第26話
〜無月SIDE〜
「こっちじゃ」
長老の間にある玉座の後ろには隠し扉があり、オレと長老はその先にある廊下を進んでいる。
長老は足音をさせずに歩くどころかローブの布が擦れる音すらしない。
1分ぐらい歩いた所で行き止まりになる。
「さて、ちょっと離れておれ」
オレは言われた通り2mほど後ろへ退く。
「ξθμνρψκφ……」
長老が聞いたこともない詠唱を始めると壁にいくつもの文字が浮かび上がり、光り出す。
すると壁はゆっくりと消えていった。
「さあ、ここじゃ」
長老の後に続き、オレもその先に進む。
「ここは……」
オレと長老が入った部屋はドーム状になっている部屋で
天井には空は雲一つない青空そっくりになっていた(多分部屋だ……と思う)
何も知らないヤツが突然ここに連れてこられたら本物の空だと勘違いするほどだ。
さらに中心にある島を囲む様に泉があり、
その島の中心にある小高い丘には天井をぶち抜くほど大きく太い樹があった。
その頂上には大きな鷲が誇らしそうに留まっている。
なぜかその眼の間には小さな鷹が留まっている。
鷲はその鷹を鬱陶しがるわけでもなくこれが普通だと思っているようだ。
オレと長老はその島へ続く橋の上を歩いている。
「あの樹は『ユグドラシル』じゃ。
聞いたことぐらいはあるじゃろう」
「確か北欧神話に出てくる世界を繋ぐ樹ですね」
「その通りじゃ。
この世界は『ミズガルズ』と呼ばれる世界じゃな。
他にもいくつかの国と繋がっておる」
島へたどり着くと歓迎しているのかわからないが馬が近づいてきた。
だがこんな馬は見たことがない。
その馬は足が8本あるのだ。
見慣れていないせいかどこか不格好だ。
「こやつは『スレイプニル』。わしの馬じゃ」
長老は頭を寄せてくるその馬の頭を優しく撫でる。
その後スレイプニルと別れたオレと長老はその樹の傍に来た。
「さて、今回お主が向かう世界は炎の国ムスペルヘイムじゃ。
そこの入口にいるスルトという巨人を殺し、
そやつの持つレーヴァテインという剣を持ち帰ってもらう。
扉を残しておく。やつを殺した後それで帰ってこい。
やつが守る入口は行ってみればわかる。
そうじゃな、武器なしでは困るじゃろ。お主は炎を使うしな。
やつらにその系統の魔法は効かぬ。これを貸してやろう」
そう言ってオーディンが魔法で取り出したのは鞘に収められた1本の剣。
「これは聖剣『エクスカリバー』。
レプリカじゃが本物と全く同じ。コピーしたと言ってもいいほどじゃ。
それにレーヴァテインは魔剣。相性も悪くない。
鞘は……必要ないじゃろ。これは効果が大きい分負担も大きい」
オレは鞘から聖剣を抜き取り、それだけを受け取る。
その時言葉では言い表せないような感覚が剣から手、そして全身へと伝わってくるようだ。
なるほど、聖剣と呼ばれるわけだ。
「ではゆくぞ。しばらくの間目を閉じろ」
オレは聖剣を魔法でしまうと静かに目を閉じる。
「わしが来ても意味がない。己の力のみで闘え」
するとエレベーターで下に降りているような感覚がした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その感覚がなくなったのでオレは目を開けてみる。
「おお、すげぇな」
オレが着いた世界は火山の中に世界があるとしたらこんな風になるだろうと思える世界だった。
小さな火山がいくつもあり、大きな火山もあった。
オレはその上のマグマが固まったような岩盤の上にいた。
それがこの国の地面となっているようだった。
「アレか」
奥にある門の前には巨体に合わせたように大きな剣を持った巨人がいた。
5m強ほどありそうな巨体は暑いためか腰簑を着けただけで上半身は裸だった。
話通りであればあれがスルトで持っている剣がレーヴァテインだ。
「何者だ?」
オレが近づくと門番らしい当然と言える質問をしてくる。
「相手に質問する時はまず自分からじゃねぇのか?」
と、前テレビで聞いたかっこつけた返事をしてみる。
「オレはスルト、この世界の門番だ」
案外素直に返してきた。
「オレは如月無月、お前を殺し、その魔剣を奪いにきた魔法使いだ」
挑発的にオレも返し、結界を張る。
騒ぎを聞きつけて新たに巨人族が来たらやっかいだ。
「ほう、この私を殺すと?
……そうか、オーディンの使いか?」
すぐに攻撃することはなく、スルトは眉をピクリと動かすとそう言ってきた。
察しがいいな。
「まぁそんな所だな」
「では、死んでもらおう!!」
スルトは剣を振り上げるとそれを見上げるオレ目掛けて勢いよく振り下ろす。
その剣は地響きを起こし、地面を斬り裂き、地面に大きな斬り傷を付ける。
「さて、楽しもうか」
オレはその攻撃を避けると聖剣エクスカリバーを取り出した。
「そのようなひょろい剣でどうするのだ?」
再びヤツはオレ目掛けて振り下ろす。
「甘いな」
オレは右へ移動し、攻撃をかわす。
「甘いのはそっちだ!」
ヤツの剣は地面に着くことはなくほぼ直角に軌道を変えて刃はオレへと向かう。
あんなでかい剣持ってるくせに動きが素速い。
「……くそっ」
オレは剣で防ごうとしたのだがさすがは巨人、力は並ではなくそのまま吹き飛ばされる。
さらには余りにも力が強かったせいか受け止めたときに
カマイタチのような風で横一文字に傷を受ける。
「おもしれぇっ!」
傷の痛みで苦しんでる間もなくヤツへと一気に詰め寄り、ヤツの腕を斬る。
「硬いな」
巨人族だからかはわからないが硬くて
ほとんど刃が通らず傷は負わせるがちゃんとしたダメージを与えるまではいかない。
「くらえっ!」
オレは左手に魔力を溜めて火球をヤツの顔面に直撃させる。
だが煙の中から見えたヤツの顔が火傷1つ負ってない。
やはり効かないか。その後すぐに振り払われる。
「仕方ないな。あまり頼りたくなかったが」
少し離れて、剣に着いたヤツの血を指で拭うとそれを舐める。
吸血鬼になることで傷も癒えるし、魔性も使え、結構有利になるだろう。
ドクンと大きく心臓が拍動し、魔力も上がっていくのかわかる。だが――
「ぐっ……何だ?」
急に頭を中心に体中が痛みだし、上がっていた魔力が元の値に戻っていく。
「そうか…これ聖剣だったよな」
ヤツに聞かせるつもりはないが思わず呟いてしまう。
おそらく吸血鬼は邪悪な存在と判断されたようで、
吸血鬼化した部分が浄化されていっているのだろう。
「余計な事を…」
「そんなに傷が痛むのか?
ならばいっそ楽にしてやろう!」
ヤツはあざ笑いそう訊くと、薙ぎ払ってくる。
体中の痛みがあるせいか傷はあまり痛まない。
「ちっ…」
動けないので剣で防ごうとするが力が入らない上に
ヤツの力もあって今度は横っ腹に深い斬り傷を負い、再び吹き飛ぶ。
「さて、どうするか…」
その後、膝を着いたまま剣を杖がわりにして体を支え、
考えることに集中するためにヤツの気配を感じ取りながら目を閉じる。
―…使え…―
ん?誰かの声が聞こえたような気がした。
―使え…己の障害を斬り裂くために―
気のせいか?その声は聖剣から聞こえてくる。
―使え…約束された勝利を得るために―
間違いない。その声は聖剣から聞こえている。
―使え…我が一撃必殺の奥義を―
力が聖剣を通して伝わってくる。
これならヤツに勝てる!
体が動くようになり、オレはゆっくりと立ち上がった。
「さあ!潔く死んでもらおうか!!」
ヤツがオレへと走って近づいてくる。
オレは焦りもせずに聖剣を振り上げ、ヤツへ狙いを定める。
「くらえっ!『エクスカリバーーー』!!!」
力の限り聖剣を振り下ろすと真っ白に光る斬撃がヤツへ一直線に迫る。
「何!!?」
ヤツはすぐに動きを止め、ヤツの魔剣、レーヴァテインで防ごうとする。
「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
斬撃とヤツの魔剣がぶつかり合い、金属が擦れ合うような激しい音がする。
「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しばらくして剣の折れる音がしてヤツの叫び声がやかましいほどに聞こえてくる。
「オレが負けるはずがな…ぃ…」
ヤツは真っ二つになり、倒れた。
「やべぇな。威力強すぎるだろ」
オレが手に入れるはずだったレーヴァテインが折れてしまった。
エクスカリバーをしまうととりあえず持って帰るため、オレはその柄を掴む。
―よくやってくれたものだな―
すると剣がオレに語りかけてくる。
―聞いていたぞ。我を奪いにきたのだったな―
「ああ、そうだよ。だが真っ二つになっちまったな」
―なめてもらっては困るな。この程度、すぐに直る―
この程度って言っても真っ二つなんだけどな。
「なら調度良い、オレと一緒に来てもらおうか」
―聖剣と魔剣両方を選ぶというのか?我らは相反する存在だぞ?―
「それもいいけど、聖剣は借り物でね。
炎の魔剣であるお前とは気が合いそうだしな」
―聖より魔を選ぶか。いいだろう、我が力お前に託そう―
一度レーヴァテインが弾けるように消えたかと思うと
再び元の剣となってオレの手の中に現れた。
サイズはヤツが使ってた時の大きな剣ではなく、オレにピッタリのサイズになっている。
「よろしくな、『レーヴァテイン』」
それに応えるように魔剣は妖しく光った。
約束された勝利の剣?インテリジェントデバイス?何ソレwww
まぁ後者はともかく前者はパクリと思ってて結構です。
あと今後剣がペラペラ喋るつもりはないので、そこんトコよろしく
感想、評価よろしくおねがいします