第15話
〜無月SIDE〜
一方、無月とフェイトは…
「ん…んん……」
フェイトによる治療後、無月はうっすらと目を開ける。
「フェイト…なのか…?」
無月はぼんやりと目の前に映る女性の名を呟くように言う。
「はい。オーディンに内緒で来ちゃいました」
と言って戦いの真っ直中であるにも関わらず微笑んで答える。
「そういや祢音が来たような気がしたんだが…」
完治された傷口を触りながら無月は周りを見る。
「!?」
そこでようやくメデスと奏が変わり果てた祢音と戦っている事に気づく。
「ま、まて何であいつらが戦っているんだ?てゆうか奏って敵だろ!?」
無月はその辺りを指さして顔をフェイトに向けて問う。
「あなたが日向に刺され、倒れている場面を見たことによる日向に対する憎悪が引き金となって
祢音さんの中にある憎悪の『堕天使』が目覚めたのです。
奏さんは私が説得してこちら側についてもらいました」
「よく状況が掴めないんだがどうやって説得したかは聞かないでおく。
それよりも『堕天使』だ?何とかして元に戻すことはできないのか?」
無月はフェイトに問うというより頼んでいるような顔で聞く。
「方法は…ある」
後ろから低い声がしたかと思うと、
振り返れば日向が不安定ながらも大鎌を杖代わりにして立っていた。
「親父!」
無月は反射的に刀を構え、睨みつける。
「そう殺気立つな。オレだって祢音を元に戻してやりたいんだからな」
「元々はお前のせいだろが」
「刀を降ろして、無月。日向、それは本当ですか?」
「ああ、堕天使は元々祢音の心の中の『憎悪』そのものだ。
だったら祢音の心の中に入り込んで消滅させる。感情だができないことはない」
「待ってください。『憎悪』である『堕天使』を消滅させるということは
祢音から感情の一つである『憎悪』、つまり『怒り』を無くすことになりませんか?」
「ちょ、ちょっと待てよ!そんなの人間じゃねぇだろ!」
「確かに『怒り』はなくなる。だがこのままでは皆死ぬぞ?」
「んなバカな話があるか!他の方法は無いのか!?」
「ならば今目の前にいる祢音を『殺す』か?
お前にそれができるなら止めはしない。それ以外に方法はない」
「できるか!お前みたいな無責任なヤツがいるからこんなことになるんだ!!」
無月はボロボロになっている日向の襟を掴み睨みつける。
「そうだな。…すまない」
「しかたありません。祢音の『憎悪』を消滅させる方法でいきましょう。
心にはあまり負担をかけられませんので私と無月でいきます。
日向はここで休んでいてください」
「いや、オレがいく。これは全てオレの責任だ」
「バカ言うな。お前なんかに任せられるか。オレもいく」
「そうですか。でしたら私はここで待っています。
祢音の躰に触れ、一体となるイメージをしてください。
これで入れるはずです。わかっていますね」
「「ああ」」
「では作戦開始です」
「メデス大丈夫か?」
「お、おう。てかお前生きてんのか」
メデスは祢音の攻撃をいくつか受けたのか、
コートはボロボロとなっており、顔も所々傷を作っている。
「当たり前だ」
「話は聞いてたよ。手伝ってやりてぇけどあんまし魔力が残ってねぇんだ」
「そうか。なら任しとけ」
と言って無月は祢音に向けて走り出す。
「おい、待てよ」
メデスの声を無視して背中を向けている祢音に向けて触れようと手を伸ばす。
「痛っ!」
しかし、バリアによってその手は阻まれる。
そして右腕に電気の流れるような痛みを感じる。
「ちっ」
一旦無月は祢音から離れる。
「わかったか?あのバリアがあるおかげで足止めどころかこっちが苦戦してんだ」
「そうか」
「お兄ちゃんまで邪魔するの?」
祢音は振り向いて無月に冷たい瞳を向けて言う。
無月が味方でいてもらえない悲しみも悔しさも関係ない。
ただあるのは日向に対する憎悪のみ。
「だったら死になさい」
祢音は無月とメデス目掛けて魔力の球をいくつも放つ。
「奏!お前の力でなんとかならないのか?」
次々に飛んでくる球をかわしながら無月は叫ぶ。
「無理ですね。あのペンダントがあれば可能性はありますがあれは踏み壊しましたし」
奏は無感情な瞳で無月を見て冷静に答えた。
「だったら試してみるか。フェニックス!」
無月はペンダントからフェニックスを呼び出すと紅い光玉にし、それを躰ではなく『夢羅雨』に宿らせる。
『紅蓮刀』
『夢羅雨』は『炎刃』の時のように刃に炎を纏うわけではなく、炎が刃となった。
「なんだそりゃ?」
メデスは不思議そうに無月の持つゆらめく刃を眺める。
「見ての通り。武器に憑依させただけだよ。
これなら身体能力は劣るが攻撃力なら格段にアップする。これが実践で初めてだけどな」
無月はそう言いながら刀をブンブンと振り回す。すると残像の代わりに炎が残る。
「よし、いくかっ」
無月はそう言うと奏の相手をしている祢音へと走り出す。
「お兄ちゃんまで死ぬの?」
奏の攻撃を避け向かってくる無月に視線を向ける。
「待ってろよ、祢音!」
祢音が漆黒の翼羽ばたかせてこちらへ向かってくる。構えた右手の爪が鋭く光る。
そしてすれ違いざまに祢音が無月の心臓を貫こうと右手の爪を突き出してくる。
「くっ」
心臓からは何とかかわした無月だが脇腹をかすめた。脇腹には痛々しい傷ができる。
しかし、痛みに悶えず無月は背中を向けた祢音に渾身の一撃を放つ。
見事にバリアは打ち砕かれ、祢音に触れることができるようになる。
「親父!」
部屋の端で控えていた日向に呼びかける。
「わかっている」
無月が呼びかけた頃には既に祢音の傍にいた。
「「祢音!!」」
そして2人同時に祢音の体に触れる。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ここが祢音の心の中か?」
「そのようだな」
周りは真っ暗で無月と日向以外何も見えないし、何も感じない…のも一瞬だった。
『ウオオオオオオオオオオ』
祢音のものとは思えない憎悪に満ちた叫びが聞こえる。
というより心に響いてくる。
祢音の叫びではないだろうが祢音の心の中にあるモノとは思えない。
それは途絶えることなく響いてくる。
「祢音の前で言いたくないがあまり長くいたい所ではないな」
「親父、それは思うだけで言うな」
ということは無月も思ってはいるかもしれないということだ。
「『憎悪』の消滅ってどうするんだ?」
「簡単なことだ。ヤツを倒す。
……来たか、『憎悪』が」
すると目の前に『堕天使』が現れた。
「ここまで来てしまったのですね」
「残念だが、消滅させてもらう」
そして2人は武器を取り出して構える。
「そう簡単にはさせませんよ?」
と言った瞬間背後から槍のようなものが無月の肩をかすめる。
「ぐっ…何?」
無月は即座に後ろを振り返るが真っ暗で何も見えない。
「ここは私の心、何もかもが私の思いのまま」
そして一気に槍が飛んでくる。
「くっ…ぐあ……」
無月はかわそうと素速く体を動かすが、
どこから飛んでくるかわからない上、量も多いのでかわしきれない。
「祢音!」
一方日向は祢音に向かって走り出した。
キィィン
日向の大鎌の刃と祢音の鋭い爪がぶつかり両者とも弾かれる。
「調度いい。あなたにはここで消えてもらいます」
すると祢音はもう一方の手から魔法で銃を取り出した。
その銃は普段祢音が使っているものとは色が異なり真っ黒に染まっている。
『ルシフェル』
そして取り出すとすぐさま日向の心臓目掛け放つ。
「ぐああぁ!」
日向は口から血を吐き出して左胸を押さえる。しかし即死は免れたようだ。
「瞬時に体をずらしたということですか、さすがお父様。
だけどもう終わり、この『ルシフェル』は体に当たればそこから死の呪いがかけられる。
もうあなたの命は長くない。ゆっくりと死の恐怖を味わうのね」
どうやら祢音の言っている事は本当のようで日向からは生気が見る見る内に失われていく。
「親父!!
……ぐああ!」
ちなみに無月は未だに見えぬ槍に苦戦中、そして日向を見ていた隙に右腕を槍で貫かれてしまった。
一瞬動きが鈍った無月に容赦なく槍が飛んでくる。
「これで…終わるのか…?」
その時――
『地に堕ちた天使よ。そこまでです!』
そして真っ暗な心の世界に一筋の光が差し込んだ。
その一筋の光は大きくなり、全てが照らされる。
「無月さん!お父様!」
するとどこからともなくもう一人の祢音が現れた。
その姿は堕天使とは対照的で背中には純白の翼が生えており、顔は慈愛で満ちあふれている。
そして極めつけは当然のごとく(?)頭に浮かぶ輪っか。
「『天使』か…」
日向はかすれるような声で言う。
そう、『人間の祢音』と『堕天使の祢音』とは違うもう一つの人格『天使の祢音』が現れた。
さあ!大ピンチの2人の前に祢音天使verが現れた!!
彼女は敵か味方かあぁぁ!!??(まぁ味方なんですけどね)