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第7話 ガン待ち

 4月中旬日曜日……決戦の日。

 第8遊戯室に2年アイアンクラスの面々と桜井星乃は集っていた。だが……、


「おっそーい!!!」


 肝心の逸人と影弓がその場に居なかった。


「もう約束の10時を10分も過ぎてるわよ! なにやってんだアイツは!!」


 獣のような眼光で星乃を睨む風木。星乃は『私を見られても知りませんよ』という面でカレーパンを食べる。


 待つこと更に3分。


 遊戯室の扉が開かれる。ようやく逸人と影弓が来た、と全員が来訪者を見る。しかし、


「おや? まだ始まっていなかったのか」

「校長先生!?」


 現れたのは紫髪の麗人、堀井竜華。ゲーマーズ校の校長である。

 星乃は慌ててカレーパンを食べきる。


「こ、こうほうへんへい!? ――ごくん! ど、どうしてここに!?」

「いや、彼の手腕を見たくてね。ああ、みんな、気を遣う必要はない」


 立ち上がろうとした生徒たちを右手で制し、竜華は星乃と共に部屋の後方に下がる。

 部屋の前方には黒板代わりの巨大な液晶――電子黒板がある。電子黒板には格ゲー“ブレイレッド”のキャラ選択画面が表示されている。


 風木はすでにコントローラーを持って待機している。後は対戦相手を待つのみ。


「おお、わりぃわりぃ。遅れた~」


 逸人と、なぜか緑のタンクトップに迷彩柄の長ズボンを穿いた影弓が入ってくる。


「おっそーい!! なにしてたのよ!!」

「俺も影弓もゲームしたまま一緒に寝落ちしちまってな。起きたのついさっきなんだ」

「一緒に、寝落ち!? あ、アンタら、教師と生徒でい、一緒に……! 寝……!」

「なに動揺してるんだお前? 学校で合宿してただけだぞ」


 影弓がツンツンと、逸人の背中をつつく。


「あの、先生、着ろと言われたから着ましたけど、なんですかこの服……タンクトップって……僕、一応女の子なんですケド」

「ガン待ちのキャラと言ったらこれだろう」

「はい? まったく意味がわかりません」

「ゲン担ぎみたいなモンだ。ほれ」


 逸人は影弓の背中を叩く。


「ガン待ちの恐ろしさ、アイツに見せてやれ」

「……まぁ、僕なりに全力は尽くしますよ」


 影弓は前へ、逸人は竜華の隣に行く。


「さて、お手並み拝見させていただきますよ。逸人さん」

「見るのは影弓のお手並みだろ。センスだけで言えば、アイツはお前に匹敵するぜ。竜華」

「ほう。それは楽しみですね」


 逸人の更に隣では星乃がシュークリーム片手に観戦している。逸人は『コイツ、教師らしいこと何もしてねぇな』と思いつつも口にはしなかった。シュークリームを頬張る星乃の顔がとても幸せそうだったからだ。


 一方、対戦を控えた影弓と風木は着々と戦いの準備を進めていた。


「ステージとBGMは適当でいいよね?」

「あ、うん。大丈夫」


 お互いすでにキャラクターは選択済み。影弓は伊臣で、風木はエンフェルだ。とりあえず風木がエンフェルを選んでくれたことに影弓はホッと息を吐く。


「どんな特訓したか知らないけど、私は負けない」


 目線を画面に向けたまま風木は言う。


「あと……わざと負けるとかもやめてよね。やるからには全力よ」

「わ、わかってる。この勝負……僕は絶対に、負けられない……」


 やけに気合の入った影弓の声に、風木は驚いた。

 風木の知っている影弓は気弱で、地味で、覇気のない少女。だが、今の影弓にはゲームの上手い人間独特のオーラのようなモノが見える。


 キャラクター、ステージ、BGMが決まり、対戦が始まる。


「いくわよ!!」


 風木は前に出ようとするが、スタート直後すぐに放たれた“飛流旋(飛び道具)”に足を止められる。


「ちっ! それなら――」


 空中から攻めようと斜め上、伊臣の頭上目掛けて飛ぶエンフェル。だがすぐさまエンフェルは対空技である“空斬死”で撃ち落とされる。


「くっ!」


 対空技を持つ相手に無防備に飛んで接近するのは愚の骨頂。風木がこんな安直な動きをしてしまった要因は伊臣のキャラランクの低さにある。

 伊臣は弱く、誰も使わないため、風木自身伊臣を良く知らないのだ。それゆえに簡単に対空技を喰らってしまった。


 地上に居れば飛び道具を受け続け、飛べば対空技で落とされる。慣れない相手に慣れない戦法。本来なら打つ手が無くなるが、エンフェルはtier1の有能なキャラ。あらゆる状況に対応できる多彩な技を持つ。


 エンフェルはリーチの長い槍と雷を操る魔法を使える。相手の飛び道具はこちらも雷魔法で対応し、相殺。相殺しつつ、地上からジワジワと距離を詰め、ある程度距離を詰めたら突進技の“エレキバレット”を発動させる。


 “エレキバレット”は発生から技の終わりまでスーパーアーマー(怯まない)。さらに後隙(技が終わった後に生じる隙)が無く、すぐさまガードor追撃に移行できる。さらにこの突進技から始まるコンボはゲージ無しでもおよそ相手の体力の3割は持っていく高火力。エンフェルを強キャラたらしめている技だ。


 風木は完璧なタイミングで“エレキバレット”を使ったと言っていい。だが、対戦キャラと対戦相手が悪かった。


――カウンター技“居合・抜殺剣”。


 エンフェルは伊臣の抜刀術を喰らい、画面端までぶっ飛ぶ。

 スーパーアーマーがあると言っても、カウンターは別。技のぶつけ合いにおいて、カウンターは基本どの格闘ゲームでも優位にある。いくら優秀な効果の塊である“エレキバレット”が相手でも、“抜殺剣”の効果の方が優先される。


「はっ!?」


 風木の虚を完全についた一撃。


(まずい! 追撃が――) 


 相手が追撃に来ると思い、すぐにキャラを立たせる風木。だが、影弓は、伊臣は動かない。

 ただその場で、刀に手を添えるのみ。


「それでいい」


 後方で見ていた逸人がそう呟いた。

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