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9話 ビッグバン・オペラ


 木星、土星連合軍は都市型宇宙要塞船団と超長距離から睨み合っていた。



 そんな中、本格的な宇宙戦艦を互いに投入し、大衝突する、その直前。


 ——玉川クリステン・正信。


 強襲型中宇宙船にてクリステンは最後の深呼吸をしていた。


 クリステンは基地内のバー経営のかたわら、将校たちと親しくなりつつも自らの傭兵登録を済ませ、訓練を積み続け、木星行きの宇宙船にて乗り合わせたビリヤード仲間の日本人の師団と連携する部隊を任された。


 これはクリステンが戦争の参加志願者たちを集めた模擬戦でかなりの好成績を出したことと、この太陽系戦争、のちにビッグバン・オペラと呼ばれることになる戦争の2名の英雄を守る使命を果たすためバー経営では十分ではないと、不安になっていたクリステンが戦場に付いていくためにしたことであった。


 クリステン自身は二百人の最新型人型ロボット兵の部隊員をまとめている。

 木星、土星連合では、(といっても地球も似たようなものだが)人件費の高さでかなり昔から兵士は自動機械に置き換えられた、しかしそれだとハックされた時のリスクがあまりにも大きい。そして最もハックされにくく、最大級のセキュリティがかけられているのは人間個人である、しかし実際の人間兵はあまりにも高くつくので一人の人間につきロボット兵が部下として紐づけられることになっていった。


 この時代の人間一人の命の価値は天文学的数字と言っても差し支えないものであり、人型ロボット換算で言えば1000体以上、それも軍が使用するような最新のもので、である。宇宙戦闘機10機〜100機、宇宙戦艦1個分ほどでも近い。


 全てのロボット兵は人間と見分けがつきずらいように偽装されている。


 ロボットの身体を使用する人間もこの時代では珍しくないので、というか完全に体を改造しないものの方が珍しい。ロボット兵は機械系、有機体系と2つと、そしてそれぞれ細かい割合で混ざっている個体などがバランスよく部隊に入れられる。例えばロボット兵の一つは機械の左腕と内臓、他は人間の体ではあるが、人間ではない、だとか。


 貴重な人間の指揮官を失った場合は芋蔓式にロボット兵が機能停止するか、せずともハックされやすくなるので人間の指揮官は見つかりづらく、しかし指揮できるほど近くなければならない。技術的には2体から数万体まで一人の人間が率いることができるが、リスク分散のために大体数百位上のロボット兵を一人の人間がを率いることはなかった。


 過去に数万のロボットがハックされ暴走しかけた事件が、契機となってそうなった。



 ——強襲型宇宙船の倉庫内。


 クリステンが自分の腕や脚、思考と率いるロボット兵たちのシンクロ率を入念に確かめていく。


 マネキンのようなおよそ人間味のない顔立ち。肌はテカテカと光沢を帯び、髪はピッチリと塗り固められているように整えられ、目は大きく見開かれている、いつものこの男の顔に少し緊張が浮かんでいた。


 視界を次々と同期している兵士たちの視界とジャグリングするように切り替えていく。次は聴覚、そして触角。整列した兵士たちが左側から片手をあげると、伝染するように隣の兵士が0コンマ数秒の差で片手をあげていく、それは波が起こるように最初見えて、次々と手足が動かされると今度は全体的に波紋の広がっていく様のように見えた。


 クリステンのウォーミングアップだった。

 指揮官の人間はこの意識のジャグリング訓練をうまくこなさなければいけない。そして運が良いことにクリステンはこの才能に恵まれていた、平均よりも遥かに。


 死んだら使命も何もないんだぞ、訓練はやれるだけのことはやってきた。あとは実戦でもやれることをやるだけさ、自身の兵士たちと同じアーマーを着込み、その中でクリステンは思った。


 ウォーミングアップを終えて、目を開けたクリステンが号令をかける。


 彼の強襲型宇宙船も動き出した。


 他の船団も小さいものから順に敵艦隊に迫っていた、大型宇宙要塞船は主に情報戦と戦場を自軍有利な状態に上書きする役割を担い、大口径特殊電磁パルス砲を定期的に放つ。


 双方の大小の戦艦が敵艦に大量のビーム砲を発射。


 先陣を切る宇宙船群の中心には全てイージス型宇宙船が配置され、それの放出するバリアー波で構築された防衛圏の中まとまって進軍する。


 数の上では木星側が劣っていた。ただ木星軍の方が装備、機体ともにやや最新のものが多かった、特に大型宇宙船は木星側のものが良かった。


 両軍動きだし——


 いくつかの船は迎撃され沈んでしまったが、クリステンの船団は無事敵艦船に張り付き、1分で装甲をくり抜いて侵入を果たした。


 侵入成功の信号を出して、この艦隊を味方が沈めないようにする。


 敵方の兵士たちがクリステンの部隊を迎え撃ち、互いに青、赤、緑、黄色の特殊ビームライフルで撃ち合う、これはアナログな戦闘方法なのだが、現在効果的とされている戦法で、全てのビーム系兵器には敵方の兵器、システム、精密機器を破壊する電磁波が発射するたびにビームから拡散し、互いの兵器や機器を損傷させ合うように設計されている。


 色違いのビームははそれに対する防衛システムを邪魔するためそれぞれが微妙に異なる波長を出していく結果そうなっていた。


 この一見アナログな白兵戦の間も情報戦は毎秒行われており、クリステンの部隊が割り出した艦内のマップもすでに別物に書き換えられたところだった。このように互いの敵を撃ち、そのついでに情報を取得し、さらに敵兵器やシステムを損傷させ、受けてはそうはさせじと書き換え、やり返す。と言うのがこのビッグバン・オペラでは定石であった。


 そしてこの戦争で目立って活躍したのは優秀で勘の良い、または判断力のある人間の指揮官たちだった。


 ここにおいて、取得したデータが信頼できるのかも不明な戦場では個人の才能の差が勝敗を分けた。もちろん戦争準備段階での差も大きいのだが、木星元首ギレシアはその点に関しては素晴らしい仕事をして、技術的な差というものは殆どなかった。


 むしろ、地球側は腐敗した官僚貴族たちが率先して実体のない自分たちの利権、利益重視の契約を軍需産業としてきたために、木星側の戦艦や白兵戦用の装備に遅れをとっていた。


 特に木星製で活躍し、戦中、戦後で著しく評価が上がった兵器は——


 *ジュピターC (JPT−Cライフル)と呼ばれるビームライフル。


 これは従来の敵の機器を損傷させる機能の向上だけでなく、敵の撃ってきたビームを中和させ敵兵器威力を下げる効果がこれまでのライフルとは一線を画す性能をしていた。さらに敵方がそれならとビームを大量に発射し、物量で押そうとすることを見越し情報取得グレネードチャフが備え付けられている。これはライフルの上部に取り付けられたグレネードを発射すると細かい煌めくチャフが周囲に撒かれ、それが敵電磁波情報などを吸い取るように取得していくというものなのだが、地球側は技術自体はあるものの、この情報取得チャフの品質が非常に低く、なおかつ木星から購入することも許さず、正式採用がされていなかった。



 *ティターン


 これは土星で開発されていた人型巨大ロボットであり、今回の戦争で思わぬ活躍を見せた。人型ロボット自体は白兵戦以外は役に立たないと思われていた、特に人間指揮官とのシンクロ率や、指揮官個体を隠蔽するためのダミーのために仕方なく人型にしている部分が多く、戦艦同士での宇宙戦では活躍の場はない、というのが定説だったのだが、土星の開発者やエンジニアたちはそれに意を唱え研究を続けた。


 ####ティターン####

 巨人と名付けられたこの巨大ロボットは本物の人間がコックピットに搭乗し、実際に動かすことで厳重なセキュリティと、ハック機能を持った戦車として運用された。これを可能としたのは土星の研究者たちによるブレイクスルーの賜物で、それはこの時代人間個人に最も強力なセキュリティがつけられていることと、そして人間個人が一つのハブとしてもステーションとしても機能できるというのを利用し、電子戦における一つの重戦車を作るというところから始まった。要するに魂という人間の理解を超越したものを利用したのだ。


 ティターンは宇宙船以上に小回りが効き、超遠距離からの直線的な砲撃を圧倒的な精度で回避する、さらにはティターンから放出されるエネルギーフィールドがビーム砲を全て捻じ曲げてしまう。


 これを倒すには爆弾系の物質系兵器が有効だったが、そこまでティターンに近づくのは無論困難であり、また今回の戦争で地球側がそれに気付いたのは大戦末期であった。


 ティターンは大戦末期までにかなりの種類が建造され、用途も幅広くなった。

 移動する、撃墜されずらい情報戦の基地であり、戦車であった。

 ただし建造費と人件費があまりにも高くつくので、選び抜かれた志望者のみがパイロットになることが出来た。





 *強襲型宇宙揚陸艦 ファービュー


 この場合の強襲型揚陸艦というのは宇宙戦闘において敵方の中型以上の戦艦、または都市型宇宙船に張り付き、装甲に素早く穴を開けて侵入、無力化することを目的とした艦である。クリステンが登場しているのもファービュー。


 木星の新型艦であるファービュー(Farr View)

 Farrとは古英語で「雄牛」の意

 


 そのFarrに先陣を切っていくという意味を込めてView(眺め)が付け足されて名付けられた最新艦は戦争を通して活躍し、一躍その名を轟かせることになる。

 その後は派生系のFarr系戦艦型が順次建造されるとそれらはFarrクラス艦として知られるようになった。Farrクラス艦はどれも小回りが効き汎用性があり、なおかつ信頼性の高さでよく知られるようになる。


 Farrの話はここまでにして、話を戻すと。


 戦争において確実に敵を無力化するためにはハックして戦闘モードを解除してしまうことが一番であるが、最も確実な方法は実際に現場に行ってネットワークからアナログな方法で切断してしまうことだった。


 何にせよ、さまざまな兵器が活躍したが、その多くは木星と土星で開発されたものであった。




 ***




 人間兵と同じ戦闘服を着用しているロボット兵がライフルを構えながら艦内を駆け回り、クリステンの指示通りに、まるで一個の生命体のように動いていた。重要エリアをいくつか制圧したところで、敵指揮官の人間が自らの死亡を予測し、降伏。捕虜となった。人間の指揮官が2名、彼らは棺桶と呼ばれる小さなシェルターに入れられて木星へと送られた。


 XV型大粒子砲搭載戦艦鹵獲。地球人捕虜2名捕獲。


 合図を送ると、馴染みの日本人から祝電通知。その10分後には2つの都市型宇宙船に攻め込む招待状が届き、クリステンは敵から鹵獲しクリステン用に上書きし調整し終わった400のロボット兵を連れて向かった。


 都市型宇宙船は比較的大きな建造物で全長3キロ、幅は1キロ。

 大体5千人ほどが住んでいる。本物の人間が、である。


「ふぅ……、たまらないな。こういう重圧は」


 苦い顔をして、都市に乗り込んで公園の緑を見てクリステンがつぶやいた。


 普段は稼働しているであろう、スカイウォーク(空中浮遊歩道)や、移動式インフラ類が全て停止されていた。


 公園の木々は全て本物で急にシステムが停止されたために、公園内にはコンテナのような付近のビルの一室が2つ放置されていた。近くにある高層ビルはジェンガのようにくり抜かれている箇所がいくつもあり、建築物空間の移動中に緊急停止されたであろうことが伺えた。


 かなりの数の人間が実際に生活していることで、クリステンも流石に緊張する。

 改めて非戦闘員の避難状況と投降者が新たな信号を発信していないか、非戦闘区域などの情報を確認していく。


 終わってからアーマー越しに頬をはって、戦闘装甲服に身を包み、ロボット歩兵たちと散開しオフィス街へ。


 両手には警棒ほどの電子パルスビーム棒を持ち、数秒に一度ばちばちと鳴らしていく。これは歩兵の必須アイテムで敵の電磁波攻撃に対する武器である。鳴らすたびに付近に放出されたバリアー波により安全になる。白兵戦で剣のように使うこともあるが、よほど接近されなければライフルの方を使うのだが、オフィス街の奥でクリステンは驚くような戦闘光景を目の当たりにした。



 それは見たこともないような市街地での戦闘だった。





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