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第5話 キャラランク

「むむむ、無理です!!」


 校内一階にある畳の部屋。

 そこで影弓は逸人に抗議していた。


「僕が風木さんに勝てるわけないじゃないですか!! こんなのただの公開処刑ですよ!!!」


 涙目でそう訴えかける黒髪女子の言葉など無視し、逸人は購買で買ったクリームパンを食べる。


「昼休みだってのに、飯食わなくていいのか?」

「そんな場合じゃありません! 話聞いてますか!? ていうかなんですかこの部屋!?」


 六畳の畳部屋に突っ込む影弓。


「職員室はどうも居心地悪くてな。空き部屋を俺の作業部屋として貸して貰ったんだ」


 あるのは六畳の部屋に敷き詰められた畳と、日差しさし込む窓、布団、漫画本、後は逸人の荷物のみ。


「そんなことどうでもいいですよ!」

「……お前が聞いたんだろ」

「とにかく! 指名をやり直してくださいっ! 先生に賛同していた赤峰さんとかに頼めばいいじゃないですか!」

「アイツの得意分野は麻雀とかカードゲームとか運が絡むゲームだ。完全実力勝負の格ゲーじゃ到底勝てないよ」

「うっ……そこまで調べているのに、どうして僕を選んだのですか! 生徒それぞれの能力を把握しているなら、僕の能力も知っていますよね!」

「ああ。A~G評価で……お前は格ゲーがE、カードゲームがG、麻雀もG、音ゲーがD、FPSがE」


 D評価は学校全体で見れば下の方だが、アイアンクラスの中では悪くない評価と言える。


「そうです。つまり、僕の得意分野は音ゲーです。格ゲーではありません」

「ああ、でもお前、音ゲーじゃそこまで上にはいけないぞ。良くて中の上だ」

「え……」

「だってお前、リズム感無いだろ。カラオケとか、あんま得意じゃないんじゃないか?」


 ぎくり。と影弓の背筋が震える。


「ど……どうして、そのことを……」

「助手……桜井に頼んでお前が“リズムマスター”をしている動画を見せてもらった。お前は音楽のリズムに合わせてボタンを押していたのではなく、画面に流れるマークに反射神経で合わせてボタンを押していた」

「反射神経……」

「このデータを見ろ」


 逸人は影弓に10枚組の紙を渡す。


「これは格ゲー……“ブレイレッド”の僕の成績? ……これは……!?」


 影弓はその資料の綿密さに驚く。


(僕のプレイスタイル、使用キャラ、技の使用率、試合ごとのジャンプ回数とかガード回数とか細かい所まで全部書いてある……!)

「その資料の3ページ目の()()()()の欄を見てみろ」


 影弓は言う通りに3ページ目に目を通す。


「えっと……233回。確率100%と書いてありますね」

「お前はこれまでの試合、誰が相手でも100%掴み抜けをしている。これがどれだけ異常なことかわかるか?」


 逸人は楽し気に語り出す。


「“ブレイレッド”は掴みを受けて8フレーム以内に掴みボタンを押さないと抜けられない。相手の掴みを予測しているか、たまたま相手と同時に掴みを仕掛けていないとまず掴み抜けは不可能だ。なのに、お前は100%掴みを回避している。読みじゃ確率100%までいかない。お前は反射で掴み抜けしている……」


 まるで100カラットのダイヤモンドでも見つめるような瞳で、逸人は影弓を見る。


「バケモンじみた反射神経だ。反射神経だけで言えば、俺が見て来た中で間違いなくトップだよ」

「ほ、褒めて頂けるのは嬉しいですが……では、それだけの反射神経を持っていて、なぜ僕の戦績はこんなにも悪いのですか?」


 影弓の“ブレイレッド”の戦績は101戦92敗となっている。


「反射神経が良すぎるんだよな。相手のフェイントや仕掛けに反応して自分から隙を作り、相手に突かれている。格ゲーにおいて反射神経は大事だが、それと同等に読みや揺さぶり、組み立ても大事。お前は頭で考える前に動いているから簡単に手玉に取られる」


 いつの間にか、影弓は逸人の話に引き込まれていた。

 自分も知らない、自分の引き出しが開かれていく感覚があったからだ。


「それなら、結局僕じゃ風木さんに勝てないんじゃ……」

「格ゲーの面白い所の1つは、キャラの多彩さだ。そういう組み立てが上手い人間に合ったキャラも居れば、お前のように反射神経に特化した人間に合ったキャラもいる。お前がいつも使っているキャラはバランスは取れているがお前の個性を活かせる技……カウンターを持ってない」

「カウンター……」

「相手の攻撃に合わせてカウンターを取る。ただそれだけでもお前は強い」

「つまり、僕に合ったキャラは……プレイスタイルは……ガン待ち、ってことですか?」

「そうだ。昇竜拳のような対空を払える技と、波動拳のような遠距離を牽制できる技、そんで相手の攻撃を受けることで発動するカウンター技。その3つがあればお前は不沈艦と化す。そんで、それらすべてを兼ね備えたキャラクターが“ブレイレッド”にはいる」


 影弓は数秒考え、


「サムライ、伊臣(いおみ)数馬(かずま)


 逸人はニヤリと笑う。


「その通り。伊臣は斜め上を切り払う“居合(いあい)空斬死(くうざんし)”と、抜刀した風圧で相手を攻撃する遠距離技“居合・飛流旋(ひりゅうせん)”、そんで納刀状態で待機し、相手の攻撃が当たった瞬間居合切りで反撃する“居合・抜殺剣”(ばっさつけん)を使える」


 伊臣は相手の行動を封じる技を多く持つが、1発1発で相手を飛ばしてしまうためコンボが繋がりにくく火力は低い。さらにHPも低く、ワンコンボで半分以上HPを持っていかれることもある。そして最大の弱点は掴みに弱い点。ゲージ技が全てカウンター技であるため、どれも掴みで封殺されてしまう。


 キャラランクとしては下から数えた方が早いぐらい弱キャラ。ゆえに影弓はこのキャラを軽くしか触ったことがなかった。


 だが――


「tier表では、伊臣は最下位レベル……風木さんは恐らく、tier1のエンフェルを使ってきますよ。tierビリのキャラでtier1のキャラに勝つなんて、そんなの……」


 逸人は鋭い眼光で影弓の言葉を制す。


「いいか影弓、tier表頼りになるのは二流だ。tier表はあくまで大多数の人間が使って強いキャラを上から並べているに過ぎない。自分に合うキャラが必ずしも大衆にとって強いキャラとは限らないんだ。伊臣は扱いの難しいキャラだが、間違いなくお前に一番合ったキャラだ」


 影弓の面構えが変わる。

 怯えた表情から、期待に満ちた表情に……。


「僕は……クラスではずっと端っこで、大事な試合ではいつも応援側でした。そんな僕でも……戦えるのでしょうか。クラスで一番強い……風木さんに……」


 この学校に通っている以上、ただ楽しむためだけにゲームをしているわけじゃない。その心の内には必ず闘争心がある。

 他者の才能に打ちのめされ、抑えられていた影弓の闘争心に、僅かな火が灯り出していることを逸人は見逃さない。


「ああ。俺に任せろ。お前に脚光を浴びせさせてやる」

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