降下
揚陸艇乗り込んだ霧島は、出撃の準備を始めた。
装甲服を身につけ、小銃の弾薬を確認する。
残りの準備も済ませた霧島は座席に座り、降下の時間を待っていた。
「小隊長、さっきのあれはどう言うつもりですか。」
霧島が顔を上げるとそこには装甲服に身を包んだムサ一曹が立っていた。
「あれとは何の事だ。」
「とぼけるな、作戦会議中の質問の話だ。偽善のつもりですか。」
ムサ一曹は感情が高まっているのか言葉遣いが崩れている事に気づいていない。そして霧島もそれを咎めることはない。
「そんなつもりはない。ただ、あのまま貴官らに命令する事はできなかった。それだけだ。」
「それを偽善だと言っているんです。」
ムサ一曹は吐き捨てるよう言った。
「結果が変えられないのを分かっていながら口だけ出すのは現場を混乱させるだけだ。そしてその無責任な行為の割を食って死ぬのは俺たち下の人間だ。」
ムサ一曹の瞳の中に揺るぎない何かがあるのを霧島は感じた。
だが、霧島にも譲れない物がある。
「確かにそうかもしれない。だが、誰に偽善と言われようと私は自身の信念を曲げるつもりはない。それに....間違っているのを分かっていながら人の命を伴う命令をする方がより無責任だと私は思う。」
「小隊長.....あなたは市民出身のはず、なぜ....。」
その問いかけに明確な言葉は含まれていない。
だが、霧島にはその問いかけの意味が理解できた。
「兵学校の武道教官の教えだ。」
「……そうですか。」
ムサ一曹は一瞬だけ霧島を見つめ、
それから視線を逸らした。
『降下30分前』
艦内放送が淡々と告げる。
「話は終わりだムサ一曹、貴官も持ち場に戻れ。」
「了解しました。」
「そうだ、分隊員に精神剤の使用を控えるよう通達してくれ。あれは安易に使っていい代物ではない。」
「それなら大丈夫です。そんな物に頼るほど私たちは弱くありません。それでは持ち場に戻ります。」
ムサ一曹は敬礼し霧島の元を離れる。
座席に座り直した霧島は今一度装備を確認し、ベルトで体を固定した。
艦内の照明が落ち、赤色灯に変わった。
揚陸艇の内部を満たしていた微かな機械音だけが、やけに大きく耳に残る。
各員は座席に体を固定し、装甲服の最終チェックを黙々と行っていた。
そこに緊張はあっても、恐怖は見えない。
艦の外で何かが弾けた。
続けていくつもの岩石の塊が流星の様に落ちていくのが見える。
敵の防空網を誤認させる為のものだ。
『降下10分前、総員降下用意』
ストレム大尉の短い指示が流れる。
『降下1分前』
揚陸艦の下部ハッチが開く鈍い金属音が響く。
『降下10秒前』
もう後戻りはできない。
『降下』
降下の宣言と共に艦から切り離された揚陸艇は降下していく。
偽装流星に紛れる為、揚陸艇の姿勢制御は最低限。
揚陸艇全体がわずかに回転しているのが振動で伝わってくる。
揚陸艇の装甲が、大気との摩擦で軋む音が聞こえ始めた。
金属が悲鳴を上げるような音だ。
大気圏に突入する前に一瞬だけ見えた宇宙空間は皮肉な程に綺麗だった。
今の所、敵勢力からの攻撃はない。
だが、帰還時はそうもいかないだろう。
そもそも、帰還出来るのか。
考えても意味はない。
それでも考えてしまう。
戦いが始まる。
しかし、それを止める権限を持った者は後方にいる。




