第1話 伝説のチートプレイヤー
2040年――
かつてはあらゆるメディアで疑問視された競技、eスポーツ。だが現社会でeスポーツを卑下する声はすでに無い。
近年革命的なゲームが多数登場し、ゲームは世界中、全世代に波及。まさにゲーム全盛期と言われる時代を迎えていた。当然、ゲームで戦うeスポーツの人気も過熱し、サッカーや野球に並ぶ人気スポーツとなった。
そして、それだけ人気の競技ならば、それを専門とした教育機関が誕生するのも当然のこと。
eスポーツの専門学校“ゲーマーズ高等学校”。
そこにはプロeスポーツプレイヤーを目指す子供たちが集う。
“ゲーマーズ高等学校”――最下位のクラス、2年アイアンクラス。
その担任である桜井星乃は職員室でため息をついていた。
「……このままじゃ、私のクラスの子達が路頭に迷っちゃう……!」
項垂れる星乃の耳に、高らかな笑い声が飛び込んでくる。
「はーっはっは! どうしたのかな桜井先生! そんな落ち込んでさ!」
相手は金髪の、如何にも高慢そうな男。真っ白なスーツに身を包んでおり、まるで中世の西洋貴族のようだ。
「田尻先生……どうせわかっているんでしょう。私が落ち込んでいる理由……」
「これまでのクラス対抗戦で全敗のことかな? それとも遂にクラスの人数が半分まで減ったこと? 思い当たる節が多すぎてわからないなぁ。あ、もしかして――今月末の我がブロンズクラスとの対戦を憂いているのかな?」
ぐぬぬ……星乃は唇を噛む。
田尻は星乃の耳に口を寄せ、
「悪いが容赦はしないよ? 実力の世界だからね。まぁ君がそのちっこい頭を下げてこれまでの僕への非礼を全て詫びるなら、考えてやらなくもないけどねぇ! はーはっは!!」
星乃はバン! と机を叩き、立ち上がる。
「な、なんだね?」
星乃は田尻に歩み寄り、そして――頭を下げた。
「手を抜いてくれとは言いません。ただ、どうすれば生徒たちを強くできるのか……少しでも、ご教授頂けないでしょうか……」
高校生での生活を全てゲームに捧げた挙句、ゲーム業界に入れなかった場合の人生は悲惨なモノだろう。最下位クラス、それも歴代最低レベルのクラスの人間を、喜んで迎えようとするeスポーツチームはまずない。
星乃は教え子たちの未来と自身のプライドを天秤に掛け、前者を取った。
「はっ! まさか敵に教えを乞うのかい? 無様だねぇ~。やはりクラスの差は担任の差だな。君のような下奴に教わっているなら弱くて当然。ご教授? お断りだねぇ! 僕は君と違って暇じゃないんだ。1つ言えることは……君には教職は向いていなかったということだけさ! はーっはっは!」
田尻は馬鹿にするように星乃の頭をポンポンと二度叩き、職員室を去っていった。
星乃は腕でゴシゴシと濡れた瞳を拭く。
「もう……この人に頼るしかない……!」
星乃は机の上の資料に目を落とす。
――“高橋逸人”。
そう書かれた資料には30代中盤ほど男性の写真が貼ってある。目は虚ろで、髪はボサボサ。小学校の周りでもうろついていたら間違いなく不審者として通報されるであろう外見だ。
彼こそ、星乃の奥の手……。
(伝説のチートプレイヤー高橋逸人、この人の力を借りればきっと……!)
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築60年はあるであろうボロアパート。その前に小柄なピンク髪の教師は立っていた。
アパートの2階、201号室の前に教師――星乃は歩みを進める。
星乃はゴクリと唾を飲み込み、チャイムのボタンを押す。すると掠れたぷす~という音が鳴った。大丈夫かな? と不安を抱きつつ待っていると、扉が開いた。
「はい」
扉を開け、中から出て来たのは上下灰色のジャージの男。高橋逸人その人だ。
「高橋さん、ですよね?」
「そうだけど、なんだ?」
「私はゲーマー専門の教育学校、ゲーマーズ高等学校に務める教員で、桜井星乃と言います。今日はあなたにお願いがあって来ました!」
星乃は頭を下げる。
「お願いしますっ! 貴方のチートの力で、私の生徒たちを救ってください」
流れる沈黙。
星乃は顔を上げ、逸人の顔を見る。
「……っ!」
逸人は、まるでゴミを見るような目線を向けてきていた。
「なるほど。よくわからないが、ゲームで勝たせたい奴らが居るんだな」
断られる、もしくは殴られる。そう星乃は直感し、目を閉じる。
「いいだろう」
返ってきたのは意外な返答だった。
「話を詳しく聞かせろ。内容次第で受けてやる」
「え……?」
部屋に入れと促す逸人。
星乃は渋々部屋に入った。
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