第3話
ここからは1人称っぽく書きますのでご了承ください。
〜無月SIDE〜
「さってと、最初の世界は?」
オレが最初に辿り着いた世界はパッと見は元いた世界とは何ら変わりない世界。
着いた場所は東京ほど都会ともいえないがそれなりに文明は発達している街だ。
「なんか魔法とは無縁っぽいよなぁ。
かといって制約があるからすぐには転移できねぇし」
『次元転移魔法は再び使用するには24時間経たなければならない』
という制約があるため、まだけっこう待たなければならない。
人々は元の世界と同じような格好をしている。まさか同じ世界なんてないよな?
「なぁ坊主。この国ってなんて言うんだ?」
オレは時代遅れのキックボードで横を通り過ぎようとした10歳ぐらいの少年を引き留め尋ねた。
「そんなの『口木国』に決まってんじゃん」
「そうか、ならいい」
オレがそう言って少年の進行方向とは反対の道を歩き始めると
と少年はボケてるのか、とでも言うような眼で一度見て通り過ぎた。
そういや翻訳魔法使っていないのに話せるということはかなり文化が近い、というか一緒っぽい。
「やっぱ違うか。『口木』ってセンスなさすぎだな。てか『日本』のパクリだろ。
……なんて突っ込んでないでこれやるんだっけな」
オレは腕時計を見るように腕輪を目の前に出して念じる。
すると透明だった水晶が水色に光り出した。
光が強ければ強いほど近いとか言ってたがこれがどんだけ近いかなんてわからないし
なんで水色なのかもわからない。
「一つ断言できるのはこの近くに魔宝があるってことだけ…か」
オレはふと空を見上げて独り言を呟いた。
「さて、ここにいても何もわからないわけだし、動くか」
オレは人通りの少ない路地に入ると見られないよう注意を払って空を飛んだ。
あるビルの屋上に降り立ち、辺りを眺めてみるが見れば見るほど魔宝どころか魔法すら無縁と思えてくる。
「どうやって調べるかな……。
宝っていうほどだからな…宝…宝…」
目を閉じて思考に専念していると一つの場所がひらめいた。
「博物館…?」
ふと思いついた場所は博物館だった。
あそこなら宝っぽいのが1つや2つぐらいあるだろう。
そう考えたオレはとりあえず地図探しに近くのコンビニに向かった。
「お、読める読める」
硬貨や紙幣は日本のものでも使えた。
文化が近いからなのかもしれないがとにかく魔法は便利だ。
地図を広げれば何の字かわからなかったがイメージとして頭に伝わってくる。
字もなんとなくだが日本語に似ている。
ちなみにここが『束京』だというのは黙っておいたほうがいいのだろうか。
「こっから北東だな」
地図を魔法で仕舞うと北東に数百メートル離れた博物館向かった。
「ふ〜ん。けっこうな博物館だな」
オレの目の前に立っている博物館は周りに比べれば年季の入った少々浮いた感じのする建物だ。
「じゃ、入るか」
受付では博物館のくせに入館料にしては高額な金をとられて損な気分になった。
これで何もなかったら窓ガラスの1枚でも割ってやろうか。
と、思ったがそれは杞憂だったようだ。
「『ビンゴ』ってヤツだな」
腕輪は先ほどより光が強くなっており、ここのどこかにあるのはほぼ間違いないだろう。
「広い…広すぎる」
期待を胸に博物館内を歩き回っていたがあまりにも広すぎる。
博物館の総面積はネズミで有名な某遊園地並にあっても不思議ではなさそうだ。
そういや看板っぽいのに国立とか彫ってあったような…。
当然のごとく面積に比例して展示物も多いため最悪全て回らなければならなさそうだ。
展示物には遺跡から発掘された壺やら銅鐸やら埴輪やら…日本にそっくりだ。
「っと、これか?」
反応を確かめながら歩いていたオレはある何の変哲もない銅鏡の前で立ち止まる。
これはどうやら矢磨大国のものらしい。邪馬台国だろ。
オレにはどうも魔力と関係はなさそうだが……。
しかし口木国の形が日本と似ているのであったら
矢磨大国が日本でいう畿内や北九州にあってそこから銅鏡が見つかったものだとしても
わざわざこんな都会まで持ってくるほど貴重なものなのだろう。
「ここで魔法を使うのもなんだよなぁ」
周りを見れば休日なのか来館者がなかなか多い。
視界には必ずといっていいほど人が入ってくる。
こんな所で使えばややこしいことになりそうだ。
だったら誰もいない夜が得策だがそれはそれで警備が厳しそうだ。
無駄な労力は使いたくないが警備をかいくぐるのもおもしろそうだ。
「夜…だな」
オレは奇妙にも顔がにやけていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その夜オレは一番高いビルの屋上に立っていた。夜までオレはずっとそこで街を見ていた。
夜になればネオンや窓の光で街そのものが光っているようで綺麗だ。
「さぁ〜って、楽しむか」
オレは屋上の柵を越え、跳んだ。ビルからビルへと伝って博物館へ向かう。
そしてオレは博物館の屋根上に立った。
「はっ!!」
オレは屋根のある部分の右掌を触れさせ、右手に魔力を集中させる。
そして屋根はいとも簡単に溶け始め燃えることなく熔けて消えた。
そのまま手を動かして人一人入れるほどの穴を開けてそこから中へ侵入する。
タッ
クツが床を着く音がしたが誰も気づいてないようだ。
しかし見渡す限りではあの銅鏡は見えない。
「少し外れたか。確かこっちだっけ?」
咽を震わせず、吐息と一緒に出すような小さな声で呟いて歩き始めた。
もちろんカメラの死角に入りながらだ。
「これだな」
オレの目の前には昼間、魔宝と推測した銅鏡がある。
暗いため鏡からオレの姿が映っているのは見えない。
「さて、始めるか」
オレは任務開始前にもらった水晶玉を取り出し銅鏡にかざす。
「φρνιε…αηντ…εκου…」
オレが呪文を唱えていると水晶玉と銅鏡が共鳴するように水色に光り出す。
すると銅鏡の鏡の部分から水色に光る玉が現れた。どうやらこれが『魔玉』のようだ。
そしてそのまま魔玉は水晶玉の中に入った。
とガラスを見て気づいたのだがガラスに人が映っているように見えた。
それはオレだけではない。数人映っている。
水晶玉に魔玉を入れ終えると振り返る。
「見つかったか」
目の前には数人の機動隊と思われる男が10人ほどでオレを囲んでいた。
どいつも今起きた出来事に少々どころかかなり驚いているようだ。
そりゃそうだ。
一般人ならテレビや本の中でしか見たことがないようなことが目の前で起こったからな。
「ようやく顔が拝めたぜ。今度こそ覚悟するんだな」
そんなこともお構いなしに茶色のスーツを着たおっさんが不思議なことをいいやがる。
「『ようやく』?『今度こそ』?オレはお前たちとは初めて顔を合わせたと思うんだがな」
オレは怪訝な顔をしてそのおっさんを見る。
「そりゃあな。今まではお前と顔を合わす前に逃げられてたからな。
だが今回は逃げられねぇ。今回はセキュリティのレベルが違うまず初めに……」
どうやらこの自慢気に話をしているおっさんはオレをどこぞの怪盗と勘違いしているようだ。
そう見るとこいつは銭形か?
その内『よう、とっつぁん』って顔の長いおっさんでも出てきそうだな。
…ってあれは架空の人物だったな。そもそも今の時代怪盗なんているはずがない。
となると、オレの仲間か敵か。
どっちでもいいな。オレはオレのすべきことをするだけだ。
「……ということだ。どうだ、これでもうお前は逃げられずにご用だ」
さて、帰るか。
「おっさん。じゃあな」
『陽炎』
オレは魔力を体全体から放ち、周囲の気温を急激に上げて陽炎を発生させる。
「なっ何だこいつは?」
機動隊とおっさんは暑さにひるんでいる。
オレの姿が捉えられていない間にオレは先ほどの場所まで走る。
どうせ気づかれたし、いちいち死角に入るのも面倒なので
防犯カメラがオレの姿をとらえる前に火球で破壊しておく。
どんなセキュリティがあったのかはおっさんが説明していたようだが聞いてなかったから知らんし
そのセキュリティは作動しなかったのか何も起こらなかった。
そして突きの光が差し込んでいる屋根の穴から飛び出す。
「案外簡単だな」
さっきも説明したが制約があるためこのままトンズラとはいかない。
「とりあえず離れているか」
そしてオレは再びビル伝いに跳び回る。
だがことはそう甘くはないようだ。
「よう、お疲れさん」
とビルの屋上に立った時、目の前に軽々しく労いの言葉をかけるヤツが現れた。
誰かは知らないが少なくとも見たことはない。例のおっさんが言ってたヤツか?
「お前、何してんだ?」
一応すぐ戦闘態勢に入れるように準備はしておく。
「オレぁ、そこらの怪盗。だから仕事をするんだけど?」
白いシルクハットとスーツ、スモークを付けているもう『怪盗参上』って感じだ。
てか怪盗なんだから夜に白の服は目立ち過ぎるだろ。目立ちたがり屋なのか?
年齢はそんなに年はとってないようだ。20歳前後かそのぐらいに見える。
「そんなもん見りゃわかる。
オレが聞きたいのはその仕事とやらをせずにここにいるかってことだ」
「そうだねぇ。狙ってた獲物が誰かさんに横取りされたもんでね。
さらにオレがそれを頂こうかと思って待ってたわけ」
「そんなことか。お前の狙ってる獲物ってのは『矢磨大国の銅鏡』か?
それならまだ残っている。オレはオレで欲しいもんもらったしな」
そう言えばさっさとどっかに行ってくれると思った。銅鏡が残っているのは事実だしな。
「銅鏡〜?そんなもん興味ねぇって、オレが欲しいのはその『中身』」
オレの予想を大きく外した言葉が返ってきた。
「まさかお前『アポカリプス』の召喚を企んでるヤツらの仲間か?」
「『アポカリプス』?ノンノン。
オレはある人に頼まれただけ。別にそんなもん知らねぇし興味もねぇ」
またしても予想を大きく外した言葉が返ってきた。
怪盗なんかに依頼するほど敵は人数不足なのだろうか?
「そのある人って誰だ?教えな」
オレは脅し…というわけでもないが一応刀を突きつけておく。
「嫌だね。んなことしたら『次元の怪盗』の名に傷がつく。
それよりもお前のその刀いいなぁ。オレにくれよ」
「『次元の怪盗』だと?」
十数メートル離れた所から動かずにオレの刀を眺めている怪盗。
どうみても通り名がつくような感じはしない。
「あぁ。
金さえもらえればどんな人からでもどんな次元にある宝でも盗み出すし、プライバシー保護は完璧。
今評判の『次元の怪盗』とやらはオレの事だ。
もちろん自分で欲しい物も盗るけどな。以後よろしく」
と怪盗は刀を突きつけられているにも関わらずジェントルマンっぽくお辞儀をする。
「でさ、魔玉ってヤツ譲ってくんない?オレのコレクションと交換で」
するとどこからか大きな宝石の付いた指輪やネックレスを出した。
「どんな物でも無理だ。これは任務なもんでな」
そう言うと怪盗は
「かあぁ〜〜〜。ま〜ったおんなじこと言いやがる。お前もあいつらの仲間か?」
と言って頭を抱えた。
「? 誰と出会ったんだ?」
珍しいこともあるもんだ。
「そんな事聞いてもなんにもなんねぇだろ。仕方ねぇ、力ずくで奪わせてもらおうか」
すると怪盗はトランプを取り出してこちらに投げつけてきた。
「ちっ」
トランプは頬を掠めて傷口から血が流れる。
「邪魔するなら容赦しねぇぞ!」
オレは刀を構えて攻撃に備える。
「さぁさぁいくぜっ!」
再び怪盗はトランプを数枚続けて投げてくる。
「はぁっ!」
向かってくるトランプを全て斬り落とし、怪盗に向けて刀を投げた。
「うおっと」
怪盗は体を左へ反らして刀を避ける。
刀はそのまま後ろにあった屋上への出入口の扉に突き刺さる。
「ふ〜ん。けっこういい刀だなぁ。どいつもこいつも良いモン使ってるなぁ」
「何余所見してんだぁ!」
怪盗がトランプ投げをやめ、刀に見入っている隙にオレは怪盗に向けて跳ね、
体を回転させた勢いで回し蹴りを放つ。
「うおっ」
怪盗の顔に当たる寸前で怪盗は腕で攻撃をガードする。
「うわっ」
しかし体重が軽いのか勢いがついていたのかガードしたにも関わらず怪盗は吹っ飛んだ。
怪盗は床を跳ねながら回転するがその途中で体勢を立て直す。
「ミスったな。悪い癖だ」
と言って服についた砂埃をせっかく綺麗だったのにとでも言いたそうな顔で払い、シルクハットを拾う。
「それにオレ、戦闘ってのは向いてないんだよね。
ノルマはあと少しだし、邪魔者も来たし逃げるか」
「待て!お前の持ってる『魔玉』ももらおうか」
オレは逃げられない内に怪盗まで迫ろうと走る。
「おっと。遊びはここまでだ」
すると怪盗は閃光弾を地面に投げつけ、強い光が放たれた。
「何!?」
オレは見事に敵の策略にはまり、目をくらました。
「じゃあな」
目を瞑っている時に怪盗の声と鳥が羽ばたく音がした。
次第に目が慣れていき再び目を開いた時には怪盗の姿はなく、空を飛ぶ鳩が見えただけだった。
「くそっ逃がしたか」
オレは刀を仕舞うと忘れていた後始末をするために再び博物館に向かうとするか。
「もう逃げられんぞ!」
と思ったがその必要はなくなった。逆に向こうから来てくれた。
「よう、おっさん」
穴の空いた出入口の扉から出てきたおっさんは博物館より多くの機動隊を連れている。
「外にパトカーを待機させていたのだ!おかげで居場所はバッチリ判明した」
あの怪盗が言っていた『邪魔者』ってこいつらなのだろうか?
気づかなかったのは不覚だな。まぁ丁度いい。後始末でもするか。
「はい、注目!!」
オレは大声で叫び右手を高々と上げて注意を向けさせる。
素直なおっさんたちはちゃんと右手を見ていてくれている。
パチン
と指を鳴らすとその場にいたオレ以外の人たちが気を失って倒れた。
後始末とは一般人の記憶とカメラなどの記録からオレの存在を消すことだ。
別に注目させなくても効果はあるがその方が効き目がいいからだ。
さすがに指名手配として新聞やテレビで顔写真を見せたくはない。
祢音なんかがこの世界に来て『この顔にピンときたら110番』なんて
キャッチフレーズをつけられたオレの顔写真でも見た日にゃどうなるかわかったもんじゃない。
「朝までまだ時間があるな。用も済んだし暇だな」
そしてオレは気を失ったおっさんたちを残して夜の束京をブラブラし、
次の日の朝、24時間経ったのでオレはさっさとこの世界とオサラバした。