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第8話 スーパーキャンセル

 竜華は影弓のプレイスタイルを楽し気に観察する。


「徹底したガン待ちですか。アレを崩すのは骨が折れますね」

「ガン待ちするなら貫き通さないとな。守りは最大の攻撃なり」

「ガン攻めスタイルのあなたらしくない言葉ですね」


 一方ですでに体力ゲージの半分を割った風木は、


「……なるほどね」


 冷静だった。

 この戦い、先に2ラウンド取った方が勝ち。1つ落としてもまだ負けではない。このラウンドを落とすことは大きな問題じゃない。問題は突破口が見つからないまま2ラウンド目に突入すること。


――残りの体力は“探り”に使おう。


 そう覚悟し、風木は1ラウンド目を捨てた。

 格ゲーにおいて逆転劇は珍しくない。特に高火力なエンフェルなら小さなきっかけで逆転できるだろう。だが風木は残りの体力で勝つことは諦め、“(けん)”に回った。実際、無理やり攻めた所で影弓の牙城を崩すことは難しいため、正しい選択だと言える。

 ラウンドを捨てるという思い切った判断を下すことは難しい。風木は荒々しい性格とは真逆に、格ゲーにおいてはクレバーなのだ。


 ゲージは温存。エンフェルの技をほぼ全て使い、揺さぶる。影弓は手慣れたように、エンフェルの全ての技を封殺していく。


 対空技が届かないほどの高度から相手の背後に回り攻撃する“めくり”、セオリーから外れた行動をする“暴れ”、相手の飛び道具をガードしてからの“間詰め”。その全てを、影弓はいとも容易く対応していく。


「……こんな完璧に対応するなんて……!」


 風木は強い。それは星乃や竜華などの教師陣も認める所だ。プロゲーマーと言えど、いま風木が行っている揺さぶりを受ければ型を崩すだろう。


 しかし、影弓は崩れない。なぜなら影弓は知っているからだ。たった1つの技で、今の風木より激しい攻めをしてくる相手を……。


「高橋先生に比べれば……(ぬる)いですっ!」

「このっ……!」


 逸人の名を出され、頭に血が上り突進技を繰り出す風木。影弓はその突進技にカウンターをぶつけ、1ラウンド目を先取する。その瞬間、どよめくような声が部屋中に響いた。



---



 クラスでトップレベルのゲーマーである風木が影の薄い影弓に負けたということ、そして逸人が担任になる可能性が高まったことに対する動揺が広がる。無論、チートゲーマーである逸人サイドを支援する声は少なく、過半数が風木を応援していた。


 圧倒的アウェーの状況でも、気の小さい影弓が怯えることなく戦えているのは……使命感。影弓は、この戦いに絶対負けられないと思っていた。


(高橋先生はこのクラスに絶対に必要な存在……僕が負けるわけにはいかないっ!)


 この1週間で影弓は大きく実力を伸ばした。もちろん影弓の才能のおかげでもあるが、大きな要因は高橋逸人だった。


 彼の教育は全て的を射ていて、この1年間で出会ったどの講師よりもわかりやすく解説してくれた。逸人ならクラスの地位を向上させてくれる。否、()()()()()()()このクラスを立て直すことはできない。そう影弓は確信していた。


 ゆえに、負けられない。


(このクラスのために、僕のために! 高橋先生は絶対に、このクラスの担任にしなくちゃいけないんだ!!)


 始まる第2ラウンド。風木は奇妙な動きを始めた。

 突進技である“エレキバレット”を3度も繰り返し使ったのだ。もちろん、影弓は“抜殺剣”でカウンターを取っていく。

 観戦している教師陣も風木の動きには驚いた様子を見せる。


「……あれ? 風木ちゃん、戦意喪失?」


 星乃はそう言って風木を心配する。

 一方で、逸人と竜華は同時に風木の意図に気づいた。


「……あの野郎……」

「測ってますね」


 星乃と同様に影弓も風木の意図を測りかねていた。やろうとしていることはわからないが、漠然とした不安、嫌な予感だけが胸を走る。


 風木は「……おっけー、掴めた」と口角を上げ、再び“エレキバレット”を使う。


(何度やったって……!)


 影弓は伊臣にカウンターの構えを取らせる。その瞬間――風木のキャラであるエンフェルは突進モーションを伊臣の目前で止めた。


「なっ!?」


 カウンターは空振り。そして――カウンター後の後隙をエンフェル最良のコンボ始動技で刈り取られる。


 エンフェルのゲージ無し高火力コンボが炸裂、伊臣は画面端に押し込まれる。

 体力はお互い7割。影弓は追い込まれても冷静に立て直し、対空技を当て、相手を飛ばして間合いを取ることに成功する。


「スーパーキャンセル」


 逸人は呟く。


「ゲージを半分消費して、キャラの動きを技の途中だろうがお構いなしにとキャンセルするゲームシステムの1つ。伊臣がカウンターの姿勢に入った瞬間に突進をキャンセルして後隙を狙うとはな」


 逸人は風木の評価を改める。


「アイツ、思ってたよりやるな」

「このラウンド最初の3回の突進でスーパーキャンセルのタイミングを掴みましたね。とは言え、相手のカウンターを見てからキャンセルを入れるなんて至難の業……優秀ですね」

「え? でも待ってください。1回のスーパーキャンセルでゲージを半分も消費するなら、連発はできないですよね?」

「エンフェルはゲージ無しコンボでゲージの4分の1回収する。そんで1コンボで相手の体力を約3割持っていく。この意味がわかるか?」


 風木は1度目のスーパーキャンセルを使う前の段階でエンフェルのゲージをMaxまで溜めていた。

 1度目のスーパーキャンセルでゲージは50%に、その後のコンボで76%までゲージを回収。

 2度目で26%まで減らし、さらに25%近く回収してゲージを50%以上に。つまり、


「あと2回、スーパーキャンセルが使える……! そうなったら影弓さんは……」

「ラウンドを取られるな」


 3度のコンボで持ってかれるHPは9割。残りの1割程度なら、コンボ後の画面端に追い込んでからの攻防で取れる。

 ここでキャラ性能の差が出てくる。


「次のラウンドもわざとダメージを喰らえばゲージを回収できるし、伊臣は技が単発だからその辺りの調整は容易い。あのスーパーキャンセルを攻略できなきゃ……影弓の負けだ」


 逸人はこの攻略法を思いついていたが、まさか風木にこの攻略法を思いつくだけのゲームIQと、成功させるだけの技術があるとは思っていなかった。


「方法は……あるんですか?」


 星乃の問いに、逸人は笑みで返す。


「対抗できる技はある。スーパーキャンセルと同じく、どのキャラでも使える技が。恐らく、この先影弓の代名詞となる技がな……問題はアイツがそれに気づくか、だな」


 風木は逸人の予測の上をいった。しかし、逸人は風木より先の戦いを見越し、影弓に()()()()()を幾度と対戦で見せつけていた。

 その技術を、影弓が吸収できていれば……勝敗はまだわからない。

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