第4話
「今日もよく寝たなぁ〜」
「それ昨日も同じ時間に言ってなかったっけ?」
放課後、欠伸をしている無月の顔を祢音が覗き込んで言う。
「ん?そうだっけ?」
無月はそう言って眉をひそめる。
「あ、そうそう。今日これから夕飯の買い物に付き合ってくれない?」
祢音は飛び跳ねて無月の目の前まで移動して聞く。
「メンドくさいってのは断る理由にならないよな?」
「もちろん♪」
祢音は満面の笑みを浮かべて拒否する。
「やっぱし……いいよ」
「んじゃ行こうか」
そして2人は商店街に向かった。
商店街に向かうといつもより遙かに多い人集りができていた。
「あれ?あそこに人が集まってるよ。行ってみよ」
と言って祢音は無月の手を引いて人集りに向かう。
「お、おい!買い物は!?」
「後でいいじゃん」
2人が向かった人集りの中心には何かイベントのようなものが行われていた。
「マジックショーだってさ」
中心では金髪の日本人がマジックをしていた。
そのマジシャンはトランプを使って様々なマジックをやってのけている。
(マジックの内容はご想像におまかせします)
「おもしろかったね」
その帰り2人はマジックが終わった後、夕飯の買い物を済ませ商店街の出口に向かって歩いている。
「魔法使ってたからオレはおもしろくなかったけどな」
「それを言ったらダメだよ。そういうのは抜きで見なくちゃ」
商店街を出ようとした所で結界の発動と共にヒュッという音を立てて無月の頬を何かが通過し、切り傷を負う。
「何のつもりだ?」
無月が首だけを捻り背後を見ると先ほどのマジシャンがトランプを持って立っていた。
「お前、野々宮の命を狙ってるな?」
「だったらどうする?」
無月は殺意を込めた眼でマジシャンを睨む。
「命令だからな、殺す」
そう言ってマジシャンはトランプを投げるがそれは無月に届く前に祢音の拳銃に弾かれる。
「せっかくマジック楽しめたのにな〜。これじゃ台無しじゃない」
と言って祢音が無月の前に出る。
「今日は私がやるよ。マジックのお礼もしたいしね」
「そっかい」
無月は何メートルか離れ、祢音は2、3歩前に出るとマジシャンに向けて銃を構えた。
「じゃ、いくよ」
と言い終わると同時に銃弾を1発、マジシャンに向けて放つ。
「無駄だぜ」
マジシャンは祢音が放った銃弾を持っているカードで切るとさらにそのカードを1枚祢音に向けて投げる。
「!?」
祢音は驚きの表情をしながらも向かってくるカードを拳銃で弾く。
「切ったっていうの?」
「そーゆーことだ」
次はマジシャンが3枚のカードを投げる。
「くっ」
祢音はカードを避けると1発マジシャンに銃弾を放つ。
「こんなのわざわざカードを使わなくてもいいもんね」
マジシャンは体を右にずらして銃弾をかわすが
「何っ!?」
かわしたはずの銃弾がマジシャンの背後にあるトラックの荷台から跳ね返り、
再びマジシャンに向かって飛んできた。
マジシャンは1発の銃弾を左肩に受け、傷を負う。
「なるほど、跳弾か」
右手で左肩を押さえながらマジシャンは言う。
「そうだよ」
と言い、祢音はさらに左右上下に銃弾を放った。
左右の銃弾は店、上はアーチ、下はアスファルトを跳ね返りほぼ同時にマジシャンに向かう。
「ちっ、なめるな!」
すると銃弾はマジシャンに当たる前に銃弾を防ぐように弾道と直角に現れたカードによって全て防がれる。
「へっ見たか!」
「だったらこうするだけだよ」
祢音は風を纏わせて光の屈折を変化させることで見えなくした跳弾を放つ。
しかしまたしてもカードによって防がれる。
「甘いな。そんなトリック見え見えだぜ」
左肩からどくどくと血が流れているにも関わらずマジシャンは笑っている。
「トリックじゃなくて魔法だけどね。じゃ、これならどう?」
すると祢音の首にぶら下がる緑の♪マークのペンダントが光り出し、
祢音を中心として強い風が巻き起こる。
「祢音のは広範囲だからな、ちょっと離れてるか」
無月は風の流れに乗って遠くに離れていった。
―風にのって舞う美しき獣よ 風と共に謳う艶やかな獣よ
風の調律者の名の下に告ぐ 我の前に姿を現せ―
「いでよ!我が風の聖霊『ハーピィ』!!」
祢音がそう叫ぶとさらに風が強くなり風が収まると、
人に白い翼とタカのような爪を持った手足が生えた聖霊が現れた。
―今回の獲物はこいつ?―
翼を羽ばたかせて数十cm飛んでいるハーピィから響くような声が聞こえてくる。
「そ。だけど余り派手に殺らないでね」
―わかったわよ―
そう言ってハーピィは自分の爪を舐めて妖しく笑う。
「へっ、どんなヤツがこようがオレには勝てねぇよ。くらえっ!!」
マジシャンはジョーカーを含めた54枚全てのトランプをばらまくと、
そのカードたちが意志を持ったように浮かび上がり
祢音とハーピィを切り裂くために狙いを定める。
「八つ裂きになれぇ!!」
マジシャンが2人を指さすとカードが一斉に飛びかかる。
「ふふっ」
―ふふっ―
祢音とハーピィが同時に微笑む。
そしてカードが向かってきた瞬間、
2人は竜巻に包まれ向かってくる全てのトランプを舞い上げる。
「な、何っ!?」
そして荒れ狂う竜巻の中から3発の銃弾がマジシャンの眉間辺りを目掛けて飛んできた。
「くっ」
落ちていた3枚のカードがマジシャンの顔を覆うようにして銃弾を受けて防ぐ。
しかしその直後、ハーピィが一直線にマジシャンに向かってくる。
「ぐあっ」
カードで視界が塞がっていたため反応が遅れ、
避けられずにハーピィの鋭い爪がマジシャンの左胸を貫いた。
マジシャンを守るためにカードがハーピィの爪を防ごうと立ちはだかったがそれさえも貫いていた。
―あっけないわね。こんなので私を呼ぶの?―
ハーピィは血で染まった腕を引き抜くと拍子の抜けた顔で祢音を見る。
「いいじゃん、久しぶりなんだしさ」
―いいけどさ、次はおもしろい相手に呼び出してよね―
と言うとハーピィは光る玉となって祢音のペンダントに戻っていった。
「わかったよ」
祢音はペンダントを見て呟いた。
「終わったか」
という声が祢音の後ろから聞こえてくる。
「終わったよ」
そう言って振り向く祢音の視線の先には片手に買い物袋を持った無月がいた。
「そっかなら帰るぞ」
細かいことは何も話さず2人は結界を解くと家に帰った。
〜???〜
「どうやらフェイトの言う通り、水月島にわしを狙う愚か者がいるようだな」
「そのようですね。こちらに攻めて来るのは5日後かと」
「その間にわしらは準備をしておけばいいことだ。
フェイトの末裔…まったく、使えるヤツだ」




