第58話 個人戦
~~ 突入 一時間前 ~~
「まった!」
鬼ヶ島へ出発する前に、あたしはみんなを呼び止めた。
「待てってなんだよ、七星? お前のことだ。怖気づいたとかじゃねえのは確かだが?」
ドワ女のトロちゃんが、振り返る。
「あのさー。この際だけどさ。鬼怨組なんて無視して、あたしらで暴れない?」
あたしの提案に、みんなが首をかしげた。
「どういうこと、モモ?」
「つまりさ、鬼怨組にはフィールドだけ貸してもらうんよ。ルールは【殲滅】ルールそのままでいいからさ、敵味方関係なくぶっ潰し合うの。あいつらとの決闘じゃなくて、あたしらが勝手に暴れまわるの」
あまりに突拍子もない内容だったからか、全員が口を空けて唖然となっている。
「それは、【個人戦】ってこと?」
「いうたらー、そうかなーっ?」
はるたんからの問いに、あたしはうなずいた。
ダンジョン部は普通、団体で行動するものだ。
しかし今回は、個人戦を繰り広げる。
鬼ヶ島は、あくまでもフィールド。単なる舞台としてしか考えない。
またそこに巣食う鬼共も、敵としてではなくて、ただのモブとして処理していく。
「えらい大胆な考えだね。共倒れになったら、相手の思うつぼでは?」
愚地三姉妹の三女、青葉が難色を示す。
「でも、面白いっす。そういうギリギリの戦い、最高っす」
対照的に、ドワ女の二年、パニさんは肯定的だ。
「だってさ! このままじゃ、荒らしがずっと目立つことになっちゃうじゃん! ムカつかん?」
このまま戦えば、イバラのヤツらは英雄となってしまう。
勝てば行為を正当化され、もてはやさる。
負けたとしても、「時代を動かしたカリスマ」という扱いを受けるかもしれない。
「荒らしたもん勝ち」のような空気が、各地の掲示板でも漂っている。
それが、あたしにはガマンならなかった。
「たしかに鬼怨組のやり方は、プロレスの盛り上げ方なのだ」
デリオン姫が、意見する。
「いわゆる『煽り用VTR』みたいなのだ。とにかくビッグマウスで因縁をぶつけて、対立を煽って、場を盛り立てるのだ」
「うん。あたしの、下のねーちゃんが格闘家だから、わかる」
そう考えて、あたしは怒りを覚えた。
ああいうのは下の姉のように、ちゃんとプロレスができる関係性だからこそ成立する。
まったく打ち合わせのない同士がやっても、怨恨が膨らむだけだ。
得をするのは、ケンカを売ったほう。それはまさしく、犯罪者の理屈ではないか。
冗談じゃねえ。あいつら、絶対に許さん。
だからあたしは、鬼怨組を目立たせない。
アイツラはフィールドをうろついているモブとして、処理させていただく。
「このままイバラと戦ったらさ、『相手を煽ったら、こんな盛り上がる試合になるのか』っつって、便乗犯がわんさか現れるかもしれんのよ。あいつら、ただの荒らしなのによぉ」
なんだかんだいって、炎上はマネをされる。
そうなればダンジョン活動なんて、たちまち無法地帯と化す。
実に面白くない時代が、始まってしまう。
「たしかにそうね。あんな奴らは、普通はスルーが安定だし」
「だろ? 相手するのも、アホくさいんよ」
「僕は、七星さんのいうとおりだと思う。たしかに、鬼と勇者の因縁は深い。それこそ、桃太郎の時代から続いている。それでも、もう昔の話だ。今でも引きずってどうなんだ、と思う。みんなはどうだろう?」
野呂先輩が、勇者連合高校から意見を募る。
「オレは賛成だな。ていうか、ほんとに戦いたい相手は、洲桃なんだよね」
ピオニが、あたしを指さしてきた。
それだけで、あたしはビリビリと身体がしびれてくるのを感じる。
「そうだろ、ピオニ? ダンジョン部で合宿なんだから、最後くらい派手に暴れたいじゃん。敵味方関係なくてよお!」
「それがやりたくて、来てっから」
「わかる。ピオニ。ホンマお前とは、生き別れの姉妹じゃないのかって思う時がある」
あたしは、ピオニと握手を交わした。
これなんだよ、あたしが求めていたのは。
たしかに「絶対に倒さなきゃいけない、因縁の相手」がいれば、ドラマは盛り上がるだろう。
だが、「勝てるかどうかわからない、強敵」とやり合うほうが、面白い。
緊張感が、まるで違う。
それを邪魔してきたから、あたしは鬼怨組には嫌悪しか感じない。
「モモ、どうして急に、あんな提案を思いついたの?」
「配信で、デリオン姫が言ってた言葉から」
『荒らしに反応するのも、荒らし』というセリフが、あたしの中でどうもひっかかっていたのだ。
「あたしの【ドラゴンキラー】だってさ、アンチな鬼をぶった斬るためにあるわけじゃないし」
そもそも、ドラゴンキラーを買った目的は。
~~~ *** ~~~
「ピオニィ!」
「洲桃ぉ!」
ピオニの銃撃を、あたしは剣で撃ち落とす。
もう、イバラなんて視界にすら入っていない。
これなんだよ、あたしが求めていたのは。
たしかに「絶対に倒さなきゃいけない、因縁の相手」がいれば、ドラマは盛り上がるだろう。
だが、「勝てるかどうかわからない、強敵」とやり合うほうが、面白い。
緊張感が、まるで違う。
それを邪魔してきたから、あたしは鬼怨組には嫌悪しか感じない。
[フロアボス【イバラ】を討伐しました。ダンジョン【鬼ヶ島】は制圧されました]
「知ったこっちゃないわよ」
はるたんが、ピオニの召喚獣から降りた。イバラが落としたダンジョンコアを、拾う。
[【金盞花 晴子】が、【鬼ヶ島】のダンジョンコアを手に入れました。これにより、ダンジョンの支配者は、金盞花 晴子となりました]
「これで、もうちょっとだけここで遊べるわね」
このルールが、個人戦の怖いところだ。
個人戦は……最後の一人になるまで終わらない!




