第21話
えー初めに2つほどお知らせです。
1つめ、3話に渡ってお送りするこの世界は太郎鉄先生作『闇に朱色がよく似合う』より
一部設定をアレンジさせて使わせてもらっています。
2つめ、だからというわけでは多分ないのですが少し性的なシーンがあります。主に次の話で。
18禁ほどではありませんがR―15ぐらいでしょうか。
ですのでそのようなシーンを好まない人は読まないようにお願いします。
まぁこの世界を避けて通るとその後何が起こったのかわからないと思うので
その辺は個々の判断に任せます。では楽しんでください。
「暗いトコだねぇ」
次に着いたのは西洋風の建物が並ぶ街。
「居心地が悪い」
奏が呟くようにどこかピリピリというか妙な空気を漂わせている。
時計を見ればまだ夜中というほどでもないのに人気が全くなく、窓も全部閉め切られている。
何かに怯えてるように…とにかく泊まる所を探さなくてはならない。
「泊まるトコ、探してみようぜ」
と言うとすぐに
「ここ」
奏が右の建物を指さす。
「早いな。じゃ入ってみるか」
ホテル内にも誰か泊まっているようだが、
エントランスに人気はなく受付に1人の男がいただけだった。
その男は品定めをするようにオレたち一人一人の顔を凝視すると、
条件を1つ付けて受付を済まさせてくれた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その条件とは3人共同じ部屋だということ。
まったく、何考えてんだ?
健全な年頃の男女を同じ部屋にするなど…。
まさかそういうホテルじゃぁないだろうな?
まぁこいつらじゃ別にそんな気は起こらないんだけどな。
「なんかおかしいよねぇ。ここ」
ベッドに腰掛け、天井をじっと見ながら祢音は言う。
「あまり長くはいたくないんだが……あるんだよなぁ」
強い魔力の反応があるためこのまま去るわけにはいかない。
「何か…来る」
じっと明かり1つない外の闇を見ていた奏がそう言って窓から離れると
ガシャァン
と窓を割る音と共に翼を生やした青白い肌をした人型の怪物が入ってきた。
青白いといってもほとんど青に近い。
「明確な敵意を感じるね」
怪物は牙を剥き出しにして叫び声をあげている。
すると怪物は振り向き両手を伸ばして奏へと襲いかかる。
だが奏は既に剣を取り出しており躊躇いなく怪物の顔面を真っ二つにする。
そして斬られた怪物はそのまま動きを止め少量の灰と化した。
「何コレ?」
「知らねぇよ。誰かに聞いてみるしかねぇな」
とりあえずこの世界で会った唯一の人間に会うため受付へ向かった。
「誰もいねぇな」
受付の男はいなくなってるしエントランスが静かなのに変わりはない。
だがさっきとは違う所が一つあった。
「ここにも来たようだな」
玄関の上にある大きな窓ガラスが1枚割れている。
「来て」
ここまで静かでなかったら聞こえないほど
小さな声に呼ばれて待合い場所のような所へ集まる。
「うっ…」
と呻いて目を逸らしたのは祢音。
それもそのはず、
待合いのソファでは何人もの若い女性が虚ろな眼をして全裸で横たわっていた。
思わず目を逸らしたくなるのもわかる。
そして――
「おそらくあの怪物に咬まれた痕だろうな」
全員首筋にはあの怪物に咬まれたであろう傷が付いている。
だがそこからは出血していないようだ。
「多分ヤツらは――」
「『吸血鬼』」
先に奏に言われてしまったがオレもその意見に賛成だ。
このような傷痕を付けるヤツはオレの中ではおそらく1つしかいない。
全裸のワケは犯されていたんだろう。
なぜそうしたかわからないがその光景は見ていてあまり気持ちのいいモンじゃない。
「戻ろう。寝たら少しは気持ちも和らぐ」
しゃがみ込んでいる祢音の肩を支えながらオレたちは自分たちの部屋に戻った。
街に人が見当たらなかったり、
緊張した空気の理由も同じ部屋にいろと言われた理由もこれでわかった。
みんな恐れていたんだろう、『吸血鬼』を。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
昨夜祢音はあまり眠れてなかったようだ。
何回も寝返りをうっているのがわかったし、朝が来てもあまり元気はない。
今までに何度も任務で人を殺しているとはいえ、祢音もまだまだ精神が脆いんだろうな。
人の事は言えないがまだガキだからな、少々ショックを受ける光景だっただろう。
まぁ強すぎてもそれはそれで困るのだが。
オレはそうでもなかったけどな。
奏は何考えてたかはわからんが。
オレだけ早めに起きて調べていた結果わかったのはここが『ワラキア』という街だということ。
確かワラキアは『ドラキュラ公』と呼ばれた『ヴラド』がいた街だ。
まさか吸血鬼が本当にいるとはな。いや、そういう世界なのかもしれない。
積極的に外に出て情報収集するべきだろうな。
その後部屋に戻ると祢音の胸へのひ弱な攻撃が待っていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
祢音が元気になってきたので外に出て情報収集をすることにした。
が、真っ昼間だというのに人はほとんどいない。
だが夜より明るいからか少しは緊張した空気はない。
民家の扉をノックしても人の気配がしても出る気配はない所が多かった。
他は人の気配すらしなかった。
情報が一切得られない上、色々と面倒になってきそうなのでさっさと転移したいのだが任務優先だ。
このまま調査するしかなかった。
「あれ…?」
しばらく街中を探索しているとオレたちと同じコートを着た人が2人。
用心深くフードを被っているため、男か女かはわからない。
「声かけてみるか……よう」
声をかけると2人は振り返った。
オレたちの顔を見るとそれぞれフードをはずす。
「ああ、お前らは…」
一瞬誰かわからなかったがすぐに思い出せた。
「確か、リルラとリストだっけか?」
そう、異世界へ旅立つ前に一度だけ顔を見た独奏者の姉弟だった。
「え〜と、確か……如月無月、如月祢音、奏先輩だっけ?」
一度覚えた単語を思い出すようにリルラがオレたちを指さして言った。
「別に先輩はつけなくていいよ。気が重くなる」
「よく覚えていたね。話したこともないのに」
まだ元気を取り戻しきれていない祢音が無理に明るい声を出して訊く。
「あそこで会う前に調律師のリストを見せてもらってたの。
レミアって隊長から顔と名前は覚えておけって」
なるほど、そういうことか。
「今までにも調律師には何回か会ったよ。
ところでさ、ここ何もなくて寂しい街だよね。何があったんだろ?」
「知らないのか?」
「まだここに来たばっかりで話を聞こうにも誰もいないし」
「そうか。少しでいいならオレが教えてやるよ」
そしてオレたちがここで今までに見たことを話した。
「そうか。吸血鬼か」
そこでようやくリストが口を開いた。
付き合ってみなければわからないが奏並に無口なヤツなんだろうな。
「その時はリストが守ってくれるよね」
リルラは自分の肩と同じぐらいの高さにあるリストの首に抱きつく。
「ああ」
それに自信満々に応えるリスト。
「その時はお兄ちゃんが守ってくれるよね」
対抗したいのか、祢音もおなじようにオレに抱きついてくる。
「さあな」
まともに返すのもおもしろくないのでいじわるっぽく応えてみる。
「えーー!!?」
予想通りの反応だが耳元で叫ばれてうるさい。
「大丈夫。私が守る」
そこで奏がフォローをいれる。
「私を守ってくれるのは奏だけだよ〜」
祢音はそう言って抱きつく相手をオレから奏へ変える。
「ふふっ、おもしろいね。
今まで会った人はそこまでおもしろくなかったから」
そりゃそうだろうな。
ほとんどは基本的に取っ付きにくいヤツだからな。
「じゃ、吸血鬼には気をつけるね。
私たちは私たちで探してみるよ」
「ああ」
「じゃあね〜」
というわけでその場は別れることになった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
結局手懸かりはなかった。
ならば確実な方法は一つ。
夜は吸血鬼たちが出てくるハズ。
大勢いるならボスがいてもおかしくない。
話が分かりそうなのを捕らえて尋問するか。
前回襲ってきたヤツは本能しかないように思えたのでそいつには期待できないが。
ついでに街も守ってやろう。
どうするか祢音に聞くと一緒に行くと言ったので今オレの隣にいる。
そりゃあ1人でホテルにいるより
こっちの方が安心するだろうと思っていたので余計な事訊いたなと少し後悔した。
「…来た」
空の闇を見上げれば大勢でヤツらがドンドン近づいてくるのがわかった。
「ん?」
よく見れば他の吸血鬼とはヤツもいる。
翼は生えていたが化物のような影ではなく非常に人間っぽかった。
ヤツがボスなんだろうか。
いや、そう簡単には出てこないか?まぁ話は分かりそうだ。
「みんな、死ぬなよ」
オレたちはそれぞれ武器を取り出す。
「大丈夫」
「問題なし」
始めにオレが飛び立ち、ある程度頭の良いと思われるヤツへ向かった。
そいつに辿り着く前に吸血鬼が何度も襲いかかってきたが問題なく斬って灰にしていく。
そしてようやく辿り着いた。
「お前が吸血鬼のボスか?」
遙か上空でオレとヤツは対峙している。
「見かけねぇ顔だな」
影通りヤツはほぼ人間に近い姿をしていた。
人間と違うのは翼を羽ばたかせているのと、
他のヤツほどではないが肌が青白いのと口から覗く歯が鋭く尖っている所。
おそらくザコっぽいヤツらよりは上級の吸血鬼なのだろう。
「オレはボスじゃねぇよ。ボスは『伯爵』ただ一人」
伯爵…『ドラキュラ伯爵』か。
「じゃ伯爵の所へ案内してもらおうか!」
急所を狙わずに腕を狙って刀を振ったが
ガキィィン
オレの刀とぶつかり、澄んだ音を立てたのはヤツの腕。
刀とぶつかったのにヤツの腕は斬れなかった。
それもそのはず、いつの間にかヤツの腕は剣のようなものになっていた。
つまりヤツは体の一部を変化させることができるということか。
「おもしろい能力だな」
「オレを他の下級のヤツと一緒にすんなよ?」
もう片方の腕をオレへと向けるとヤツの手は鋭い槍となってオレを狙う。
「ちっ」
なんとか回避できたがそれなりの傷を負ってしまった。
そしてヤツはその手に着いたオレの血を舐めた。
「いい味してるな。
男でここまで美味いなんてな。
お前、人間じゃねぇな。翼ねぇのに空飛んでるし」
するとヤツの目つきが変わった。その眼はまさに血に飢えた吸血鬼。
ヤツは一気に近づき右手を変化させた剣を振り下ろす。
だがオレはそれを受け流すと続いて突き出してきた槍もかわす。
「これで終わりだ!」
そのままヤツの心臓へ一突き。
杭ではないがヤツの心臓を貫いたのには変わりない。
終わりだ。
「ぐはぁっ!」
ヤツは口から血を吐き、その血はそのまま地上へ落ちていく。
刀をゆっくりと引き抜き、ヤツから離れる。
「ぐは…だが無駄なんだなぁ」
すると見る見るうちにヤツの傷は再生し、血も流れていない。
「心臓なんか刺したって意味ねぇよ。教えてやる。
オレたちはここにある『魔性炉』を潰さないと死なねぇんだよ」
と言ってヤツは自分の頭をコンコンと2回叩く。
こいつ自分の弱点を教えるなんてバカか?
まぁいい…。
「じゃあ遠慮なく殺らせてもらうか!」
オレはヤツまで一気に迫り、脳を狙って突きを放つ。
だが簡単にかわされオレの背後に回り込まれる。
「死ね!」
ヤツは槍で突きを放つがオレはそれをかわす。
そしてその隙にヤツの足に魔力を圧縮させた火球を放ち足を吹っ飛ばすがすぐに再生される。
だがその衝撃でヤツの体勢がふらつく。
「終わりだ!」
その隙を狙い、オレはヤツの頭を貫いた。
その時レンズが割れたような手応えがあった。脳ではないのは確かだ。
それが何かわからないが普通の人間になくてこいつにあるもの、おそらく『魔性炉』。
「ちっ、……し…まっ……」
最後まで言い終えずにヤツは灰となって風に運ばれた。
「きゃあああああああ!!!」
一息ついた所で祢音の叫びが聞こえる。
あんな光景を見た以上放っておくわけにはいかない。
オレは全速力で叫び声のした方向へ向かった。