第18話
「私が魔宝の在処を知っているから」
「何!?」
魅夜からの意外な答えを聞きオレは思わず声を上げた。
「正確に言うと魔宝の在処がわかる方法を知ってるってことなんだけどね」
と言って気恥ずかしそうな顔をして頭を掻く。
「どうやるんだ?」
「無月たちの持ってる道具に魔宝の波動を調べるのがあったでしょ?」
そう言って魅夜はオレの腕輪を指さす。
「ああそうか。これを使えば」
オレは腕輪に魔力を込めようとしたのだがそれを魅夜は手で制す。
「ちょっと待って。
そのままじゃ意味はないよ。ここのAIは意地悪でねぇ。
そのまま使えるって言ったのに遺跡とかレアアイテムが簡単に見つからないように
ここで使うダウジングとかは効果がないように細工がしてあるのよ」
試しにやってみるとここには魔宝があるはずなのに反応は一切ない。
「迷惑な話だよねぇ。そこで!私の出番ってわけ」
そして魅夜はまだ何もやっていないのに誇らしげに胸を反らす。
「私の魔法に条件や常識を切り離す事ができる魔法があるの。
ある人から教えてもらったんだけど。
例えば物は引力に引かれるという物理法則を無視して等速直線運動を続けさせたりね。
つまりその魔法をその腕輪に与えて効果がないっていう条件を切り離して
それから反応の強い所を歩き回って調べることができるってわけ」
「魅夜、お前魔法使えるのか?確かオレが魔玉を―――」
「あれは私の眼の魔力であって私本来の魔力じゃないの。
あの時はほとんど魔宝の魔力に頼ってたから
ショックみたいなものもあって消えちゃったけど。
眼は魔宝でなくなったけどそれ以外の魔法なら使えるよ。
とにかくやってみようか。腕上げて」
オレは言われた通りに腕を地面と平行になるぐらいに上げる。
すると魅夜はその腕輪に両手を翳す。
「θμσξψψυ……」
するとオレの持つ腕輪が光り出す。
光は魅夜が呪文を唱え終わると同時に消えた。
「さて、これでちゃんと使えるはずだよ。
持続時間は1時間。
それまでに見つけないと効果は切れるから注意してね」
「もし切れたら魅夜ちゃんの所に来ればいいんだよな」
「それは無理だよ。
私はここに留まっているわけにはいかない。
ちょっと用事があってね。
この手伝いが終わったら戻らなくちゃいけない」
「フェイトの末裔ってのは忙しいんだね」
「平和のためだからね。頑張るよ。
そうそう一番反応の強い所に来たらコレに魔力を込めてごらん」
そう言って魅夜が投げ寄越したのは白い勾玉。
「なんだコレ?」
オレの手の上にある勾玉をみんなが覗き込む。
「それはね……おっと、私はそろそろ行かないと。
じゃね、みんなバイバイ」
説明をする前に魅夜ははっとすると急に振り向き、手を振りながら走りだす。
「おい!何だよこれ!」
「やってみたらわかるってじゃあねーー!!」
街の曲がり角を曲がるまで魅夜は手を振り続けていた。
「まぁ、探してみるか」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
腕輪と魅夜の魔法によって反応を調べながら進むことができたから、
一番反応が強い所は意外と早く見つかった。
「で、こんな所にホントにあるの?」
祢音が不思議がるのもムリはない。オレでも疑うぐらいだ。
一番反応の強い所は外の草原の真ん中だった。周りには何もない。
「んで、コレの出番なんだろうな」
オレは先ほど魅夜からもらった勾玉を取り出す。
そして魔力を込めると……。
「うおっ何だ!?」
「大体わかるだろ」
急に地響きが起り、足下がふらつく。
そして目の前に学校にある掃除用具庫を
二回り大きくしたぐらいの小さな建物(?)が地面がら突き出る。
「ちっさぁ」
というのがオレたちの中で一番先に言葉を発した祢音の感想。
「開けるぞ」
そう言って開けるオレはガラにもなく緊張していた。
「……地下」
そう呟いた奏の言うとおり扉を開ければ地下へと続く井戸のような穴があった。
穴を覗き込むが暗くて底が見えない。
「さて行ってみようか!」
メデスはそう言ってオレの背中を押す。
「だったらお前が先に行けっ」
体を回転させてメデスの背後に回るとドンと背中を押す。
「こらぁ!底なしだったらどうすんだぁぁ!!」
メデスは辛うじて角を掴んでいる。
「まぁ落ちろ」
メデスの指先を軽く蹴る。
「あいた!!
って、うををおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!!」
指先は軽く蹴られても痛い。思わず手を離したメデスはそのまま奈落の底に落ちていく。
そして
ドスーーーン!!
というメデスが地面へ叩きつけられる音がした。
「底はあるみたいだね」
「ああ、じゃ行くか」
続いてオレと祢音と奏も落ちていった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「っと」
急に落ちていったメデスはと違ってオレたちはちゃんと着地した。
「明かりは点いてるみたいだね」
「ああ」
外からは真っ暗だったのだが中に入ってみれば
松明もランプもないのに明るかった。便利だな。
「中は案外広いな」
「宝箱発見!!」
祢音の指さす先には祭壇の棚の上にいかにも『宝箱』と言えるような宝箱があった。
見つけるまでが困難だったが意外にも遺跡の中は楽そうだ。
両サイドに置いてある人型の石像が気になるけどな。
「さっさと取りに行こうぜ」
とメデスが足を踏み出すと
ちょっとした地響きが起こり案の定両サイドの石像が動き出す。
「あ、やっぱり」
「いくぞ」
こっちが金属類の武器でも石像はたやすく斬れる。
「祢音、先に行け!」
「わかった!」
祢音はそう答え、宝箱に向かってオレたち空けた道を突き進む。
宝箱の前まで来ると祢音は宝箱に手を添えながら目を閉じる。
その途中祢音の隣に石像が現れる。
「させるか!」
火球を放ち石像の頭部分を砕く。
「よしっ」
祢音がそう言うのと同時に宝箱を開ける。
眩しいほどの光が放たれ収まった時には祢音の手に魔玉があった。
「OKだよ!」
「戻るぞ」
石像を破壊すると出口の穴まで走り出し、そこから飛び上がって脱出する。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「無事にゲットできたな」
服に砂埃を付けたメデスがそう言ったのだが
「安心するのはまだ早いぜぇ」
ちょうど目の前に明らかに敵と思えるプレイヤーがいた。
背中にでかい大砲のような物を背負っていたが本人は汗一流していない。
ゲームだからだろうか。
「残念だが宝箱の中身はオレたちの欲しいモノに変わっちまったんでな。
さっさと帰ってくれ」
魔玉は強力だが一般人は知ってるわけがない。
それを知れば帰ってくれると思ったのは迂闊だった。
「いいんだよ。オレが欲しいのはその魔玉だ」
「はぁ、『紅き月』か………さっさと終わらすぞ」
「待って。ここは私に任せてよ」
祢音は前に出ようとしたオレを制し前に出る。
「んじゃ頑張れ」
「うん。頑張ってくるよ」
祢音はシリアス声で答え、歩き続けた。
「私は風の調律師、如月祢音。あなたは?」
「おれはラッド」
へぇ、もしかしてこいつ今まで自己紹介してたのか。生真面目だな。
「やっぱレベルの差で違ってくるだろうな」
どんだけ腕の差があってもレベル1のヤツがレベル100のヤツには勝てない。
「2人のレベルは同じ」
と奏が付け加えるように言う。
「ふ〜ん」
じゃ、これは腕の差で勝負が決まってくるってことか。
とか言ってる間にすでに戦闘が始まっている。
腕はほぼ互角というかどちらも1発も攻撃を受けていない。
防いだり攻撃したり避けたり避けたり防いだり攻撃したり……。
その時祢音がヤツの構えた大砲の銃口に銃弾を放つ。
銃弾は大砲の中で破裂し、ヤツの大砲に甚大なダメージを与える。
「これで終わりかな」
衝撃によりヤツが怯んだ隙に胴に3発の銃弾を浴びせる。
「ぐああ…」
このゲームでは血は流れないが痛みはそのまま感じる。
血が流れない以外は現実と同じ状況になる。
「オレはまだ動けるぜ!くらいな!」
ヤツは再び大砲を構え放とうとしたが砲弾は出ない。
「なんだ!?」
「あなたの砲弾も魔力でできてるみたいね。
さっきあなたに当てた銃弾にはオルタナティブの開発部特製の薬が入っているの。
これであなたは魔力を扱えない。
つまりあなたはもう砲弾を放つことはできないし次第に体も痺れて動けなくなるよ」
そう言って祢音はオレたちの所へ戻ってくる。
「殺さないのか?」
「いいじゃない。ここで殺したって現実世界では生きてるわけだし。街に戻ろ」
そしてオレたちは座り込んだラッドを背にして街へ向けて歩き始めた。
だが―――
「まだだ!!そのまま行かせるか!」
まだ終わっていなかった。
「これがあればお前らを消し去ることができる」
ヤツは持っている魔玉を2つ大砲に入れるとそれを担いで構えた。
「ヤバイぞ!魔力の量が尋常じゃねぇ」
2つしか入れていないといっても入れたのは非常に強力な魔力の込められた魔玉。
「さすがにコレ食らったら死んだまま現実世界に戻れなさそうだな」
こんなモン文字通り消え去るかもな。
「逃げるか?」
「無理だろうな。これは攻撃範囲が広すぎる。もう遅い」
「はははははははははは!!!」
ヤツはもう発射寸前だ。
今さら移動しても間に合わないだろう。
シールドを張るにしてもヤツの魔力は強すぎて意味ねぇだろうし。
絶体絶命ってヤツだな。
「何でお前らそんなに冷静なんだよ!!
あ〜〜もっと女の子と遊びたかった!!」
メデスは辞世の句でも詠みそうなほど慌てている。
「ははははは!消えろぉぉぉ!!!」
そしてついにヤツは砲弾を放った。
砲弾と言うよりは非常に密度の濃い魔力。
とんでもないプレッシャーだ。
「さて、どうするか……」
聖霊でも呼び出して賭けてみるかと思ったのだが。
「大丈夫。みんなは私が護る。行くよ、『私』」
すると祢音の背中から羽を舞い散らせながら純白の翼が2枚生えてくる。
気がつけばだいぶ前に祢音の精神の中で見た天使が目の前にいた。
『ホーリーシールド』
祢音(?)が両手を前に突き出すと2m強ほどある白い魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣にヤツ―正確に言えば魔玉―の魔力が直撃する。
祢音が防いでいる間突風が吹き、バチチチッという電気をイメージさせる音がしている。
魔力は通り過ぎ、祢音のおかげで全員無事だった。
周囲は魔力による砲撃の影響で草は消え荒れ果てている。
祢音は魔法陣を消し、こちらへ向く。
「大丈夫ですか?」
「ああ……お前は祢音の中にある天使の人格って事でいいんだよな」
「はい。同じように『祢音』と呼んでもらえればそれで」
「祢音、ありがとな」
オレが礼を言うと
「いえ」
と短く言って少し微笑んだ。
「く、くそ……まだ、まだだぁ!!」
「もう終わりだ。諦めろ」
「オレが持ってる魔玉がたった2つだと思ったか?」
そう言うとさらに2つヤツは魔玉を取りだした。
「だがてめぇの武器はぶっ壊れてる。もう無理だ」
ヤツの大砲は祢音の攻撃と先ほどの攻撃で形がはっきりしないような物になっている。
「はは、まだこの手がある」
するとその魔玉を自分の体内に押し込んだ。
「何!?」
そのまま魔玉はヤツへ吸い込まれていった。
「どうなるんだ?」
緊迫した空気の中オレたちは魔玉を体内に入れたヤツの様子を見ていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
すると一気にヤツの魔力が上がるのと同時に悲鳴とも言えない怖ろしい叫びを上げる。
見る見る内にヤツの姿は変わっていき最後には狼男のような姿になった。
「はは、ウソだろ?」