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ARES ― 無名戦士になれなかった英雄達 ―  作者:


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第一分隊

静まり返った隊舎内に霧島と梁兵曹長の軍靴の音が規則的に響く。その反復する固い音は隊舎の無機質さを強調した。


「まずは、第一分隊が訓練中の射撃場に向かいます。」


梁兵曹長が口を開き、二人の間にあった静かな空気がわずかに揺れた。


霧島は意外に感じつつ、視線は前を向いたまま返す。


「訓練を見せてもらえるのか。私としても諸官らの技量を確認しておきたいと思っていたのだ。だから諸官らの訓練を見ることが出来るのは正直ありがたい。」


「そうですか、ならいい機会だと思います。皆、年齢の割には優秀ですよ。」


「そうなのか、さすが最前線部隊だ。」


「ええ、皆優秀でした。」


この時、霧島は梁兵曹長の「でした」という言葉を気にも留めなかった。単なる言い回しの一つだと深くは考えなかった。

しかし、この言葉の本当の意味を後になって知ることとなる。


霧島たちは小隊区の一角に位置する射撃場に到着した。

第二小隊の射撃場は岩場をそのまま流用した簡易施設で、周囲には金網と鉄条網が張り巡らされているだけだった。


入り口には射撃中の札が下がり、中からは銃声の音が断続的に聞こえてきている。

ゲートを押し上げ、訓練場の中に入った霧島の目に飛び込んできたのは衝撃の射撃訓練だった。


教科装甲服を着た兵士が走りながら、小隊員二人の間に設置されている的を小銃で打ち抜く。失敗すれば、即座に味方を撃ち抜く距離だった。


通常の舞台では考えられない射撃訓練に衝撃を受けている霧島を横目に梁兵曹長はどんどんと射撃場の奥に入っていく。


梁兵曹長とともに訓練場を歩いていると数人の兵士が霧島のもとに集まり、敬礼もなしに話しかけてきた。


「小隊長殿じゃないですか、こんな場所に何の御用で。」


「貴官ら第一分隊の分隊長への挨拶にきたのだ。」


上官に対する欠礼は本来問題となる行為だが、無駄な争いを避けたい霧島は特に指摘することもなく返答した。


「そうですかい、欠礼を無視する小隊長が分隊長に挨拶ですか」


周りの集団から笑いが起こる。霧島はその兵士の発言で自分が試されていたことに初めて気づいた。


「お前たち、そのへんにしておけ」


低い男性の声が訓練場に響き渡る。その瞬間さっきまでの喧騒が嘘のように静寂が訪れた。


霧島は声がしたほうに振り返るとそこには非常に整った筋肉を持った男が立っていた。その男は霧島にさらに近づき敬礼をして口を開く。


「ムサ・ディアラ一等兵曹であります。この第二小隊で第一分隊長を務めています。よろしくお願いします。」


ムサ・ディアラと名乗った男は非常に礼儀正しかった。しかし、その礼儀は霧島に向けられたものではなく彼の肩にある階級章に向けられたものだった。


「よろしく頼む。ムサ分隊長」


霧島も必要最低限の言葉で返す。


「それで小隊長殿、今日はどのようなご用件ですか。」


「梁兵曹長から聞いていないのか。」


「はい、私は小隊長が今日来るとしか聞いておりません。」


「そうか、今回の目的だが第二小隊の命を預かる小隊長として小隊員たちに挨拶をと思ってな。」


霧島がそう言い放った瞬間、その場の空気が凍った。


ムサ一等兵曹は、わずかに視線を細めた。

ほんの一瞬の変化だったが、周囲の兵士たちはそれだけで息を潜める。


「命を……預かるですか。」


「そうだ、私は小隊長として小隊員との信頼関係構築が重要だと考えている。だから、その第一段階として諸君ら分隊長に挨拶をしに来たのだ。何か問題でもあったか。」


言い知れない不安に包まれながらも霧島は返答の言葉を何とか紡ぎだした。


「我々に、そのような気遣いは不要です。我々は駒としての能力があれば十分ですから」


霧島の言葉に帰ってきたムサ一曹からの返答はどこか霧島を突き放すものであった。それが、軽蔑なのか、あきらめの思考なのか霧島にはわからない。


だが、霧島もそこで会話をやめるわけにはいかない、それが彼の信念だからだ。


「私は貴官らを駒として見てはいない。きちんと、一人の小隊員として、一人の人間として尊重したいと思っている。」


「そういっていただけるのはうれしいですが、現実は変わりません。どうぞ私のことも忘れてください。思い出を作らないでください。それがあなたにできる唯一のことだ。」


ムサ一曹からの返答は思いもよらぬものだった。


「どういうことだ、説明をしろ。」


予想外の回答に驚いた霧島はムサ一曹を問い詰める。しかし、答えが返ってくることはなかった。


ムサ一曹は霧島の元を離れ射撃訓練の指揮に戻っていった。


霧島の胸に芽生えた違和感の芽はムサ一曹との会話でより成長することとなった。


あと二人分隊長との対談が残っている。霧島はこの後の分隊長との挨拶が無事に終わるのかを考えずにはいられなかった。


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