第五話 嫌疑
「あの・・・・・・。私、ちょっとコンビニに行ってきてもよろしいでしょうか」
湊は、この場に居ることに耐えられなくなっていた。この野近という男は、ただ者ではない。そう感じたがゆえの発言だった。
そして、この場を離れる必要が、もう1つあった。湊にとって、どうしてもしなければならない理由が・・・・・・。
「コンビニですか。何をしに行かれるのですか」
「ちょっと温かいものを買いに・・・・・・。だめ、ですか?」
「できれば、事件の現場検証が一通り落ち着くまでは、ここに留まってほしいところなのですが・・・・・・」
野近はそう言って、改めて湊に質問した。
「温かいものでしたら、この部屋のものを使われては、いかがですか。一応ですが、あなたのお知り合いの部屋なので」
「そうなんですけど・・・・・・。この部屋のインスタントのココアは、たしか切らしているので。ホットココアを買いに行きたいんです」
野近は、湊の言葉に、少し考え込むようにしてから返事をした。
「そうなんですか。分かりました、良いでしょう。特別ですよ」
「ありがとうございます」
湊は、笑いながら野近にそう応えた。
「失礼ですが、ホットココアがお好きなんですか」
「はい」
「わかりました。ありがとうございます」
湊はそう言うと、椅子から立ち上がり、玄関の方に向かった。湊はスニーカーを履き、腕時計を確認した。時刻は22時15分を少し回ったところだった。