プロローグ
1000年前、カミサマは意図して四季というものを作ったのだろうか。
四季もそうだが、果たして、この世界のどこからどこまでをカミサマが作ったというのか。
若干の肌寒さを感じながらふと考える。暑苦しい季節が今年も終わっていく。夜の森は静かで、神秘的で、不気味だ。ジャリジャリと、俺の車椅子の車輪が砂利道を踏み締める音に紛れて、何かが物悲しそうに鳴いている声が聞こえた。
ナキッツラニハチィィ・・・
・・・何の鳴き声なんだあれは。
「腹減ったよなぁ・・・」
風情に思いを馳せる俺とは対照的に、いかにも何も考えてなさそうなことを言っている女。よだれでも垂らしてるんじゃないだろうな。
確認しつつ、顔を見上げて言った。
「さっき食べたばかりだよ、おばあちゃん」
茶化してみる。
「缶詰じゃ足りん。パンも足りん」
「持ち運べる食料には限りがあるから・・・俺のパン
まだあるぞ。食うか?」
「カミは施しを受けぬ・・・。ただ、どうしてもと言
うのなら食べても良いゾ」
車椅子を押す力が、ふっと弱まる。
女が「ん」と右手を伸ばしてきた。
本社を出発してからこの2日間、動かない俺の足がこの旅路に影響を与えているのは明らかだ。
共に仕事をし始めて数ヶ月が経ったか。ぶっきらぼうで淡白な物言いのこの女は、ただ、それに関して文句を言ったことが無い。
申し訳無い気持ちと、感謝がある。
パンのひとつやふたつ、あげるのは安い。
ショルダーバックからパンの袋を取り出して、渡す為に振り返る。
「ほい・・・あだっ!」
デコピンを喰らった。
「誰がババァだ。コラ、ボンバ」
「ったぁ〜・・・。死ぬ危険があるんだって!お前のデコピ
ンは!・・・あっ・・・星・・・」
カッカッカ、と美しいシルバーの髪をなびかせ、女・・・マッコイ=ブランニューは笑う。
ごちそーさん、とパンを齧ると、こちらを見る。
宝石のような琥珀色の瞳が、ランタンの灯りを反射する。まるで彫刻のようにはっきり整った顔立ちは、暗がりでも少しも美しさが損なわれない。むしろ、限られた照明と陰影によるコントラストが美しさに拍車をかけているようにすら見える。
・・・例え今、ハムスターのように口いっぱいにパンを頬張っているのだとしても。いや・・・流石にフォローしきれないか・・・。
出会ってからしばらくたった頃、マッコイの容姿について素直に称賛したことがある。本人は、
ーんなことどうでも良いだろ。そんなことより今日の
晩飯何食う?
とのことだった。人によってはその態度を、恵まれた者の傲慢だと言うのだろうが、俺は素直に感心した。
「ほぉくふぇききもふぁふぁえ」
「え?」
「・・・ごくん。目的地の名前、何だっけ?」
「メロンメロン」
「は?メロン・・?」
「ふざけてないぞ。ってか逆になんで忘れてんだよ。
こんな覚えやすい名前」
「最初から聞いてないからな!」
なんだよ、それ、と笑う。
もうすっかりマッコイの雑さにも慣れて、掛け合いのテンポが良くなってきた。同時に、この状況が今でも信じられない、とも思う。
あの日俺は、全てを失った気がした。
家族も、故郷も、夢も。
残されたのは思うようにならない自分の体と容赦の無い
現実。
でも、俺の世界は変わった。
「世界郵便」所属、No.13ボンバイエ=クルーラー
それが今の俺。
そして、No.3マッコイ=ブランニュー
純血のカミサマがまさしく俺の救世主となった。
はじめまして。カボチャノニモノです。
仕事をしながらでも創作がしたーい!と、ポチポチスマホを打ち始めました。楽しい!
小説初挑戦、拙い作品です。温かい目で見て頂けたら嬉しいです。連載も不定期ですが、もしご縁があった方、ボンバとマッコイの旅路を一緒に楽しんで頂けたら幸いです。