第1部 第1話
この物語は『守護るべきもの』の続編です。
先にそちらを読んでから本編をお楽しみ下さい。
この話の舞台は西日本のどこかにある『水月島』。
島の中心に大きな湖がありそこに映る月がとても美しいとこの島を発見した人が言っていたからだそうだ。
そしてこの物語の主人公は『如月無月』と『如月祢音』の兄妹。
この島にある唯一の学校『水月学園』に通う同じ高校1年生である。
2人は兄妹と言っても複雑な事情(同作者の作品『守護るべきもの』参照)があり同年齢という事になっている。
如月兄妹の家族は父親である『如月日向』と母親の『如月桔梗』の4人家族。
両親の職業は兄妹の所属する秘密組織『オルタナティブ』の総帥と総帥補佐という役割に就いている。
オルタナティブとはそんな魔法使いたちの集う組織である。
この組織について説明すると長くなるので次回説明することにする。
そしてこの物語は前作『守護るべきもの』の3年後の5月。
春に美しく咲いていた桜が散り葉桜となり始めた頃である…
「ふぇ〜ねみぃ〜」
学園まで続く並木道を無月と並んで歩く祢音は猫背となりだらりとした目でぼやく。
歩き方もふらふらとしてどこか危なっかしい。
「おいおい、まさかお前5月病か?」
無月の方はと言うと見る限りでは疲れはみえない。いつも通りである。
「いや、それだけは否定したい…」
学園に近づき、無月が祢音に注意する。
「そろそろしっかりしろよ。だらしないトコを見せてもしょうがないぞ」
「うん、わかった」
というと先ほどのダラダラとした祢音はどこへいったのか、
今の祢音は背筋をピシッと伸ばしいつも通りとなると学園の友達と挨拶をしている。
2人は1−Aの教室に入り個々の友達と挨拶すると自分の席に座る。
授業に入ると付属の時よりはマシになったものの無月は授業中寝る事がまだある。
「おい如月!」
数学教師の怒声で教室内が沈黙に包まれる。
厳しい声で如月と呼ばれるのは大抵兄である無月の方とわかりきっているので
祢音は無月を見てちょっとした苦笑いをする。
(だらしないのはお兄ちゃんの方だね。ま、いつもの事だけどさ)
「起きろ!如月無月!!」
数学教師はど真ん中にある無月の席まで行くと、
持っていた教科書で寝ている無月の頭を叩こうとするが
パシッ
と無月は教科書を手の甲で攻撃を受け止めた。
「わかりました。起きますよ。ふあ〜あ」
小さな欠伸を1つするとシャーペンを持つ。
「ささ、授業続けてくださいよ」
と何事もなかったような顔で教師を見る。
「ちっ」
教師の舌打ちが沈黙の教室に響き授業が再開される。
付属の時はそのまま殴られて起きていたが現在はそうはいかない。
付属3年の頃からは教師達の攻撃をことごとく受け止めている。
そして昼休み、無月、そして友達以上親友未満の康宏、祐介の3人は食堂で昼食をとることになった。
「空いてる席がねぇな〜」
今日は珍しく人が多い。空いてる席を探すのが難しくなっている。
「あ、あそこが空いてるみたいだよ」
祐介の視線の先には丁度3人分空いている席が見つかった。
「じゃ、そこにしようぜ」
他で席を探している康宏を呼び出すとその席に向かう。
「お、お兄ちゃん!?」
無月の座った席の隣には祢音と向かい合わせに祢音の友達が座っていた。
「なんだ、お前も食堂にいたのか」
「まぁね。それよりお兄ちゃん、いい加減授業中に寝るのやめたら?」
と言ってエビフライを頬張った無月に詰め寄る。
「勉強がつまんねぇんだからしょうがねぇだろ」
エビフライを飲み込むと無月はどうでもいいような言い方で言葉を返す。
「は!できるヤツの言うことは違うね」
向かい合わせに座る康宏が嫌味ったらしく言う。
「それよりもさ。付属の終わりの方から先生達の洗礼受けなくなったよね。
あれって本当に寝てるの?」
祢音と向かい合わせに座る紫髪のショートカットの女の子、千春が話しかけてくる。
補足として言うと無月と祢音は一緒にいることが多いので
無月の親しい友達は祢音の友達、祢音の親しい友達は無月の友達である場合が多い。
「ちゃんと寝てるよ。勝手に体が動いちまうんだよな」
「便利な体だね」
と言って祐介は箸をくわえながら無月の体を眺める。
「だけどそのまま叩かれてる時より妬まれるようになったんじゃない?」
「ま、寝てる授業は少なくなったから敵は少なくなったっぽいけどな」
と無月は1本目のエビフライを食べ終える。
「でも気をつけなよ?調子にのってるから上級生達が気にくわないって言ってるらしいよ」
とオムライスを一口を食べ、祢音は横目をすると
「ほらきた」
と言った。
祢音の見た方向を見ると茶髪にネックレス、ピアスに学ランのボタン全開という
ありきたりな不良生徒が5人、進行方向にいる生徒が避けることでできた無月たちのいる席まで続いた道を歩いてこちらに向かってくる。
「おい、如月無月ってのはどいつだ!?」
無月のいる席まで来るといきなり怒鳴って聞いてくる。
「あ、オレですけど」
無月は手を挙げて立ち上がる。
「ちょっと顔貸せや」
先頭に立つ不良のリーダーらしき人物(以下不良A)は無月の胸ぐらを掴んで言う。
「はい。わかりました」
そう言って素直に従い、食堂にいる生徒が見守る中食堂を後にした。
「大丈夫かな?」
無月を見送った後、千春が祢音に問う。
「大丈夫なんじゃない?」
祢音は全く心配のないような投げやりな声で答える。
「でもよ。あの人たちってこの辺で一番強いって噂だぜ?」
康宏が祢音に忠告するように言う。
「まぁ、お兄ちゃんなら心配ないよ」
祢音はオムライスの最後の一口を食べ終えるとトレーを持って返却口まで歩き出す。
「ふ〜ん」
祐介は食堂の出入口を見ていた。
無月が呼び出されたのは体育館裏。
「容姿といい、呼び出し方といい、場所といい、ありきたりだねぇ。
こんなんじゃ読者は喜ばないよ」
「ああ?読者って誰だ?」
「さあね」
「まあいい。聞いた限りじゃお前最近調子こいてんじゃね?下級生のくせしてチャラチャラしてよー?」
無月の姿はボタンを2つ外してネックレスをしてはいるものの授業中寝ている以外に目立った行動はなかった。
「ま、先輩達が気に入らないんでしたら……どうします?」
と無月はにやけて挑発的な態度にでる。
「ぁあ!?てめぇ調子こいてんじゃねぇよ!!やっちまえ!!」
リーダーの指示を受け不良Eが無月の顔面めがけ殴りかかってくる。
「そうしますか」
無月は1人の攻撃を受け流すと鳩尾に膝を入れる。
「ぐあ…」
不良Eは鳩尾を押さえて崩れ落ちるように倒れる。
「てめっ!」
続いて2人目不良Dが向かってくる。
無月は不良Dの攻撃を柔らかく動いて次々を避け続け
「これで2人目」
と素早く背後に回り込むと首筋めがけて手刀を放つ。
「うっ…」
手刀を受けた不良Dは気を失いその場にばたりと俯せに倒れた。
「この野郎…」
どこから持ってきたのか鉄パイプを持って不良B、C2人が揃って向かってくる。
不良Cが無月にむかって鉄パイプを振り下ろす。
「太刀筋がなってないな」
振り下ろされた鉄パイプを素手で捕らえると腹を蹴って鉄パイプから不良C引き離す。
「見本ってのをみせてやるよ」
続いて不良Bが振り下ろす鉄パイプを受け流すと臑を狙って一撃叩き込む。
「いってーー!!」
不良Bは叫び、地面をのたうち回る
「大丈夫、骨までは折れてねぇから」
のたうち回る不良Bから不良Aに視線を向けると無月は妖しく笑って言う。
「残るは大将ただ1人」
「ちっ、やりやがったな」
リーダーの不良Aは懐からサバイバルナイフのような鋭い刃物を取り出す。
「ケガしてもしらねぇぞ!」
不良Aは走りながらナイフを無月に突き出すが
カキィン
という鉄パイプでナイフを弾く金属音を立てる。
ナイフは無月の真上を回転しながら飛んでいる。
ナイフが宙を飛んでる間に鉄パイプを離すと落ちてきたナイフを見事に掴み、
何が起こったのかわからず呆然としている不良Aの首筋にナイフを突きつける。
「これでもやるか?」
と言って白い歯を見せて笑う無月。
「ちっ」
不良Aは舌打ちをするとその場に座り込んだ。
「お前ら!何をしている!」
無月の後ろで誰かの叫び声が聞こえる。
振り返ると何人かの男性教師がこちらに走ってくる。
食堂にいた誰かが呼んだのだろうか。
「これはお前がやったのか?」
午前中無月を叩こうとした数学教師が聞いてくる。
「ああ、オレですけど。先に言っておきますが正当防衛ですよ?
あっちから仕掛けてきたんですし、
それに過剰にならないようさほど強くやってないですから」
けろっとした顔で無月は何事もなく言う。
「ああ、そうか・・・」
この5人を倒したのが信じられないのか、数学教師は力の入ってない声で答える。
「じゃ、オレはもう行きますね」
「ああ」
教師の了解を得ると無月は昼休みは終わろうとしていたので、
食堂には行かず自分の教室に向けて足を運んだ。
「ほら、大丈夫だったじゃん」
教室に入ると同時に祢音の呑気な声が聞こえる。
「ホントだ」
という千春の声も聞こえた。
無月は自分の席につくなり
「あ〜〜しまった〜〜」
と顔を伏せて何かを悔しがる。
「どうしたんだよ」
康宏が問いかけてくる。
「エビフライ1本しか食えなかった…もう1本あったのに」
「あっそ」
心配して損したと言って康宏も自分の席についた。
そしてその日のHR後正当防衛とはいえ教師を呼ばず喧嘩をしたということで
こってりしぼられ、気力を大幅に失った無月はいつも通り祢音と家路についた。
「お兄ちゃん、余り敵を多くするような事はしないでよ」
「ああ、気にすんな。お前に危害が及ぶ様な事はしねぇからさ」
「や、そーゆーわけじゃなくてさ」
「ん?違うのか?」
「まぁそれもあるけどさ。でもお兄ちゃん疲れるんじゃない?」
「大丈夫だって。ただの人間ごときに使う体力なんてたかがしれてる」
「ならいいけど」
話が一区切りついたところで無月の携帯から着信音が鳴る。
無月は携帯を取り出しディスプレイを見る。
「ん?親父からだ」
どうやら来たのはメールのようで無月はしばらく見ると
「仕事だ」
「そ」
と言って2人は少し早足になって家に向かった。




