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第20話

「到着っと」


到着するとワイワイガヤガヤと大勢の人の声が聞こえてくる。


それもそのはず――


「ここって……遊園地?」


そう、オレたちが辿り着いたのは遊園地……の入口付近。


開園からそんなに経ってないのか入口に向かうカップルや家族は非常に多い。


オレたちの遊園地には合わない格好を見て怪訝な顔をするものもいる。


「………ここには魔宝はないみたいだな。


前の世界で結構疲れたし、どっかで休むか」


魔宝の反応はない。


気になるような強い力も感じないし、遊園地から離れようとしたのだが


「ちょっと待って」


と祢音に腕を掴まれる。


「何だよ。まさかここで遊ぼうなんて言うんじゃねぇだろうな?」


そう言って向き直ると


「正解♪」


と笑顔で親指を立てる祢音。


「断る」


歩き始めるがその腕はまだ解放されていなかった。


「いいじゃん。


どうせ他の世界に移動するまで1日待たなきゃいけないんだし、


たまには息抜きも必要だって。さ、行こう!!」


「そうだな……」


確かに1日待たなければならないし、息抜きも必要ってのもわかるが


オレは遊園地なんかで息抜きはできない。


祢音と行くならなおさらだ。


「行かない」


「えーーー!?」


そして再び歩き始める。


不意を突かれたようで腕が祢音の手から離れる。


「ちょっと待ってよ!」


そして再び、腕を掴まれる……。


「ああ!わぁったよ!


だがオレは何も乗らないぞ!いいな!!」


オレは強引に祢音の手を振り払うと祢音へ振り返り釘を打っておく。


こんなやりとりをしている方が疲れる。


ここはおとなしくした方が楽そうだ。


「さっすがぁ!奏、チケット買ってきた?」


「買ってきた」


と呼び戻された奏の手には3枚のフリーパスのチケット。


フリーパスが……3枚…?


「待て、オレは何も乗らないと言ったぞ」


「まぁまぁ、その内何か乗りたくなるかもしれないじゃん。


ここは私の奢りだから」


まぁ奢りと言うなら別にいいか。


「じゃ服を着替えないとね」


と言って魔法で衣服を変える。


祢音の服はでブランドの名前と思われるロゴが書かれた明るいピンクのTシャツの上に


同じロゴの白いパーカー、そして淡い水色のミニスカート。祢音らしい明るい服装だ。


奏の方は基本白でわずかに襟元や袖やスカートの裾に黒色で装飾されているだけのワンピース。


スカートは膝下まであり、奏らしいと言えば奏らしい落ち着いたというかシンプルな服装だ。


まぁオレのは聞いても仕方がないので言わないでおこう。


「さぁレッツゴー!」


祢音はスカートを翻して振り向きご機嫌に入口へと向かった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



ということで園内へ


「ここは最新型の遊園地でバーチャルゲームがあるんだって」


祢音が遊園地の地図を歩きながら見て言う。


祢音だしぶつかる心配はないと思うので注意はしないでおく。


「バーチャルねぇ……」


バーチャルは前の世界で飽きたしなぁ。


「あとで行ってみよっか。まず初めは絶叫マシンだよねぇ♪」


んなワケでジェットコースターの所へ来たんだが…。


「けっこう並んでるねぇ」


このジェットコースターは国内最大だとか国内最恐とか嘘っぱちのような看板があり、


その上には『待ち時間60分』とあった。


「ん〜〜……1時間なら他の乗った方がいいよねぇ。


そだ!お兄ちゃんここ並んどいて」


「はぁ!?オレは乗ら――」


「場所とりだよ場所とり。よくやってるじゃん。


暇な人が並んどいて楽しむ人は他ので遊んでおく。常識でしょ?」


どこの世界の常識だ。しかもんな事初めて聞いたぞ。


「じゃ任せたよ」


誰も承諾してない!と言う間もなく、


祢音は奏の手を引き連れて走り出し、遠くに離れていった。


「……しゃあねぇなぁ」



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「おいおい」


もう次のでオレの番が来そうなのに祢音たちが来る気配はない。


そしてオレの番が来た。


途中で抜けてもよかったんだが。


ここまで並んだのにこのまま戻るってのも何だか感じが悪い。


国内最恐だってさ、国がどんだけ広いのかはわからんが。


祢音奢りのフリーパスだし………うし、乗ってやろうじゃねぇか。


その時なぜか祢音の笑う顔が頭に浮かんだが、


それはすぐに消えていったので気にしないことにした。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「はぁ…はぁ…なかなか、やるじゃねぇか」


国内最恐を乗り終えたオレは息を切らしたように膝に手をついている。


ケロっとしてて平気そうな強者もいるがほとんどのヤツはオレと同じような状態だ。


稀に戦闘の時に感じる恐怖とはまた違った恐怖が味わえた。


てか連れなしでジェットコースターに乗るオレって…。


「いやぁ、楽しんできたみたいだねぇ」


聞き覚えのある声がしたので顔をあげると笑顔の祢音と無表情の奏がいた。


「ほら。遊園地、楽しくなってきたでしょ?


もう1回行ってみようか♪」


と言って祢音はオレがジェットコースターに乗る前に浮かんだ顔と全く同じ顔をした。


ああ、こいつは初めからオレをジェットコースターに乗せるつもりだったのか。


んで、オレは見事にその思惑通りだった、と。


「ささ、行こ」


あまりの不甲斐なさにオレは抗う気力もなく。


そのまま二度目の最恐へ連れて行かれるのだった。


「はぁ…はぁ…」


頭の中がダルい。三半規管は鍛えてある方だと思っていたんだけどな。


「お兄ちゃん、こんなのでダウンなんてまだまだだねぇ」


祢音と奏は国内最恐に乗ったのにケロッとしている。


こいつらも強者だったのか…。


祢音は隣で楽しそうに叫んでいたが、


奏の声は聞こえなかったし、やっぱ無表情で乗っていたんだろうな。


「さぁさぁ次ぃ♪」


ご機嫌にそう言い、ふらつくオレの腕を引っ張って歩き出す。


もう思惑通りとかどうでもいいや…。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



さて、まだ昼を過ぎたばかりだというのに色々なアトラクションに乗った。


急流滑りやら遙か上空から一気に下まで垂直落下していく絶叫マシンも乗れば


コーヒーカップやらメリーゴーランドのようなメルヘンチックなものまで。


どれも2人とも楽しそうにしてたからまぁいいんだけど。


どれもオレは楽しめなかったからそれはよくないんだけど。


レベルの高い絶叫マシンはマシにはなってきたが、


ビビるし、メルヘンチックなのは恥ずいし。


オレ、遊園地は性に合ってないんだろうか。


次にやろうとしているアトラクションは例のバーチャルゲーム。


その人の心次第でどんな場所にも行ける上、それが共有できるんだから凄い。


で、誰がその世界を創り上げようとしているのかというと――


「私がやる!」


祢音だ。


まぁ予想はしていたのだがやはり、不安だ。


何が出てくるのやらと思いながら椅子に座り重そうな被り物を被せられる。


そして前の世界で感じたのと同じように意識が薄れていく。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「……ん…え〜と、ここは…」


確か祢音が創った世界に入ったんだよな。


気がつけばオレは並木道の間にいた。


「お、おかしの…家?」


そしてその先にはグリム童話のヘンゼルとグレーテルに出てきたおかしの家が見えた。


両サイドにある木になっている実はアメ玉のような鮮やかな色をした丸い玉だ。


「あ、やっと来たね!こっちこっち」


奥には家の前で手招きしている祢音が見える。


なんともメルヘンな世界を創ったものだと思いながら並木道を進んでいく。


「見て見て、私の自信作!」


と言っておかしの家を見せつける。


おかしの家と言ってもあるのはチョコやケーキなどの甘いおかしばかり。


クッキーぐらいはありそうなもんだったがそれは見あたらない。スイーツオンリーだ。


「バーチャルでも五感はあるけどいくら食べても太らない!完璧だね♪」


自分の発想にうっとりしているのか祢音の眼は夢現になっている。


その祢音の隣にいた両手いっぱいにポッキーやらケーキやらがそのまま抱えられている。


服が汚れないのかと思ったが見た感じ汚れてはいないようだ。


「まさか魔女なんていないだろうな?」


まぁ居たところでなんの問題ないのだろうがそれとなく聞いてみる。


「あはは、まっさかぁ。


そこまではしないよ。さて、食べようか♪ はい」


祢音は奏の持っていたポッキーの束をオレへ差し出す。


「おう」


その束は片手でなんとか握れるほどの量だった。


とりあえずその1本を文字通りポキッと音を立てて食べる。


味は悪くない。このくらいの甘さが調度良いかもな。


「他には何もないのか?」


2本目のポッキーを食べ終えた所で祢音に聞く。


「ないよ。創ってもよかったんだけど


それだと全部堪能する前に制限時間が来ちゃうしね。残念だけどこれだけ」


そういやこのアトラクションは出来たばかりで、


人気も高いため1グループ30分となっている。


短すぎるかもしれないが仕方ないのだろう。



しばらくおかしの家を食べたりしながら30分を過ごした。


祢音がそうイメージしたのか知らないが、


おかしの家はなくなることはなく、食べてもすぐに再生した。


「そろそろ時間みたいだね」


アナウンスがもうすぐ退去する時間だと告げている。


そして急に眠気が襲ってきた。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「あ〜おもしろかった」


アトラクションがあったドーム状の建物から外に出て祢音は満足そうに伸びをして言った。


「もう帰るぞ」


時刻は現在4時。まだまだ空は明るいがもう十分だろう。


「ねぇお兄ちゃん。


あれってさぁ…ルリアさんじゃない?」


そう言って袖を引っ張る祢音の視線の先にはブロンドのロングヘアーをした女性がいた。


黒いコートを着ていたがフードは外しているため誰かはわかった。


遊園地に合っていない服装をしているにも関わらず


誰も見向きもしないということは何か魔法でも使っているのだろう。


確かその系統の魔法が得意だったはずだ。


「ルリアさん?」


祢音はルリアに近づいていき肩に手を置く。


「ん?祢音、久しぶりだねぇ」


振り向いてオレたちを見るとルリアは気怠そうな顔をしながらも挨拶してくれた。


「よっルリア」


「無月に新入りの…奏…だっけ?元気だった?」


「うん。ルリアさんも無事みたいだね」


「余裕余裕。特に目立った敵にも会っていないし、つまらないなぁ。


に…じゃなくてあの女ったらしは一緒じゃないみたいね」


直接名前は出てこなかったがおそらくメデスのことだろう。


異世界に行く前になにかと一緒にいることが多かったしそう思っても仕方ない。


「途中まで一緒だったけど別れた」


その問いにはオレが答えた。


「そう。ここで一緒に遊んでやりたいところだけど急がなけりゃならないからね。


この世界での用は済んだし、じゃあねぇ」


そう言うとルリアは次元転移し、この世界から去った。


「用って何だろうな?」


ここには魔宝はないみたいだし。


それかオレたちはルリアが取ってから着いたのだろうか。


「案外ここで遊んでたりしてね」


「あの性格でそれはねぇよ。さっさと出て泊まるトコ探そうぜ」


んなわけでその夜は遊園地から出て近くの街のホテルに泊まった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「昨日はいい休暇になったねぇ♪」


本当はこんなことしてる場合ではなかったのだがまぁ暇になるよりはよかったか。


「さ、行くぞ」


そしてオレたちもこの世界を去った。


今回はちょっと息抜きです。

この後大変なことになりますので・・・・・・・

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