第27話
〜奏SIDE〜
「では奏は私たちについてきてもらいます」
隊長とフェイト様は無月と長老が入った隠し扉へ入っていく。
私は黙って後をついていく。
その扉の先は行き止まりだった。
「κξθμζην……」
フェイト様が呪文を唱え終わると壁が消え、同じような道ができる。
「無月もその先にいるんですか?」
「いいえ。お二人は違う道を行きました」
ということは今の呪文で道が決まるのだろうか。
「着きました」
その道の先には全面石でできた長方形の広い部屋。
仕合ぐらいはできそうな広さ。
「ではあなたにはここで試練を受けてもらいます。
ヤドリギの剣『ミスティルテイン』。
これをあなたに与えます。使いなさい」
「はい…」
真ん中に立った私は隊長から差し出されたその剣を受け取る。
「では始めます。現れる敵を倒しなさい。
フェイト様、お願いします」
すると隊長とフェイト様はその場から去る。
「!」
私を囲むように西洋の武装をした兵士や日本の武士が何人も現れた。
私は受け取った剣、ミスティルテインを振るい、始めに向かってきた兵士を斬る。
兵士は傷口から血を流さすことなく叫びを上げると消えてしまった。
私は躊躇いなく兵士や武士を斬っていく。あっけなさ過ぎる。
だが予想通り、それだけでは終わらなかった。
また再び同じぐらいの人数の敵が現れた。
殺したら消え、再び現れる。それがしばらく続いてく。
しかし私は1人の男を斬る直前で動きを止める。
いないはずの人がそこにいた。
「お父様…?」
私の生みの親、如月日向がそこにいた。
「よう、久しぶりだな。奏」
「何で?…うっ!」
腹に重い衝撃が響く。私はお父様に腹を殴られ、その場に蹲る。
「がはっ…ごほっごほっ……どうして?」
私はお父様の顔を見た。
お父様は悲しそうな眼で私を見下している。
「『どうして?』だと?わかっているだろう。
オレが死んだのにお前は仇をとってくれなかった」
「お父様はお姉様を救うために死んだって……ぐはっ」
腹を蹴られ、再び咳き込む。
「オレは祢音の心の中で無月に殺されたんだよ。組織の命令だからってな。
オレはなんとか祢音を止めたが無月は祢音が戻らない方がいいと言ったんだ」
「誰もそんな滅茶苦茶な事は信じない。
無月はそんな人じゃない。あなたは偽物」
「そう思うならオレを斬ってみろよ。バルドルを殺したその剣で」
私は立ち上がるとお父様の偽物へ剣を振り下ろす。が――
「ほら、やっぱり殺せねぇ」
中身は違っても姿も声も全く同じ。私には偽物でも斬れない。
「奏、お前は何も護れない。何も出来ない無力な女…。
いや、お前は造られた殺人兵器だったな」
な!?
私は膝から崩れ、へたり込んだ。
1人の人間として一番私を愛してくれていたお父様がそんな事言うなんて。
「そんなことない。
私は人間だしお姉様やみんなを護っていける。
吸血鬼になった無月の餌になれる」
「いいや違うな。それはお前の自己満足だ」
…違う。そんなことない。
無月は…。
「お前は祢音と同じオレに造られた殺人兵器なんだよ」
…違う違う。
「お前は護ることができないどころか奪うことしかできない。殺人兵器だ」
…違う違う違う。
「どうした?殺人兵器?人を殺したくなってきたか?」
「違う!!!!」
らしくもない大声を上げて私はお父様……の偽物を真っ二つに斬っていた。
「ふはは、それでこそミスティルテインを持つ者だ」
お父様の偽物は兵士や武士のように消えてしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
あまり動いていないのに息が切れるほどとても疲れた。
「レッスン1クリアです」
そんな私の前に隊長が現れた。
「あんな事するなんて趣味が悪い」
「それが試練です。
今のは『エインヘリャル』、フェイト様が『ヴァルハラ』から召喚した魂です。
如月日向だけはエインヘリャルをその様に見せただけです」
試練……何のための試練だろうか。
「ではレッスン2にいきましょうか」
そして隊長は剣を取り出した。
剣というよりはあまりに細い、レイピアのようであった。
「レッスン2は私に一撃でも与えられたらクリアです。
本気で来ないと無理ですよ。
傷の事なら気にしなくて結構です。
治癒魔法、使えますから。では、始めま――」
最後の『す』を言い終わる前に私は剣を腕目掛けて振る。
だがそれは隊長のレイピアで防がれる。
私の剣より遙かに細いのに全く折れるような手応えがない。
「せっかちですね」
「早く試練を終わらせてお姉様を捜さないといけないから」
そう、こんなことをしている場合ではない。
私は幾度も続けて斬りかかるが全てレイピアで防がれたり避けられる。
動きを封じないと。
『ヤドリギの枝』
私は少し離れて剣先を床に突き刺す。
すると何本かのヤドリギの枝が地下から隊長へ向かい、絡みついて動きを封じる。
「これで終わり」
私は少し跳ね上がり、隊長の左肩を狙って振り下ろす。
その時隊長がレイピアを軽く振ったのが見えた。
もう隊長を斬り終えてもいい時間なのにいつまで経っても斬れない。
ようやく私は気がついた。なぜか私の動きが遅くなった。
その間も隊長はレイピアを振り続ける。
ヤドリギの枝は見る見る内に枯れていき、崩れ落ちる。
隊長は縛るものがなくなり私の目の前から消えた。
するといきなり私の動きが元に戻った。
いきなりだったものだから私は勢いをそのままに剣を床へ叩きつける。
「なんです?『ソレ』」
私は振り向きもしないまま後ろに気配を感じる隊長に訊く。
「教えてあげましょう。これは私の能力です。
これをタクトのように振ることであらゆるものの時間に影響を及ぼすことができるのです。
それは生物のみに限りません。
効果範囲は個別にすることもできますし、
空間で使用するなら……トウキョウドーム1個分なら余裕ですね」
「……………」
こんな魔法聞いたことない。時間を自由に操れるって事?
そんなの使われたら一撃どころか触れることすらできない。
いや、何とかする方法が1つだけある。
「だったら、使わせる暇を与えない」
私は怯まずに隊長へと迫る。
こんどはレイピアを振らせる間もないほど速く。
「そうですね、これでは振る時間はありません。
ですがこの程度の速さでは一撃は与えられませんよ?」
確かに、これでは振らせる時間はないが全て攻撃は防がれてしまう。
どうしようか……そうか。アレを使おう。
私は離れると短く詠唱する。
『まどろみの幻影』
すると分身し、何人もの私が現れる。
「「「いきます」」」
何人もの私が同時に叫び、順々に隊長へ飛び掛かる。
「無駄です」
隊長は自由になったことでレイピアを振れるようになり、レイピアを振る。
すると隊長からある一定の範囲に入ると私たちの動きが止まっていく。
そして隊長は私たちの間をかいくぐり、私たちの囲みから出る。
その時はレイピアの動きは止まっていた。
「そこ」
本物の私は隊長の後方に姿を現す。
私は分身した時、本物の私だけは飛び掛からずに姿を消していた。
レイピアが止まるこの瞬間を狙っていた。
「……………」
私は隊長目掛けてミスティルテインを投げた。
「!?」
隊長は振り返るが私は目の前まで迫っていたのでのんびりレイピアを振る時間はない。
カキィィン
だが隊長はギリギリで弾いた。けれど想定内。
私はその間に一気に近づき一瞬の隙を突いて空いている左手の人差し指を隊長の額に当てる。
すぐに私は隊長から少し離れ、ミスティルテインを拾う。
今隊長は隊長の畏怖する対象が見えているはず。今の内に斬れば…。
「まだです!」
だが隊長は臆することなく私に向かって来た。
おかしい、隊長には畏怖の対象がないの?
「いきますよ!」
隊長は私にレイピアを向けてきた。
「くっ」
私は剣で突き出されたレイピアを外側へ押し出しそのまま下へ押し込む。
「これで終わり」
私はその隙に隊長にデコピンを放ち、それを受けた隊長の頭は少し後ろへ仰け反る。
隊長は私の左手首を掴んでいたが既に隊長の額を弾いた後だった。
「これ…一撃ですよね?」
私はデコピンされた部分を触っている隊長に訊く。
私自身直前までデコピンなんて攻撃方法をするつもりはなかった。
傷はつかず、赤くなっているだけだったけれども一撃は一撃。
「そうですね。レッスン2クリアです。
これで試練は終わり、おめでとうございます」
いつの間にかフェイト様が部屋にいた。そして私の勝ちと認めてくれた。
「では、長老の間に戻りましょうか」
私はほとんど無事に試練を終え、長老の間へ戻った。