第10話
さて、魅夜編も終わり新たな世界へ到着です!!
「到着〜〜」
メデスの気の抜けた声と共にオレとメデスは次の世界に降り立った。
「案外普通だな」
見渡す限りでは別に異様な世界ではない。
建物や人の外見からヨーロッパ風の世界であるということはわかる。
ちなみに今は太陽が一番元気そうな真っ昼間のようだ。
「さて、どうすんだ?」
「それよりもメデス、お前魔玉いくつ持ってる?」
そう問うとメデスは水晶玉を取り出して
「5個だ」
と答えた。
「で、お前は?」
「2個…」
「おいおい!お前まだ2個かよ!?案外ちんたらしてるな〜」
メデスは片手で腹を抱えてもう一つの手でオレを指さして大笑いする。
通りすがりの人々がこちらをチラリと見て通り過ぎていくのが妙に気に障る。
「うるせぇよ」
いつまでも笑っているメデスの頭を50%の力で殴る。
「いてっ!」
腹を抱えて腰を曲げているため、下がっていた頭がさらに下がる。
「いつまでも笑ってんじゃねぇよ。
………魔宝はあるみたいだな。さっさと情報収集するぞ」
「へいへい」
そしてオレたちは夕日が沈むまで情報収集というかぶらぶらと街を散策していた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「な〜んも手懸かりがなかったな」
オレたちは何も手懸かりがないまま、疲れたので街にあるカフェで休んでいる。
「まぁこんなもんだろ」
オレはイスにもたれてイスの前脚を浮かせる。
カタカタカタッ………
するとテーブルの上に置いてある2人分のコーヒーカップが音を立てて揺れる。
「地震か?」
目の前に座るメデスが辺りを見回すが
「いや、何か来る……」
その瞬間大きな窓ガラスを突き破って
蜘蛛を何十倍にも脹れあがり、影のように真っ黒な化物が入ってきた。
「は!?何だこいつ」
その窓ガラスの前で新聞を読んでいた男性客がゴロゴロと転げ回る。
「きゃああああああ!!」
店のウェイトレスの女性が耳に痛い悲鳴をあげる。
客たちはしばらくその様子を見ていたが悲鳴によって頭のスイッチが入ったようで
それぞれ悲鳴を上げて店内を走り回る。
中には化物にわざわざ向かうヤツもいる。
「何してんだあいつ?」
するとそれを待っていたかのように化物は蜘蛛にはないはずの大きな口を開ける。
「ヤバいんじゃないのか?」
「わぁってるよっ!」
オレはその男を助けようと化物の前に移動しようとしたのだが
ズバッ
と化物は男を口の中に入れる前に真っ二つになると消滅した。
「あり?」
男を助けようとせずのんびりイスに体を預けて揺れていたメデスが動きを止める。
「何なんだ?」
とかと思っていると辺りが眩しい光に包まれる。
その中で何か人影のようなモノが見えた。
そして光が収まると何事もなかったかのように物事は動き始めた。
床を転げ回った男性もイスに座って新聞の続きを読んでいるし
悲鳴を上げたウェイトレスの女性も何事もなかったようにガラスの破片を掃除している。
「どう考えても今のは普通じゃねぇよな」
メデスがオレの隣までわざわざ移動して耳打ちをする。
「だろうな」
おそらく今の光は記憶を消すモノ。
オレたちの記憶が消えていない所を考えるとあまり強力なモノではないのだろう。
「誰か…いたよな?」
「ああ、魔宝よりそっちを調べてみた方がよさそうだ」
オレたちはコーヒー代を払い終え外をぶらついた。
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とはいったものの
「誰も知らねぇな」
「やっぱみんな記憶を消されているんだろうな〜」
翻訳魔法を使って色々と話を聞いてみようとしたのだが誰も知っている者はいないようだ。
で、今にも日が沈みきりそうな時間になったわけだ。
「だったらあの化物を見つけた方がいいかもな」
「でもよぉ、それだって見つけるのが―――」
「うわああああああ!!」
すると少し離れた所での叫び声が聞こえた。
「なんてタイミングのいい…」
「行くぞ」
そしてオレたちは叫び声のする方向へ向かった。
「いたな」
いたのはさっきと同じような蜘蛛型の化物だった。
襲われている人には気の毒だがここは見物していることにしよう。
そしてさっきと同じように化物は真っ二つになり消滅する。
「見つけた!」
さっきは急だったからよく見えなかったが今度ははっきりその姿を捉えた。
どうやら男は持っている剣で化物を斬ったようだ。
その男はカンテラのようなモノを取り出すとそのカンテラは真っ白な光を放つ。
そして光が収まる時にその男は大きくジャンプし2階建ての家の屋根を伝って去っていく。
「追いかけるぞっ!」
オレたちは同じように屋根から屋根へ移動し男を追いかける。
「待てっ!!」
とメデスが言うが、
そう言って待つはずがないとは思っていたのだがその男はピタリと止まった。
「おい、お前何者だ?あの化物を斬ったよな?」
「そうか、お前たちも『影』が見えるのか…」
男はそう呟くと顎を前へしゃくって
「ただ者ではなさそうだな。ついてこい」
そう言うと再び走り始めた。
「どうする?」
「ついてくしかねぇだろ」
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というわけでその男についていった先は廃墟となった教会だった。
「お疲れ〜」
教会の中には3人の男女がおり唯一の女性が入ってきた男に労いの言葉をかけた。
「? 後ろのヤツは誰だ?」
先に教会の中にいた眼鏡を掛けた男が目の前にいる金髪の男に問う。
「こいつらも『影』が見えるらしい。記憶消去も意味がなかったようだしな」
と言って金髪の男はオレたちを指さした。
「ようこそ、『影の討滅隊』へ。さっそく自己紹介といこうか」
と金髪の女性が言って勝手に自己紹介を始めた。
「私の名前は『ユイ』。ここの討滅隊の紅一点、よろしくっ」
「やあユイさんですか、オレの名は『メデス』だ。
どうです?今からオレとナイトフィーバーでも」
瞬時にユイの目の前に迫り両手を握って外へ連れ出そうとするメデスだが
「おい、どこへ行く気だ?」
ここまで先導してきた金髪の男がメデスへ剣の切っ先を突きつける。
「いや……まぁ…ね」
メデスは握っていた手を離し、そして手を顔ぐらいの高さまで上に挙げる。
「まぁまぁ。そう妬けないの、『ライ』くん」
「んな事誰も言ってねぇよ」
そう言うと金髪の男は剣を鞘に収めた。
どうやら今メデスを脅している真っ直ぐ金色に染まった髪を
目まで伸ばして垂らしている細身の男の名は『ライ』と言うようだ。
んで、メデスに連れ出されようとした肩胛骨辺りまで伸ばした金髪をしたグラマーな女が『ユイ』と…
「私の名は『フロウ』です。よろしく」
眼鏡を掛け、短い茶髪をした賢そうな男が『フロウ』。
「『オルグ』…」
一言そう呟いた2Mはありそうな巨漢の男が『オルグ』だそうだ。
「あまり気にしないでください。彼は無口でして」
フロウが後にそう付け加える。
「そういやさっき言ってた『影』って何だ?」
オレの問いにライが答えた。
「ヤツらは『形を失った虚ろなる霊』と呼ばれる存在だ」