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品行方正で通っている幼馴染兼婚約者がキレる話

作者: 夏目羊

「今日のラグナート様もそれはもう素敵でしたのよ! 微笑んだお顔がとても格好良くて……ミルカさん、聞いていますの?」



 救護科のヴィオレッタ・ブランシュさんは今日も今日とて私に絡んでくる。大抵はイグニス・ラグナートに関する話題で、というかそれ以外の話題で彼女とは話をしたことがない。

 昼休みのことである。私は同クラスに在籍している幼馴染と一緒に食堂へ来ていた。ピークの時間ではなかったので比較的席は空いていて、私達は遠慮なく贅沢に二人で四人席に座って各々購入したサンドイッチを食べようとしていた。そんな折にやってきたのがヴィオレッタさんである。

 勝気な瞳が印象的で、やや高飛車な感じのあるヴィオレッタさんはここ最近私達が昼食をとっていると乱入してくる面白い人だ。



「あなたがラグナート様の婚約者?」

 数ヶ月経った今でも細部を思い出せる。その時の彼女は腕を組んで背筋を伸ばし、睥睨するかのように私を見ていた。物理的に見下げられながらの一言。

 ファーストコンタクトはそんな感じだったので私は咀嚼していたサンドイッチを喉に詰まらせたし、一緒にいた幼馴染は飲んでいた紅茶がうっかり気管に入ってしまったようで咽せながら笑うという中々に器用な反応をしていた。

 救護科のヴィオレッタさんはどうやら騎士科に在籍する私のもう一人の幼馴染(彼女が言うところの私の婚約者)とペアを組んで、彼のことをいたく気に入ったそうで。

 猪突猛進の気があるヴィオレッタさんは、なんと告白するところまで行ったらしいのだが、その際、苦笑したイグニスの口から発せられた「婚約者がいるんだ。すまない」という一言で「ならその婚約者とやらを見定めさせていただきますわ!」となり私を見定めにここ数ヶ月、遠い第二食堂までわざわざ来ている次第なのである。どの立場の誰? とバカ正直に聞かなかった私は相応に混乱していたのにも関わらず存外平静さを保てていたようだ。


 この数ヶ月間、よくよく話を聞いてみればヴィオレッタさんのイグニスへの愛情表現はまぁ可愛らしいもので、なんというか、美貌の王子様のその美しさ優雅さを称賛するような……そう、信奉者のような慕い方をしていた。

 一度だけ、同席していた幼馴染が面白半分に「ヴィオレッタさんって、すごくイグニスのことを持ち上げてるけど恋愛的な意味合いで好きなの?」と婚約者たる私の前でそんなことを聞いたことがあった。デリカシーのない幼馴染だ。そんな不躾な問いに、ヴィオレッタさんは(少々ぶっ飛んでいるが良識の持ち主なので)「ご婚約されている方にそんな不埒な気持ちは抱きません!」と答えたので、悪魔の囁きを天から受けた私は「じゃあ婚約者がいると知らなかった時には懸想をしていたのですね」と意地悪く突っ込んでしまった。彼女は私の言葉を受け、唇を噛んでぷるぷるしながら赤くなったのでそれ以来私はヴィオレッタさんのことがとても好きになってしまったのだった。ヴィオレッタさんかわいい。


「はぁ、今日もブランシュさんは面白かったな」

 ランチを済ませヴィオレッタさんと別れた後、廊下を歩きながら幼馴染のリアンはにこにこと笑っていた。彼は私と同じくヴィオレッタさんのことがお気に入りなのだ。


「白熱するのはいいけど、救護科の教室は遠いから時間配分を決めてほしいよね。彼女は真面目だから、講義に遅れちゃったら気に病みそうだし」

「君のさぁ、そういった態度がまた彼女が白熱する要因なんだろうねぇ。張り合いが無さすぎる。もっとなんかこう、無いの?」

「無いのって聞かれても……クッキーをあーんって差し出したら怒り恥じらいながら食べてくれる女の子相手に思うことなんて可愛いな、ぐらいだけど……」


 リアンは半目でじっとりとした視線を寄越してきたけど本当にそんな感想しか抱いていないのだからそんな目で見られても困ってしまう。


「あ、ほら台風の目」


 何かに気付いた様子の、リアンのその言葉につられて視線を動かす。目に留まったのは騎士科の運動着を身にまとった小集団が少し先の廊下を歩く様子だ。これから演習場に向かうのだろうか。小集団の先頭にいた、一際背の高い男がこちらを無表情に見やった。ほんの数秒だけ視線が交わり、外され、瞬きの間に彼は穏やかな微笑を学友に向けていた。


「見事な無表情だったね」

 リアンの言葉に私はそうだね、と返した。


 イグニス・ラグナートの一族がおさめている領地は穏やかな海に面していて、王都とは離れていたけれど様々な物品や人の流れ等々が盛んな土地だった。そんな栄えた領地と隣り合った場所にあるのが私の家がおさめているルーン領だ。山の連なりが土地の多くを占めており、その山々は金が出るわけでも石炭が出るわけでもなく、まぁ平たく言えばほとんど何もないような場所だ。

 王家の覚えめでたいラグナート。騎士を輩出する以外であまり話題にあがらないルーン。だから家格を思えば釣り合わないと言われてもおかしくないのだけれども、私達は確かに婚約者だった。婚約を結んだのは小さな頃で、だから様々な可能性を考えて婚約の解消はスムーズに出来るよう取り決めが為されてる。しかし婚約は解消されることなく、この歳まで来てしまった。このまま何もなければ卒業後にはイグニスの伴侶となることが確定する。異存は無かった。イグニスとは良好な関係を築けていたし、イグニスのことは幼馴染への情以上に想っていたので。



 放課後。ヴィオレッタさんと同じく救護科の制服を着た女の子たちが数人、私の前に立ちはだかっている。こちらを見ながら何かを言っていたので何かな? と思って様子を伺ってしまったのは間違いだった。


「あなたがラグナートさんの婚約者のミルカ・ルーン?」


 なんとなくデジャビュ。いやしかしヴィオレッタさんは誇り高い女の子なので一人でいる私を友人と共に取り囲んで詰問する、みたいな手段は取らなかった。良くも悪くも真っ直ぐなのでなかなか憎めない人なのだ、ヴィオレッタさんは。ヴィオレッタさんに思いを馳せていると「話、聞いてる?」と苛立たしげに睨まれた。

 名乗られないので制服の感じから目の前の三人が救護科二年の人間であることしか分からない。リアンがこの場にいたら「また! こんなフィクションみたいな目に遭うなんて! 災難だね!」と大いに笑って場の空気もぶち壊されるんだけど、悲しいかな彼は委員会の仕事でここにはいない。


「合ってます。ミルカ・ルーンです。何かご用ですか?」

 私のしらっとした態度に彼女達はムッとしたようだった。「今時婚約なんて」と一人が呟く。今時婚約をするカップルは少数派なのだ。家と家の繋がりは昔ほど重視されなくなり、恋愛結婚が普通になってきている。ただまぁそれが目の前の女の子達と私に関係のある話だとは思えないけど。


「ご用件はなんでしょう?」


 ぴしりと背筋を伸ばして相手方を見据える。すると名も知らない女の子たちは少しだけたじろいだ。勇敢な一人が「あなたが姫と騎士様の邪魔をするから……!」と苦々しげに呟いた。姫と騎士様?

 正直に小首を傾げれば私の反応が潤滑油になったようで今度は他の子が喋り出す。


「そうよ! ブランシュさんとラグナートさんは本当にお似合いなんだから……!」

「合同授業の時、いつもペアを組んで微笑み合うお二人の姿は本当に尊くて」

「な、なるほど……」


 とてつもない熱気を感じる。ここにもヴィオレッタさんとはまた違ったタイプの信奉者が。


「ヴィオレッタさんのお友達さんは、私とイグニスに別れて欲しいとかそういう感じですか?」


 女の子たちは顔を見合わせた。


「別にそこまでは思ってないわ!」


 ……思ってないんだ。じゃあ婚約者を見に来ただけ?


「それとブランシュさんとはお友達ではないの! あんなに尊いお方と話をするだなんて恐れ多くて……!」


 じゃああなた達は一体誰なんだよ……

 なんだかドッと疲れてしまった。精神的な疲れでまるまりそうな背筋に活を入れて私は表情筋を動かした。もう帰りたい。


「すみません、用事がありますのでまたご用があれば後日お願いします」


 そう言って頭を下げる。何か言われる前に逃げるべし。ぐるりと踵を返し、早足で廊下を歩いていく。背中になんやかんやと声がかけられるけど聞こえないふりをして無心で進む。無駄の多いルートで完全に撒けるように。ひたすらデタラメに歩いて、よし、と思い人通りの少ない廊下で振り返る。と、そこにはいないはずの人がいて危うく心臓が止まるところだった。

 後ずさることを許さないように、腕が掴まれる。

 にこ、と婚約者はきれいな笑みを浮かべていた。


「途中から俺を撒くために歩いていただろ」


 ばれてた。実はちらっと見えていたのだ。彼女たちと話している途中でこの婚約者殿の姿が。

 イグニスに真っ直ぐに見つめられると弱い。肯定すれば彼は嬉しそうに笑った。そしてそのまま機嫌の良さそうな様子で私の手を引いて歩いていく。どこに連れて行くつもりなんだ。


「ブランシュと組んでるのはいつもブランシュがミルカの話をするからだ」


 脈絡のない言葉だったがピンときた。さっきの会話はきちんと聞かれていたようだ。


「盗み聞き……」

「言っとくが、俺とブランシュの仲を疑うような噂は聞き次第否定してるからな。ミルカと婚約してるからそれはありえないって」


 イグニスはふんと鼻を鳴らした。普段の、微笑みの似合うその様子から、爽やかでかっこいいだとかそんな評価を得ている彼の本性はこれだ。余計な軋轢を生まないよう、学園では常時猫を被っているのだ。


「わざわざそれを伝えにきたの?」

「……わるいか? 俺は別にどう言われようが心底どうでもいいけど。煩わしい噂が婚約者殿の心を煩わせて俺との結婚に支障が出たら嫌だから」


 ひたりと見据えられると居心地が悪い。


「腕、離して」

「離したらどうする?」

「寮に帰る」

「ははは」


 曲がり角を曲がって人がいないことを確認するとぎゅうぎゅう抱きしめられた。今更恥ずかしさなんて湧かないけど、照れくささは少しだけある。


「ここ学校だから。不純異性交遊禁止」

「こうしてこまめに不純異性交遊をしとかないと、普段抑圧されているぶん一緒に領地へ帰ったときにもっと不純な異性交遊をしたくなってしまうだろ」 

「それは義兄様と兄さんが許さないと思う」

「だからここで存分にイチャついておくんだ」


 ぐわっと私を持ち上げてぐるりと一回転。ダンスを踊るようにイグニスは私を振り回して楽しそうだ。


「はは、帰りたそうな顔してる」

「そうね」

「さよならの挨拶をしてくれたら寮までエスコートしよう」


 抱き上げるような体勢のまま、挑むような視線が私を見上げる。込み上げてくる愛しさが、うっかり言葉として出ていきそうになってしまった。誤魔化すように頬に唇を寄せると嬉しそうに彼は笑ったのだった。


 ☆


 噂は早くおさまってくれるだろうと思っていた。イグニスやヴィオレッタさんが噂の否定をしていたし、放課後には時間が合えば学園から寮までの短い道のりをイグニスは送ってくれていたから。イチャイチャしてるところを見せつければ、流石にみんな分かるでしょ、というのが私ともう一人の幼馴染リアンの見解だったがその予想は見事覆されることになる。


 みんな、ゴシップに飢えているんだろうか。

 曰く。イグニスとヴィオレッタさんは運命の恋人であるが出会うのが遅過ぎたためイグニスには既に婚約者がいた。二人は心を痛めて、けれど世に誠実であろうと互いの想いについては秘めつつも合同授業の間だけペアを組み、寄り添い、その切ない恋心を温めているのだという。

 学園のカフェテリアでお茶をしていたら突撃してきた親切な人々に聞いた話である。


「世の中に誠実であろうとする前にまずは婚約者に誠実であろうとするべきでは……?」

「ンッフフ」

「笑ってる場合じゃないでしょ。リアンも噂に巻き込まれてるから。私と付き合ってることになってるのよ」

「いやぁーー、ある程度はイグニスも織り込み済みだと思うけど……あんまり度が過ぎると歯止めがきかなくなりそうだよね」


 私が進学したいと言ったとき、一番に反対をしたのは家族ではなくイグニスだった。


「変な虫が寄り付いたら困るだろ」


 虫だって寄りつく先は選びたいでしょう、と説得してみたものの頑として受け入れてくれなかったが義兄様と兄さんと遊びに来ていたリアンが説得をして、「将来イグニスを手助け出来るように領地経営を学びたいんだ」と照れくさくてなかなか言えなかった進学希望理由を切々と訴えれば苦虫を噛み潰したような表情で「じゃあ休み時間はミルカと過ごす」と言う。騎士科と経営科の教室は棟が違うこともありかなりの距離がある。同じ学園内と言えど休み時間ごとに一緒に過ごすのは現実的ではない。


「イグニス……領地のためにも他の家門の人とも交流をしなきゃ駄目だぞ。ミルカにかかりきりになったらそんな貴重な機会もパァだ。もったいないだろう」

「アイク」

「ミルカの面倒を見てくれようとしてるのはありがたいけどな。兄としてはこのぼんやりした妹が学園でやっていけるか心配だし」


 そういうわけで兄の言うことをすんなり聞いた彼は「じゃあリアンが盾になれ。同じ経営科に通うんだろ」とリアンに無茶なことを言ってその話は終わったのだった。


「もっと大々的に付き合ってますアピールをした方がいいのかな」

「イグニスも喜ぶし、やってみる価値はあるんじゃない? ほらこれからブランシュさんにしたようにクッキーをあーんってしてあげるとか」


 私の言葉を受け、クッキーを食べながら適当な調子でリアンは言った。

 領地内であれば私達の仲を知らない人はいなかったけれど、ここは領地から離れた学園内で、ほとんどが私たちの仲をよく知らない。愛らしいヴィオレッタさんとイグニスが並んでいるのを見てみんながそういった娯楽めいた刺激的な噂に当事者たちを巻き込んでしまうことは、仕方のないこととは言えないが納得できる部分があった。

 だから、これからイグニスとヴィオレッタさんを交えて作戦会議をすることにしたのだ。人目につくところで話題の四人が仲睦まじくお茶をする。それだけでドロドロの噂が少しでも浄化されたら良い。そんな希望もちょっぴりある。

 ふぅ、と息を吐いて紅茶を口に含む。おいしい。紅茶の美味しさにぼんやりしていると視界の端に人影を捉えた。男子の制服。イグニスかなと思って目線を上げるとそこには知らない男子生徒が立っていた。いや、知らないと言うと語弊がある。数回、イグニスと一緒にいるところを見たことがあった。

 リアンに問うように目線を向けてみるけど無言で首を横に振られる。リアンに心当たりは無いみたいだけど私にだって心当たりは無い。男子生徒はにこにこ笑って人畜無害の雰囲気を醸している。


「ミルカ・ルーンさん?」

「そうです」

「良かった、そうだよね。そちらはお友達のリアン・リベラ君だ」

「そうですよ。それで、あなたは誰ですか?」


 リアンは普段の人当たりの良い笑みを引っ込めて探るように男子生徒を見た。


「騎士科一年のベルナール・スタインです」

「スタインっていうと東側の……」

「西のルーンの噂はよく聞いてます」


 東の王都近くのスタインも優秀な騎士を輩出することで有名だ。同年代に子供がいるとは聞いていたけどイグニスが何も言わないから彼が友達だとは思わなかった。


「イグニスから自分のことは何も聞いてない?」

「特には」

「へぇ……同じく騎士を出すことで有名な家門の者同士ルーンさんと仲良くしたいんだけど、イグニスがなかなか紹介してくれなくて」

「そうなんですね」

「君のお兄さんのアイクさんにお世話になったことがあって……座っても良い?」

「ダメに決まってるだろ」


 当然のことのように割り込んできた拒否の言葉にスタインさんが驚きに固まる。チッ、という舌打ちの音はやけに大きく響いて聞こえた。


「イグニス」


 背後を振り返るとイグニスがヴィオレッタさんを伴ってやってきていた。イグニスの隣のヴィオレッタさんは、口元に微笑を湛えながらも機嫌の悪そうなイグニスに対して驚いた猫ちゃんのように目を見開いていた。


 向かいに座ってコーヒーを啜っていたリアンはそそくさとイグニスから距離を取るように私の隣の席に移動した。小声で「久々の暴君だ」と囁く。学園では品行方正で通ってる幼馴染がキレた。相当にお怒りらしい。ずんずん歩いてこちらにやってくる。貼り付けていた微笑はすっかり剥がれ落ち、近くまで寄ってきた彼は私の背後に立ち座っている両肩に手を置いた。目を白黒させたスタインさんがいつもと様子の違うイグニスに対して引いたように距離をとった。


「ヴィオレッタちゃんといい感じだっただろ、イグニス」

「適切な距離はとっていただろ」

「お前がルーンさんを遠目から見るとき、いつも無表情だし」

「俺が浮ついた表情でミルカを見てたらお前たちがミルカに興味を持つかもしれないからな」


 スタインさんは私を見たあと、いつのまにかヴィオレッタさんの隣に移動していたリアンを見る。お手上げだとでも言うように、やれやれと肩をすくめてみせるリアンを見てスタインさんはぽかんと口を開けた。


「どいつもこいつもなんで放っといてくれないんだ? 婚約者がいる、ブランシュとは付き合っていない、ミルカとリアンは当然付き合っていない。俺の婚約者はミルカだ。一回言って理解してくれないか? 何度も何度も何度も何度も……ころすぞ……」


 とうとう殺人予告が飛び出てしまった。


「分かったら散れ。今すぐ」


 ちょっと気の毒そうな視線を私に向けたスタインさんはイグニスに視線を戻して「あの、お前のこと、誤解してたよ。いけすかない優男だと思ってたけど、そんなに必死になるほどルーンさんのことが好きなんだね……でも普通にアイクさんとは交友をもちたいからルーンさん、以後お見知りおきを」と言って去っていった。

 イグニスはしっしと犬を追い払うような動作で彼を見送っている。二人のやりとりからして、結構親密な関係なんだろう。それこそ、多少乱暴な態度で追い払っても大丈夫なくらいに。学園に来てからのイグニスの交友関係について、あんまり彼が開示をしないので友達がしっかりできているかよくわからなかったけど、ちゃんと気安い態度でいられる友達が出来たみたいで良かった。流れるように彼は私の隣に座り、リアンが未だ衝撃を受けてぎこちない動きのヴィオレッタさんをエスコートして私の目の前の席に座らせる。衝撃が抜けきらないヴィオレッタさんは、うかがうように私を見た。


「ヴィオレッタさん。微笑んでなくても、舌打ちしちゃって不機嫌そうでもイグニスって素敵でしょう」


 私の好きな人はこんなにかわいい。私しか知らない素敵なところは沢山あるから、これくらいは誰かと共有したって問題はない。


 ヴィオレッタさんは笑っている私をまじまじと見て「ミルカさんもラグナート様のことが本当に好きなんですのね」と呆気にとられたように言う。


「その割には噂で嫉妬とかはしてくれないけど」


 ぽつりと拗ねたようにイグニスが呟いた。

「イグニス」

「うん?」

 呼びかければ、拗ねていても返事はきちんと返ってくる。こういうところが本当に好きだなと思う。


「あなたが私のことをしっかり好きだって自信があるから、私は嫉妬しないよ」


 笑って頬に親愛のキスを贈って、顔を離して彼を見つめる。今度は少年のように笑った彼が私の頬にキスを贈ってくれた。


「まあ……!」

「あんまりいちゃつきすぎてもお兄さんたちに報告しますからねーーほどほどにしてね」


 ヴィオレッタさんのきらきらした眼差しとリアンの呆れたような視線を受けながら、私とイグニスは笑いあったのだった。


 その後のこと。四角関係の噂は程なく収束したが、今度は私とイグニスの噂が出回った。

 曰く。ミルカ・ルーンに手を出そうとすると普段品行方正なイグニス・ラグナートがキレて番犬の如くすっ飛んでくる、と。

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ヴィオレッタさん面白可愛いw。
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