは知らんがよく聞こえる音だな。
「今日は6年生の授業だから…お手柔らかにね」
ということで6年生徒たちの待つ校庭に到着。
生徒たちは律儀にちゃんと並んで待っていた。
これだけを見れば水月学園より生徒の素行は良さそうだ。
「お待たせ。では、授業を始めます」
「礼!」
誰かがそう言うと生徒たちはほぼ同時に頭を下げる。
雫も頭を下げていたのでオレたちも一応軽く下げておく。
「さて、こないだ言ってた通り、今日は模擬戦を行います。最近物騒ですから。
そこで今回は特別に臨時講師のこのお二方に相手をしてもらうことにしました」
と言って雫はオレと奏へ手を向けた。
「如月無月だ」
「奏」
「さて、早速始めます。
日々の鍛錬を示すチャンスです。
頑張って下さい。では番号1番の子から」
模擬戦スタート
「えい!」
指揮棒大の杖を使い生徒(ややこしいから生徒1としよう。ちなみに男だ)は呪文を唱える。
そして振った杖の先から少し歪な魔力の球が放たれオレへ向かう。
オレは右手に放たれた球の魔力より強い魔力を帯びさせて軽く右手を振る。
すると玉はかき消される。
「………!?」
生徒1は一瞬怯んだものの、
さすがは骸骨兵が襲ってくる学校なのに逃げなかった者、再びいくつか魔球を放つ。
だがその玉の形はさらにだんだん歪になっていく。
オレはそこから1歩も動くことなく全ての魔球をかき消す。
「防御魔法は習ってますか?」
オレは魔球をかき消しながら雫に訊く。
「はい。一通りは」
「じゃお前、これを防御してみろ」
最大限に手加減した火球を生徒1に向かって放つ。
「はい!」
生徒1は目の前にシールドを張り、攻撃に備える。
そして火球がシールドにぶつかるとシールドはあっけなく壊れてしまった。
オレが強すぎたのかもしれないが大きく一つ気になる事があった。
「終了!そうだな、お前、魔法に使う魔力の密度が小さい。
焦るかもしれんがしっかり魔力を込めろ。
球の形が歪だったしあのくらいの攻撃、シールドなら防御仕切れないと無意味だぞ」
「はい!ありがとうございます!」
生徒1が一礼して1回目の模擬戦は終わった。
「今度はお前が行け」
と奏に言ったのだが
「無理…」
「何で?」
「私の魔法はこのような戦闘には向いてない」
そっか。こいつの魔法はほとんど幻術だった。
そんなに攻撃や防御に特化した魔法じゃねぇもんな。
「しゃあねぇな……次!来い!」
そしてオレと奏(主にオレだったが)の初授業は終わった。