第3話
「で、やっぱり魔法使いが関わってたと」
今朝の一件について話し合うため無月と祢音の2人は昼食を済ませた後学園の屋上に来ていた。
「オレたちが戦った相手は2人とも魔法による肉体強化を受けていたようだな」
金網にもたれながら無月は中庭の方を見る。
中庭ではベンチや芝生に座って昼食を済ませている生徒が何人か見られる。
「でもさ、何でわかったんだろ?私たちが狙ってるって」
それを聞くと無月は祢音へ視線を戻し眉をひそめる。
「それなんだよな。組織の内部の極一部しかしらないはずなんだがなぁ」
「敵は案外身近にいたりして」
祢音は苦笑いをしながらそう言う。
「無いことを祈るしかないな」
そう言って無月は空を見上げた。
桔梗からここしばらくは仕事が忙しく2人とも家に帰ってくることはないと聞かされているため、
帰ってくるなり祢音は私服に着替えるとリビングに入った。
「明日は半ドンだな〜。これさえ終われば少しはオレの天下だぜ」
と先にリビングに来てソファに座った無月が勝利者の気分に浸っていると
「じゃあ明日千春との買い物に付き合ってよ。」
と後ろから祢音の誘いがくる。
「嫌だね。千春がいるんだったらいいだろ」
無月は体を捻って祢音を見るとそう言う。
「いいじゃん。
どうせ暇なんでしょ?女の子の誘いには何があろうと乗るもんだよ」
「ちっ…わかったよ」
そう言うと無月はテレビへと向き直りチャンネルを色々回す。
「ありがと」
祢音はそう言って後ろから無月に抱きつく。
「へいへい」
無月はメンドくさそうな返事をする。
「じゃ、夕飯の用意してくるね」
無月から離れた祢音はエプロンに着替えるとキッチンに向かった。
「お礼に今日の夕飯は豪華にしてあげるね」
「ありがとさん」
無月は適当な返事をし全く惹かれない番組をおもしろくなさそうな目で見ていた。
今日は半ドンであったため、
昨日の約束通り無月、祢音、千春の3人で学園から少し離れた所にある商店街に来ていた。
商店街と言っても少し規模の大きい本屋や洋服店やスーパー、ゲームセンターなどがある、今時な商店街である。
「ま、こうなることはわかってたんだけどな、重いぞ…」
今の無月の両手にはこれでもかというくらいに詰め込まれた買い物袋がぶら下がっている。
「ほらほら、これくらいでヘコたれてたら男失格だよ?」
「ゴメンネ、いつも荷物持ってくれて」
対照的な返事が無月の前を行く2人の女の子からくる。
「ま、わかってて付いてきたからな。反論はできねぇけどな」
無月はよいしょと言って袋を持ち直す。
「ささ、次行こ」
「まだ行くのかよ〜」
続いて服屋に入ろうとした時、
「魔法使いが近づいてるね」
「敵意剥き出しだな。結界発動※」
すると商店街一帯の時が無月、祢音の2人を残し止まった。
右隣を見れば千春が洋服店の自動ドアをまたいだ状態で止まっている。
そして辺りを見渡せば一面灰色に包まれている。
無月はドアの前に両手の買い物袋を下ろすと振り返って灰色に染まった空を見る。
「1人…か魔力の波動が近づいている。1人ならオレが行く」
「うん。気をつけて」
そう言うと無月は上空へ飛び立った。
「お前、覇道の魔法使いか?」
無月は上空に飛び南東の方角に少しばかり進むとマントを来た男が宙に浮いているのが見えた。
「わかってるんだろ?時間のムダだ」
その問いに男は頷かなかった。
代わりに男が等身大の杖を取り出すといきなり呪文を唱え始める。
「早速か…そこまで時間が惜しいならすぐに殺してやる」
無月は男に向かって一直線に飛ぶ。
「くらえっ」
男の首に刀が触れる寸前に無月は男から放たれた波動により吹き飛ぶ。
「なっ…この魔力の量は!?」
「オレは召喚士、貴様の魔力を上回る魔力を持つ召喚獣を呼び出すのはたやすい」
召喚士から放たれる魔力がさらに増大する。
「いでよ!赤く光りし巨人よ!!」
召喚士がそう叫ぶと地上に大きな魔法陣が出現し、
そこから文字通り赤色のウ○トラマンぐらい大きい巨人が現れた。
「でけぇな。ま、やってみるか」
巨人は両手を握りしめ大きく振り上げると無月目掛けて振り下ろしてきた。
「隙だらけだな」
軽々と巨人の攻撃を避ける。
巨人の両手は地面に当たりそこは陥没する。
無月は巨人の右腕を伝うようにして肩まで向かうと巨人の腕を肩から斬り落とす。
巨人の右腕は地面に落ちると消滅する。
「どうだ、でかくたってこれじゃあ使いものにならねぇな」
無月は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「それはどうかな?」
すると召喚士から新たに魔力が放たれその魔力は巨人に行き渡る。
そして斬り落とされたはずの右腕が復活している。
「いくらこの巨人を斬っても私からの魔力の供給があるかぎり消えはしない」
「だったら供給源であるお前を倒せばいいだけだろ!」
と言って無月は巨人の肩の上を飛んで召喚士に近づき刀を叩き込むが、
その刀は召喚士にとどく前に光の壁によって阻まれる。
「ちっ、防御も完璧ってわけか」
「後ろに気をつけろよ」
無月がそれを聞いて振り返ると目の前に巨人の拳がこちらに向かっていた。
「ぐあっ…」
無月はその拳をもろに受けると遠くに吹っ飛ばされる。
「どうだ?当たればけっこうきくだろ」
遠くに吹っ飛ばされた無月は少しふらふらとした感じで戻ってくる。
「く…どうやら一気に消滅させなきゃならねぇようだな」
と無月が言うと無月の首にぶら下がる赤い♪マークのついたペンダントが光り始める。
―燃えさかる地獄の炎を司り 生死を繰り返す聖なる獣よ
炎の調律者の名の下に命ずる 我の前に姿を現せ―
無月がそのペンダントを天に掲げると
無月の周りに炎の渦が発生し燃えさかるような激しい魔力がそこから放たれる。
「ま…まさか、お前も召喚できるのか!?」
灰色だった背景が炎により紅く染まっていく。
「できるさ。お前のような中途半端な出来損ないとは違うがな!」
渦めく炎の中から無月の声が聞こえる。
「さあ、とくと見るがいい!炎を司る聖霊『フェニックス』を!」
弾けるようにして炎か消え去るとそこには炎に包まれた巨大な鳥が羽ばたいていた。
「くそっどうせ見かけ倒しだろ!行け!巨人よ」
巨人はフェニックス目掛けて右手でパンチを繰り出す。
「避けろ!」
フェニックスは無月の指示に従い羽ばたいて上空に飛び立ち攻撃をかわす。
「さて、これで終わらすか。フェニックス」
無月が右手を天に掲げ呼びかけるとフェニックスから膨大な魔力が放たれフェニックスの口付近に集まる。
「なんだ、この魔力は」
召喚士はフェニックスの魔力に驚き、たじろいでいる。
「痛みは無い。一瞬で灰も残さず消え去ってやろう。
いけっ!全ての存在を焼き尽くせ『ヘルフレイム』!!」
そして無月が召喚士と巨人に向けて伸ばすとフェニックスの口から地獄の炎が放たれる。
「うああああああ!!」
召喚士の断末魔の叫びを残し炎が通った跡には召喚士と巨人の姿はなかった。
「終わったぞ」
そう言って無月は祢音の元に戻る。
「見りゃわかるって。あんな攻撃使ったらさ」
「だろうな。結界解くぞ」
無月は両手に買い物袋を持ち、結界を解く。
すると商店街はいつもの賑やかさを取り戻した。
「さ〜て、夏物は入ってるかな〜?」
千春は何が起こったのか知らないため普通に洋服店に入る。
「お兄ちゃんの荷物も増えるね」
祢音は何事もなかったかのように振る舞い、笑っている。
「はぁ、まだ増えるのかよ…」
まだまだ続く2人の買い物に溜息をついて仕方なくついていく無月であった。




