第17話
「やっ、おまたせー」
オレとメデスを引き連れて祢音と奏は一座の下へ戻る。
「あれ?祢音、その人たちは?」
すると一座の1人の女性が訊いてくる。
「私はメデスと言います。
これからあなたの一座にお世話になる者です。
芸は初めてでしてね。
これから弟子となって芸を教えていただきたいのですが」
さっそくメデスはその女性にナンパをしかける。
「相変わらずみたいだね」
「まぁそんな簡単に変わるヤツじゃないだろ」
「まぁね」
突然のメデスのナンパに旅芸人たちに戸惑いを隠せない者もいれば
怨めしい眼で見てくる者などがいる。
そんな中、1人の女性がメデスに話しかけてきた。
「あ〜ら、やっぱりね。浮気者」
ルーエだった。
「いや、これは…その………」
女性の手を離し、狼狽えるメデスは妻に浮気の現場を見られた夫そのものだ。
違うのは2人が夫と妻という関係ではないということだけと思えるぐらいにピッタリの表現だ。
「ま、わかってたんだけどね。アンタがそういう男だって」
「じゃ、許してくれるのか!?」
「そもそも怒ってないわよ」
そんなやりとりがあったおかげ(?)でその場の微妙な空気がなくなり、幾分空気は軽くなった。
「なんだ3人の知り合いなのか?」
座長の風格を漂わせつつも厳格さのない、
やさしそうな顔をした中年のおじさんが芸人たちの間を抜けて出てきた。
「えぇ、私はちょっとした知り合いで」
「この人は私の兄で、この人は現実世界の同業者です」
と順々にオレとメデスを紹介する。
「座長頼みがあるんですが」
祢音は座長の下へ駆け寄り話を始める。
「なんだ?」
「この2人を一座に入れてもらえませんか?
芸はできるかわかりませんが運動神経はバツグンですし、
できなくてもボディーガードとして役立つはずです。私が保証します」
「そうだな……」
座長はオレたちの顔を見てしばらく考えると
「ま、いいだろ。
今さら2人ぐらい増えても変わりはないだろうしな。
やってみたい芸はあるか?」
「お世話になりますから何でもやりますよ」
何もせずに世話になりっぱなしにしたいと思うほどオレは図々しくない。
せめて何かはやっておかないと悪い気がする。
「オレも同じく。空いてるのがあればそれでOKです」
「そうだな。
もうこの街をでるから次の公演までしばらく時間があるしそれまでに決めておくよ。
君たちは運動神経がいいらしいから少しぐらい難しいものにしておくかな」
少しいじわるそうな顔をしてこちらへ笑いかけると馬車の中へ入っていった。
移動手段は馬車か……。
トラックなんかで移動するよりは風情っぽいものがあっていいな。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
馬車で移動といっても人数が多く、
馬車には荷物しか乗せずオレたちは歩いて移動するそうだ。
「このゲームの中にルーエさんがいるってことは何か能力を持ってるってことですよね?」
移動し始めてからここまでメデスはルーエの機嫌直しに他愛ない話をし続けている。
「えぇ。弟のライと同じ能力をね。ライよりは弱いけど」
ということはルーエも影が見えるってことか、能力の継承は家系によるのだろうか。
「ここ最近は暇でね。学校なんか行ってないし、
仕事もないからライがやってたゲーム貸してもらって、
これが案外おもしろかったからやってたのよ。
この一座に入ったのは仲間が欲しかったから、
1人でやるより大人数でやるほうが楽しいし」
メデスを鬱陶しがるわけでもなくルーエはちゃんと返事をしている。いい人だ。
「祢音、お前魔玉いくつ持ってる?」
「ん?まだ5個だけど。お兄ちゃんは?」
「5個だ」
とりあえず同点ということに安堵を感じながら答えた。
「なんだ同点か。勝ってたらバカにしてやろうと思ったのに」
同点でよかったよ。負けてたら何言われるかわかったもんじゃない。
「お前なんかにバカにされてたまるか」
で、そんな会話をしていると
「お前らの有り金全部置いてってもらおうか!!」
と叫び、黒いスカーフのような布で顔を隠した強盗丸出しの男が4人現れた。
「なんかリアリティに溢れてるな。
ゲームん中で強盗に会うなんて思いもしなかったな」
「呑気な事言ってないで、ボディーガードでしょ?早くやっつけちゃってよ」
あぁ、オレか。あとメデス。
「メデス!さっさと終わらすぞ」
オレは前の方でルーエと話しているメデスに呼びかける。
「あいよ」
【マリオ ルイージ ワリオ ワルイージ が現れた】
もしかしてこいつら全員兄弟なのか?まったく、わけわからんなネットの世界は。
どんな能力を持ってるかわかんねぇし、注意するに越したことはなさそうだな。
「行くぞ!弟よ!」
「うん!兄さん!」
するといきなりマリオとルイージが火の玉、つまり『ファイアボール』を放った。
能力丸わかりでした……。
そしてファイアボールはオレの所へ届く前に勢いのある水は受けて鎮火した。
「無月、こいつらはオレが引き受けた。相性バッチシだ」
「んじゃ任せた」
と、いうことはオレはこいつらか……。
名前からしてあまり相手はしたくないな。確かあいつら悪役だろ?
「行くぞっ!」
ヤツらはオレへ間合いを詰めるために走り出す。
「こいつをくらいなっ!」
どこから取り出したのかヤツの手にはバレーボール大の黒い爆弾いわゆるボム兵があって、
走りながら投げつけてくる。
「危ねっ!」
一座のみんなはオレたちから離れているため、気をつかわずに回避する。
そしてヤツらが平凡な剣を取り出し向かってくるが慌てずにオレは目を閉じる。
『一閃 居合』
刀を鞘に入れたまま神経を研ぎ澄ませ気配を感じ取り、
ヤツらが攻撃範囲内に入った所を居合い斬りで反撃する。
防御をしたヤツらの剣を破壊し、さらにダメージを与える。
ダメージは2人とも43。まぁまぁだな。
「続けていくぜっ!」
『二閃 双月』
横から見て三日月を描くように2回下から斬り上げる。
ダメージはそれぞれ56与えた。
「仕方ねぇ!アレを使うぞ!」
ワリオの方がなんか秘密兵器っぽいのを出すようだ。
んなこと考えてると
「あり?何だこれ」
気がつけば腕と一緒に体がワルイージの持つマジックハンドで掴まれている。
うっわ情けねぇ!!
「こいつをくらえば即死だぜぇ!!」
そしてワリオはなんか自分の2倍はありそうな爆弾を見せつけるように持ち上げている。
「お前もな」
そんなモン爆発させたらお前だって死ぬだろ。
「そこまでバカじゃない。これは威力は高いが範囲は狭い!
ここから投げればダメージは受けないのさ!覚悟しろ!」
仕方ねぇ、魔法使うか。
オレが炎を使い、マジックハンドを破壊し、
投げる前にヤツを殺すという算段をしていると
ダァン
と1発の銃声が鳴ったかと思うとワリオが自分の持った爆弾で自縛してやがる。
「はぁ、何やってんだか」
銃口から煙を出している愛用の銃『レリーフ』を持った祢音が後ろに立っていた。
「今から反撃しようとしてたじゃねぇか」
ワルイージをバッサリ斬ってバッタリ倒して刀をしまって言葉を返す。
「いやぁ私には今にもやられそうで『誰か助けてぇぇ!!』なんて顔してたからさ」
祢音は銃をしまうと両手を組み天へ祈るような演技をする。
「誰がだ」
絶対そんな顔してない。断言できる。
「お前らさ、自分の相手終わっても手伝ってくれねぇんだな」
残りの2人の相手をしていたメデスが倒し終え戻ってきた。
「そもそもこんなヤツ相手にお前、助けが必要か?」
こいつの性格は最低だが実力は認めざるを得ない。
こいつが本気になった所は見たことないが、
たまにオレを上回っているんじゃないかと思う時がある。
とにかく、今の相手に助けはいらないはずだ。
「いや、確かにいらねぇんだけど……なんか寂しいじゃん」
これも巫山戯てんだろうな。
「いやぁすまないねぇ。助かったよ」
離れていた一座のみんなが再び集まってきた。
「いいっすよ。世話になるんだし」
「参ってるんだよ。気前のいい観客にはお金をもらってるからね。
芸ばっかりやってるもんだから戦闘の得意な人もいなくてね。
祢音ちゃんと奏ちゃんが来てから奪われることもなくなるし、
踊り子までしてもらって感謝してるよ。
もちろん君たちにも期待しているからね」
そう言って座長はオレとメデスの肩を叩く。
「任せてくださいよ。
このメデス、美人のためなら何だってしますよ!」
そしてメデスは自分の胸を叩いて答える。
「さあみんな行こうか!!」
座長の一声で再び一座の進行は始まった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
オレたちが一座に入っていくつかの街を回っていった。
その間オレたちは基本ボディガードとして働き、
たまに軽くバランス感覚が試される皿回しなどをした。
そしてついに目的の街『フリカ』に辿り着いた。
ここが目的地ということでオレとメデス、
そして祢音と奏は一座の人たちと別れて行動することにした。
メデスとルーエの別れは感動的だったな(ウソ)
メデスの様子が今生の別れのようで実におもしろかった(ホント)
「はぁ、とうとうルーエさんの手料理が食えなくなってしまった………」
さっきからそんなことばかり呟いている。
「さて、再び聞き込みだな」
そしてメデスを先頭にしてオレたちは街中を歩き始める。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「だっっっれも知らねぇなんてな」
「全部噂みたいだしね」
しばらく聞き込みを行った。
遺跡に一番近い街だと言われているだけあって、
何か信憑性のある情報が得られるかと思ったが
その期待は裏切られ、どの情報も噂レベルを超えないものばかりだった。
「そこのお兄さん、お悩みのようだねぇ」
途方に暮れているとどこぞの占い師のような言葉をかけてくる者がいた。
「ぁあ?その悩みでもかい――― !?」
「や、『また会った』ね。無月」
苛立っているのをアピールするような口調で言いながら
振り返ったオレの目の前には死んだと思っていた彼女、『魅夜』がいた。
服装は夜魔国の時の正装と変わりなく、別れた時と姿は全く変わりはなかった。
「誰?その人」
魅夜の顔を見て微妙に怪訝そうな声で問う祢音。
「あぁ、この人は『フェイト・月詠・アカシャ』、オレが前いた世界のアカシャの末裔だ。
本人の希望により魅夜って呼べってさ。
で、こいつがオレの妹の『祢音』。んで、こいつが途中参戦の『奏』」
「途中参戦………?」
うお!?合流してから初めて声聞いたかも。
「途中参戦はないよな〜。
奏ちゃんは無月の何がいい?オレのでもいいけど?」
メデスはそう奏に問いかけるが奏の答えは
「別にいい……」
だった。
「あ、やっぱり?」
だが想定内だったようでメデスはあまり落ち込んでいない。
「ふ〜ん。フェイトの末裔ですかぁ」
「そして『無月の恋人』で〜す!」
すると魅夜はオレの腕に抱きついてきた。
胸が当たって気持ちいいなんてベタでやましいことは一切考えてないぞ。
「なっ!!!???」
「……………?」
「なっ!!?」
突然の出来事に祢音の声が裏返る。
メデスも同じような言葉は発したがある程度の事情を知っている分驚きは少ない。
羨ましさに!マーク2つ分と言った所だろうか。
「なんか面倒な事になりそうだから離してくれるか?」
祢音の顔がみるみるうちに赤くなっていきこのままでは1発2発殴られそうだ。
「そうだね」
魅夜は事情を察してくれたようで素直に腕を解放させてくれた。
「魅夜です。よろしく!
あ、フェイトの末裔だからって敬語じゃなくていいから」
そして魅夜は祢音と奏へ両手を差し出して握手を求める。
「祢音です。よろしく」
「奏……よろしく」
ガッチリ(?)握手を交わし、ここに新たな繋がりができた。
まだあまりうち解けていないようだがそれは時間の問題だろう。
気が合いそうだしな。
「で、魅夜はオレが殺したかと思ってたんだけど何で生きてるんだ?」
オレの問いに魅夜はしばらく考えてから答えた。
「ん〜〜、正確には殺したって言うよりこっちから消えてしまったんだよ。
言い方によっては殺したと言えるかもしれないけどね。
何で生きてるかなんだけど私たちフェイトの末裔は死ぬと
肉体は朽ち果てても魂は一旦特殊な世界にいる『オリジン』と呼ばれる者の下に戻る。
そこで新たに向かう世界を決められて送られる。
私の場合たまたまここだったってことだね」
「ふ〜ん。で、何でここに来たんだ?」
オレは何気なく聞いてみたのだが魅夜の答えは意外だった。
「私が魔宝の在処を知っているから」
無事(?)ルーエと魅夜を登場させることができました。
魅夜は死んでなかったんですねぇ・・・・
彼女は最後に言いましたよね『じゃあ、またね』ってww
んで、次回は次回でさらなる展開が!お楽しみに!