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第7話

        ――我の名は フェイト・月詠ツクヨミ・アカシャ――





魅夜は確かにそう言った。アカシャの名を冠する者。


『魅夜』は仮の名だということか。


そしてオレは魅夜の魔玉、間接的に言えば命を奪わなければならない。


オレたちは任務第一だから仕方ない。


命を奪うのにいちいち覚悟なんて必要なかった……………はずだった。


「はぁ……何でだ?」


布団の上に寝転がって考えているが何もわからない。


何故魅夜の魔宝から魔玉を取り出さない?


急がなければならないのに……。


魅夜がいなくなってこの国が乱れても世界を移動すればそんなこと関係ない。


立ち止まる理由なんてないはずなのに…。


「何故だ?」


考えているうちにオレは深い眠りに落ちていった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



次の朝、オレが魔法を使った件について話すため、天守に向かった。


天守の間には何人もの偉そうな男たちがおり、その中に魅夜、宇羅々、佐次がいた。


魅夜は何もなかったようにいつも通り凜としていて、昨日の事があったせいか神秘的に見えた。


オレは佐次たちが見ている中、部屋の真ん中に座った。


「無月、あなたは元素使いと聞きました。


しかし、私たちはあなたを追い出すつもりはない。と先ほど決定いたしました。


引き続きこの国の戦ってもらいますがいいですね?」


「はい」


元素使いが何なのか追い出すつもりがないとはどういう意味かわからなかったが、


知らないと言って怪しまれるのも面倒なのでとりあえず頷いておいた。


「ありがとうございます。


とりあえずそれだけを確認しておきたかったのでわざわざ足を運んでもらいました。


この後は好きなように過ごしてください」


「わかりました」


と言って部屋を出た。部屋を出ると天守の間から会議のようなものが行われたのがわかった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



その後こっそりと魅夜に呼び出され妖術使いについての説明が始まった。


「『元素使い』っていうのは、


この世にある火地風水空の五大元素をそれぞれ操る人たちのことを言うの。


ちなみに別名『妖術使い』。


無月の場合は火だね。というか無月は『魔法使い』だから違うよね。


普通に考えればすごいことなんだけど、どうにもこの世界の人たちには理解されなくてね。


『元素使い』なんて呼ばれないで『妖術使い』や『呪われた者』とか


単純に『化物』と呼ばれて差別されてしまうの。可哀相だよね。


そんな理由で追い出されたりする事例が少なくないの。


利き手の掌の中心に例えば火なら赤、地なら黄の円が刻まれていて


五大元素を操ることができる以外は普通に過ごしていれば何にも変わらないのにね。


差別する人は『妖術使い』、差別しない人は『元素使い』呼んでるの。


私たちは元素使いって呼ぼうね?


それでその力を欲しがった国の皇とかは雇う代わりに戦いに駆り出させる。


友好的に見える皇でも心の中では差別している。


あ、でも私は違うからね。宇羅々や佐次も」


魅夜は少し慌てて付け加えた。


「今朝、無月くんが来る前にあった会議で追い出そうと言う人もいたけど


このままにしようと言った人もいた。


どんなに良い人でも『元素使い』だとわかった瞬間扱いが全く逆になることもあるんだよ。


今回は何とか説得したけどね」


「つまりだ。『元素使い』ってのは不思議な術が使えるが多くの人から差別され、


戦いの中でしか生きられない人たちのこと、でいいか?」


「戦い以外でも生きられる人もいるけどね。大半はそう。あとは考えている通り」


しばらくの沈黙が流れる。


「そうだ!外に出かけない?」


沈黙の空気を振り払うような明るい声で提案してきた。


「ああ、そうだな」


オレがそう答えると


「宇羅々〜、支度手伝って!」


魅夜は天守と通じる扉とはもう一つの扉に向かって呼びかける。


魅夜が呼ぶと扉から宇羅々が現れた。いつ呼ぶかわかっていたかのような早さで。


「宇羅々の部屋は私の隣にあるの」


宇羅々が服などを用意している間に魅夜は言った。


「ふ〜ん、じゃあオレは先に外出てるな。城門で待ってる」


さすがにこのままいるわけにもいかないのでオレは先に城門に向かった。


「うん、待っててね」



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



オレは城門で魅夜を待っていた。いつもの服装で。


門にもたれてしばらく待っていると魅夜が城門の一部にある小さな扉から現れた。


「おまたせ〜」


魅夜はさっきと違った服装をしている。


服の形状自体はあまり変わっていないのだが柄が変わっている。


「単なる散歩だろ?いちいち着替えなくったって」


とオレは言ったのだが


「久しぶりの城下町だからね」


と言ってワケを簡単に説明する。


「じゃあ行こうか」


おれたちは肩を並べて歩き始めた。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



城下町に降りてみれば市が行われており、いつもより賑わっている。


「あら、姫様、久しぶりですね」


「久しぶり、元気そうですね」


1人の老婆がすれ違う時、そのように挨拶を交わした。


「どう考えても姫に対する言葉遣いじゃねぇよな」


さっきから数人すれ違っているが誰も跪いたりする者はいない。


「私は身分だけでそんなにかしこまられても嫌なの。自然体が一番だよ」


オレと魅夜は市で売られている魚やら野菜やらを見物していった。


見たことがるるのが殆どだったがたまに見たことのない食物があった。


その辺りは魅夜や店の人に説明してもらった。


で、魅夜はある店で立ち止まった。


「へぇ〜すごいですね」


魅夜が立ち止まったのは小物屋、


綺麗に着色された石や木でできたアクセサリーが色々と並んでいる。


「おうよ、これらはオレが丹誠込めて作ったモンだ。


手ぇ抜いたモンなんて一つもねぇぜ」


そう言う男はゴツゴツした腕を見せつける。見かけによらず器用な男のようだ。


「……………」


魅夜はというと屈んで綺麗に並べられた小物たちをじっと選別するように眺めている。


「決〜めた」


「何をだ」


オレが間髪入れずそう返すと、


魅夜は売り物の一つである翡翠の勾玉が付いているペンダントを手に取った。


「お、さすが姫さん。お目が高い。


そいつは遙か東の国の厳選された翡翠を使い、


オレがこの市のための売り物を作り続け、最後に残った時間の全てをつぎ込んだ一品だ。」


魅夜は翡翠の勾玉を空に透かしてしばらく眺めた後こちらをちらりと見る。


そしてオレが何も返事をしないでいると


「はぁ〜」


と溜息を吐いて少し項垂れる。


そんなことをすれば言いたい事はわかるがオレはこの世界の貨幣を持っていない。


「おじさん、これいくら?」


魅夜は男に勾玉を見せつけて問いかける。


「おう、姫さんには特別にまけてやろう。2500円でどうだ!」


は?今「円」て言わなかったか?


魅夜はそんな事を考えているオレを見て再び溜息を吐く。


「わぁったよ。買ってやる」


細かい事は気にしないでおこう。魔法は便利だ。


「え!?いいの?やった〜!」


魅夜は本当に嬉しそうな歓喜の声を上げて、


早速首にそれを掛けて笑顔でオレが金を払うのを見ていた。


オレが金を払い終わりご機嫌の魅夜と歩いていると


「おい!これ寄越せや」


オレたちの進行方向に柄の悪い男が4人、その内3人が店の売り物である菓子を


持てるだけ持って無理矢理持っていこうとしていた。


「何するんだ!」


その店の店主らしき30歳ぐらいの男がチンピラたちの前まで詰め寄り文句を言うが


「うるせぇよっ」


手の空いていた1人のリーダーらしき男が店主の鳩尾を殴った。


「がはっ」


店主はそのまま腹を抱えて倒れ込み、


チンピラたちは笑いながらこちらに向かって歩き出した。


誰もチンピラを止めようとするものはいない。


力が弱い民衆から見れば恐そうなヤツらだし、よく見れば腰に刀を備えている。


無理して関われば斬られかねない。


「どこでもあんなヤツはいるんだな」


オレが呑気にそんな事を言うと


「この国の人じゃないよ。あの服装からすると三谷国の兵だった人だよ。


服が廃れてる所を見ればけっこう前に捨てられたんだろうね。


それで隣国のここにやってきた。そんなトコだね」


そう言い終わると魅夜はチンピラたちの前に立ち塞がった。


「ぁあ?何だてめぇ」


リーダーらしき男(以下チンピラA)が魅夜にガンを飛ばすが魅夜はたじろぎもしない。


「姫様!危険です」


「姫様、おやめください」


そんな声が周りから上がっている。


「ほう、お前がこの国の姫か。可愛いじゃねぇか」


と言うとチンピラAは魅夜の顔に触れようと手を伸ばす。


が、


バチン!


魅夜は触れられる前に気持ちの良い音を立ててチンピラAの顔をビンタした。


後ろのチンピラたちはまさかとでも言うような驚愕の顔をしている。


「何すんだこのアマァ!!」


チンピラAは魅夜にしばかれた瞬間呆然としていたが気を持ち直すと


そう叫び腰の刀を抜いて魅夜を斬ろうと振りかぶった。


「姫様ぁぁ!!」


「きゃあああ!!」


民衆の叫び声が上がる中、オレは刀を取り出して男を斬ろうとしたが


「・・・・お前ら、帰るぞぉぉ!!」


男は刀を振り下ろす前にポトリと刀を落とすと、


そう命令して半回転して一目散に逃げていった。


他のチンピラたちはよっぽどチンピラAに頭が上がらないのか、


素直に従って城下町を出て行った。


それが終わった後、オレは腕輪の水晶が光っていたことに気がついた。


そして民衆から大きな歓声が上がり魅夜はオレを呼んで、その中を歩いていった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



その後オレと魅夜は小さな川の上にまたがる木で作られた橋の上にいた。


川のそばにできた砂地で小さな子供が4,5人で何かして遊んでいる。


「さっき『眼』を使ったよな?」


オレは橋の柵に腕を乗っけて子供たちを見ながら問う。


「まぁね、さっき使ったのは憧術の一つである『幻眼』。


それを使ってあいつの畏怖の対象を見せつけたの。思わず逃げ出したくなるような、ね。


眼によっては病気にさせて衰弱していった上で呪い殺すこともできるけど、


さすがにそれはちょっとね。


………私ちょっとあの子たちと遊んでくるね」


そう言うと魅夜は橋を回って下へ降りていき、子供たちの輪に加わった。


「はぁ、疲れるなぁ。まったく」


オレは橋の内側の方へ向き、空をしばらく見上げていると


「いやぁ、ダイヤモンドの輝きよりもお美しいお嬢さん!」


しばらく聞くことはないと思っていた声が聞こえてきた。


「どうです?こんなガキどもといるよりこのオレとデートでも」


ゆっくりと振り返るとメデスが魅夜の腰に手を当ててどこかへ連れだそうとしている。


魅夜もなんか苦笑いしながらもされるがままになってるし。


てかこの時代にダイヤモンドなんて見つかってないだろ?


「何してんだコラー!!」


とりあえずオレは橋の柵を跳び越え勢いよく飛び出して


ライダーキックの如き跳び蹴りでメデスの背中を蹴った。


「ぐほぁっ!!」


妙な声を上げてメデスはヘッドスライディングのように滑っていった。


下が砂利ではなく砂だったので滑りもいい。


「てめぇ誰を足蹴あしげにしたと………無月か!?」


しばらく滑った後、鼻の辺りを押さえて怒りの表情で戻ってきたメデスだったが


オレの顔を見るなりその怒りは疑問に変わったようだ。


「お前こんなとこで何してんだ?」


鼻を押さえながらメデスは指をこちらに指してくる。


「それはお前のセリフでもあるがオレのセリフでもある」


「オレは今ここに来たばっかだよ」


さっき来たばかりなのに姫という存在にそんな行動するのか。


前々回ぐらいに言ったのはあながち間違いでもないようだ。


「お前がナンパしてたのは姫なんだぞ?」


「やはり姫君でしたか、さすがに高貴でお美しい。


どうです?将来の伴侶にオレを選んでみては?」


そしてオレとのやりとりを見ていた魅夜の手を再び握り、魅夜の眼を見つめる。


オレが呆れてその様子を見ていると


「ああ!なんという魅惑の瞳だ。


それは海よりも深く、宇宙より広いオレへの愛で満ちている」


魅夜の眼にやられたメデスは熱射病にでもなったようにふらふらする。


『眼』を使っていないのに眼を回すとは、バカだ。


そういえば魅夜と遊んでいた子供がいなくなってるな。


こいつのバカが移らないためにも賢明な判断だ。


「ぐはぁっ!」


いつまでも放置しているとうるさいのでオレはメデスに手刀を当てて気絶させる。


「魅夜、こいつ誰かわかってるだろ?悪いがこいつも城に入れてやってくれんか?」


「うん。いいよ」


魅夜は苦笑いを継続しながらもすぐに了承してくれた。


そしてオレと魅夜はメデスを引きずり城へ向かった。


メデスの気がついた後は城中の女たちを所構わずナンパしまくり、


その暴走をオレが止めまくって昼は過ぎていった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「なるほど、そういうことか」


夜遅くになった頃、


オレはメデスを部屋に呼び出しこの世界のこと、魅夜のこと、元素使いのことを話した。


メデスは全てを聞くとそう言って深く頷くだけだった。


「んで、お前はこの3日間ずっと魅夜ちゃんの魔宝から魔玉を取れずじまいと・・・・」


「ああ、そうだよ」


「急な事聞くけどよ、お前魅夜ちゃんのこと好きなのか?」


「は?」


まさに急な事を聞かれた。


しばらく質問の意味がわからずメデスの顔を凝視していた。


メデスの顔は任務の時しかみせない真剣な顔だった。


「何でそう思う」


「お前が話している時心なしか楽しそうだったからな。


よっぽど楽しい生活してたんだなって思ったよ。


それにお前のようなヤツが躊躇うなんてなって思ってさ。あとはオレの勘だ」


そうなのだろうか。オレは魅夜が好きだから、失いたくないから魔玉を取れないのだろうか。


オレがしばらく黙っていると


「どうするかはお前に任せるよ。


心配すんな、オレは勝手に魅夜ちゃんの魔玉を取りゃしねぇよ。


それにお前が決心するまでオレも一緒にいてやる。


………だが、これだけは覚えておけ」


メデスはそう言いながら立ち上がり、部屋の障子まで向かうと振り向きざまに言った。




「任務に情は邪魔なだけだ。いつか自分を殺すぞ」



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