第6話
次の日の朝、オレは軽い二日酔いによる微妙な痛みを感じる頭をちょいとした治癒魔法で治す。
これくらいの治癒魔法ならオレも使える。体を真っ二つにされなくてもバッサリ斬られれば
オレの治癒魔法は効果なし。自然治癒に任せるしかない。
夜は城にあった客室で寝させてもらった。
治癒魔法を使ったあと、服を洗おうかと着替えを持った女中に聞かれたが遠慮しておいた。
こんなときのために服や体を清める魔法を習っている。
ちなみに家では魔法なんて使わず祢音が洗濯している。何か知らんがその方がいいそうだ。
「よう、起きたか」
急に佐次が障子を開けて顔を出した。するはずがないと思うがノックっぽいことしろよ。
「勝手に入ってくんなよ」
オレが軽蔑の眼を向けると
「悪い悪い。
お前がそんな繊細なヤツだと思わなかったもんでな。だからそんな顔すんなよ」
どうやらオレは鈍いヤツだと思われているようだ。
佐次のようなヤツなんかに思われるほどオレはそう見えるのか?
「で、何か用か?」
寝癖のある髪を手で軽く梳きながら聞くと
「ん?姫様が朝の食事を一緒にしないかだと」
はぁ…何なんだ?あの姫は。って前回も言ったっけ?
「わかった。用意ができたら行くって伝えてくれ」
そう言うとわかったと言って佐次は扉を閉めて去った。
「あいつは姫としての自覚がないのか?」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
全くなかった。
用意ができたあと昨日宴のあった天守の間に行くと魅夜と佐次と見知らぬ女がいた。
おそらく昨日聞いた宇羅々だろう。ついでに言うと4人分の食事も。
他に人はおらず、3人はにぎやかに話をしているようだ。
見る限り盛り上がっている雰囲気のほぼ10割を魅夜が作っているような気がするが。
「でさ〜その時の佐次がさぁ………あ、無月。こっちこっち」
オレに気づいた魅夜は話を止めて手招きしてくる。
そういや呼び捨てにしていいなんて言ったっけ?
オレはそれを指摘することなく料理の前で座る。
位置は佐次の隣で魅夜の正面。
「いただきます」
オレは箸を持ち、手を合わせて言った。
知っている仲でもとりあえずこれは最低限のマナーだろう。
仮にも姫の前だしな。
「さぁさぁ食べて食べて」
言われるがままにオレは肉じゃがのようなおかずを口の中に入れる。
「どう?どう?」
魅夜は期待に満ちた眼を向けてくる。
「………うまい」
正直な感想だ。うちで作っているのよりうまいと言っても過言でない。
これは口に出さないでおこう。祢音が余計な事をしないためにも。
「よかったぁ。それは宇羅々の自信作なんだよ」
「はい。喜んでもらえてよかったです」
そう言って微笑むのは宇羅々。
彼女は長い髪をしており、服も他の女中よりはいいものだろう。
年齢は25歳ぐらいだろうか。
おしとやかそうで魅夜よりこの人の方が姫のイメージにぴったりだ。
食事をしている間、場の空気を支配しているのは魅夜だった。
そのマシンガントークと明るい雰囲気は祢音と良い勝負かもしれない。
会わせてみたら絶対気が合うはずだろう。もっと騒がしくなるな。
そして午前中、麗らかな日差しを浴びて城下町をぶらつこうと門をでかけると
「おい、無月!!」
後ろから急に飛び上がりそうな大きな声で呼ばれた。
振り返れば息を切らした佐次がいた。
「なんだ、佐次か。んな大声出したらびっくりするだろ」
「そんなことよりも敵襲だ!昨日の奴らがこっちに向かってるって話だ!」
「何?兵の準備はできてるのか?」
「ああ、あとはお前だけだ。城中探し回ってたんだぞ!」
「悪い。馬はどこだ?」
そして用意された馬に跨り、オレは戦場に向かった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
敵の姿が見えてくるとヤツらは陣を張っていることがわかり、準備万端のようだった。
場所は昨日と同じのようだった。
こちらも急いで準備に取りかかる。
「佐次、馬を誰かに預かっといてくれ。馬に乗りながらってのはやりにくい」
馬に降りてから手綱を見せて言うと
「わかった。誰か無月の馬持っていってくれ」
その手綱を受け取って見知らぬ兵に渡した。
「ヤツらは隣国の『三谷国』だ。
国内に3つの谷があるからそう呼ばれている。
そのため奴らは弓矢兵が兵の半数を占めていて弓矢での攻撃が得意だ。
谷に誘いこんで上から射るのが主な攻撃方法だ。
かといってこのような平地が苦手ではない」
「そうか。だが問題ない」
「指揮はオレがとるんだがお前はどうする?」
「悪いが好きなようにやらせてもらう。
心配すんな、戦の常識はわかってるつもりだ」
「そうか、なら任せる」
準備が整い法螺貝の音が向こうから聞こえてくる。
戦を始める合図のようだ。礼儀正しいな。武士道ってやつなのだろうか。
オレの生きる世界なんてそんなことは一切しない。するヤツはただのバカだ。
「お前らぁ!!始めるぞぉ!!」
「「おおおおおおおおおおおお!!」」
佐次の大声に応えるように兵士たちも大声を上げ、戦が始まった。
まず、槍兵が前へ走り出す。三谷国軍も槍兵を出してくる。
そして槍兵の持つ槍がぶつかり合い、一歩上手をいくものが相手より先に槍を突き刺す。
そうして兵並びに穴が空くとそこから刀を持った侍が入り込み、こちらの兵を殺していく。
「槍兵!全員刀に持ち替えろ!歩兵も加われ!」
佐次の一声で槍を持っていた兵たちは槍をその場に離し懐の刀を使って戦い始める。
それぞれの刃が交わる中、馬に乗った騎乗兵が駆け抜けながら兵を斬り倒す。
そしてそれにオレと佐次も加わる。
「オラオラオラオラァ!」
佐次が馬に乗って勢いよく敵の歩兵を殺しながら突き進んだり、
「はああぁ!」
オレは馬で突撃してくるヤツの攻撃を避け、背後から斬りつけたりしている。
そんなことをしていると気がついたのだが、
こちらに向けてくる兵の数が少なすぎる。
攻め入ってない陣側にはまだまだ兵が大勢いる。
守りに徹するといってもこれじゃあ少なすぎて逆に攻め入られるはずだ。
現にこちらが確実に押している。
『弓矢兵が兵の半数を占めていて弓矢での攻撃が得意だ』
佐次の言葉が頭に浮かぶ。
「! しまった!みんな退け!!」
そう叫んだが時既に遅し、空から矢が視界いっぱいに広がって降ってくる。
退き始めたヤツもいるが判断が遅かったヤツもいて間に合わない。
自分の兵もろとも殺す気か。できれば使いたくなかったがここは仕方ないか。
『炎上壁』
オレは両手に魔力を宿らせ地面に触れさせる。
すると地面から炎が壁のような形となって燃えだした。
左右にどこまでも広がっており上には空高く燃え上がっている。
矢は炎の壁を通過すると鏃の部分だけを残して次々と地に落ちていく。
「無月、お前…」
そこにいる全ての兵が驚いていた。
敵味方問わず全員の視線がオレに注がれる。それがしばらくすると
「何で夜魔国のヤツらに『妖術使い』がいるんだよぉぉ!!」
「そんなの聞いてねぇって!」
そんなことを叫びながら敵の兵が一斉に逃げていく。
「今が好機だ!全軍進めぇ!!」
こちらの沈黙を破ったのは佐次。
その佐次の声で我に返ったこちらの兵たちが背を向ける三谷国の兵を追いかけていく。
「驚いたな。まさかお前が『元素使い』だとは」
その様子を呆然と見ていると後ろから佐次が馬に乗って声をかけてきた。
態勢の崩れた三谷国軍から勝利するのは用意だった。
「こりゃ姫様に報告をしておかないとな」
最後にそう呟いて佐次はオレの前から去った。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「佐次殿、戻ってきましたか。
早速なのですが姫様と『鞍馬国』に向かってはもらえませんか?
無月殿は休んでいてくだされ。心配は無用ですぞ。
鞍馬国とは同盟関係にありますので。夜には戻れるとのことです」
城門前まで戻ってきて早速初老の男から命を受けた佐次は馬に乗ったまま
準備を調え魅夜と他の護衛と一緒に出かけた。
そういや、魅夜馬に乗ってなかったっけ?
姫ってのは籠に入って移動するもんじゃないのか?
「ふわ〜あ〜〜」
自分の部屋に戻って寝ころんで天井を見上げる。
『妖術使い』とか『元素使い』って言ってたけど何だそれ?
魔法使いのような存在なのだろうか?
………Zzz………Zzz…………。
「ん?……寝てたのか」
そういや何か忘れている気がするが何だっけ?
「うぉわっ!任務だ任務!」
すっかり忘れていた。何のためにここに来たんだオレ。
と、いうわけで天守まで忍び込んだわけだがどうしようか。
オレは結構顔が利くようなのだが、天守は入ることができないと聞いていた。
なので魔法で透明になり、忍び込んだわけだ。
念のため常に透明になっておく。
いつ誰がここに来るかわからないからな。
早速念じて反応がないか探し始める。
天守の間をしばらくぐるぐると歩き回っていたが反応はない。
「そういや魅夜の部屋ってこの先だったよな?」
天守の間の奥、いつも魅夜が出てくる扉が魅夜の部屋だと聞いた。
もちろん入ったことはない。
入ってはいけないような気がするが任務だから仕方ないと言えば仕方ない。
「悪い」
と口の動きだけで詫びの言葉を言ってその扉を開けた。
「なっ…」
その部屋は凜とした魅夜から感じたオーラの原点とも言えるような部屋だった。
部屋と言うより祭壇と言った方が合っているだろう。
陽気な魅夜が感じられる部分は一つもなく、
祭壇の奥の真ん中には1mぐらいありそうな鏡と
周りには何かの面や壺が神秘的な雰囲気を漂わせた置物がいくつも置いてあり
祭壇の中心には祈る時に座るであろう場所があった。
「ここで何してんだ?あいつ」
おっとそんな事を考えてる場合ではない。
魅夜が帰ってくる前にここの反応を調べておかないと。
天守の時のようにぐるぐると祭壇を歩き回ったり腕輪を置物に近づけてみたりしていると
「お、反応アリ」
しかもその反応はどんどん強くなってくる。
これは相当な魔宝だな。
なんて思っていると
バンッ
と勢いよく扉が開け放たれた。魅夜だ。
そして魅夜はずいずいとこちらに迫ってくる。
透明になってるから見えないはずだ。
しかし――
「何勝手に人の部屋入ってんの!?」
と胸ぐらを掴まれた。透明になってるとはいっても専門外だから見えないようにするだけ。
「あれ?見えてんの?」
オレは透明になったまま聞いてみた。
「当たり前!!」
と断言し、さらに顔を近づけている。
完璧に見破られている。
「悪い。勝手に入った」
観念したオレは魔法を解除させて他の人にも見えるようにした。
「はぁ、術なんて使って…あ、そっちじゃ『マホウ』って言うんだっけ?」
すると魅夜は手を離して小さく溜息を吐く。
「何で知ってんの?」
「まぁね。………いっか、話しちゃって。
私も知っちゃってるしね」
と後ろを向いてぶつぶつと呟いている。
「じゃあここだけの秘密だからね。
ぜっっったいに誰にも話しちゃダメだよ」
『っ』が3つぐらいつくほど溜めた所によると、
今から話されるのはそれほど重要なことということだ。
「あ、心配しないでね。ここには宇羅々しか入れないから。
宇羅々は今出かけてるし、私たちの話は誰も聞かれないから」
「ああ」
そして深呼吸を一度して魅夜は話し始めた。
「私ね、人の考えとかその人についてのちょっとした情報が『視える』の、この『眼』のおかげでね」
と言って右手で自分の右眼を指さす。
「それでこの場所と併用するとそこの鏡から先のことが見えたり、色んな場所が見えるの。
ちなみに無月は普通の人には見えないようにしていたようだけど私には見えてたよ」
にわかには信じがたい話だ。ということは。
まさかとは思って水晶を魅夜に見せるように上に上げて念じた。
すると光が強く光り出した。
魅夜は何も動じてはいない。
前回の銅鏡よりも遙かに強い。
それほど強力だということか。
いや、そんなことよりも…反応が強いということは……
「無月くんのことも全部わかってたよ。
お父さんがお母さんを殺したこと。
『オルタナティブ』の魔法使いとして魔宝を集めていることとかね。
それで、無月の探している魔宝ってのは『私の眼』のこと。
これも世界のため、遠慮なく持っていっていいよ」
魅夜は両手を後ろにやり、顔を突き出してくる。
「そうすると魅夜はどうなる?」
「ん?多分死ぬだろうね。
眼の魔力を失うということは私はここに存在できない」
「いや、遠慮しておく」
さすがにすぐには判断がつかない。
魅夜を死なせるなんて、そんなことしたらこの国はどうなる?
指導者がいなくなって崩壊してしまうだろう。
そんなことにはなってほしくない。
だがオレは任務を受けた魔法使い、『調律師』だ。
任務を遂行しないわけにはいかない。
だが一つだけ言える。オレはこの世界にいる限りこの国のために戦い続ける。
他のヤツらに魅夜は殺させない。
そんなことを考えながらオレは魅夜の部屋を出ようと扉の前まで移動する。
「魅夜………お前一体何者なんだ?」
その質問についての彼女の答えはこうだった。
――我の名は フェイト・月詠・アカシャ――
戦の戦い方なんて知らないので自己流で進めてます。
ちなみに魅夜の他人の考えが見える『眼』の力は某アニメのパクリではありませんよ?
2週間以上前から決まってましたので・・・・・