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第9話

オレとメデスのおかげで夜魔国は不敗の強国となった。


他国もあまり戦は仕掛けてこなくなりオレたちはのんびりと平和に暮らしていた。


だが普通そんなものは長くは続かないものだ……。




「姫様、三谷国から手紙が!!」


天守の間に縦長に折られた手紙を持った兵が入って魅夜にそれを渡す。


「………………何ですって!?早くみんなを招集して!!」




そしてオレやメデスや佐次、その他偉い人たちが天守に集まった。


「先ほど三谷国から明日、最終決戦をしたいとの手紙が送られてきました」


その言葉を聞き、その場にいたほとんどの者が目を大きく見開く。


「バカな。元素使いが2人もいる以上こちらの勝利は確定したというものだろう」


「これは無駄な戦なのではないか」


などのガヤガヤ声が聞こえるが、


どれもこの戦は相手にとって無謀なもの、なぜ戦をするのかという疑問の声だ。


「静かに!今から一人ずつ意見を聞いていきます」


ということで、魅夜が一人一人意見を聞いていった。


オレとメデスは曖昧に答え、最後にみんなにまかせると言っておいた。


「では私たち夜魔国は三谷国との最終決戦を受けるということでいいですね?


相手が全力で来る以上、こちらも全力で応えます」


申し出は断るべきだという意見もあったが


4分の3は戦をするという意見が出たため申し出を受けるということに決定した。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



その日の夜、オレは魅夜に呼ばれて天守の間に来ていた。 


「明日だね。三谷国と戦するの」


魅夜は月や星たちが光る夜空を見上げたまま言った。


「なんだ?そんなことを言うためにオレを呼び出したのか?」


オレは魅夜を見て眉間にしわを寄せて問う。


「ううん。それは違うよ。ちょっと言っておきたい事があってね」


そう言うと魅夜は視線を夜空からオレへと移し替える。


「単刀直入に言うよ。私、魅夜は如月無月のことが好きです。結婚して下さい」


「は???」


一瞬、というか数秒時が止まったような気がした。


「何て言った?」


「だからぁ、好きだから結婚してって言ってるの!」


魅夜は少し不機嫌な顔をしてもう一度言った。


今度ははっきり聞こえたが意味がわからん。


「また酔ってるのか?それとも熱でもあるんじゃ…」


とオレは魅夜の額に手を当ててみるが熱はないようだ。


いや、徐々に熱くなって来て――


「熱なんかなーーーーーい!!!」


バコォッ


「ぐはぁっ!」


どこかのボクシング一家もビックリの強烈なアッパーカットがオレの顎に炸裂。


オレは宙を舞いそして頭から床に激突。


あぁ、意識が薄れていく…



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「なるほど。要約すると魅夜はオレと結婚したいと言うのか」


顎を腫らせて、頭にたんこぶをつくったオレは魅夜と向かい合って正座をしている。


「そういうこと」


どうやら本人は至って真面目のようだ。


今度ははっきり聞こえたし意味もしっかり理解した。


だがどうしたらそう言うことになるんだ?てかいきなりプロポーズかよ…。


普通はまず付き合い始めることからじゃないかとオレは思うんだが…。


魅夜はというと期待というオーラを全身から全開に放っている気がする。


オレがそんなことを考えていると


「え!?『オレも好きだ。今すぐ結婚しよう』って!?


やったーーー!!宇羅々ー、私結婚す――」


「まだ何とも言ってねぇ!!」


そう叫んで宇羅々の部屋へと続く自分の部屋へ向かおうとする魅夜をオレは必死で止め、口を塞ぐ。


誰も聞いてないだろうな。


「ん〜?む〜む〜〜!?(怒」


「『何で!?』じゃねぇ!オレは何とも言ってねぇよ!」


「な〜んだ。で正直な所どうなの?」


魅夜は力を弱めたオレの手を口からどけて話し続ける。


「無理だ」


「え!?」


オレの発した言葉に魅夜から溢れ出ていた期待が失望へと変わる。


「オレは異世界の人間だ。違う世界の人間同士なんて無理だ」


「そう…ゴメンネ。こんなこと言って」


「いや、気にするな。別に迷惑じゃない」


「ちょっと部屋に戻ってる」


そう言って魅夜は力なくとぼとぼと歩き出した。


期待が大きいほど失望が大きいというのは本当のようだ。


「悪いな」


オレはいつもの元気が感じられないその背中に向かって言った。


「いいよ、しょうがないしね」


魅夜は背中を向けたまま言った。


「じゃね」


魅夜は扉を開けてちらりとこちらを見て空笑いをする。


そして魅夜がそう呟くように言ったあと『やっぱりね』と言ったような気がした。





オレはその夜はあまり寝れなかった。


魅夜は今部屋で泣いているのだろうか?…それとも怒っているだろうか?


どちらにしろオレはその想いに応えてやることはできない。


違う世界にいる限りは………。





「ふわ〜あ〜〜」


「眠そうだな。今日大丈夫か?」


真っ昼間夜魔国軍は三谷国内を三谷国が指定した場所に向かって進行している。


罠が仕掛けてあるという者はいたし、オレもそうだと思っている。


だが魅夜は指定された場所で戦をしてほしい、と願ったため仕方なくそのようにした。


魅夜がオレとメデスがいれば大きな被害を受けないと言ったことで他の者もOKした。


魅夜が言った通り三谷国内には大きな谷があり、現在軍は谷底を進んでいる。


両サイドにある絶壁の上には弓矢で射るには絶好の場所がある。


これによって三谷国は今まで生き残れたという。


「ぐあっ」


しばらく谷底を進んでいると1人の兵が肩を矢で射抜かれた。


「もう来たか。頼むぞ、メデス!」


「了解っ」


『アイスウォール』


メデスの魔法によって谷底を覆い隠すように分厚い氷が張られる。


矢は氷に阻まれてここまで届くことはない。


「今の内だ!進め!!」


佐次の号令で夜魔国軍は一気に谷底を突き進む。





メデスの魔法のおかげで1名を除いてほぼ無傷で谷を通り過ぎることができた。


「さ〜て、ここからだな」


目の前には三谷国軍が大勢控えていた。


最終決戦だと言ってきただけあって前と兵の数がかなり多いのは一目瞭然。


「お前らぁ!行くぞ!!」


こちらの軍が走り出すのと同時に敵軍も走り出した。





「燃えろぉぉ!!」


オレは敵軍に向けて勢いよく炎を放つ。


すると全身火傷を負った敵兵がバッタバッタと倒れていく。


セコイかもしれないがこれがオレの能力だ構うこたぁない。


「お前ら弱すぎるなぁ」


メデスは魔法を使うことなく、槍だけで兵を次々殺していく。


「うらうらうらうらぁぁ!!」


佐次は馬に乗ったまま刀で兵たちを斬り倒していく。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



そんな戦が十数分経った頃一つの報せが入った。


「申し上げます!!夜魔城が阿修羅国軍の攻撃を受けている模様!」


「「「何!?」」」


オレ、メデス、佐次の3人が同時に声を上げる。


「落城は時間の問題とのこと!」


そうか。三谷国と阿修羅国は同盟を結んだって事か。


三谷国が囮となってその内に阿修羅国軍が城を攻撃。


今、兵のほとんどがここにいるから城は手薄となっている。


「佐次!今すぐ援軍を寄越すんだ!メデス!オレたちは先に行くぞ」


「ああ」


オレたちは転移魔法を使って先に城へと向かった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「なんてこった」


これは城下町を見たメデスの一言。


城下町に民の姿はなく代わりに阿修羅国の兵がいた。


家々は炎によって燃えさかり、田畑も荒らされている。


「城は!?」


城の方を見ると城は先に火の付いた矢による攻撃を受けているが


その矢は城に届く前に見えない壁のようなものに弾かれる。


「結界だな。魅夜ちゃんのか?」


「多分な」


そんな会話をしていると


「お前らが調律師か…」


その声に振り返れば1人の男が立っていた。


服装を見れば一目でこの世界の者ではないということがわかった。


「これを仕掛けたのはお前だな」


「ああ、そうさ。皇を説き伏せるなんてオレにとっちゃあ朝飯前。


ちょっと教えてやればすぐにオレの案を受けてくれたぜ」


男は否定せずに易々と答えてくれた。


「これもフェイトの力と魔宝を得るため」


「! やはり知っていたのか」


「まぁな。そうでなきゃこんな小国攻めさせねぇよ」


「無月、こいつはオレにまかせとけ。お前は早く魅夜ちゃんトコに行け」


メデスは2,3歩オレより前に出て槍を取り出して構えた。


「わかった。頼んだぞ!」


そしてオレは飛んで城の天守へと向かった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「魅夜!!」


天守に降り立ったオレは魅夜への部屋を勢いよく開け放った。


「待ってたよ。無月」


そこにはいつも通りの魅夜がいた。その顔には焦りも恐れも喜びもない。


「これはどういう事だ!?」


「わかってるんでしょ。三谷国と阿修羅国が協力してたみたいだね」


「城下町のみんなは殺られたのか!?」


「大丈夫。みんなは城に避難させたよ。宇羅々も今はそこにいるよ。


城は私の結界で護られてるからしばらくは持ちこたえられ――うっ」


話の途中で魅夜は少し呻いてふらつく。


「大丈夫か!?」


オレはふらつく魅夜を抱える。


そうすると魅夜はオレに体を預けるようにもたれかかってきた。


どうやら相当体力を消耗しているようだ。


「ははっ、私結界はあんまし得意じゃないんだよねぇ、こんなトコじゃ使うことなかったし。


それに結界へのダメージはそのまま私に伝わる………もう終わりかなぁ。


ねぇ『アマテラス』」


「そうみたいですね」


すると無駄にでかいんじゃないかと思ってた鏡からフェイトが姿を現した。


「!?」


「別に驚くことじゃないでしょ。私はフェイトの末裔だよ?」


「無月、早く月詠ツクヨミを楽にさせてください。時間が経てばこの城は落ちます」


「…いいな?魅夜」


「ダメッ!!」


オレは魅夜を抱えたまま呪文を唱え始めるが


魅夜はそれに反抗しオレの胸を思いっきり押してオレとの距離を作る。

「まだだめだよ。そんなことしたらみんな殺されちゃう!


結界はまだ持ちこたえられるから!」


「もう無理です。それは自分がよくわかっているはずです」


「そんなことない!私はまだ―――ぁあ!!」


魅夜は突然一度大きく痙攣するとそのまま崩れてしまった。


「魅夜!!」


オレは横たわっている魅夜に寄って座って上半身を抱き上げる。


さっきより息づかいが荒く、肩で息をしている。


「結界が破られましたね。もうこの城は終わりです」


フェイトは冷静に事を告げる。


「あ〜あ、やっぱり無理かぁ。


…無月…最後に…はぁ…一つだけ……教えてあげる。

無月たちが……はぁ…相手にしている……のは、


『紅き月』…はぁ…と呼ばれる…ある男を頭領とした…魔法使いの…集団。


ゴメンネ…はぁ…これぐらい…はぁ…しか…私には…教えられない」


「そうか、ありがとな」


「じゃあ…お礼に……最後…はぁ…一つお願い………聞いてくれる?」


「ああ、何だ?」


「最後はさ…抱き締めて……終わらせて」


「わかった、いくぞ。φρνιε…αηντ…εκου…」


オレは精一杯魅夜を抱き締めて呪文を唱え始める。


すると魅夜の躰―特に眼―が優しく光り出す。


「好きだよ。魅夜…」


「それだけでも聞けてよかったよ。じゃあ、またね」


最後に笑顔でそう言って魅夜は光となってオレの手の中から消え去った。


「何でオレたちに教えてくれなかったんだろうな………敵の本命はこっちだって」


「それは無理ですね」


別にフェイトに問いかけたわけではなかったのだがフェイトはその言葉に答えてきた。


「どういうことです?」


オレは魅夜を抱きかかえていた体勢のまま聞き返す。


「私たちフェイトの末裔はアカシックレコードを


ダウンロードすることによって過去や未来を知ることができます。


ですがそれを他人に教えることは禁じられているのです。


ただ、他人にそれを教えるという未来を知ったなら別ですが。


それと共に未来を変えることも禁じられています。


私たちは運命に抗うことはできないのです。


月詠が紅き月を教えたのは未来にはない行為です。


月詠の権威であれば咎めるものもないでしょう。……では私はこれで」


そう一方的に説明した後フェイトは鏡から姿を消した。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「どうだった?」


「逝ったよ」


「魔玉は?」


「持ってる」


オレとメデスは城下町の様子がよく見える丘でそんな短い会話をしている。


あの後佐次率いる援軍が到着した。


メデスは男の相手をしていたため他の事に手を出せなかった。


元素使いも何人か配属されている大軍の阿修羅国に勝てるはずもなく。


佐次は死に、兵も城にいた民も生き残るものは1人もおらず全滅。


夜魔国は滅びた。


「これから他の世界に行くんだよな?」


「ああ」


オレは燃え尽きて炭と化した城を見ながら答えた。


城下町は阿修羅国の兵によって燃え尽きた家などの片付けをしている。


「じゃあオレもついていってやるよ」


「はぁ?何でお前なんかと…」


オレは城を見ているメデスの横顔を見る。


「いいじゃん。日本じゃ『旅は道連れ世は情け』とか言うんだろ?」


と言ってメデスは笑顔で強引にオレと肩を組む。


「ま、いっか」


そうしてオレとメデスは次元転移魔法で次の世界へと向かった。



これで長かった(?)魅夜編は終了です。こんな終わり方でよかったでしょうか?

次回からはまた違う世界で捜索です。

注意・魔宝はフェイトの系統の者であれば誰でも持っているわけではありません。

魅夜は『相手の考えなどが見える眼』という魔宝を持っていたのです。

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