第4話 最弱のクラス
逸人がゲーマーズ校に訪れた翌朝。
2年アイアンクラス、ホームルーム前。
「あれ? また机減ってね?」
教室に来るなりギャル風の女子生徒――赤峰美咲が言う。
「伊藤と蛭間が転校したらしい。これでクラスの人数は15人まで減ってしまったな」
ポニーテールの少女――西連寺刃瑠はそう言って舌打ちする。
「いいのではありませんか。これでようやく、男子は0になりましたから」
真面目な女子生徒――来摩川礼はそう言ってゲームの解説本を開く。
「相変わらず男子嫌いだね委員長は~。ま、ウチのクラスの男子ってオタク臭い奴ばっかりだったし、いなくなってせいせいか。あ~、イケメンスポーツマンか大人の色気むんむんの先生でも来ないかな~」
「……赤峰さん。真面目にゲームをやる気が無いのなら、あなたも転校することをお勧めしますよ」
「真面目にゲームってなんか矛盾してない?」
「矛盾していません。ここはそういう場です」
どこか険悪なムードが教室を漂う。
1年通して最下位から一度たりとも浮上できず、生徒の数は半数まで減った。生徒たちが苛立ちを覚えるのも仕方ない。
そんな中、最も苛立ちを隠せずにいたのは一番前の席に座る、オレンジ髪のボーイッシュな生徒だった。
「アンタ達、そんな呑気なこと言ってる場合!?」
オレンジ髪の女子生徒――風木光は机を叩き、立ち上がる。
「伊藤も蛭間もFPSの選抜メンバーだったのよ! 月末の5番勝負どうすんのよ!」
全員が言葉を詰まらせる。
アイアンクラスである以上、生徒の補充は見込めない。爆発的な戦力強化も期待できない。
現代、種目として採用されているFPSはどれも4人で1チームで戦うモノ。つまり連携力が試される。1年の間ずっとチームに入っていた伊藤と蛭間が抜けた穴は大きい。ただでさえビリなのに、さらに主力が消えるという泣きっ面に蜂の状態――
(うっわぁ。みんな荒れてるな~)
クラスの中心――とはかけ離れた所にいる少女、影弓藍羽は居心地悪そうに眉を八の字にする。
(ま、僕にはどうしようもないことだし、誰かが何とかしてくれるのを待とう)
他人事のようにそう心の内で呟き、影弓はスマホゲーに熱中する。
窓際の席、前から2番目。カラフルな髪色のクラスメイトと違い、黒髪で、前髪が長く、いつも俯きががち。名字に影が付くだけあって、クラス随一の陰の者。それが影弓藍羽だ。
自分は卒業まで一生脚光を浴びることはない――そう思っていた。あの男が現れるまでは。
「うお。マジで女子しかいねぇじゃん」
教室に、1人の男が入ってくる。
「ちょ、ちょっと高橋先生! 勝手に教壇に上がらないでください! 一応、あなたは教育実習生という立場なんですよっ!」
高橋――そう呼ばれた男に、風木は見覚えがあった。
「高橋……逸人!?」
風木の言葉で、他の面々も理解する。
あの最悪のゲーマー、高橋逸人が来たのだと。
「どうやら細かい自己紹介の必要は無さそうだな」
逸人は教卓に両手を置き、話し始める。
「今日からここへ教育実習に来た高橋逸人だ。これからお前らをみっちり鍛えてやる。目指すはワールドカップ……ってのはまだ早いか。とりあえず次の対抗戦でお前らを勝たせてやる。よろしくな」
歓声……なんてものはない。
教室の端っこに立つ星乃に生徒からの『説明しろ』という視線が集まる。
「え~、これから対抗戦までは高橋先生がこのクラスの指揮を執ります。これは校長先生が決定したことで、もう覆ることはありません」
「ふざけるなっ!」
風木が声を荒げる。
「お前は……えーっと、風木光か。俺が指導者だと不満か?」
「当然よ! アンタ、自分が何したかわかってるの!? ワールドカップでイカサマした奴の指導なんて受ける気はないわ!」
「だろうな。俺も逆の立場ならお前と同じことを言っていただろう。イカサマ野郎の指示なんて誰だって受けたくはない。チートに頼るなんざ下劣で許しまじき最低な行いだ」
「うっ……!」
逸人の言葉がピンク髪の担任に刺さる。
「だが今、自分たちが置かれている状況を考えろ。これ以上負けたら終わりなんだろ? プライドにこだわっている場合か?」
「プライドの問題だけじゃない。アンタに指導力があるとは思えない!」
「それはどうだろうね~」
逸人を擁護するはギャルな女子生徒、赤峰。
「お、赤峰美咲、お前は俺の味方をしてくれるのか?」
「うん。だってチートを使ったのは決勝戦だけって検証されているでしょ? つまりはそこまでに至る過程では真っ当に勝ち上がったわけじゃん。実力は本物ってことでしょ。もしかしたらこの学校内で一番ゲーム上手いんじゃない? って、逸人さんの大ファンだったひかるんならとっくにわかってることでしょ」
「美咲! 余計なこと言わないで!」
逸人がニヤニヤとした顔で風木を見る。風木は逸人の顔を見て、頬を染めるも険しい顔つきは変えない。
「ああそうよ! アンタの大ファンだった! だけど裏切られた! それも最悪な方法で……! 私はアンタを絶対に認めないっ!」
「お前が認めようが認めまいが、俺が指導することは決定しているんだ。だけど、そうだな……お前に授業の邪魔をされても困る。ここはゲーマーらしく、ゲームで勝負しようか」
「勝負?」
「俺が勝ったら俺が指導することを全面的に認めて、俺に絶対服従だ。その代わり、お前が勝ったら俺はこの学校から消えよう」
ざわ。と教室内に動揺が広がる。
「ちょっ! 高橋先生……! 何を勝手なことを!」
星乃が心配そうに声を掛けるが逸人はシカトする。
「しょ、勝負って……アンタとゲームで? そんなの……」
「クク……安心しろ。そんな大人げないマネはしない。資料を見たけどお前、この教室で一番格ゲー強いんだろ?」
「ま、まぁね」
「俺はこれからこの教室内のとある女子を1週間指導する。お前は俺の指導した女子生徒と1週間後、格ゲーで戦え。そうだな、今なら“ブレイレッド”の最新作か。それで勝負だ」
「は?」
光は勝利を確信したように口角を上げる。
「私がこのクラスで、一番強いってわかってるのよね?」
「今はな。だが所詮、井の中の蛙だ。1週間ありゃ余裕で抜ける」
逸人の挑発が風木の怒りを買う。
「じょ、上等じゃない! そんで、誰を指導するつもり!」
「俺が指導するのは……」
逸人が指さしたのは――クラスの中心人物の誰でも無かった。
窓際で、我関せずの面でスマホをいじっている、黒髪の生徒。
「影弓藍羽。お前だ」
「――へ?」
影弓に視線が集まる。
影弓はワンテンポ遅れて、事態を理解する。
「ええええええええええっっっ!!?」
影弓はつい、スマホを手から滑り落とした。
「……影弓さんって、どんな方でしたっけ……?」
「……私もロクに喋ったことない……ってか、誰か喋ったことあんの……?」
「……大して強いイメージないけど……得意なの確か音ゲーじゃなかった?」
影弓は影弓でなんで自分が選ばれたのかさっぱりわからず、ただ顔を赤めて口をわなわな動かしていた。
「二言はないわね? 高橋逸人!」
「ない」
こうして、風木光vs影弓藍羽の対決が決定した。
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