作戦準備
揚陸艦に乗り込んだストレム大尉指揮下のARES第一中隊324名は作戦説明を受けるため格納庫に集合していた。
金属の床に並ぶ中隊員たちは、誰一人として雑談をしていない。
ヘルメットを膝に置き、前方の簡易投影スクリーンを黙って見つめている。
そこに映し出されているのは、敵前線基地周辺の粗い偵察画像だった。
ストレム大尉が中隊員の前に立ち作戦説明を開始した。
「作戦の説明を行う。
本作戦はフェアリー王国前線基地へ強襲揚陸を行い王国軍の物資集積状況を偵察し前線基地を破壊する事を目的とする。」
ストレム大尉は顔色一切変えずにそう言い放った。
ARES本部から下された命令は偵察だけのはず。
確かに「可能であれば敵拠点を破壊せよ」と言う一文はあった。
だが、それはあくまで補足に過ぎない。
しかし、現場レベルでは拠点破壊も主目的になっている。
霧島にはこのズレが理解できなかった。
なぜ、わざわざ危険な方へ踏み込むのか。
なぜ、偵察だけでは不十分なのか。
そして、なぜ——
それを疑問に思っているのが、自分だけに見えるのか。
そんな霧島の内心など意に介さずストレム大尉の話は淡々と続いていく。
「偵察機からの情報によれば敵拠点には2つの補給倉庫と拠点司令部、警備部隊宿舎、小型の宇宙港が確認されている。
これらの拠点のうち補給倉庫と拠点司令部を攻撃目標として定め小隊毎に揚陸艇で降下後各目標に対し攻撃を行う。
第一小隊は拠点司令部を、
第二小隊は補給倉庫aを、
第三小隊は補給倉庫bをそれぞれ担当せよ。
中隊本部小隊は揚陸艇の死守と対空陣地の破壊を任務とする。」
ストレム大尉の話は止まった。
支援のない中でこれほど大胆な破壊工作。
しかも、敵勢力の情報は拠点の構成と警備部隊の存在が確認されている、と言う程度にすぎない。
敵の正確な兵力も、兵器も、即応戦力も何一つ確定的な情報はない。
一体どれほどの犠牲が出るか霧島には予想する事が不可能だった。
「中隊長、質問をしてもよろしいでしょうか。」
第一小隊長の少尉が手を挙げた。
「なんだ。」
「どの程度の損害で撤退判断を行いますか。」
第一小隊長の質問は指揮官にとって当然の疑問だった。
「本作戦において撤退は許容されない。」
ストレム大尉は一切の迷いなく言い切った。
やはり霧島以外の中隊員から動揺は見られず、質問をした第一小隊長もそれ以上何か言う様子は見られない。
霧島はストレム大尉に質問をすべきか迷っていた。
今ここで意を唱えるべきなのか。
本部からの指令は、あくまで偵察任務だったはずだ。拠点破壊は可能であればにすぎない。
だが、それを口にした事で何が変わるのか
すでに命令は中隊に伝達され、作戦計画も組まれている。
ここで意を唱える方が部隊に混乱をもたらし多くの戦死者を生むかもしれない。
それでもー
ここで言わなければ部下に死ねと命じるのを許容した事になる。
霧島は大きく息を吸い、覚悟を決めた。
「中隊長、一つよろしいでしょうか。」
格納庫の空気がわずかに揺れた。
「ARES本部より下された命令に拠点破壊は含まれていなかったと記憶しています。
なぜ命令されていない任務を行うのですか。」
ストレム大尉は霧島の顔を一瞥し、口を開く。
「霧島少尉、君は何を言っている。ARES本部より下された命令は敵補給拠点の破壊だ。
命令を聞き間違えるな。
そもそも、ただ拠点を偵察するためだけに部隊を動かすはずがないだろう。」
霧島は呆気に取られ、次の言葉を紡ぐ事ができなかった。
「以上で作戦説明を終了する。各自出撃準備にかかれ。」
ストレム大尉の号令で中隊の兵士達は何事もなかったかの様に動き出した。
霧島も出撃準備のため第二小隊に指示を飛ばす。
だがその心は格納庫に取り残されていた。
本日は成人の日。
新成人の皆さんおめでとうございます。




