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ARES ― 無名戦士になれなかった英雄達 ―  作者:


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5/14

違和感

司令部の廊下にはたくさんの表彰状や、部隊感状がおかれていた。


「ヴァルター二曹、貴官はこの部隊は長いのか。」


「最初に配属されてから十年になります。」


「では、貴官もここに展示されている作戦に参加したのか。」


「はい」


ヴァルターはそれ以上何も語らなかった。振り向いたときに見えた胸の略綬の少なさだけが霧島にとって気がかりだった。


司令部の廊下をさらに進むと、周囲の部屋とは明らかに異なる扉が見えてきた。


「中で司令がお待ちです。」


部屋に通されると、中には中年の少佐が霧島を待ち構えていた。

霧島は司令と思われる少佐の前に進み敬礼をした。


「申告します。宇宙軍少尉 霧島透は帝国歴五二五年8月17日付をもって特殊作戦軍宇宙軍特殊作戦司令部ARESでの勤務を命ぜられました。」


「辞令は確認した。私はARES司令のゲオルク・ヴァイス少佐だ。よろしく頼む。」


ヴァイス少佐は机に座ったまま姿勢を変えずそう答えた。


「君には第一中隊の第二小隊長を任せる。」


「拝命いたします。」

霧島はもう一度敬礼をした。


司令との話はそれだけだった。


司令室から出るとヴァルター二曹がドアの前で待っていた。


「残りの配属手続きは私が行います。こちらへ。」


そう言って再びヴァルター二曹の先導で司令部を進む。二人の間には沈黙が流れていた。

霧島は意を決して沈黙を破った。


「ヴァルター二曹、私の前任の小隊長はまだいらっしゃるだろうか、できれば離任される前に挨拶をしておきたいのだが。」


「前任の方は先月戦死されました。」


二人の軍靴の音だけが廊下に響いていた。


ヴァルター二曹の後を歩き、駐屯地をさらに奥へ進んでいくと、外気の乾いた冷たさが霧島の肌をかすめた。

「この先が第一中隊区画です」

見えてきたのは本部庁舎と同じように無機質な建物の数々だった。違いといえば入口に榊が植わっているかどうかだ。


中隊区画をさらに奥へ進み、霧島たちは第一中隊本部にたどり着いた。


本部内は想像より静かだった。霧島の前の部隊では中隊本部はいつも喧騒に包まれていた。本部員たちの談笑や、上官からの叱責など理由は様々であったが少なくとも霧島の記憶の中では中隊本部に静寂が訪れた事は無い。


本部の廊下を進み中隊長室を目指す。途中数人の下士官とすれ違ったが、彼らは霧島の階級章を一瞥し、軽い敬礼をするだけですぐに視線を外した。


中隊長室の扉をノックし、中に入る。今回はヴァルター二曹も一緒だ。


「霧島少尉をお連れしました。」


ヴァルター二曹はそれだけを言って後ろに下がった。ヴァルター二曹に続いて霧島も口を開く。


「第一中隊第二小隊長を拝命いたしました、宇宙軍少尉霧島透であります。本日からよろしくお願いします。」


「第一中隊長ヨハン・ストレム大尉だ。霧島少尉今日からよろしく頼む。」


ストレム大尉は霧島に笑顔で微笑み返す。霧島がARESに着任して初めて見た人間味のある顔であった。ストレム大尉は意気揚々と続ける。


「霧島少尉は新しい小隊長だが、着任行事はなくていいかな。君も変に式典など嫌だろう。それともあれか、やってほしいのか。」


「いえ、別に大丈夫です」


「ならきまりだ。他の中隊員とは時間を見つけて適当に挨拶をしていてくれたまえ。」


正直、霧島はストレム大尉の陽気さについていけていなかった。

しかし——

その笑顔の奥に、言葉では掴みきれない疲れのような影が、ほんの一瞬だけ見えた気がした。

霧島はそれに気づきながらも、まだその意味を正確に理解する事はできなかった。


ストレム大尉との面会を終え、中隊長室を後にする。


「では霧島少尉。第二小隊へご案内します」


再びヴァルター二曹の先導で中隊区画を歩き始める。二人の間に会話は無く、乾いた軍靴の音だけが響いている。


やがて、区画の一角でヴァルター二曹が立ち止まった。


「ここが霧島少尉の部隊である第二小隊の隊舎です。」


そこにはやはり無機質な建物が建っていた。


中からは、低い笑い声と金属音が聞こえてくる。それは明らかに歓迎を示す雰囲気ではなかった。


あまり動きがないので退屈かもしれませんがもう少しお付き合いいただけたらなと思います。

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