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第9話 防御の極み

 結局、第2ラウンドはスーパーキャンセルを駆使した風木が勝利した。

 これで1勝1敗。次のラウンドを取った方が勝ち。


 伊臣のゲージは100%

 エンフェルのゲージは51%

 第3ラウンドが始まる。


「凄いね。この短期間でこんなに力をつけるなんて驚いたわ」

「風木さん……」

「だけどここまでよ。このクラスで1番格ゲーが強いのは……私!」


 第3ラウンドも風木が優勢。

 スーパーキャンセルを駆使したコンボであっという間に影弓は追い詰められる。


 伊臣、残りHP28%

 エンフェル、残りHP58%

 エンフェルの必殺技ゲージは――56%。


 あと1回のコンボが決まればエンフェルの勝ちだ。


(どうしよう。もう手が無い……いっそカウンターは諦めてガードで対応する? いや、ガード後の攻防で風木さんに勝てる気はしない。エンフェルの“エレキバレット”はガードしても隙が無いから……)


 影弓は逸人との200を超える対戦を思い返す。


「なにか手は……」


 走馬灯のように駆け巡った記憶の中、影弓は逸人が多用していたある技に目を止める。


「……そうだ……アレなら……」



 ---



 影弓は深呼吸し、集中力を高める。風木も瞬きを忘れ、画面を見つめる。

 相手のカウンターを見てからスーパーキャンセルを入れる……これは決して簡単なことではない。1フレームのズレで失敗する。風木は風木でかなり神経をすり減らしていた。この試合の影弓、風木の消耗は激しい。たった1戦で背中に汗をかくほどに。


 2人だけでなく、勝負を見守る者たちにも緊張が走る。次の攻防で勝負がつくことを、全員が感じ取っていた。


 仕掛けるはもちろん――風木。“エレキバレット”で伊臣に突っ込む。


(カウンターが見えた瞬間にキャンセル! キャンセル! キャンセ――あれ?)


 風木の予測に反して、影弓は、伊臣は、カウンターの構えをしなかった。


(カウンターを、使わない!?)


 となれば、当然風木もスーパーキャンセルを使わない。もう、この突進は止まらない。

 エンフェルと伊臣が衝突する――勝敗はガード後の駆け引きに委ねられたと、そう思われた。だが、


――ガキン!!


「!!?」


 伊臣は、ガードをした。

 だが、ただのガードじゃない。


――ジャストガード。


 相手の攻撃の衝突に合わせてガードすることで、ガード後すぐに攻撃に移行することができる技。タイミングの難しさはカウンターの比じゃなく、相手の動きを予知してなければまず成功しない。

 カウンターと違い発生までモーションは無く、見てからスーパーキャンセルを入れることは不可能。

 いくら“エレキバレット”と言えど、ジャストガードされてしまえば確定で反撃を喰らう。


「高橋先生との“縛り戦”……アレのおかげで“エレキバレット”のタイミングは掴めていた。確実に来るとわかっていればジャストガードで対応できる!」

「ありえない……!!!」


 カウンターが1秒継続するのに対し、ジャストガードの判定は僅か1フレーム。

 これを狙って成功させた影弓に、逸人は小さく拍手した。


「この試合、“エレキバレット”を振り過ぎたのが(あだ)となりましたね」


 竜華が言う。


「ああ。アレで完全に“エレキバレット”のタイミングを影弓に復習させちまったな。他の技でもスーパーキャンセルを使ったズラシはできただろうに、比較的タイミングが掴みやすい“エレキバレット”に頼ったのが風木の敗因だな」

「まぁ、高校生にあれ以上を求めるのは酷というものです」

「eスポーツに歳は関係ねぇだろ。小学生で大人のプロゲーマーを負かす奴だってこの世にはいる」

「あなたのことですね」

「お前のことでもある」


 逸人と竜華はすでに勝負ありと見たが、まだHPは風木が優勢。ジャストガードからの反撃は慣れていないせいで、影弓は火力を出すことができなかった。


 エンフェルがちょうど半分のHP、一方で伊臣は3割を切っている。エンフェルはゲージにも余裕があるし、客観的に見ればまだエンフェルが完全に優位のはずだ。


 だが――エンフェルを操作している風木自身が、戦意を失いかけていた。


(ど、どこから……攻め込めば……!?)


 スーパーキャンセルを使ったズラシは、現状“エレキバレット”でしかできない。

 空中から攻めれば対空技で落とされ、“エレキバレット”をうてばジャストガードで弾かれコンボを喰らう。


(伊臣なんて弱キャラ中の弱キャラじゃない……なのに!)


 伊臣の姿がドンドン、大きく見えてくる。

 風木の恐怖をもって、伊臣は完全に浮沈艦と化した。


(ダメだ……お、落とせる気がしない……!)


 思考が闇に満ちようとした時、風木の瞳にタイマーの“30”という数字が映る。


(そうだ! このままタイムアップを待てば……)


 後30秒でタイムアップ。タイムアップになればHPの多い方、つまりこのままならエンフェルが勝利する。

 風木は攻め気を完全に絶ち、待ちに回った。攻めを得意とする者が攻めを捨てた時、明確に操作キャラから覇気が消える。


 影弓は伊臣を走らせた。


「そっちが来ないなら、こっちから攻めさせてもらうよ!!」


 その瞬間、風木は動揺し、反射的に“エレキバレット”をうってしまった。


「かかりましたね……」

「しまっ!?」


 影弓はただ伊臣を走らせただけ。攻撃ボタンを押すつもりは一切無かった。これは影弓の誘い。

 伊臣は容易くカウンターを取り、エンフェルを斬り飛ばす。画面端に転がるエンフェルに、さらに伊臣は近づく。


 この試合初めての影弓からの追撃。風木は焦り、目の前の伊臣に攻撃を振る。その全ての攻撃を、影弓はカウンターや対空で狩っていく。


 影弓はここに来ても一切、攻撃をする気は無かった。画面端で、相手の目の前に居るのに、待ちに徹する。


――画面端のガン待ち。


 影弓は適応するだけ。ただ相手の攻撃をいなすだけ。


 もしも風木がさっきの状態から一切攻撃をしなければ、負けていたのは影弓だっただろう。だが突っ込んでくる相手を、目の前の相手を、迎撃しないなんてことは風木にはできなかった。それは、格ゲーマーとして当然の性。


 この1週間で逸人に徹底的に常識やセオリーをぶっ壊された影弓は、そんな格ゲーマーの性を手玉に取る。


 勝負は決した。

 エンフェルのHPが0になる。


「僕が……勝った。風木さんに……僕が……!」


 涙を瞳に浮かべ、飛び上る影弓。

 一方で、シーンと静まり返る教室内。


 逸人はニヤニヤとしながら部屋の前に歩いていく。


「さーってと、仕上げだな」

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