第12話
「地下に作ってるのに結構広いよね、ここって」
祢音が無月のとなりで走りながら言う。
「ああ、兵の数も多そうだ」
向かってくる兵たちを結構倒したはずだが、未だに出会う時があり、発砲してくる。
「ここは…?」
3人が廊下を抜け、次の部屋に出てくると
そこは別の場所に来たと思うかのように今まで見てきた光景とは違っていた。
「どっかの館のエントランスみたいだな」
「でもここって地下なんでしょ?こんなのって…」
この部屋は円上で天井にシャンデリアがぶら下がっており、
両サイドにはレッドカーペットがひかれた階段があった。
2階には次の部屋へ向かうと思われる大きな扉がある。
『やっと来やがったか』
どこからか響くように声がした、
と思ったら大理石のような石でできた床が水になったようにできるはずのない波紋が広がり、その中心から男が出てきた。
頭は赤髪のボサボサでダメージジーンズを履いて首からネックレスを掛けて格好はかなりラフだ。
「待ちくたびれたぜ」
「お、やっと手強そうなのがきたな」
と、無月と祢音はそれぞれ武器を構えるが
「そう焦るなお2人さん」
メデスは武器を構えず、そう言って2人の前に立つ。
「どういうことだよ」
「ここはオレに任せて、さっさと行ってこいって事」
無月と祢音は武器を降ろす。
「それじゃあ、メデスはどうするの?」
「お前らは急がなきゃなんねぇだろ。こいつの相手してやるよ」
と言ってメデスは親指で律儀にも会話が終わるまで突っ立っている男を指さす。
「わかった。頼んだぞ」
「お願いね」
そして無月と祢音は右の階段を駆け上がる。
「そう簡単には行かせないね」
というと赤髪の男は地面に沈んで姿を消した。
「何!?」
「お兄ちゃん!」
赤髪の男はいつのまにかエントランスの中央から階段を駆け上がる無月の前に現れた。
「じゃあな!」
男は古い海賊が使ってそうなイメージのあるサーベルを振り上げて無月に斬りかかろうとする。
しかし、その攻撃は無月には当たらなかった。
赤髪の男の攻撃に備え、刀を構えていた無月の目の前に男の攻撃を槍で防いでいるメデスがいた。
「さっさと行け!」
無月はメデスと赤髪の男の横を通り過ぎ、扉の前にいる祢音の元へ向かう。
「くっ」
赤髪の男は再び地面に沈み、無月と祢音の元へ移動しようとするが
「させねぇよ」
メデスは赤髪の男の腕を掴み、
片手で床から赤髪の男の全身を引き上げると後ろへ放り投げた。
「ちっ」
しかし、赤髪の男は壁に激突することはなく、壁に沈んだ。
「まぁ、いい。まずお前から殺してやる」
既に無月と祢音は扉を開け、エントランスから出て行っていた。
「さて、やりますか」
〜メデスSIDE〜
「オレの能力は壁や床に体を沈み込ませることができる」
「あっそ。で?」
そう言ってメデスは下半身を壁に沈めている赤髪の男に向かって『ゲイボルグ』を投げる。
「そんなの意味ねぇって言ってんだ」
赤髪の男は完全に体を壁に沈ませて姿を消した。
槍はそのまま壁に突き刺さると周囲に亀裂と生じさせる。
しかしそこに赤髪の男の姿はない。
「どこだっ!?」
メデスは魔法で壁に突き刺さっている槍を手に戻し、エントランスの中央に移動すると
首や体を捻って辺りを見回すが赤髪の男の気配は察知できない。
『ここだ!』
不意に声がしたかと思うと背後から空気を斬る音がした。
メデスは瞬時にしゃがむと元々メデスの頭があった位置に先ほどのサーベルが通過する。
「後ろかっ!」
サーベルが通過するとメデスはしゃがんだ体勢のまま再び後ろに槍を投げつける。
しかし、槍が石を貫く音しかせず、その後後ろを見れば赤髪の男の姿はなかった。
「また外れか」
そう言ってメデスは槍を再び手に戻す。
『早いんだけどさ。オレ逃げた2人追いかけなくちゃなんないからそろそろ終わらせるな』
そう言って5秒ぐらい経った頃、周囲からいくつもの空気を斬る音や突き抜ける音が同時にする。
「おわっ!」
まずメデスの視界に入ってきたのがトゲの付いた鉄球。まっすぐこちらに向かってくる。
かと思えば両サイドからはサーベルが飛んでくるし、ななめからは槍、
背後から斧が飛び、上からは天井と繋がっていた鎖を斬られて落ちてくるシャンデリア。
真下を除いたほぼ全方向からありとあらゆる武器がメデスに向かって飛んできた。
「げ…やべっ」
メデスは少し慌てた様子で槍を消すと床に両掌を触れさせる。
『アイス・ウォール』
するとメデスを覆うように四角形の氷の壁が出現する。
その壁はサーベルどころか槍や鉄球も貫くことはなく、
上から落ちてきたシャンデリアをも防ぎきった。
その後氷の壁は弾けるように砕け、周りの物を吹き飛ばした。
「危ねぇ危ねぇ、焦ったからけっこう本気使っちまったじゃねぇか」
氷の壁の中から姿を現したメデスは溜息を一つ吐いて
「疲れた」
と言う。
『まさかそういう防ぎ方をするとはな。
だがオレに攻撃を当てる事ができない限りオレは負けねぇ』
「うるせぇなぁ。今のでけっこう疲れたしこっちも終わらせるつもりでいくぞぉ」
と気のない声を出すとメデスはコンと音を立てて靴で床を叩く。
すると足下から水が溢れるように湧き出す。
水はエントランスの1階部分を水浸しにする程度で収まる。
『何無駄な事してんだぁ?』
「無駄な事かどうかはその内わかるさ」
そう言ってメデスはエントランス2階の扉の前に立つ。
『逃がしはしねぇぞ!』
ブォンと音がし、鉄球がメデスへ飛んできた。
「逃げる気なんてなーいよ。かっこわりぃしな」
メデスは槍を使い、勢いのついた鉄球の重さでも力の流れを利用して難なく弾く。
その鉄球は壁にめり込む激しい音を立て、少し部屋が揺れた。
辺りには先ほど一斉に投げられた武器が散らばっている。
『まだまだいくぜぇ!』
そして再び斧やらサーベルやら剣やら色々な武器が一斉ではなく今度は連続で飛んでくる。
「よっと」
メデスは踊るかのように軽やかなステップで向かってくる武器を避けていく。
「見えたぜ」
そう言った瞬間、メデスは1階の床のある1ヵ所に向かって槍を投げた。
「ぐあ…」
そこにはあの赤髪の男が下半身を床に沈め、
斧を振りかぶった状態で槍を心臓のど真ん中に刺したまま朱い血を口から流していた。
「なぜ…わがっだ?」
口から血を吐いているせいでうまく話せていない。
「う〜んそうだな。教えてやろう。お前が現れる時っていつも床に波紋ができてんだろ?
水浸しにしておけばその水にも動きが伝わるかな?ってさ。案の定、水には波紋が生じた。
床に波紋だったら無理だけど水の波紋だったら
オレほどの力があれば数秒経った後の波紋でもその中心がどこかぐらいわかる。
オレの『ゲイボルグ』はある程度近くに投げれば必ず心臓に命中する代物でね。
………っと、長話しすぎたな。ちょいと急ぐか」
既に息絶えた赤髪の男を残して扉を開き、この部屋を出て行った。




