第10話
「おい、大丈夫か?」
その声を聞いた無月は消えそうではあるが意識が少しだけ戻る。
「う…ん…」
そしてうっすらと目を開くとそこには見知った友人の顔があった。
「康…宏か…?」
意識が蘇りつつある中、空気を吐くのと一緒に声を出すような小ささで目の前にいる友人の名を呼んだ。
「気がついたか!祐介、先生を呼んできてくれ」
「わかった」
祐介の姿は見えなかったがタッタッタと靴でコンクリートを踏む音がする。
外を見れば太陽の光が窓から文字通りサンサンと差し込んでおり、
感覚をとぎすませれば胴体に幅広く包帯が巻き付けてあるような感覚がした。
「…そうだ!祢音は――――痛ッ!」
無月は飛び上がるように上半身を起こすが胸の痛みに唸り倒れ込む。
「おいおい、まだ動くなよ。傷口が開くぞ」
康宏は半笑いをして注意し、そして
「祢音ちゃんなら大丈夫だよ。
さっき気がついた所だ。千春も傍にいるから大丈夫だろ」
と言って親指で自分の背後を指さす。その指さす方向に祢音の病室がある。
ちなみに無月のいる部屋は個室である、おそらく祢音もそうなのだろう。
「ふう…よかった。あの時と同じじゃなかったか」
無月は心底安心したような顔をし、思わず溜息と安堵の声を出した。
「あの時?」
「いや、何でもない」
無月は白い天井を見ながらそう言った。
「康宏、連れてきたぞ」
「気がつきましたか」
扉の開く音と共に祐介と汚れ一つない真っ白な白衣を着た医師が病室に入ってきた。
その医師はやせ細った体型をしていたが顔はそうでもなくいたって普通だった。
「すみませんが付き添いの方は外で待っていてもらえますか」
医師は申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、2人を促すと
「「わかりました」」
と言って病室から出て行った。
「お前…組織の者だな?」
バタンと扉の閉まる音がした後、無月は寝ころび頭の後ろで手を組んで天井を見ながら医師に言った。
「ええ、初めまして如月無月さん。私は演奏者の医療班に所属している宮川です。
よろしくお願いしますね」
その声は組織の者とは思えないほど柔らかな声だった。
「ああ」
無月は無愛想に答える。
「じゃ早速ですが治療いたしますね」
そう言うと宮川はせっせと医療道具を取り出すわけでもなく
無月の上に覆い被さっている布団だけを横の小さな棚の上に置き
無月の上半身を起こし包帯を外すと少し離れ、無月に向けて左手をかざし滑らかに呪文を唱え始める。
すると無月の傷口がわずかに光り出す。
その光は太陽のように力強くはなく、柔らかで暖かく、まさに『癒しの魔法』だった。
そして宮川が呪文を唱え終わると同時に光も収まる。
しかし治療を終えた無月の体は未だ傷が残り、体を無理に動かそうとすれば痛みもわずかにある。
「自然治癒能力を飛躍的に高めました。これで傷も明日の夜には完全に癒えるでしょう」
「ん?どうして一気に治癒しない?」
「そんな傷を一気に治癒すれば細胞が疲れて老化が早くなりますよ。
まぁあなたたちは強力な魔力のせいで元々老化は遅いようですね。
もっとも、ここが戦場でしたら話は別となりますが」
宮川は先ほどの柔らかな笑顔ではなく、妖しさを含めた笑顔を浮かべる。
「そうだな。すまないな、こんな島まで来て」
無月は治療(?)の終えた自分の体を眺めるように見ながら言う。
「いえいえ、これが仕事ですし、私はこの辺を担当しているんです。
普段は本島の有能な医師なんです。
昨夜あなたたちがそちらでは手に負えない重傷でしたので私のいる病院に連絡があったんですよ。
私は名前を聞いて気がついたんですねぇ。
この辺の組織の者のリストを見ればあなたは水月島にお住まいだと。
だから私が買って出てあなたと妹さんの治療を担当したんです。
それも今の治療で終わり。私はこれで本島に帰ります」
そう言うと宮川は病室から出て行こうと扉に手を掛ける。
「待て、何があったか聞かないのか?」
その言葉で扉に手を掛けたまま止まると首を捻って言った。
「私は傷ついた者たちを治療するのが仕事ですし、
私もこの仕事長いんでして、傷口を見れば相手がどんな実力者かぐらいなんとなぁくわかりますよ。
そうそう、ご友人には感謝してくださいよ。
重傷のあなたたちを運んできたのは彼らなんですから」
それを最後に宮川は病室から出て行き、入れ替わりに康宏と祐介が入ってきた。
「今、祢音の様子を見てきたよ。傷は痛むけど大丈夫だってさ」
「そうか。…そういやお前ら学園はどうした?」
今は普段なら学園に行っているはずの平日の午前中である。
そんな時間に病院にいるのはどうもおかしい。
「緊急だったから遅刻だけでサボリじゃないよ。
2人とも気がついたし、千春も呼んで学園に行こうか」
と言って祐介はすんご〜く嫌な顔をしている康宏の顔を見る。
「え〜?まだいいじゃんかよ。せっかく堂々と遅刻できるんだしさ、もう少しいようぜ」
と康宏は康宏なりに懸命に反論するが
「ダ〜メ。康宏は普段から勉強できてないし、
1日でもサボったらどうなるか目に見えてわかるよ」
祐介は問答無用で康宏の手首を握ると強引に引っ張り病室から出て行こうとする。
「じゃあね、無月。お大事に」
祐介は振り返って軽く微笑みながら言い
「いやだぁ〜!」
康宏の断末魔の叫びと共に2人は病室から出て行き、無月は笑ってその様子を見ていた。
「よっ元気か?」
今度は入れ違いにメデスがよっと右手を挙げて入ってきた。
「お前まで来たのか……」
そして無月はメデスの顔を見ると深く溜息をつく。
「せっかく見舞いに来てやったのにつれないこと言うなよ」
そう言ってメデスは無月のベッドの近くにあったパイプ椅子に腰掛ける。
「来てくれと言った覚えはないな」
無月はこちらを見てニコニコと笑っているメデスを不審者でも見るような目で見る。
「おいおい、お前のダチとオレじゃあ随分と扱いに差があるじゃねぇか」
とメデスは眉を上げるが無月の答えは全く期待していなかったようで
「まぁいいや。どうせお前はそんなヤツだしな。喜んだほうが気色悪ぃ」
無月の答えを待たずにあっさり言う。
そしてメデスは無反応な無月を気にせず、
前にかがみ指を組むとヘラヘラした顔ではなく真剣な顔で話し始める。
「しっかし驚いたな。お前ら2人が一緒になっても敵わないヤツがいたなんてな。
しかも女だって聞いたよ。ますます驚いたぜ」
「男女は関係ない魔力の違いだ。ヤツの胸にペンダントがあった。
おそらくどこからか絶えず膨大な魔力を供給しているんだろう。
けっこうな量の魔力が漏れていた」
無月は頭の後ろで指を組んで天井を見ながら言った。
「ふ〜ん。じゃあその供給源を潰せばいいんだな。
あぁそうそう、先日の学園襲撃事件の事報告してきたよ」
「ほう。で、もう調査は始まってたんだろ?」
「ああ。んでわかった事なんだけど、
どうやらやつらは最近中部地方の南付近で行方不明になった人たちだったそうだ。
警察の方に捜索願が出されてたってさ」
「ほう、よくわかったな」
「まぁ元々日本の都市に演奏者が結構送られてたようだからな。
初めに愛知で行方不明者と犯人が一致して、
周りの県とか調べてたら静岡が一番多かったそうだ。これからは静岡を中心に捜索するってさ」
「そうか」
「お、そろそろだな」
メデスは携帯のディスプレイを開いて時間を確認すると急に立ち上がり病室を出ようとする。
「どうした?急に」
「こないだナンパした女性とデートするんだよ」
よく見ればメデスの服装がいつもよりハデなのに気がついた。
初めに見せた鬱陶しいほどの笑顔もこれがあったからかもしれない。
「珍しい事もあるもんだな。降るのが槍程度で収まればいいが」
と言って無月は何かを眺めるように額に手を当てて窓から晴れ渡った空を見上げる。
「はっはっは。今日中に空からブーケを降らしてみせるさ」
そう言ってメデスは病室の扉を開ける。
「メデス」
「ん?」
無月に呼び止められメデスは立ち止まる。
「病院では静かにしろよ」
「オレのどこがうるさかった?」
「隣の病室から祢音を心配する誰かの叫びが聞こえたもんでな。だ・れ・か・の」
と言って無月はメデスの背中に鬱陶しさをMAXに含んだ視線を送る。
「そ、そうか。迷惑にならないよう注意しなきゃな。それじゃ」
メデスはそう言ってそそくさと逃げるように立ち去った。
病院での生活は退屈きまわりないもので食事をしては寝、食事をしては寝、で、何もすることがなかった。
そして槍以上のモノもブーケも降ることもなくその日は過ぎていった。
次の日、宮川が言った通り2人とも傷は完治し、
最終検査が終わった午前中にさっさと退院すると家に戻った。
家に帰った頃にはもう12時を過ぎていたため、
いまさら学園に行くのもねぇ〜というわけで学園は今日も欠席した。
その後、大きな事件を起こしたためか敵に大きな動きはなく、平凡な日々が3日ほどした頃
『総帥のおおよその潜伏場所が判明しました』
と昼食を食べ終え午後から何をするか考えていると、
本部のフェイトから連絡があり、3人は本部に行くことになった。
今や『長老の間』となりかけている『総帥の間』に入ると、
そこには玉座に座っているオーディンとその両サイドにフェイト、そして隊長のレミアがいた。
「「さっそくですが任務内容を説明します」」
と同時に両サイドの2人が言った。
「「む」」
すると2人が睨み合いオーディンの目の前に火花が散っているように見えた。
レミアからはふふふふふと笑いながらフェイトを睨み、
フェイトは幼さもあって見かけには迫力はなかったがその笑わぬ睨みにはどこか威圧感が漂っている。
2人とも眼で語り合っているようだった。
しかしオーディンは目の前で火花を散らされているにも関わらず顔の表情は一切変わっていない。
「どうでもいいから続けてくれないか」
その睨み合いが十数秒続き、収まる気配が全くしないため無月は呆れ気味に口を挟む。
「「あ、すみませんでした」」
さっきからセリフがハモっているような気がする。
そしてまた同時に言ったため睨み合う。
「じゃあ交代で話すのはどうですか?」
今度は睨み合いも5秒も続かず、レミアが提案してきた。
「いいですよ。ではあなたからどうぞ」
それにはフェイトも同意し、話を続けた。
「先日の学園襲撃事件と謎の少女の襲撃はメデスから報告してもらいました」
「こちらの調査結果もメデスから聞きましたね?」
「そこでこちらは中部地方南を中心に演奏者を多く送り込みましたが」
「ある場所で行方不明となる演奏者が何人もでています」
「…そのある場所とは『富士の樹海』です」
「空を飛べるヤツもいるだろうし迷ったというのは考えられないな・・・」
メデスは顎に手を当てて独り言のように呟く。
「はい、メデスから魔力の供給源の報告を受けたのであの日の夜、
魔力反応がないか調べたところ」
「樹海に隠しきれていないわずかな魔力反応を感知しましたので演奏者を送り込んだのですが」
「戻ってくる者は一切おりませんでした」
「おそらくそこには膨大な魔力の源があり」
「総帥もそこに潜伏していると思われます」
「そこでお主らに任務を言い渡す」
そこでいままで置物のように動かず喋らずのオーディンがようやく口を開いた。
広いつばの先から研ぎ澄まされた刃のような威圧を放つ右眼が見える。
「これ以上兵を減らすにはいかん。明日、お主らで総帥の潜伏場所を見つけ
早急に総帥を抹殺し、その膨大な魔力の源となっているものを破壊せよ」
「あの広い樹海を私たち3人だけで探せと言うんですか?」
さすがにあれだけの広さの樹海をたった3人だけで探すのはさすがに厳しい。
「そうじゃな、ならば――」
オーディンはパチンと指を鳴らすとオーディンの傍に2匹のカラスが現れる。
「ムニンは記憶を司る聖霊、こやつに樹海に行って死んだ者も含めた演奏者の集めたデータを全て記憶させ、
フギンは思考を司る聖霊。こやつはそれなりにヒントでもくれるじゃろ。
こやつらがいれば少しは楽になるはずじゃ」
「「「了解しました」」」
「おそらく先日2人を襲った少女も現れる事でしょう」
「その少女の魔力はその魔力源から供給されているため勝つ事は非常に困難です」
「その時には先に魔力源を破壊してから戦うのがベストです」
「「では、健闘を祈ります」」
そこで任務伝達は終了し、3人は廊下を並んで歩いている。
「富士の樹海って言われてもなぁ…。
案内役がいてもさすがに広すぎるだろ」
長老の間を出て、廊下を歩いている途中でメデスが斜め上の天井を見ながらぼやく。
「仕方ねぇだろ。それに足手まといがいるよりマシさ」
そのメデスのぼやきに返答するようにメ無月が言った。
「それよりさ、隊長とフェイト様って意外に息がピッタリだったよね」
すると祢音が口を挟んで話題を変える。
「そうだな。喧嘩するほど仲が良いってやつか」
そして無月が相槌を打つと
「付け加えて言うと仲良き事は美しきかな、元々美しい2人がさらに美しく見えたぜ。
まさに勝利の女神だ。彼女らがいるからこそオレは戦い、勝利することができるのだ」
メデスは歩きながら腕を組み、目を瞑ってうんうんと頷いている。
「「あっそ」」
2人はしらけた目をし、メデスから数歩離れて歩いた。
その後3人は本部で各自明日に備え修行したり、寝たりするなど様々な事をして一日を過ごした。
そして任務決行日――
不親切な長老は援軍を一切よこさず3人だけで日向を殺せとのご命令。
現在3人は朝に本部を出て命令通り富士の樹海を探索中…。
オーディンから与えられたムニンとフギンが先導し、無月たちはその後を付いていく。
「まったくオレたちであの総帥に勝てんのかねぇ」
メデスは足場の悪いこの地形をひょいひょい跳ねるように歩いてぼやいている。
「こないだも足手まといが増えるよりマシだって言ったろ」
無月は樹海の散策に邪魔な草木を切り払い道を作って進んでいく。
「でもこの広い樹海を調べるには人海戦術が一番だと思うんだけどなぁ」
祢音は歩きながら何か不審物がないかと辺りをキョロキョロ見回している。
そしてそろそろ同じような景色を見ながら散策するのも面倒になってきた頃
ムニンとフギンが無月たちの背後に回り込むと
「あんたたち、私たちのボスを殺しに来たの?」
無月たちの目の前に刺客らしき女が1人現れた。
どうやら2匹のカラスは普通のカラスより危機を察知できるらしい。
「お、やっと案内役登場だね♪」
すると後ろにいる祢音から歓喜の声が上がる。
「案内役ですってぇ!?」
どうやらその女は祢音の言葉に腹を立てたようでこちら(細かく言うと祢音)を睨んだ。
「あり、怒った?」
祢音は少し退いてビビっているような動きをしたがその顔には全く恐れなどなかった。
「あなた、私の相手しない?地獄への案内役として。ふふふ…」
すると男は懐からをムチを取り出し祢音へと突きつけた。
「じゃあご指名に答えてあげる代わりに勝ったらアジトへの道、教えてもらうよ」
そして祢音も拳銃を取り出すと銃口を女へと向けた。
「2人ともしばらく離れててもらってもいい?」
「わかった」
「応援してるよん」
祢音は少し首を捻り2人に了解をとると再び女と向き合った。
「さて、始めようかしら」
女がムチを地面に叩きつけるようにして振ると
グルルルルルゥゥ
どこかで獣が叫ぶ声がする。と、
「うわっ」
そう言ったのは女と向かい合っていた祢音。ではなくメデス。
無月と祢音がメデスのいた方向を見れば、そこには3m半ぐらいあるグリズリー。
「なんでこんなヤツが樹海にいるんだよ」
メデスは振り下ろされるグリズリーの腕を避けている。
「もう1匹」
そう言って女はもう一度同じようにムチを振り音を立てる。
そうすると
「大蛇か…面倒だ」
今度は無月の背後に大蛇が現れる。その大蛇は尋常なでかさではない。
「どちらもこんな場所にはいない獣たちね」
「そう、私の能力はこのムチを振ることでどんな獣でも呼び出し操る事ができるのよ。
そしてその獣たちはただの獣じゃないわ。私を殺さない限り死ぬ事はないのよ」
女は見せつけるようにそのムチをブンブンと振る。
「じゃ、私たちも始めようよ」
「ええ」
そう言った瞬間、祢音はまず一発女に向けて銃を放った。
「そんなのが当たると思ってるの?」
女はムチを振り難なく銃弾を弾く。
「思ってないよ」
祢音はいつの間にか女の背後に回り込んでおり、そして正面、左、右の3発放った。
左右に放った銃弾はリフレクショットにより木々を跳ね返り女へと向かう。
「無駄よ」
すると女は器用にムチを振ると向かってくる全ての銃弾を弾いた。
そして祢音が正面に放った銃弾が見事に跳ね返されこちらに向かってきた。
「くっ」
祢音は向かってくる銃弾を銃で弾くと女に接近する。
「くらえぇっ!」
祢音は接近していれば弾くことはできないと考えたのか、祢音は接近してから再び放とうとしたが、
「させないわ」
しかし女は祢音は先を読んでいたようで祢音が銃を構えている時にムチを使い、器用に銃に絡ませ
取り上げると後ろへ放り投げる。
「まだだよっ」
祢音はさらに先を読んでいたのか銃が離れた右手にはすでに魔力を纏わせており、
右腕を振ると魔力はカマイタチとなり女の体に斜めに傷をつけた。
「ぐぅっ」
女が痛みに悶えている隙に祢音は女の後ろに落ちている銃を取りに行くと、
背後から女の心臓目掛けて銃弾を放った。
「ぎゃあああああ!」
そう叫ぶと女は俯せに倒れた。枯葉に女の血で染まっていく。
女を殺した事により無月、メデスがそれぞれ相手をしていた獣たちも煙となって消え去った。
「あ………」
祢音は倒れている女を見てしばらく黙ってこう呟いた。
「案内役殺しちゃったよ……」
「何やってんだよ、祢音」
呆れと蔑みを足したような顔で無月が近づいてくる。
「まぁまぁ無月、そんな顔しない」
そしてメデスもそう言いながら近づいてきた。
―そうだ。気にすることではない。我々が何とかしよう―
いつのまにかムニンとフギンが傍にいた。
「うえ!お前喋れんのかよ」
いきなり現れた2匹のカラスに傍にいたメデスはビビる。
「ていうか今までどこにいやがった」
と無月は脅す様な声でカラスたちに問う。
―この女はどこにいたかぐらい我々の能力があれば造作もない―
しかし無月の問いを無視し、フギンが言う。
「すぐにできるのか?」
メデスの問いには
―ああ、数秒で把握できる―
と返答する。
すると2匹のカラスは真っ黒な眼で女の死体の頭を覗き込むように見る。
そして10秒もしないうちに
―わかったぞ。ついてくるがいい―
とムニンが言いフギンと肩(?)を並べて正面へ飛んでいった。
「ついてくしかなさそうだね」
祢音がそう言い、3人は前を行くカラスについていった。
そしてしばらくすると
―あそこだ―
進むのを止めたムニンとフギンが見た方向には防空壕のような洞穴があった。
「あれか?」
―あの女の記憶を辿ったものだからな。文句ならあの女に言え―
「そうか。さっさと行くぞ」
ムニンとフギンを追い越し、無月が洞穴へ向けて歩き出す。
「ちょ、待ってよ」
その後を祢音、メデス、そして2匹のカラスがついていき一行は洞穴の中に入っていった。