第10話 宣言
「そんなそんなそんなそんな……! 私が、私が――」
「はっはっは! ざまぁねぇなミカン娘!」
風木の髪色を揶揄しつつ、逸人は電子黒板の前に立つ。
「このっ……! 誰がミカンだコラ!!」
「お前に決まってるだろ。腐ったミカンめ」
「な、なにをぉ~~~~!!」
「さて皆の衆、これで証明になったはずだ」
逸人は影弓の脇を掴み上げ、立たせる。
「ひゃっ!? 先生なにを!?」
逸人は影弓の肩に手を乗せる。
「今のコイツが、俺の指導力の証明だ。このクラスで一番のポンコツ、一切才能のないこんな奴でも、俺が指導したら1週間で風木を倒せるレベルまで成長した」
「ひ、酷い言われよう……」
「俺が指導すれば、お前らは強くなれる。誰よりもな」
クラスの面々は口ごもる。
事実、逸人が育てた影弓が風木を倒したのだ。
実際には影弓は高レベルな反射神経という才能を持っていたわけだが、クラスの人間はそんな影弓の才能を知らない。目立たない、凡夫な人間が、逸人の指導によって天賦の才を持つ風木を倒した。ただその事実のみがのしかかる。
「申し訳ございませんが」
そう断りを入れたのは学級委員の来摩川礼だ。
「私はあなたを認めません。どれだけ実力があろうと、チートに手を染めた人間を支持することはないです」
「つまり、お前は俺の指導を受けないというわけだな?」
「はい」
「わかった。それならお前は対抗戦のメンバーからは除外する」
「なっ……!?」
「このクラスの指揮官は俺だと言っただろうが。俺の実力を知って尚、くだらないプライドで食い下がるような奴には用はない」
逸人は電子黒板に繋がるPCを操作し、電子黒板に“逸人塾”という文字を映す。
「明日より塾を開く。当分の間、第3遊戯室をウチで借りられたから第3遊戯室で毎日放課後、俺が直接指導してやる。対抗戦のメンバーはこの塾に参加した奴の中から選ばせてもらう。来摩川のように俺が気に入らない奴は来なくて結構だ。風木と影弓、お前らは強制参加な」
「は、はい!」
風木は唇を噛みしめ、
「ぐっ……負けた以上、文句は言えないわね」
「断言するが、塾に参加する人間と参加しない人間との間には時間が経つほどに差が生じるだろう。下手なプライドは捨てて、参加することをおすすめする。そんじゃ、今日は解散だ。明日の16時、第3遊戯室にて、最初の授業を始める」
イベントが終わり、散り散りになる生徒たち。
生徒は全員立ち去り、逸人と竜華だけが部屋に残る。
「なんだよ、なんか用か? 俺はこれから塾の準備をしなくちゃならないんだが――」
「私がなぜ残っているか、あなたならわかっているんじゃありませんか?」
「まぁな」
逸人はコントローラー(風木の物)を左手に持ち、右手で竜華を指さす。
「さっきの勝負を見てお前も滾ったんだろ? いいぜ! 俺と勝負――」
「しません。私がここへ残ったのは、あなたにあの日のことを聞くためです」
「ああ……そっちね」
逸人はガックシと肩を落とす。
「あのチート事件……本当に、あなたがやったのですか? それだけ聞かせてください。もしもあなたが無実なら、無実だと言ってくれるなら、私はあなたに賭けることができる」
「……はぁ。シリアスな話だな。逆に聞くが、俺がやると思うか?」
「どうでしょう。必要に迫られたらやるんじゃないですか?」
「お前なぁ……」
「ただ、あなたがもしチートを使うならあそこまであからさまにはしない。あんなバレバレなチートは使わない。あなたの性格に信用はありませんが、あなたの腕は信用している」
「そりゃどうも。いいぜ、ハッキリ言ってやる……俺はチートを使っていない。アレは予め何者かに仕込まれていたもんだ」
竜華は「やはり……」と目を細める。
「相手に目星は?」
「さぁな。普通に考えりゃ対戦相手なんだろうが、アイツがあんなせこいマネするとも思えない。確かなのはワールドカップの運営に近しい人間だということだけだ。大会のゲーム機はアイツらが用意してるんだし」
「……確かに、運営サイドに仕掛けた人間が居るのなら、その後の検証においてもいくらでもあなたに罪を擦り付けられる」
逸人は肩を竦め、「真相は闇の中さ」と他人事のように言う。
「真犯人を探そうとは思わないのですか?」
「昔は思ってたよ。でも、もうどうでもいいかな。今はただ、あの大会でやり残したことを回収したいだけさ。ワールドカップ優勝……それだけが目的だよ。そのためにここに来た。俺はやるぜ、竜華。この学校の人間を使って、もう1度あの頂に手を掛けてやる」
逸人は天井に手を伸ばし、拳を握る。
高橋逸人――チートの濡れ衣によってeスポーツから消えた天才は、今度は監督としてその頭角を現す事になる。
だがその夢の実現には大きな壁が幾つもあることを、逸人も、竜華も、よくわかっていた。そして――彼女も。
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1人の少女が、遊戯室に忘れたコントローラーを取りに来ていた。
少女は遊戯室に入ろうとしたが、開いたドアから漏れ出た声を聞き、足を止めた。
「あのチート事件……本当に、あなたがやったのですか?」
少女はその言葉を聞き、遊戯室の壁に隠れ、聞き耳を立てた。
「……俺はチートを使っていない。アレは予め何者かに仕込まれていたもんだ」
逸人の言葉を聞き、少女は瞳に涙を溜めた。
少女はその場を去る。その口元は緩んでいた。
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