第22話
さて、ここが問題の第22話です。まぁ気ぃつけて下さい(何にだ)
「助けてええぇぇぇ!!」
祢音の叫び声が近づいてくる。
「ちょっと、守ってあげるんじゃなかったの!?」
その声を聞き、後ろへ振り返れば昼間会ったリルラとリストが飛んでいた。
「ああ、大丈夫だと思ったんだがな」
それは言い訳ではなく本心だった。
吸血鬼なんかにやられるようなヤツではない。
すぐに祢音の姿は見つけられた。
「お兄ちゃん!」
祢音は両手両足を白く光るリングで縛られている。
「さて、少し眠ってもらうとするか」
ヤツがそう言うと祢音は眠るように意識を失った。
「祢音ちゃん!」
リルラが祢音へ叫ぶ。
その『ヤツ』とは
「よう。言った通り、まとめてもらいに来たぜ」
次元の怪盗。
「またお前か!!」
暗い夜に映える白い服装だ。風が強くマントがなびいている。
「仕事ついでに遊びに来てやったんだ、感謝しろ」
そう言う怪盗の背後には剣を構えた奏が見えた。気配は消し切れている。
「だれがするか」
その間にも奏は剣を振り上げている。
もらった!
「おっと甘いな」
だが奏の剣は空を斬った。
続いて現れたリストが柄も刃も真っ黒な鎌を使って攻撃を放つが
「その程度ではオレを捕まえられねぇよ」
これもまた空振り。祢音の体は怪盗から離れることなく動く。
「魔玉が欲しいなら祢音を縛る必要はないだろ」
リストが的を射た質問をする。
確かに魔玉を祢音の懐から奪って去ればいいだけの話。
「いやいや、必要なのはこの娘。魔玉なんてオマケに過ぎない」
「どういうこ――」
「おっとそろそろ戻らないとな。じゃな」
ヤツがマントに身を包み転移し始める。
「させるか!」
一気に迫り刀を振った。が斬ったのは空気のみ。ヤツの姿はそこになかった。
「くそっ!!」
「大丈夫、お姉様の魔力が感じられる」
空に向かって叫ぶオレに奏が声をかけてきた。
ヤツは次元転移をしていない。まだこの世界にいる。
それに祢音と奏は繋がっているようなものだからわかるのだろうか。
「転移」
下で人の悲鳴や吸血鬼の叫び声が聞こえる中、奏が転移魔法を使い、オレたちは移動した。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ここはどこだ?」
どこか寂れた感じのする城のようだ。
そしてオレたちは天井にシャンデリアのついたダンスホールのような場所にある扉の前にいる。
「ようこそ。調律師とオマケ」
一番奥のステンドガラスには十字架に貼り付けられ意識を失っている祢音と
黒いスーツを着た見知らぬメデスほどの若い男が1人。
ヤツがドラキュラ伯爵なんだろうか。
「『オマケ』ってなによ!!」
オマケ呼ばわりされたことにリルラが怒る。
「お前がドラキュラ伯爵か?」
リストがヤツに問いかける。
「いや、オレは神だ。名は『ロキ』」
その時ヤツからとんでもない殺気というかプレッシャーが放たれたように感じた。
ヤツはただ者ではないということが手に取るようにわかる。
凡人なら動けなくなるどころかチビっちまうんじゃないかと思えるぐらいだ。
「神ですって?
ふざけた事言ってんじゃないわよ。
とにかく祢音さんを返しなさい!!」
リルラは怯まずにヤツへと叫ぶが
「お前の中では返せと言われて素直に返すバカがいるのか?」
ヤツはそう言うとバカにしたような笑みを浮かべ鼻で笑う。
「なっ!?許さない!!」
オマケ呼ばわりされた上、バカにされたリルラはついにキレた。
リストと対をなすような柄から刃まで真っ白な鎌を魔法で取り出し、ヤツへと飛ぶ。
「ザコには用はない」
ヤツは手を翳すと波動のようなものを放つ。
「うわっ」
中を浮いていたリルラは吹き飛ばされ体勢を立て直しつつも床を滑っていく。
「やはりザコだな」
「あーーーもう!!頭に来た!
リスト、アレをやるわよ」
「わかった」
再びリルラはヤツへと向かっていく。
「何度やっても無駄なことだ」
そしてヤツも再び波動を放つがその前にリルラは空間の裂け目を作りその中へ入っていった。
「ヤツに近づくな。
オレがあの辺りの時間を止めている。
姉さんは大丈夫だけどな」
そう言ったリストはヤツに向けて手を翳している。
何も変わっていないように見えたがリルラが消えたのに
ヤツが辺りを見回すことなく一切動かないということは時間が止まっているという事だろう。
「もらった!」
ヤツの背後に現れた裂け目から鎌を振り上げたリルラが現れた。
力強く鎌を振り下ろした瞬間時間が止まっているはずのヤツが笑ったような気がした。
そのまま動くことなくヤツはリルラの鎌で斬られ、真っ二つになる。
「やった!」
「その程度の魔術でオレを殺すことができると思ったか?」
だがヤツの姿はリルラの隣にいた。
リルラの斬ったヤツの姿は陽炎のようにゆらめいて消えた。
「なっ―――!?
ぐぁ…!」
リルラが振り返る前にリルラの背中にヤツの蹴りが炸裂した。
今度は体勢を立て直せないほど勢いよく床を滑っていくというより転がっていく。
「姉さん!!」
ようやく止まり、横たわっているリルラにリストが駆け寄る。
「今度は私の番」
すると奏の周りに寄り添うように3匹の狐が現れる。
「放て」
狐たちはロキに向けて口を開くとそこから紫色の炎を放つ。
「弱いな」
ロキは魔法陣を出現させることなく素手で炎を防いだ。
「くっ…」
「よし、まだまだぁ!!…ア……レ…?」
再び立ち向かおうとしたリルラだったが
体が祢音の時と同じようなリングで縛られて、気を失う。
奏もリストも同じだった。
「眠っとけ。雇い主はお前たちに用はないって言ってんだよ。
傷を付けられても困るしね」
すると次元の怪盗がロキの左隣に転移してきた。
雇い主ってのはそいつか。
「『ゼロ』、オレが傷を付けられるとでも思っているのか?」
ロキは殺気を込めた眼で怪盗(ゼロと言うのは名前か?)を睨む。
「いえいえ。ちなみにその名はNGワードです。
それよりも人を盗むなんてオレあまり好きじゃないんですけどねぇ」
それにビビることなく怪盗は振り返って祢音を見る。
「それ相応の報酬はやっただろ」
「感謝してます」
そんなやり取りを黙って見ているオレじゃない。
「死ね!!!」
ロキまで一直線に迫り、頭を狙って刀を突き出すが
「ふん」
ヤツが刀の切っ先の前に右手人差し指を突き出すと夢羅雨は切っ先から粉々になっていく。
丁度、ピンピンに尖らせた鉛筆の芯を何か硬い物に押しつけた時のように。
「なっ!??」
目を疑った。まさか夢羅雨が粉々になるなんて…。
「ぐぁ!」
そのまま左手で殴られオレはリルラの時のように吹き飛ぶ。
「お前もザコだな。
怪盗、縛っておけ。うるさくないよう口もな」
「了解っ」
オレは手足と喉の辺りを奏たちと同じように縛られる。
だが声が出ないだけで意識はあった。
ならばこんなもの破壊してやる!
縛られている部分を中心に魔力を込めようとするが力が入らない。
「それは魔力を吸い取るリングだ。
この十字架も同じようにしてある。
それにお前は眠らさない。
自分の妹が堕ちていく刻を見ているんだな」
ロキは祢音の顔の高さまで浮かび上がる。
「さて、どうしてやろうか…。起きろ」
「…んん……」
ロキの人差し指が祢音の額に触れると祢音の眼がゆっくりと開く。
「あれ?ここは……そうだ!
ってお兄ちゃん!?」
ようやく状況の7割を理解したようだ。
あとはお前がピンチだということ。
「――――っ!?」
ようやく事態を理解した祢音は体を動かして抗っているが祢音を縛っている物はビクともしない。
「諦めな。お前はオレに弄ばれるんだよ」
祢音もロキのプレッシャーを感じたのか顔を引きつらせている。
「祢音、オレと来い」
とんでもない事をいいやがる。
「誰が見ず知らずのあんたなんか―――んっ!?」
なっ!? こいつ祢音にキスを!!
「んんっ!?」
された祢音は大きく目を見開いている。
「闇の力を与えることはこんな事しなくてもできるらしいけどな。
さて、こんなの見てても仕方がないんでオレは先に帰らせてもらうぜ」
怪盗が付け足すように言い、転移してしまった。
闇の力?それを与えることが目的なのか?
「ちょっ…やめ…んっ」
祢音は眼を精一杯閉じ、首を振って逃れようとするがロキはそうはさせなかった。
「ん…ちゅ……ちゅぷ……んちゅ…」
キスをするいやらしい音が部屋に響く。
「んん…んむっ…ちゅっ……ちゅっ…」
祢音の顔が見る見る朱くなっていく。
こんなもん見てられない。
★無月が目を閉じた上、これは18禁小説ではないので音声のみでお送りいたします★
「安心しろ。綺麗にオレ色に染めてやるよ」
「何で安心なんかしなきゃいけないのよ!」
「お前に言ってるんじゃねぇよ」
「あっ…何触っ…いやっ…」
「容姿も完璧だな」
「………あ…ん……やっ…あっ……だめっ…」
「早く出てこいよ。オレの堕天使」
「あっ…これ…んあっ…だめ……やめて……壊さないで…」
「闇の力を受けた堕天使はさらに闇へ堕ちていき『悪魔』となる。
今のお前程度の精神では止められない」
「壊しちゃ…だ…め……んああっ!…壊れ……る…」
その時ガラスが割れるような音がした。
「ほら、お前を縛るモノはなくなった。さあ出てこい」
「…やっ……らめっ…出て……こないでぇ…。
あ…いや…いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
祢音の悲鳴に思わず目を開いたオレの眼に映ったのは
何かやらかしているロキと祢音…。
いや、あれは祢音じゃない。
漆黒の翼が生えている。『堕天使』か。
それもあの時のような片方1枚づつではなく左右3枚づつの計6枚。
肌の色も人間の肌じゃない。人の肌とは思えないほど青白い。
それに魔力は前回堕天使を見た時の比ではなくなっている。
そうか…悪魔になると言っていたか……祢音は悪魔になったのか?
悪魔になったのに羽が天使の羽のままなのは元々堕天使だったからだろうか。
「!!!」
いきなり意識がはっきりしてきた。
こんな事してる場合じゃねぇ!
てめぇ人の妹に余計な事しやがって!!
怒りと共に力が込み上げてくる。これなら!
自力でリングを破壊しほとんどの魔力を右手に込める。
「祢音を返せぇぇぇ!!!」
右手は焔に包まれ、メラメラと燃え上がる。
「死ねええぇぇぇ!!」
全てを怒りに任せヤツへグーにした手を伸ばす。
「この人は殺させない」
ロキの前に悪魔となった祢音が現れるが構いはしない!
ロキもろとも粉砕してやる!
祢音は右手を翳して目の前に真っ黒な魔法陣を出し、それがオレの拳と激突する。
「ぶっ壊れろおおぉぉぉ!!」
だがなかなか壊れない。
それどころかこちらの魔力が弱くなっていき、遂になくなってしまった。
さっきまで魔力が吸い取られていたからうまく扱えなくなっているのか?
「もうあなたの知る『祢音』はいない」
「ぐああっ!!」
祢音の左手にある5本の赤い爪が1本の細い槍となり、オレの心臓を貫いた。
祢音は振り払うように左手を振るとオレは槍から抜け、力なく床に叩きつけられる。
「当初の目的は達成した。移動しようか、祢音」
ロキはオレたちが次元転移に使うのと似た魔法陣を出現させ、呪文を唱え始める。
「そうそう。この世界を破壊しておかないとな」
呪文を唱え終わった後、ダンスホールの壁が剥がれ、
そこから幾何学模様の壁…というか空間が現れる。
どんどん壁が崩れ落ちていき、謎の空間が広がっていく。
ここで…終わるのか?
「おいおい、オレのせいで人死にはゴメンだぜ」
どこから現れたのか、真っ白な服装をした男がぼやけて見える。
「こいつらも解放してやらないと。
けっこ長かったから意識が戻るまでしばらくかかるかもな」
男は一人言を呟き、オレを抱えているようだ。
「さて、退散っと」
勢いとは困ったモンですなぁ。この話85%勢いで書きました。
こんなシーン勢い以外じゃ書けないっすねぇ。豆知識――作者はSです