表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/73

第5話

オレはあの忌々しい世界から転移した。


魔宝もなかったし、ただ忌々しいとしかいいようがない。


そして今回オレが辿り着いたのは――



「ふぅ…今度はマシな世界にしてくれよ」


転移してオレが最初に見た光景は一面の原っぱ。


まず行うべきはこの世界に魔宝があるかだ。


「あった。今度は間違いない」


念じればちゃんと水・晶・が光っている。前のようなヘマはしない。


「気を取り直していくか。まずは街を見つけないとな」


とりあえずオレは適当に進行方向を決めて歩き始める。


見渡しても原っぱしか見えないのだからどちらに向けて歩いても同じだろう。


すると突然低い音色の音がした。


人の声ではこのような音は出ない。何かの楽器を使っているようだ。


「これは…法螺貝ほらがいか?今時珍しいな」


いや、この世界がそれだけ前の時代なのかもしれない。


そしてオレは音のするほうに走り出す。


「ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


近づいていくにつれ男の叫びが聞こえてくる。


「ほう」


オレは小さな崖の上に立っていた。


見下ろせばそこには歴史の教科書などでしか見たことがない『武士』が大勢いた。


「どうやらここは日本と文化が近い世界の昔のどっかってことだな」


見れば戦が始まったところのようだ。さっきのホラ貝は戦が始まる合図だったということか。


兵たちが刃を交えて斬り合いそしてどちらかが死ぬ。


時代劇の撮影などではなく紛れもない、本物の戦だ。


「しばらく様子を見させてもらうか」


オレは崖に腰掛けじーっと戦を見ていた。


オレのいた場所は丁度戦を真横から見ることのできる場所で、


正面には右の方に陣取る軍が見えている。


矢が上空を飛び交えば、下では馬が駆け、兵を押し退けながら斬り殺していく。


だが戦力差は圧倒的で右に陣取る軍がずいずいと押している。


すると兵の一人が崖の上のオレを指さし隣にいる兵と何か話している。


その後武将らしき人物に話しかけると数人の弓矢兵をこちらに向けさせて矢を放ってきた。


「って状況説明してる場合じゃねぇっ!」


オレは即座に立ち上がるとバックステップで後ろに退いた。


「危ねぇな」


姿を見られないよう注意しながら崖から顔を出す。


もう弓矢兵はこちらに向けて弓を構えている様子は見えない。


すると後ろからガサッと草を擦る音と馬の足音がした。


「後ろかっ」


振り向けば馬に乗った1人の兵が目の前まで迫ってきていた。


後ろに崖があるのも構わず猛スピードで駆けてくる。


即座にオレは刀を取り出してガードする。


「うわっ」


馬での勢いもあったのでさすがに人一人の力では押さえきれず、


オレはそのまま後ろに押し出され崖を落ちてしまった。


態勢を整え、問題なく着地しかたと思えば周りを槍兵に囲まれている。


下の方は死角になっていたため兵がいたかどうかなんてわからなかった。


「お前、見かけない服装をしておるな。何者だ」


今オレが着ているのは任務の時にいつも着ている黒いローブ。


この時代の人間からみれば不審がるのも当然なのだろうか。


「オレはただの旅人ですよ。ある物を探していてね」


オレはそう言ったが


「嘘をつけ、いずれその刀で我の首を獲るつもりだったのであろう」


刀を持って旅人なんてないとでも思っているのだろうか。


嘘をいたつもりはなかったけどな。


「いいだろう。旅人なのは認めよう。


だが刀を持っている以上敵にならないという保証はない。


気の毒だがここで死んでもらおう。殺れ」


武将の合図と共に槍兵が一斉に槍を突き出してくる。


「おっと」


オレは高くジャンプし1人の槍兵の背後に立つと


「そっちから先に手ぇ出してきたんだ。覚悟はできてるんだろうな」


そう言ってその槍兵の背中を深く斬りつけた。


「うあああ!!」


その槍兵は叫びを上げて倒れた。


「なっ、は、早く殺すのだ!」


「全員で来な。相手してやるよ」


そう言ったのだがどうやら相手方はオレの殺気にビビってしまったようで、


誰一人として動くものはいない。


「うわああああ!」


1人の兵が刀を振り上げて向かってきた。


「2人目」


振り下ろされた刀を難なくはね除け斬り殺した。


そしてしばらくしても誰も動かなかった。


「どうした?こないのか。ならこちらからいくぞ」


オレはひょいと軽くジャンプして武将の馬の尻の上に立つ。


「お前がこの軍の大将か?ならさっさと死んでもらう」


オレは相手の返答を待たずに首と胴体を斬り離した。


まず首がぼとりと落ち、続いて体が馬から落ちた。そしてしばらくの静寂のあと


「「「う、うわあああああ!!みんな逃げろぉぉ!!大将が殺られちまった!!」」」


何人かが敵に背を向けて走りながら叫ぶ。


すると今まで押しに押していた軍が回れ右して一目散に逃げていった。


大将が殺られるだけでこうも変わるとは、驚いた。


「すまない。助かった」


左に陣取っていた軍の大将らしきがたいのいい男が馬に乗って話しかけてきた。


「あいつらが向かってきたから殺しただけだ。助けたおぼえはない」


オレがそう無愛想に答えたにも関わらずその男は笑っていた。


「はっはっは、大物だなお前は。おもしろい。礼もしたいから我が城に来ないか?」


と言って馬を一匹持ってきてくれた。


行くところもなかったのでオレはその誘いを受けた。


馬術は人並に練習していたのでそれに乗り、城とやらに案内してくれた。


「ところでまだ名を名乗っていなかったな。オレは『佐次』だ。お前は?」


「無月だ」


「無月、妙な格好をしているな。鎧は着ないのか?」


「鎧なんて重いだろ?動きにくいから着ない」


城に向かう途中で男はいくつか質問をしてきた。


そこで知ったのは佐次の住む国が『夜魔国やまこく』だということと


今この世界ではいくつもの国同士が互いの領土を求めて争っていること。


初対面ならオレの無愛想に少しぐらい怒ると思っていたが、


佐次はよほど寛大なのか笑ってばっかりいた。


「さ、着いたぞ」


城なんていくつも見てるわけじゃないから平均的に大きいかなんて


わからないので何とも言えないがまぁ小国が持つ城ぐらいだろう。


城下町を佐次の隣で先頭を馬で歩いていると子供たちが戦に勝ったかとか


頑張ったかとかオレが誰なのか聞いてくる。


イメージではみんなひざまずいていると思っていたから意外だ。


そんな事を考えていると


「どうした?やはりこのような光景は珍しいか。ここは少し特別でな。


城主じょうぬしの命令で身分は気にしないことに決めているのだ」


と佐次が話しかけてきた。


「ああ、みんな跪いてるものだと思っていたからな」


「そこがまたこの国の良いところだ」


馬のまま城門に着いて門を通り抜ける。


そして城の最上階、天守で佐次と共に城主を待つことになった。


魅夜みよ様のご出座である!」


と玉座に一番近い武士が大声で言った。


みよ?城主にしては珍しい名だな。そもそも男の名なのか?


すると玉座の後ろの扉から女性が現れた。


服は十二単じゅうにひとえのような着物を何重も着た豪華な服ではなく、


2枚程度しか着てない少し装飾された動きやすそうな服装だった。


良く言えば質素、悪く言えば貧乏な服。まぁ貧乏というのは悪く言い過ぎだろうが。


顔はメデスなら城主であっても喜んで飛びつくような美人で、髪は肩に触れるか触れないかぐらいの長さだった。


服にも驚いたし城主が女であったのにも驚いたが、


何よりも驚いたのは年齢が無月と同じくらいの女の子であるということ。


こんな若い女に国が治められるのか不思議でならない。


「お2人とも、先ほどの戦の件は聞きました。感謝の意を述べさせてもらいます」


「もったいないお言葉です」


と隣では佐次が深々と頭を下げていたのでオレもマネて頭を下げる。


「あなたが無月さんですね。戦では助かりました」


「いえ、たまたま行動した結果が助けたということになっただけでして」


いつもは無愛想に答えているのだが、


この女の不思議なオーラというか雰囲気で丁寧な話し方になってしまう。


そして頭を下げた時に手に填めている腕輪の水晶が見えた。


その水晶はわずかではあったが確かに光っている。


もう一度言うが決して太陽の光などではない。


ということは反応ありか?念じていないんだがな。


念じていないにも関わらず光っているということはよほど強い魔玉なのだろう。


そしてそれは今この天守にあるはずだ。


「旅人とお聞きしました。聞くところによると探し物があるそうですね。


お礼といってはなんですがここで一夜を過ごしませんか?歓迎の宴も行わせます」


願ってもない誘いだ。だが一夜では時間が少なすぎる。


「ありがとうございます。そこでもう一つ頼みがあるのですが」


「何でしょうか?」


「しばらく私をこの国の兵として戦に参加させてくれませんか?」


先ほどの戦でわかったのだがこの国はさほど強い戦力を持ってないようだ。


さっきもオレが大将を殺さなければ負けていたぐらいだろう。


このままでは他国に乗っ取られ魔宝の捜索も困難になる。


そうなると面倒だからできればそれは避けたい。


「しかし旅人のあなたをこの戦乱に巻き込むわけには…」


やはり他人を戦に出すのには躊躇いがあるようだ。


だがここで引き下がっては魔宝の捜索が困難になる。


「大丈夫です。しばらくこの国に居させていただくお礼と言うことで」


「わかりました。ではそうさせてもらいます」


と再び頭を下げるオレ、威厳なんてあったもんじゃない。


その後天守の間から出て佐次によって城内を案内された。


「驚いたか?まさか一国の主があんな若い女だとは思いもしなかっただろ」


案内中、廊下を歩いているとそんなことを言ってきた。


「ああ、まったくだ。よくこの国はここまで生き残れたな」


「姫様は運の強いお方だ。姫様からは不思議な感じがする。」


「? お前も何か感じたのか?」


「お前もか。なんつーかあの眼で見られるとどうにかなっちまいそうだ」


と言って佐次は豪快に笑う。なんだ、ただのスケベな親父か。


考えてみればこんな鈍感そうな男に感じられそうなものではないはずだ。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



そしてその夜、天守の間を広々と使って豪華な宴が行われた。


決して裕福な国ではなさそうなのだがこの宴は豪華なものだった。


佐次もこんな宴は珍しいと言いながら酒をこれでもかと飲んでいた。


ただの旅人にここまでしなくても、と思ったが悪い気分はしなかった。


ちなみに未成年で酒を飲んだのは違法かもしれないがそれは元の世界の話。


ここは別だ。


祢音がいたらそんなこと関係なく飲むことは許されなかっただろうな。


オレは宴の最中だが暑くなってきたので抜け出して天守の外で夜風に当たっている。


後ろではわいわいと騒がしい叫び声が上がっている。


そんなことを考えていると思わぬ人が声をかけてきた。


「や、宴は楽しんでもらえたかなっ?」


「?」


振り返ればそこには魅夜がいた。酒を飲んだせいか頬がわずかに赤く染まっている。


「何でしょうか、姫様」


オレがうやうやしくお辞儀をすると


「そんなに頭下げなくていいってば」


と言ってケラケラ笑った。天守で出会った時の不思議な感じが一切しないぐらいの笑顔で。


「は?」


オレが頭に?マークを浮かべたような顔をして頭だけ上げて聞くと


「だからそんなに他人行儀なことしなくていいって言ったの。


公の場でなければ身分なんて関係なし!」


その言動はとても姫様の立場にいる者とは言えない。


「姫様、酔っているのでしたら部屋に戻――」


「酔ってない!」


断言された。酔ってる人ほどそう言うもんなんだが。


「他の人がいない時は堅苦しいのはナシ!呼ぶ時も魅夜でいい!


佐次と宇羅々(うらら)にも言ってあるんだけどどうにも聞かなくてねぇ。


あ、宇羅々ってのは私のお世話係と礼儀作法の先生してくれている人」


「佐次は見かけによらず礼儀正しそうだからな。


だが礼儀作法の先生の前でその言葉遣いはいいのか?」


正直敬語を話すのは好きではなかったので楽になってよかった。


「そうそう。そうやって話してくれればそれでいいよ。


宇羅々には佐次と宇羅々の前だけ丁寧なのを止めるってことで了解してもらったから。


あとで無月くんの前でも、ってことを言っておかないとね」


と言ってオレの隣まで来て柵の上に手を置いて星を眺める。


「で、質問なんだけど、無月くん、君はどうして旅をしてるの?」


「聞いているだろ?探し物があるんだよ」


「それは知ってるけどね、お父さんとお母さんはどうしたの?」


痛いところを突いてくるヤツだ。だがここは正直に言うべきなのか。


かといって死んだなんて言って同情されても面倒だ。


そうしてしばらく黙っていると


「話したくないならいいよ。人にはそういう事もあるだろうし」


と先に諦めてくれた。


「ああ、悪いな」


何で謝ってんだ?オレは。


「君ってなんか不思議だよねぇ。


初めて見た時に仲良くなれそうだなって思ったの、直感で」


「はぁ?やっぱ酔ってるだろ」


無愛想だって言われたことは結構あるが仲良くなれそうとか


親しみやすそうなんて滅多に言われない。というか全く言われたことない


「だから酔ってないって言ってるでしょ!」


また断言された。さっき断言された時より力が強い。


「わぁったよ」


オレは怒る魅夜を手で制する。怒るといっても口だけで眼は全く怒ってないが。


「じゃあ質問変えるよ。無月くん、ここの人じゃないよね?」


「当たり前だろ。オレは旅人なんだから」


「あ〜聞き方がマズかったね。


ここってのはこの世界ってコト。


つまりこの世界のヒトじゃないよね?」


「!?」


今まで星を眺めながら魅夜の話を聞いていたが


さすがに今の言葉を聞いた瞬間ビュッと音がするぐらいの勢いで魅夜を見た。


「でしょ?ね?ね?」


魅夜の顔が視界いっぱいに迫ってくる。


佐次の言う通りどうにかなるまではいかないが眼は不思議な感じはした。


じっと見てくる魅夜の顔は、


この質問ばかりはちゃんと答えてもらうとでも代弁しているようだ。


「そうだよ」


しばらくの沈黙の後、根負けしたオレは諦めて肯定する。


情けないな、オレ。


「やっぱりね。そうじゃないかと思ってたんだ」


「何でそう思う?」


「ん〜〜…初めて見た時に直感でね。


違う世界なんてあるかどうかなんて知らないんだけどなぜかそう思ったの」


直感だった。てか直感で異世界なんて言葉出てくるなんてこいつ何者だ?


それに少しでも冗談だとでも疑わなかったのだろうか。


「うわ、なら言わなきゃよかったな」


か・な・り・後悔。


「いいじゃん。君の重要な秘密もわかったしね。


後悔するんだったら代わりに何か一つ質問してよ。


一つだけだけど何でもいいよ?」


と言ってくるので


「だったら魅夜はどうなんだ?違う世界の人じゃないのか?」


別に興味はなかったのでわかりきっている質問をする。


「私は違うよ」


即答された。しかも否定。


「あそ」


まぁ予想通りの答えだったから別にいいのだが。


「何、その反応?最初っからわかってたような質問して。


私のこと知りたくないの?」


「あったとしても一度質問したからもう無理だ」


「じゃあじゃあもう一回だけチャンスあげるから」


目の前で見せつけるように人差し指を立てる。


「もういいよ」


このままだと完全に魅夜のペースにはまりそうなので、


オレはそう言って手を振って階段に向かう。


「ちょ、ちょっと」


魅夜が引き留めようとしたが


「姫様、やっと見つけましたよ。ささ、宴の席へ」


宴の会場となっている天守の間から袴を着た酔い気味の若い男が呼び出してきた。


「わかりました。では行きましょうか」


魅夜はすぐさま姫モードとなり、すぐそこにある天守の間へ入っていった。


「はぁ、何なんだ?あいつ」


本当に一国の主があんな呑気で軽そうなヤツでいいのか?



この世界の話は少し長くなりそうです。

よろしくお付き合い下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ