第30話
「奏、逃げるぞ!」
と言う前にすでに奏は窓から外へ飛び出そうとしている。
「早っ!?」
オレも後を追って窓を飛び出す。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「さて、どうしようかねぇ」
結界のため一般人の動きは止まっている。
管理局のヤツらはすでにこの街に来ているようで何人か出会ってしまい、
その度殴ったりして気絶させたり怯ませて逃げてきた。
ヤツらも結界のせいで魔法は使えないが剣やら銃やらを使って攻撃してくる。
動きからして無傷で捕らえるつもりはさらさらないようだ。
日も暮れた今、路地裏にいるわけなのだが…。
「さあ大人しく投降しろ!」
囲まれてるんだなぁ、前も後ろも。びっしりと。
しばらくは隠れてどうしようかと考えていたんだが見つかるとこうなってしまうわけだ。
飛ぶにしても魔法は使えない。だったら試しに
「……奏。血、少しくれないか?」
「わかった」
そう答えた奏はオレへ腕を差し出す。
オレは黙って奏の血を吸う。そしてオレの体は魔性に満たされていく。
どうやら魔力は使えなくても魔性は使えるようだな。
奏の血が必要なのに後ろめたさがあったり、
さっきまで太陽が出ていたから使わなかったが。
「掴まってろ」
奏は黙ってオレの腕に掴まる。
オレはイメージした。空を自由に飛べる大きな翼を。
「っく…」
オレの背中にイメージ通りの翼が生える。
「何だ!?」
「翼が生えたぞ!」
ヤツらのそんな声を聞きながらオレは真っ暗になった空へ飛び立った。
イメージの具現化についてはたまに練習してきたからなんとかなったが
翼を使って空を飛ぶなんて初めてだから慣れていない。
「どうやらここが結界の一番のようだな」
結界は丁度この街をすっぽり覆うようになっていた。
「降ろすぞ」
奏を結界の端近くに降ろして、
結界を破壊するため右腕をランスの形になるようイメージする。
「はああぁぁっ!!」
結界をランスで突くと激しい閃光が散る。
「………ちっ、無理か」
突き破れるような感じはしない。
この結界を作ったのは1人じゃないようだな。なかなかの強度だ。
「…ぐっ……体が…」
どうやら吸血鬼化していられるのも限界のようだ。
得た血は少量だったし、翼にランスと変化の大きい変化をしたからか。
「見つけたぞ!」
タイミングよく(?)ヤツらに見つかった。
しばらく吸血鬼化できそうにもないし、万事休すってやつか?
と、その時――
「うわっ!」
背後からガラスが割れたような音がして、さらに激しい風が吹いた。
「何だ?」
と振り返ってみれば
「よう、生きてるか?」
大きな羽扇を持ったルリアと
「やっと破壊できたか」
1本の背丈の3分の2ほどの長さの棒を持った、バトラ。
「お前ら……何でここに?」
「メデスに送られたんだよ。ピンチのようだったからな」
口を隠すように羽扇を前に出し答えるルリア。
「余計なヤツらに関わっちまったな」
カンカンと音を立てて道路を棒で叩くバトラ。
「あいつらも仲間みたいです!捕らえますか?」
管理局の魔術師Aが背後にいる隊長のおっさんに聞く。
「当たり前だ。あいつらも手配者だからな」
ということでヤツらは今にも飛び掛かってきそうなフインキだ。
「どうする?結界内では魔法は使えないぞ」
「大丈夫。穴が空いてるし、私たちはここに来たばかりだから多分問題ないわよ」
「殺しても問題ないな?」
別に訊く必要はないと思うのだがバトラはリルラに訊く。
「私に訊く必要なんてないでしょ?勝手にして。じゃ、行くわよ」
『茨の園』
木の調律師のリルラが持っている羽扇を魔力を込めて振る。
すると地面の石垣を突き破って茨が生え、ヤツらに絡みつく。
「「「ぐあああああ!!」」」
茨の棘に刺されたヤツらの悲鳴がいくつも聞こえる。
「終わりだ!」
『無限の創製 槍』
続いて武の調律師であるバトラが何の変哲もない棒を強く地面を叩くと
棘の時と同じように地面から様々な時代と国の槍が突き出る。
動きがとれない魔術師たちを槍で突き刺したりして殺していく。
串刺しになった魔術師の中にはおっさんも含まれていた。
結界を張っていた魔術師が逃げたのか、
それとも死んだヤツらの中にいたのか結界は消えていた。
「面倒なことになってきたな」
リルラは茨に絡みつかれた上に槍で串刺しにされたヤツらを見て言う。
「こいつら何だよ」
「ん?ああ、次元管理局の魔術師だ」
「それはわかってる。それが何かって訊いてるんだよ」
「『次元管理局』、文字通り次元を管理している局だ」
リルラはそのままな答えを返してくる。
「もう少し詳しく言え」
オレがそう言うとリルラは面倒くさそうな顔をしたからか、バトラが代わりに答える。
「そうだな……ここでのお前らみたいな事をして、
世界を破滅させようとするヤツらを捕まえたり……その他色々。
警察みたいなモンだな。オレたちがメデスの船に乗ってる時も追われてたからな」
「何で?」
「一応次元を越えれる船ってのは次元管理局への登録が必要なんだよ。
常に管理するためにな。
登録しようとすると色々調べられる。
アレは調べられるわけにはいかないそうだ」
大人の事情というのは複雑なもんだな。
「おい、もう戻る時間だ」
「そうみたいだな。そうそう、この世界の魔玉は放っておけ、さすがに…な」
そう言ってさっさと2人はこの世界を去った。
さて、結界が解かれたその後のオレたちだが制約のため
今すぐ次元転移することはできないので
暇潰しに何かしたいかと言おうとしたのだが奏は無口だし、
何かしようと提案するヤツでもない。
そんなわけでぶらぶらと崩れた街の一部を見たりして過ごして時間が来たら転移した。
久しぶりの投稿です。
最近はネタ切れや中間テストが重なってなかなか機会がなかったもんで・・・
バトラの能力についてちょっと説明
彼の持つ武器『ウエポンマスター』は普段はただの如意棒のような長い棒ですが
彼が扱う事によって槍になったり剣になったり斧になったりと様々な武器に変わるワケです
まぁ武器の名前通りですね
感想&評価待ってます