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3話 ダニエル・カーネギーマンの憂鬱


 ──深夜2時40分頃。


 ナイトクローリーの街、シークレット・サンズ前、マーシャル通り。


 夜は冷え込んできている、酒場から出てきた二人の男が全く御暗示タイミングで該当の袖に腕を通してから歩き出した。男たちの膝くらいの背丈の犬にはリードはついていない、首輪だけで、機械的なデザインのゴーグルも今は主人の手によってほっかむりのようになっていた。



「旦那、今回の群れは随分らしい……」


 歩きながらアーサーが神妙な面持ちで街の外に救う脅威の話を切り出した。


「そうか、エイリアンの群れ……、全て人型か?」


 ダニエルの表情に変化は少なく、アーサーからみれば旦那の内心は伺いしれなかった。


「ああ、ほとんどがそうで間違いない。今この街で戦力として数えられるのは武装自警団とクローリーの部隊だが、軍は間に合わない」


 アーサーが話を進める。


「そうか、化け物たちの場所は?」


「……ゲロ吹きのインペリオの伝説がある森の近く」


「……ゲロ吹きってなんだよ、やれやれ」


 意図的に嫌そうな顔を作ってダニエル・カーネギーマンは言葉を返す。


 勿論ゲロ吹きのインペリオといえばここらでは知らないものはいない伝説のキマイラ系ドラゴノイド型エイリアンの怪物であるのだが、ダニエルは知らないフリをした、その方がセリフと感情にマッチしていると思ったからだ。


「インペリオっていうのは……」

「アーサー。お前、俺の力を貸して欲しいようだな? 俺の何を知っている? 何を期待している?」



 実は知っているというのも憚られるような気がしたダニエルはアーサーがインペリオの説明をし始める前に話題を変え、アーサーの目を射抜くような瞳で質問した。


「ああ、俺と戦ってほしい、もしくは旦那ができることで協力してほしい。只者じゃないのは分かってるんだ、戦闘力などは知らないが、能力者なのも間違いないだろ?」


 わふわふ!

(ボスぅ! この男は革命を起こしたいんですよ! 手伝ってやれば秒で億万長者ですよ!)


 カーネギーマンは犬をちら、と横目で見て何やら考え込んでいたが足を止めなかった。


 **


 アーサー・ボイド・ベクスターが犬を連れた男と歩くと、深夜の街をゆく通行人が複数、横目で二人をチラリと見た。こんな夜更けに突然数人の市民が現れたことにアーサーは妙な居心地の悪さを覚えた。


 旦那の愛犬が小さく高い声でクゥンと鳴くと、旦那も通行人を見て──


 目にも止まらぬ速さで腰の拳銃を抜き、早撃ちで一般人の頭を吹き飛ばした。


 恐ろしいほどの早技だった。

 アーサは背筋が凍るような感覚になった。が、そんなことを思っている暇もなく、突然通行人が三人飛びかかってきた、口が裂けて禍々しい不揃いな牙が見える、裂けた皮膚の下にはアルミ色の肌。


 エイリアンだ! 市民に擬態していた!


 エイリアンにそのような芸当ができることをアーサーは知らなかった。そんなものは見たこともなかったし、話の中でも聞いたことはなかった。


 人型エイリアンには人間に化けれる個体がいる、その事実に戦慄した。


 かかってきた人型エイリアンに3体に速射。三発の銃弾が音の上では一発に聞こえるほどの早撃ちだった。それは先ほどの旦那の早撃ちに匹敵するほど見事なもので、一体は眉間に一発、残り2体は胸と口元に一発入った。一匹はそのまま沈み、崩れ落ち、もう2匹は銃弾を浴びてもまるで怯まなかった。


 戦闘自体はその後わずか数秒で終わった。


 たったそれだけの時間で二人の男は4体の化け物を始末した。といってもアーサーが仕留めたのは一匹。旦那が最初に早撃ちで一匹。残りはジャックラッセルテリアの頭部が一瞬で肥大化し丸呑みにしてしまった。



「ふむ、やるじゃないか。アーサー・ボイド」


 旦那が片方の眉をこれでもか、とわざとらしい程にまで上げて言った。片側の唇もつり上がっている、癖の強い表情。


「ま、慣れてるんでね……」


 この表情もひどく意図的な気がしてアーサーは一瞬動揺したが、いつものことだと思い直して言葉を返した。


 しかし、それ以上に旦那とその小さな愛犬がエイリアン以上の化け物だと知って驚愕していたのだが、悟られぬようにハットを深く被り直した。


 旦那の戦闘力を計りかねていたアーサーにとってはこれだけの戦闘力を持った能力者だと判明しただけでも収穫だった。やはり俺の勘は冴えてる、俺の目に狂いは無い! 心の中で狂喜した。


 旦那こと、カーネギーマンが今しがた撃ち殺したそれに近づいて死体を調べるように屈んで触れていく。


「旦那、いやカーネギーマン。何か探しているのか?」


「調べているんだよ、アーサー」


 何を? アーサーがそう言うまでに十分な間があり、カーネギーマンはその前に答えた。


「死がどれほど酷いことになっているかを、だよ」


 アーサー・ボイド・ベクスターにはその言葉の意味がわからなかった。


 この謎だらけの男、只者ではないことだけは間違いない男、アーサーの勘によれば数百年生き、全てを知っているような男は”死”という現象がまるで悪化しているかのように言ったからだ。


「……旦那、仮にあんたが若返りの異能を持ってたりして実は世界がおかしくなる前から長き時を生きてるヴァンパイアだとか、考えられないほどに博識だとか、そこまでは俺の理解の範疇だ、ギリギリ。しかし死が酷いっていうのはどうにも聞き慣れない表現だな」


「アーサー、お前はいい男だ。勘もいいし腕も立つ、それなりに冷酷非情だが頻繁にマシな選択をしようとして、実際に未来を良くしようとする。死が酷くなっているのは事実だ、そこまでは言える。そしてだからこそ、アドバイスをやる、少なくともあと数年は死なないように生きろ」


 口の中で何か噛んでいるようにモゾモゾと唇を動かしながら、飄々と旦那はいった。


「あと数年でいいのか? ずっとじゃなくとも?」


 アーサーの方は率直に疑問を口にした。


「数年で状況が変わる可能性は、ほんの少しはあるのだよ。それに賭けておけ」


 全く持って良くわからないことを言う男だ、とアーサーは思った。


「へぇ、俺は教養がないからか意味がわからん。ただ、旦那が言うなら肝に銘じておこう」 


 ガンマンは肩をすくめながら言った。



 夜の街を歩いていた旦那が足を止めた。


 雰囲気のある立派な屋敷の前だった。1000坪以上はあるだろう。


 旦那が大きな鉄門の手前に立ち、くるりとアーサーの方を向いた。

 一人でに門が開いて、旦那が言った——


「さて、アーサー。お前がクロウリーの政府に反乱を起こしたいのは分かってる、手伝ってやろうじゃないか、ただし化け物退治はお前でやれ、そして革命に関しての話は私の屋敷で」


 —入りたまえ。



 * * *



 呆然と招き入れられて、屋敷の敷地に足を踏み入れていくアーサーを見てハービットが思念通話をダニエルと開始した。


 —ボス、この男は利用価値が高いと見積もります。我々はオールドマンを探したいですし、良さそうですね! わふわふ!


(オールドマンでも、トリッカリーでも、ベビーカーでも誰でもいいが。俺たちの希望や、探すほどに価値のあるものは希少だ。エリエンの星遺物や管理者クラスの存在の生き残りを探さねば、同胞は助け出すことは叶わないだろう。どうにかしなければな……)


 —例えばなんです? 情報を求む、わふわふ!


(例えば、俺たちの同胞の魂、思念体がこの人間たちに吸収されてしまうとか、純粋なエネルギーになって宇宙に霧散してしまうとか……)


 —人間と混ざったらどうなるんですか?


 ハービットが首を傾げ、尻尾を振り回しながら聞いた。


(そうだな……。俺もわからないが、宇宙が人間たちに味方するとかかな、そういうことが起きるやもしれん)


 ハービットが、「世界システムが人間をエリエン人だと認識して?」というと__


「そういうことだよ、名探偵くん」


 と今度は声に出してカーネギーマンが言うとアーサーがこちらを見て目を泳がせた。


(それだけは絶対に阻止しなくてはなりませんね、人間なんかに巨大な力を持たせたら世界を滅ぼすに決まってますよ! 私はゲーム好きなので人間の本性を知っているのです! わふわふ!)


 ハービットは人間のゲームや物語が執拗なほどに世界が滅びそうになるか、滅んだ後のシナリオが採用されることでそれが人間の望むものだと勘違いしている。


 それをさし引いてもダニエル・カーネギーマンから見て人間がエリエン人ほどの力を持ったなら、宇宙が最悪の結末を辿る未来以外なさそうに思えたので、ダニエルは憂鬱感情系パックの中から人間に対する不信感と未来への不信感を湧き立たせた。


 すると今回は今の自分の置かれた状況とマッチしているようで、しっくりきてひどく落ち着いた気分になった。


 ちょうど屋敷の玄関前に二人と一匹がたった頃、雨がポツポツと降り始めていた。


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