第15話
「いや〜のどかだねぇ…」
「どこがだ」
オレたちは今視界一杯に広がる草原のど真ん中にいる。
これだけならのどかとも言えなくもない。
『これだけなら』な……。
【スライムが現れた】
そんな文字が頭に浮かび目の前によくある青い水滴のような軟体生物が現れる。
「さて、攻撃するか」
オレはポヨンポヨンと意味もなく動き回るスライムへ歩いて近づき、
刀をシュッと振り下ろす。
【スライムに73のダメージ スライムを倒した】
ちょっとした手応えを手に残してスライムは溶けるようにその場から消えた。
【ムツキたちはスライムを倒した 経験値を2 金を3G入手した】
おわかりいただけただろうか。
オレたちは今ゲームの世界にいる。
結果的には仕方なかったのだがこのアホが…。
面倒だがこの状況をよく理解してもらうため、回想するとしよう。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「到着っと」
次にオレたちが辿り着いたのはオレたちのいた日本よりわずかに発展した世界。
オレたちは家電量販店の駐車場の隅っこにいる。
今の誰も見てなけりゃあいいんだが。
「さ〜て、ここには魔宝はあるかな?」
メデスはさっそく反応は調べる。
「お!けっこ近いぞ」
細かく位置を特定するためにメデスは反応を調べながらブラブラ歩き始める。
「人にぶつかるんじゃねぇぞ」
オレは心にも思っていない事を言いながらメデスの後に付いていく。
そのままオレたちは店の中に入り、さらにPCコーナーへと入っていく。
「………ここが一番近いみたいだけどなぁ」
反応はPCコーナーの中のPCソフトの並ぶコーナーが一番強いようだ。
「こんなかのどれかが魔宝か?」
メデスはしゃがみこんで一個一個地道に調べている。
あるわけねぇだろ、PCソフトが魔宝って………。
「お、これだ!」
おいおい、あったのかよ。
「『ファイナルアドベンチャー』……『最後の冒険』って売れなさそうなタイトルだな」
「じゃ、さっそくやってみるか」
そう言って店のど真ん中で呪文を唱え始めるメデス。
だが、反応はなし。
反応がなければ端から見ればブツブツわけのわからん事を呟いている変人だ。
「ん〜〜起動させてみるか?」
「盗みはナシだからな。ちなみに金はお前持ちだ」
「ちっレジ行ってくる」
メデスはPCソフト片手に1人でレジへ向かった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
無事にPCソフトを買い終え、
オレたちは都合よく近くにあったインターネットカフェに入り、
個室なのに2人で入ってPCを前にして立ち上げる。
『ファイナルアドベンチャー』を入れるとウイーーンと静かな音を立てて起動した。
そしてディスプレイにシンプルなタイトル画面が現れる。
「さて、やってみますか」
そしてメデスが再び呪文を唱え始める。
するとディスプレイが光始める。
「お、コレ成功じゃね?」
だが問題はここで起こった。
「あれ?魔玉が出てこ―――」
視界が真っ白になり、オレの意識は一度そこで途絶えた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
真っ暗だ…。
闇の中には隣にいたメデスもいないし、オレの姿しか見えない。
「ここはどこだ?」
―ここは特殊な能力を持った者しかプレイできないオンラインゲームです―
「お前は誰だ?」
―私はこのゲームを司るAIです―
「特殊な能力を持った者しかプレイできないって言ったよな?他にどんなヤツがいるんだ?」
―霊能力を持つ者、千里眼を使える者など様々です。
とにかくこのゲームにいる者は凡人ではありません。
あなたのデータはそのままゲームへダウンロードされますから
あなたの持つ能力はそのままこのゲームでも使えますのでご安心下さい。
容姿も現在持っている物も変えることはできませんが名前は変更できます。
どうしますか?―
「そのままでいい。
んで、ゲームの中に入り込んだということでいいのか?」
―そうですね。ダウンロードされているとは言え、現在現実世界にあなたの姿はありません。
気をつけて下さい。
このゲームではモンスター以外にプレーヤー同士での殺し合いもあります。
死亡した場合現実世界には戻れますが二度とプレイできない上、
ダメージがあまりにも酷ければ死亡する可能性がないとは言えません。
ではゲームの中へ―
すると闇が光で包まれていき、再びオレは意識を失った。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
で、冒頭の場面にくるわけだ。
ちなみに始めたばかりだというのに、
なぜスライムに73ものダメージを与えられたのかというと
現実世界でのオレたちの強さもそのままゲームへ反映されるようで
オレはレベル70、メデスはレベル72だ。
オレがコイツより劣っているのが気に食わない。
「さて、どうする?」
「これがゲームならどこかに街があるはずだ。
まずはそこに行ってみるのがいいだろうな」
「じゃ、道なりに進んでみるか」
オレたちは草原の中に1つ街道を見つけ、その道に沿って歩き始めた。
しばらくの間街道を歩き続けると街と思われる建築物の集まりが見えた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「けっこにぎやかだな」
ここは都会タイプの街のようでプレイヤーたちで賑わっている。
特殊な能力を持つ者しか遊べないなんて言うから
プレイヤー数は非常に少ないと思っていたのだがそうでもないようだ。
そういう世界かもしれない。
道具屋を初めとした店なども繁盛しているようだ。
「さてどうする?」
「AIの言う通りだとオレたちの求めるモノ、魔宝がゲームの中にあるみたいだけどな」
反応を調べてみる。AIの言った通り現実世界の物もちゃんと機能している。
「反応アリだな」
オレが言う前にオレの様子を見ていたメデスがオレより先に言う。
「で、問題はどこにあるかだな」
「RPGゲームを進める基本って言ったら聞き込みだろその辺に歩いてるヤツに聞いてみようぜ」
「オレはレベル上げしてるよ。お前より下は気に喰わん」
こんなヘラヘラして何も考えていないようなヤツより下は拒否だ。
最低でも2レベルは上にいたいな。
「あそ、じゃオレ1人でやってるわ」
オレたちはそこで別れ、オレは街の外へ、メデスは街の中心へ向かった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「さて、レベル上げなんだがスライムばっかだな。ここ」
3戦ほど行ったのだが出てくるのはスライムばかり手応えがまるでない。
「お前、こんなトコでモタモタしてるってことはもしかして初心者?」
その声に振り向いてみればガラの悪そうな男が2人こちらに向かって歩いてきた。
「ま、そんなとこだろうな」
「じゃ、狩らせてもらおうか!」
お、バトル開始のようだ。
【デンジとヤラスが現れた】
なんつー名前だ。センス0。
デンジと表記されているキャラは長い剣を取り出しオレへと向かってくる。
「よっと」
そしてオレ目掛け振ってきた刀を軽くかわし、そのまま背中を夢羅雨で刺す。
「くっ、だが弱いなぁ」
ヤツへは12のダメージ、オレの方がレベルが低いようだ。
ついでに言うと一応ゲームだから傷は負わないようだ。
「今度はこっちの番だな」
デンジは剣で何度も攻撃してくるが、
そのレベルになっても戦闘は素人のようだ。
まだまだ甘い。
「ほらよっ!」
デンジの攻撃をかわしている途中でヤラスがオレに向けて1発銃を放った。
「よっ」
オレは軽々と刀で防いだのだが
「なっ!?」
防いだにも関わらず思ったより勢いが強く弾き飛ばされ、背中で草を擦っていく。
「レベルだけでここまで違うとは思わなかったな」
刀を地面に置いたままケツや背中に付いた草や砂を払う。
「今回はオレが殺る番だったよな」
ヤツらは呑気にどっちがオレを殺す相談をしている。
「ま、レベルが違うったってやり方次第だな」
ヤツらはレベルが高いだけあって攻撃力や防御力は高い。
だが動きが素人当たらなければヤツからの攻撃なんて意味ないし、
ヤツへの攻撃は地道にやればいいだろう。
そして、8分後――
「オレの勝ち」
遠くから攻撃してくるヤラスに対しては魔法を交えながら攻撃し、
最後にデンジの腹を刺して戦闘終了。
「お前、初心者じゃねぇだろ」
「いや、初心者だ……このゲームはな」
「そんだけの腕あんだからこんなトコいねぇでさっさと先行けよ。迷惑だ」
そう言っている間にもヤツらの姿はは徐々に薄れていき最後には消滅した。
【ムツキはデンジ ヤラスを倒した
経験値を550 金を600G入手した ムツキはレベルが1上がった】
「なるほど、プレーヤーなら少しはマシかな」
というわけでオレはプレーヤー狩り、
もといプレーヤーを倒すことでレベル上げを行うことにした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
さっきのヤツらのような初心者のみを相手にしているようなひねくれたヤツは他にも数人いた。
オレよりレベルの高いヤツもいれば低いヤツもいた。
そいつらを容赦なく叩きのめし今オレはレベル74。
こんな簡単に強くなれるのは便利だな。
とりあえず当初の目的は達成したのでオレは街に戻ることにした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「お、いたいた。無月!」
オレが街に入ると入口前にある広場の中心でメデスが手を振る。
「いい情報はあったのか?」
「ああ、ここから遙か北に進んだ所に『フリカ』って街がある。
その近くに遺跡があって、
その奥に心に思い浮かべた物が入ってる宝箱があるって噂だそうだ」
「だがそんな噂がここまで届いているぐらいならもう誰かが取ってしまったんじゃないのか?」
「それがまだなんだよなぁ。そもそもその遺跡が見つからねぇんだよ」
「ならなんでそんな具体的な噂があるんだよ」
「さあ?オレもそう思ったから聞いたけど気がついたらそんな噂があったんだってよ。
誰がその噂を流し始めたのかもみ〜んなわからねぇそうだ。
ガセかもしれねぇのに今もその遺跡を探してるヤツは絶えないんだってよ」
「何でも手に入るってのは魅力的なんだろうな。
それか特殊能力を持った者しかできない嘘みたいなゲームだから
そんな嘘みたいな噂でも信じてしまうとかか…?」
「どっちもあるんじゃねぇ?
有力な手懸かりはそれしかなかったよ」
「じゃ、まず『フリカ』に行ってみるか」
ちなみにこのゲームには現実世界に戻れる装置はあっても、
街から街への転送装置なんて機能はないそうだ。
まぁそんな能力を持ったヤツなら別だろうが……。
オレたちも転移魔法が使えるのだが、
レベル上げや情報収集も兼ねて遠いがそこまで歩いていくことになった。




