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0話  終話 プロローグでエピローグ?

その時。


 見渡す限りの星の海で、たった一人、頭を抱えている男がいた。


 この世界の希望はどこにあるかって?


 いいか。

 そもそもな、希望は世界が持つものじゃなくて、人が持つものだよ。


 ん、人? ……人間?


 ……や、ちょって待て、今のは無しだ。


 こうしよう。


 まず初めに地球がある、お前の家でもいい。なんなら躾のされていないお前に相応しいボロ小屋でもいい。ヒュンとズームアウトしてお前の近所から駅前までの映像、もちろん鳥の視点で想像しろ。


さらにズームアウトして__太陽系から。


 千億の星、千億の惑星系、千億の銀河、千億の銀河団、千億の宇宙、無数のボイド。全てたった今でっち上げたような適当な数だが、一体どれだけ世界は広いんだ? そう思うだろ? 


 え、思わないの?


 あーあ、お前と話していると疲れるよ、ハービット。あ、いやこっちの話。


 要するに俺が言いたいのはお前の言う「世界」ってのはどこまでなのかと言うことだ。お前の目に入る範囲までなのか。それとも宇宙や、そのまた外の宇宙。パラレルワールドや、過去、未来まで含んだところまでか。根と幹の世界、枝葉の世界に……


 おい、話聞けよ! だから阿呆症はオメーだっての!


 ……。


 もう少し話をちゃんと聴け! それとな兎に角嘘をつくなよ、お前は嘘をつくほど安っぽくなるんだからな。



**



 ダニエル・カーネギーマンが骨董品の初期型の骨董品の魂魄疑似生命体に語りかけては、そう言ったのも無理はなかった。ひどく混乱していたのだから。


 カーネギーマンは、いや、そもそもそれが本名ですらなく、彼の名前は無数にあって──


 よく名乗ったのはダニエル・カーネギーマン以外では「デビット・デビッドソン」に「ダン・ダウンズ」「デューン・D・ディーン」これはよく使う、3Dとも名乗るほど。


 あとは「ジャッキー・ジャクソン」に「ニック・ニコルソン」などがあるのだがそれは別に良しとして。


 ダニエル・カーネギーマンはこの宇宙で最上の生命体であった。



 ……あった、のだが。


 今やこの男はたった一人、それも低次元の物質世界に囚われていた。


 そして途方に暮れている。途方もなく途方に明け暮れていて、困っているのだ。彼は宇宙規模の天災のただ一人の生き残りなのだから。


 少なくとも今のところ。


 宇宙規模で見ても見なくとも、それはダニエルからすればつい最近の出来事だった。


 シグマ・エリエン(彼の種)は技術発展を繰り返し、遥か昔、有機人工知能の運用方法を確立させた。これは彼ら自身の優れた脳を培養し、シミュレーション世界にて肉体を与え、バランスよくさまざまな経験、学びを持たせ、さらに超高速でフィードバックルーブを無限に繰り返し、他の有機人工知能と…… 


 そしてそれは魂と名づけられた思念体へと進化する道を切り開き……


 __要するに、技術革新の速度が飛躍的に上がったのだった。


 地球に住む人類で例えるのならば今日、○レイステーション2が発売され、明日には5が発売されると言うような速度になったのだ。


 全ての情報は部品化され、吸い上げられる、吸い上げた後は組み合わせて無限とも言える種類の製品が自動生成され、強化された個人用サーチエンジンがリストアップした中から商品を選択することになる。


 その頃には商品は、個人型商品(プライベート/インディヴィジュアル)と共有型商品(シェアード/コレクティブ)といった枠組みが用意されることにもなって、他者と共有する余地の程度というものが重要な要素になった。


 古代のシグマ・エリエン人はさらに宇宙進出のために海に潜った。彼らの、人類でいうところのコンピューターは海を生存圏として加えることでこの先、未来での宇宙進出の助けとなる技術が早い段階で得られると予測したからである、そしてそれは実際そうだった。


 といってもエリエン人の宇宙開拓時代はすぐに終わりを迎える。


 そもそもが技術革新のあまりの速度のために、この速度についていき、余すことなく彼ら自身の技術を享受するためにはこの物理的な世界は遅すぎたのだ。


 彼らはまずサーバーを作り互いに接続した。その方が早いからである。もちろん脳にはチップも埋め込んだ、速いから。


 一秒間に1000以上のUPDATEを繰り返すことになっていくと接続を切るなどという選択肢は普通ではなくなり、その後接続を切ったとしても皆に容易に追いつける技術が習熟しても接続を積極的に切る個体はほとんど現れることはなくなっていった。すでに安全性も証明されているからだ。切る理由がない。


 結局彼らは彼らのためのマトリックスを作り上げる、そしてもちろん重要資源は情報である。刺激的な、新鮮な情報、これが欲しいのだ。


 エリエン人は最初宇宙中に情報資源探査船を飛ばした。その後は他の宇宙人との邂逅から戦争もあったが、辛くも勝利し宇宙全てを彼らの縄張りとした。そして自動的に宇宙規模で情報を吸い上げるシステムを構築。


 彼らは彼らのマトリックスにて最適化された時の流れの中で過ごした。


 この3次元の世界では1年でも彼らにとっては100年、1000年といった時を過ごすようになった。


 当初は肉体は惑星の中に海を作り、惑星の地表を盾のように、つまり大規模な地下シェルターを星をくり抜いて築いてそこに置いた、が肉体そのもの自体がそのうち不要となり彼らは思念体となった。すでにとっくに生身の肉体を持ち合わせている個体は存在しなくなって久しい。


 その頃には彼らの技術はあまりにも神がかり的にものになっており、その力の行使は完全に封じられるようになった。


 地球という惑星に住む低次元生物である人間ですら、火をもてば森を焼き払える、毒を使えば子供が戦士を、集団を殺傷できる。ウイルスに核兵器。手痛い失敗をしなければ、責任を取らせられなければ決して学ぶことのない大たわけである人間ですら核兵器のスイッチを平等だとぬかして配ったりしないのと同じことであって、このような原則というのは彼らの先行者にも上位種にも当てはまることだった。


 核などはエリエン人からすれば大したものではないのだが、エリエン人が持つ技術はそんなレベルのものではなくて個人が勝手に行使すれば銀河どころか、宇宙が滅ぶようなもので、その辺の技術は全て信頼できるシステムに預けられて彼らが自由に使えることはない。


 その権利を彼らは彼らの存続のために放棄せざるおえなかった。といってもほとんどの高度な生命体はそうする。それをしない低次元生物はより上位の生物に滅ぼされた。


 殺人ウィルスを世界中に流行らすことを選択する猿がいれば人間だってそれらを滅ぼすだろう。それと同じことであった。


 そんなエリエン人も彼らの人工的世界で暮らし始めて、何不自由がなくなると、すぐに昔を懐かしむものたちが現れた。



 —また、あの我々が生まれた世界で、再び生きたい。生を味わいたい。



 一部のエリエン人たちは非常に強い感情を抱いてそれを望んだ。しかし力を行使するのも、いただけない。そもそも許可が降りないのだ。


 彼らは自分たちに似た有機生命体を作り、それらの中に波長の波を渡って同調することにした。単なる乗り物でいい、助手席に乗っているだけでもいい、干渉できずとも良い。


 生物自体に乗り共に人生を味わうのだ。これは流行った、エリエン人のほとんどが意識の一部を割いて生身で生きる有機生命体の中に入った。


 生物の知能や健康状態などの条件が良くなればなるほど、彼らと一体化するような感覚になる。


 乗り物になった生物からすれば、それは意識が鮮明になるという感覚であった。


 鮮明な意識を持つ個体は価値が高かった。映画の中の登場人物の好きな視点を体験できるが、個体によって解像度に違いがあるのだから。


 そしてそれは起きた。


 エリエン人にとっての史上最悪の災厄。エリエンの思念体、魂は牢獄に囚われてしまった。全ての同胞たちの希望はたった一人の生き残りの肩に乗ったのだった。


 宇宙同士の衝突が原因だった。



生き残りはたった一人と一体のポンコツロボットで、世界と種の未来は二人の肩に乗せられることとなったのだった。





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