『都合の良いところだけ突き詰めていくとそのような言葉になるのですね』
公爵令嬢は常にクールフェイス。
婚約破棄の件は承りました。
思うところはありますがユハイム殿下の決断を尊重します。
あとで婚約破棄を取りやめるなどとおっしゃられることはないと思いますが正式な書面にしましょう。お互いのためです。
はぁ、「そこまでしなくても良い」と?
お言葉ですがユハイム殿下、これは「そこまでしなければならない」ことなのです。
ずいぶんと軽く考えてらっしゃるご様子……いいえ、なんでもありませんわ。
書記官を呼びますのでしばらくお待ちください。
――数十分後、要約。
『ユハイム殿下は自身の都合でグロッケン公爵令嬢との婚約を破棄する』
『グロッケン公爵令嬢はユハイム殿下に全ての業務引き継ぎを行う』
『婚約破棄に関する事後処理取はザネトル陛下とグロッケン公爵が話し合いをする』
同じ内容の書面が三通、内容を確認の上で本日の日付と署名をお願いしま……まあ! もうよろしいのですか?
「最後くらいお前を信じてやる」ですか。ありがとうございます。
ではこちらを。
ひとつはユハイム殿下の控えで残りは王宮書記官と私のものです。
私、平然としているように見えるでしょう?
実は現在進行形で混乱状態ですわ。
表情が変わらないのは王太子妃教育の成果だと思っていただければ。
さて、今後の話をしましょうか。
ユハイム殿下の腕にぶら下がってるウムクヘン子爵令嬢が暫定的に私の後任となるわけですが引き継ぎ資料ができておりません。
最速で完成させますので三日ほど猶予をいただきたく存じます。
は? 「引き継ぐ必要はない」ですって?
お戯れを……婚約者の席から降りた私が公務を継続することはできません。
ユハイム殿下に全ての資料をお渡ししますのであとはそちらで振り分けて下さいませ。
婚約破棄については今夜中に父であるグロッケン公爵に伝えますのでユハイム殿下も同じようにお父様である陛下へお伝えください。
おそらくたいへんお怒りになるはずですので心構えをしっかりと。
「なぜそうなる?」と聞かれましても……それは私からお話することではないですね。
ウムクヘン子爵令嬢に於かれましては一週間分の着替えを用意することをおすすめしますわ。
王太子妃宮もしくはユハイム殿下の執務室があなたの居場所になるはずですから。
まあ! そんなに幸せそうなお顔をされるなんて。
私もつられて微笑んでしまいそうになるではないですか。
陰ながらウムクヘン子爵令嬢のご活躍を期待しますわ。
私は王太子妃宮での最後の勤めを済ませたら領地へ戻りますので、その後は全て書面でのやり取りにしましょう。それが一番だと思います。
ではどうぞ、お幸せに。
ふたりに背を向けた公爵令嬢の足取りは羽のように軽く。




