社長室にて
はぁ・・・まったくあの人は・・・
ついぼやきが出てしまう。
ぼやきたくもなる。というか、普通に腹が立つ。またあの人が彼女たちに無茶振りしたらしい。通信役の社員から連絡が入った。
しかも、よりにもよってあの場所に!!!
オーク製の古めかしい扉をこれでもかという勢いで2回ノックする。扉にかかった『社長の部屋♡』とかいう札にはもう社員一同ノーコメントだ。
ーほーい、システィかぁ〜?
こちらの心労を知ってか知らずか、部屋の中からこの上なく気の抜けた返事が返ってくる。このやろう。
「ケイ!!!どういうつもりなの!!!マッコイたち
から通信が入ったわ!!!何て任務に行かせてる
の!!!」
ドアを開けるなり、怒鳴りつける。
窓の外を眺めていたらしい男がギョッとしたように振り返った。長身で細身だが、筋肉質なその男の、ウェーブがかった肩まである黒髪が揺れる。切れ長の目を大きく見開きながら、口を開いた。
「どういうつもりって・・・」
「カミ狩りの潜伏先によりにもよって『本物』
送り込んでどうするのって言ってるの!!!
しかも彼女だけならまだしも、今はボンバ君も一緒
なのに・・・」
ああ・・・と言いながら目の前の男は無駄に小洒落たブルーグレーのサングラスを拭き始める。
「大丈夫だよ、システィ」
出たわね、全てを分かってる、みたいなこの態度!
付き合いの長い私は知っている。
この男の「大丈夫」、に明確な根拠は無い!!!!!
「な!ん!で!そんなこと言い切れるの!?
そもそも、目的は何!?」
「お、落ち着けシスティ・・・
まずアイツらに任せたのは、マッコイの希望だ。
カミ狩りに接触する可能性がある仕事はなるべく
回してくれと言われてるんでな。
ボンバには、私からその事を話すって言ってたぜ。
それに・・・
仕事内容は、本当にただの郵送なんだよ。別にやつ
らと事を構えようって話じゃ無い。俺たちはあくま
で郵便屋さんなんだ。マッコイはやつらの偵察がてら、
行って帰って来るだけ。・・・多分」
「多分って、マッコイが偵察で済ます訳ないじゃない!
下手したらボンバ君にそのこと言ってないわよ!
『知る必要が無い、私が片付ける』とか何とか言う
彼女が目に浮かぶわ!そもそも!もし襲われでも
したら・・・!
・・・・・・何笑ってるの!?」
「い、いや、だってそんな剣幕で怒鳴ってるのにマッコイの
物真似がうますぎて・・・
い、いやいや!すまん!でも大丈夫だ、システィ!
襲われたところで返り討ちにするさ、マッコイなら」
「違うわ、ケイ。私が心配しているのは・・・
もちろんマッコイのやり方も心配だけど、ボンバ君よ。
彼の体のこと、分かっているでしょう?
足は動かないし、魔法も使えない。彼は戦えない
のよ?」
ーそれとも。
彼には、やはり何かあるの?
あの、思い返す度に胸が掻き回される、壮絶な仕事。初めて世界郵便のナンバーズが全員総出でかかった仕事。
壊滅した街並み。匂い立つナニカが焼ける匂い。
死体、死体、死体ー
・・・あの地獄から我々によって「輸送」された男、
それがボンバイエ=クルーラーだった。
彼がここに採用という形で引き取られてから、3ヶ月と13日。最初こそ心身のショックがあまりにも大きい様子だったが、彼は強かった。凄惨な過去をまるで感じさせない気丈な振る舞いと人柄の良さから、すっかりこの会社にも溶け込んでいる。私だって、心から彼を応援している。
でもー
彼はまさかのマッコイのバディになってしまった。
彼女が受ける仕事は危険がことさら大きい。だからこそ、基本的にバディ制であるというルールを曲げて、ずっと単身で仕事をこなしていたのに。
事実、報告によるとボンバ君は既に幾度と無く死線を潜り抜けている。
社員一同、もう気が気じゃ無い。目の前のコイツ以外は。
「ボンバ君には・・・何があるの?」
「・・・それは俺からは話せない。他人が決して話し
てはいけない。話すなら、アイツからだ」
煮え切らない返事ではこちらが納得しないのは分かっているのだろう。申し訳無さそうに眉を寄せて続ける。
「信頼、とかそういう話じゃ無いんだ。システィ。
俺とマッコイはたまたま知ってしまった。そして、
見届けたいと、力になりたいと思った。今回の仕事
も、これからの仕事も、彼の成長の為だと思ってく
れないか」
・・・本心みたいね。
こちらを真っ直ぐに見る時には、あの不愉快なニヤニヤ笑いが消えている。
あの地獄の中心にいたのは、マッコイとケイの2人。
何を見たのか・・・。いずれ分かる日が来るのか。
「はぁ・・・心臓がもつか分からないわ。覚悟しとき
なさいよ。彼に何かあったらストライキの一つや二
つ起きるんだから」
苦笑いで社長は答える。
・・・あ、もうひとつ気になることがあった。
「ところで、通信のエコーマンによると、百足の呪い
まで絡んでるって話なんだけど?」
ケイの眉毛がピクリと動く。
「・・・それは知らなかった。ふむ・・・」
「・・・システィ?」
ため息で返事をする。
「No.2 システィ=ハントマン、合流に向かうわ」
「・・・後、仕事の情報はもっとちゃんと集めなさ
い」