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第3話 魔王

「え、えぇっ!?」


 星乃はやけに親し気な2人の態度に驚きを隠せないが、2人は星乃を無視して話を進める。


「お前老けないな~。俺の6つ下だから、今年で29だろ? 全然女子高生でも通用する面してやがる」

「さすがに制服に袖を通すのは無理ですよ。いやはや懐かしい……初めて会ったのは私が16の頃でしたか。ワールドファイター6の聖火杯であなたにコテンパンにされましたね」

「ははは! 懐かしいな。でも次会った時は負けたんだっけ。戦績は10勝3敗だったか」

「……格ゲーで私に勝ちこしたのは貴方をおいて他におりません。ゆえに残念で仕方ありません。あんな事件を起こすなんてね」


 2人の昔話に一切ついていけない星乃であったが、竜華の言う『事件』というのが何を指すのかはわかった。


(世界最大規模のゲーム大会、“Esports World Cup”の団体戦大将戦……ゲーマーなら誰だって知っている大会史上最悪の事件……)


 “Esports World Cup”の団体戦では先鋒・カードゲーム、次鋒・音ゲー、中堅・FPS、副将・格ゲー、大将・格ゲーでそれぞれ争い、3勝した方が勝ち、というルール。“Esports World Cup”では一番注目される種目であり、トリで花形。優勝したチームには総額10億円が与えられる。


 7年前、“Esports World Cup 2033”において、高橋逸人率いるチームは決勝へと駒を進めた。決勝戦は2対2となり、勝負は大将戦へと委ねられた。


(最後の勝負……格闘ゲームの戦いで、高橋さんは……チートを使ってしまった)


 人間の限界を超えた速度でガードを入れたり、キャラの動きが通常より速かったり、ダメージ量がおかしかったり……。


 それは検証の必要もないぐらいあからさまなチート行為であり、戦いの途中で審判によって止められた。チームは反則負け。準優勝報酬も没収。逸人は会場内、そしてネット内で猛バッシングを受け、eスポーツの大会に出ることを全面的に禁止された。そして彼は史上最悪のゲーマーとして歴史に名を刻んだ。


「好都合だったろ? 俺が居なくなってからお前は格ゲー界で無双できたもんな」

「御冗談を。あなたが居なくなってから大会は退屈になりました。今でも納得できません。あなたが――」

「もう昔話は結構だろ。話を未来に進めようぜ」


 逸人は校長用の机に右手を置き、


「竜華、俺を2年アイアンクラスの担任にしてくれ」

「うえっ!?」


 逸人の提案に、当然現2年アイアンクラスの担当の星乃は異議を申し立てる。


「いやいやいや! 2年アイアンクラスの担任は私ですよ!」

「チートに頼ろうとした奴に教師の資格はねぇ。お前は副担任として俺の指導を見てろ」

「なっ……!? 世界大会でチートを使った人に言われたくないですよ!! あ、というか、あれですよ校長、違いますからね……? チートに頼ろうだなんてわたくし、しておりませんよ……?」


 竜華はため息を1つ挟み、


「無理を言わないでください逸人さん。あなたを採用すれば、保護者会や生徒から責められることは明白です」

「そんなもん、お前のカリスマ性で何とかしろ。もし俺の提案を断るなら……コイツをばら撒くぞ」


 逸人はスマホを操作し、画面を竜華に見せる。


「んなぁ!?」


 竜華は先ほどまでのクールな態度から一転、素っ頓狂な声を上げ立ち上がった。


「懐かしいな~。お前と初めて戦った時、お前に舐めプの超必(ちょうひ)かまして勝ったんだよな。2ラウンド目は完封だったか? お前、あまりに悔しくてその場で大泣きしたんだよな~。お前の泣き顔、ばっちり保存してあるぜ」

「……い、いつの間に……こんな写真を……!!」


 竜華は身を乗りだし、スマホに手を伸ばすが、逸人は竜華の手を躱しスマホをポケットに納める。


「生徒たちは悪いようにしないと約束しよう。だから俺を雇ってくれ」

「その性格の厭らしさは相変わらずですね……!」


 竜華はため息をつき、席に座り直す。


「……ウチの生徒を使って、何をするおつもりですか?」

「リベンジだ」


 逸人は真っすぐな瞳で答える。


「俺はあの大会にまだ未練があるんだよ」

「まさか……生徒を使って、またあの世界大会の場に出るおつもりですか……?」

「ああ。育成ゲーは結構得意なんだ」

「む、無茶です!」


 そう言ったのはアイアンクラスの担任である星乃だ。


「私の生徒たちはみんな、とても才能があります! で、ですが、世界大会を目指せる程のものじゃ……」

「ま、チートに頼ろうとするぐらいだもんな。よっぽどなんだろう。だけどお前、忘れてないか? 俺は世界大会の決勝に行けるチームを育てたリーダーなんだぜ」


 そう。明確に逸人がチートを使ったとされたのは決勝のみ。それ以外の戦いでは一切のチート行為を認められなかった。

 決勝まで進んだ実力は紛れもなく本物なのだ。


「凡夫の集まりだろうが関係ねぇ。俺というチートが付いているんだからな……」


 逸人は自信満々に言い切る。星乃も竜華も、否定することができなかった。反論を許さない覇気が逸人の瞳にはあった。


「わかりました。とりあえず、7月末まで教育実習という形で採用します」

「教育実習?」

「はい。月末のブロンズクラスとの団体戦で見事アイアンクラスが勝利すれば、正式に担任とします」

「なるほどね。それが俺の採用試験ってわけだ。面白い。乗った!」

「ちょっ!? え!? それ勝っても負けても私にはデメリットしか無いじゃないですかぁ!」


 竜華は首を横に振る。


「そんなことはない。桜井先生、彼をサポートすることは必ずあなたの良き未来に繋がる。高橋逸人という男は、紛れもなくゲームの天才……否、ゲームの魔王なのだから」

「ま、我ながら勇者って柄ではないわな」


 こんな人にクラスを預けて大丈夫なのか? と不安にならざるを得ない星乃だった。

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