第32話
「………親父にもぶたれたことないのに!!!」
起きてさっそくそんな言葉は口にするオレ。ぶたれたことぐらいあるだろ。
「何それ?」
オレの謎の寝言(?)にツッコミをいれる奏。
「…さあ?」
何かの夢を見ていたような気がするが思い出せない。
まぁ夢なんてそんなものだ。
そういやオレはベッドで寝ているようだ。
確かあの後気絶して……。
「奏か……ところでここはどこだ?」
だんだん思考がはっきりしてきて
ベッドから離れた所にある椅子に奏が座っているのがわかった。
ここはどこかの部屋のようだが…。
「ここは学校の保健室。
あの後私が無月をどこか運ぼうとしたら女の人が来てここに連れてきた。
傷、痛くない?血を飲ませておいたけど」
どこへ連れていくつもりだったんだ?まぁいっか。
ヤツの攻撃を受けた右腕と胴に痛みはないし、
傷痕もないが時間が経ったからかもう吸血鬼化はしていないようだ。
「ああ…それ治癒魔法か?」
奏は魔力を帯びさせた右手を左腕に当てている。
「隊長に少しだけ教えてもらった。
このぐらいの傷なら治せるようになった。それより、コレ」
奏は魔玉の反応を調べる水晶玉を取り出し魔力を込める。
「お!?」
するとわずかだが確かに光っている。
「どういうことだ?」
「ここに来たら反応があった。多分ここのどこかにある」
なるほど、ということは結界か何かに守られてる可能性がある。
離れてた時には反応はなかったが
近くに来たために抑えきれていなかった魔力に反応したんだろう。
「あ、起きましたか」
すると入口の扉を開けて白衣を着た1人の女性が入ってきた。
眼鏡をかけていていかにも医者って感じのする優しそうな顔をした女性だ。
長い黒色の髪はポニーテールというほどでもないがまとめられ、スタイルもいい。
「無月を連れてきた人」
奏はその男を指さして呟くように言う。
「ありがとうございます」
一応お礼を言っておく。
「いえ、私は何もしてないですよ。それにしてもすごいですね。
治癒魔法を使っていないのにあんなにひどい傷がすぐに塞がっていきましたし。
私の役目はここのベッドを貸すぐらいでした」
そう言ってその女性は持っていたファイルを
魔法を使って多くのファイルが並べられた棚へ入れる。
「あなたの名前は如月無月さんですね?奏さんから聞きました。
私は『雫』です。ところであなたたちってここの人じゃないですよね」
「旅してますから」
「異なる世界を?」
「!??」
この女、にっこり笑いながら見かけによらずいきなりとんでもないことを言いやがる。
「あ、その顔を見た所正解?大丈夫、誰にも言いませんから」
「何でそんなこと…」
「これでも医者だから人の体については結構詳しいんです?魔力の事も。
ここの人たちとはなんか違ってたから。
いるんです、この国にもそんな人。珍しいですけど。
この世界の魔法じゃあ一部を除いて他の世界に行けるほど質の高い魔導師はいないわ。
私が見た所あなたたちは魔導師に部類されるみたい。
あ、この世界ではね魔法を扱う人は大まかだけどランク分けされてるの
魔法使い、魔術師、魔導師、賢者細かく言えば色々あるんだけど―――」
「何でそんなこと教えるんだ?」
これは誰もが思うことだろう。
見ず知らぬ人にここまで教えるなんておかしい。
「あなたの力を見込んで私……いや、校長から頼みがあるわ」
「何だ?」
「それは―――」
「!」
その時近くに強大な魔力が出現するのを感じた。
「また来ましたか…」
雫は外への窓を見る。
オレと奏も窓へ視線を移すと
「何だ…アレ?」
窓一杯に真っ白な帆船が見えた。
すぐにはわからなかったが窓まで近寄ってよく見てみると白い何かでできているようだ。
「あの船は骨で構成されています」
雫は恨めしい顔つきで説明した。
「骨…ねぇ……」
言われてみればそう見えてくる。
すると船の甲板から船と同じような色をした人が何人も現れ、次々と下へ落ちていく。
「骸骨だな」
「あれは異世界からやってくる兵士です。
ここはもう何度も襲われています。
ここの先生たちが闘ってくれているので被害は少ないのですが
彼らの襲来が絶えることはありません。
そこで頼みがあります。
彼らの住む世界があるはずです。
そこへ行って根源を潰して欲しいんです。
私たちでは異世界へ行くことはできないので……」
「オレたちでは無理だ。転移先を選ぶことはできない」
「そうですか…」
それを聞いて雫の声のトーンが落ちる。
「だが、運んでもらった借りがあるからな」
「え?」
雫は素っ頓狂な声をあげた。
「奏」
「わかった」
そしてオレたちは窓から骸骨兵やら
魔術師 (ランクなんてわからんから統一しておく)がいる広場へ飛び降りた。
「よっと…さて、始めるか」
オレはレーヴァテイン、奏はミスティルテインを取り出し骸骨たちと対峙する。
「お前達は?」
「気にすんな。加勢してやる」
話している間にも次々と骸骨兵は降ってくる。
「いくぜっ!」
オレは武器や魔法を使い、次々骸骨兵を破壊していく。
骸骨たちは骨のわりに意外と脆かった。
それともオレが強過ぎるのか。
まぁどちらでもいい。
斬られた骸骨兵は自身を吊っていた糸が
切れたようにバラバラになって崩れ落ち、地面に沈むように消滅した。
魔術師たちはお得意の魔法を使って攻撃している。
しばらく経ったが骸骨兵の数が減った感じがしない。
「ならあの船を壊すまでだ!」
オレは骸骨兵から少し距離をとり、剣の切っ先をヤツらの船に向け、炎を放つ。
だがその炎は船に当たる前に弾かれる。
巨大な船相手だったから手加減をしたつもりはないんだけどな。
「あの船はバリアが張られているんだ。
高レベルの魔法を使うオレたちでも到底破れそうにない。
いつもはしばらくしたら諦めて帰って行くんだが今日はおかしい」
オレの近くにいた息切れしかけた若い魔術師が言った。
「だったら破壊してやるか」
―燃えさかる地獄の炎 万物の生死を司る聖なる獣よ
炎の調律者の名の下に命ずる
魔を宿す炎の剣を依り代とし 我の前に姿を現せ―
「いでよ『フェニックス』!!」
オレは久々に聖霊フェニックスを呼び出した。
前回と違うのは炎の魔剣レーヴァテインを依り代としたことにより
さらに魔力が高まったことだ。
初の試みだったがうまくいったようだな。
「一気に決めるぞ!!」
『ゴッドバード』
オレが上空にいるフェニックスへ手をかざすと
フェニックスの魔力が上昇し、覆っている炎も激しく燃え始める。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
その手を骸骨兵が出てくる骨の船へ伸ばすとフェニックスは躊躇いもせず全力で突っ込む。
ヤツらの船は粉々に砕け骸骨兵と同じように消えた。
骨が勢いよく燃えている。
骨はそんなに燃えないような気がするんだがまぁ気にしない事にしよう。
それからは骸骨兵が増えることもなく骸骨兵自体は弱いので難なく倒せた。
「ふうっ、終わった終わった」
フェニックスを戻し、剣をしまうオレの所へ奏が来る。
「いやぁよくやってくれました」
そう言って広場にあの女、雫が来た。
「校長が話をしたいと言ってますので来てもらえますか。校長室に」
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