私だけの夕陽
短編です。あんまり時間をかけてないので誤字脱字があるかもです。
プロローグ
その日、私は夕陽を見た。
夕焼けの下に照らされた街は静かだ。
以前、賑やかだったであろうこの街も今は人ひとりもいない。
道路に転がっている黒い点は恐らく人の死体であろう。
普通ならば恐怖や不気味だと思うものなのだろうが……
それを差し引いても夕陽は綺麗だった。
右手に持ったアイスを一口頬張る。
初夏の夕暮れ時の風が私の髪を撫でていく。
これから私はどれだけの初めてに出会うのだろうか。
この誰もいない世界で………
第一節 彗星の接近
その日も、いつもの様に朝御飯を食べる。
今日のメニューは・・・・月曜日だからベーコンエッグにご飯に味噌汁だろう
別に嫌いなものはないし、味も然程悪くはない。
しかし恒例化した日替わりの朝御飯に少々飽きている。
部屋をノックしてある人物が食事の乗ったトレイを運んでくる。
朝食をベッドまで運んでもらう。聞いた感じ、
どこかのお金持ちかと、誤解されそうだが、そうでは無い。
私が今いるのは病院なのだ。
しかもその中でも警備の厳重な隔離病棟だ。
生を受けて14年と51日、私はここにずっと閉じ込められている。
食事を持ってきた人物は部屋の机に食事を置くと、そそくさと部屋を出ていった。
そんな無愛想な対応にも私は文句が言えるはずがなかった。
ただの朝食運搬も彼女にとっては生死に関わるものなのだから。
とはいっても運搬係りの人が女の人だとは断定できない。
ただ、防護服が小さいサイズであったから"彼女"と言っただけだ。
もしかしたら小柄な"彼" であったかもしれない。
その宇宙服のような防護服は見るたびに私を不快な思いにさせるのだ。
とはいっても、それはしょうがないことなのだが。
私は生まれた瞬間から病気なのだ。
病気といっても、私の身体の機能は他の健康な人と、ほぼ変わらない。
しかし、この病気は空気感染、血液感染、あらゆる方法で他者に感染するのだ。
そして感染したものは何の苦しみも感じずに絶命してしまうというものだった。
私がこの病気を最初に感染させてしまったのは母だった。
母は私を産むとすぐに死んでしまった。
そしてそこにいた助産婦も、全員が死んでしまった。
その瞬間から私の運命は決まっていたのだった。
その日から今日まで私は政府の特別病院で隔離されてきた。
治療のための特別処置といえば、聞こえがいいのだろうが、
少なくとも私は気づいていた。自分がモルモットにされていると。
だが、この病室にはテレビもパソコンもある。
欲しいものがあればネットを通して頼めるのだ。
だからそれだけで十分だった。まあ不満がないと言えば嘘になるだろうが。
朝食を済まし、そのトレイを机の脇に寄せると、私はパソコンとテレビの電源を入れた。
リモコンを手に取り、チャンネルを回すが、まだ朝ということもあってか、ロクな番組はない。
仕方ないのでニュース番組にチャンネルを合わせる。
その時にやっていたニュース報道は昨日も見たものと同じだった。
というよりはテレビ局は一週間前からそのネタで持ちきりらしい。
「彗星の超大接近」それが今一番の話題だ。
なんでも3日後に彗星が地球に大接近するらしい。こんなに接近するのは観測史上初らしく、
地球に当たるとか当たらないとかで、偉い学者さまは引っ張りだこになっていた。
そのせいか、ある宗教では世界の終わりなどと言い出して暴動を起こす者もいるらしいのだが・・・・
所詮この部屋にいる私にとって、この話題は関係のないものだった。
この話題だけではない。ニュースでやる世界の出来事は私には何の関係もないことなのだ。
物心ついたころから、私はずっとここにいる。この白い病室に。
ここが私の家であり、私の世界であった。
そう今も、これからも………
その日まではそう思っていた。
第二節 日常
パソコンを開き、某掲示板を覗く。
今日もまた面白そうな題名のスレッドが立ち並んでいた。
中でも目を引いたのが、「俺、彗星なんだけどなんか質問ある?」
という題名のスレッドだった。
旬な話題だけあって、そこはかなり書き込みがされていて、その混沌っぷり
には声をあげて笑ってしまった。
しばらく、書き込みなどをして時間を潰すと、部屋の中にある電子時計の音が
私に十時という時間を知らせてくれた。
ブラウザを閉じ、私はデスクトップからあるソフトを起動させる。
それはインターネットを通して、遠く離れた、相手の姿を見ながら、
リアルタイムで会話をできるというものであった。
机の上のカメラを所定位置に合わせ、相手の通信を待つ。
しばらくすると、画面上に反応があり、見慣れた顔の女性が映し出された。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
画面上の女性は画面越しに挨拶をしてくる。
「おはよう先生」
私もそれに答え挨拶をする。
「あら、まだパジャマなの? 授業を受けるときは
ちゃんと着替えなさいって、いつも――」
「だって、誰も見ていないんだし、いいでしょ?」
「だめです。あなたは学校に通っていないにしろ学生なんですから
身だしなみはしっかりしなさい!!」
「は〜い」
私は先生に言われたとおりに、パジャマを脱ぎ、私服に着替える。
「では今日は英語からね。教科書の――」
いつものように私は、授業を受ける。この病気で学校に行けない私に
政府はカウンセリングも兼ねて、この先生を与えてくれた。
先生とはかれこれ八年ぐらいの付き合いで小学校のころから
カウンセリングをしてもらったり、勉強を教えてもらったりしている。
この先生は私の心を許せる人の一人だった。
「はい、今日はこれでお終い。ちゃんと宿題やっておくのよ」
「はい、分かってます」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
今日も一日の楽しみの一つが終わってしまった。
そんな虚無感を抱え、私はベットに倒れこむ。
目線の先にあるのは天井と、その隅に配置されたカメラ。
あのカメラの先で私を監視している人はどんなふうに私を見ているのだろう。
試しに手を振ってみる。当然反応はない。
自分のした行為に苦笑しつつ、私は目を閉じた。
お昼を食べて二時間程度、勉強で頭を使ったせいか
眠気が襲ってくる。その睡魔に抵抗せずに精神を深いところまで落としていく。
これで今日もいい暇つぶしができそうだ。
第三節 無関心
あっという間に時間が経ち、今日の夜には彗星が大接近するらしい。
科学者たちはすでに99%衝突しないという結論を出して、国民に
慌てないように指示を出しているらしい。そのこともあってか、テレビなどを見ると
彗星の大接近を恐怖というよりは楽しみと感じている人が多いらしい。
彗星を肉眼で、しかも大迫力で見れるのだ。
人間として興味を持つのは当たり前の話なのかもしれない。
綺麗なんだろうな……… 彗星は………
この国の人は夜空を見上げるだけでその様子が見れるのに
ここからじゃ、それも叶わない。そのことが少し心に引っかかっていた。
しかし色々なものを見れないのは承知済みだ。わざわざ肉眼で見なくても
すぐに動画サイトにはアップされるし、どうせ今はこんなに騒いでいても、
すぐに忘れられる話題なんだから、と。
どうせ明日からは普通の日常が続くのだから。
第四節 不安
その翌日、いつものアラームで目が覚めた。
このアラームが鳴るということは今は7時のはずだ。
あと30分もしないうちに朝食が運ばれてきて、
それを食べて私の一日が始まる。今日はBLEバーガー2切れ
生野菜のサラダ、牛乳の献立のはずだ。
パンは好きだから、1週間で唯一のパンの朝食はささやかな楽しみだった。
朝食が来る前に洗面所に行き、顔を洗い、歯を磨く。
昨日ドライヤーをかけて寝なかったせいか、髪が酷いことになっている。
たまには念入りに梳かしてみるのも悪くないだろう。
私は集中すると止まらなくなるタイプだ。
だから今日のようにやらないことを急にやると、完璧に仕上げないと
気が済まなくなる時があるのだ。
ハッと気がついた時には、7時半をとっくに回っていた。
おそらく食事はもう届いているだろう。たまにトレイやなんかで
私がいないときに無機質に机の上に料理が届いていることもあった。
しかし私はお世話になった人にちゃんとねぎらいの挨拶をするようにしている。
それが私のモットーなのだ。だから、朝からこういうことがあると
一日ブルーになってしまうのだ。
洗面所を飛び出し、病室に戻る。しかし私の眼には食事は飛び込んでこなかった。
どうやら朝の配膳はまだ行われていないようであった。
いつもならば届いていてもおかしくない時間なので、少し奇妙な感じはしたが、
こんな日もあるだろうと思って、今梳いたばかりの髪を撫でながら、私はPCに
電源を入れた。
最初の変化に気がついたのは、ブラウザを立ち上げようとした時だった。
いつもならすんなり繋がるはずのインターネットも今日はなかなか繋がらない。
サーバーのトラブルなどで繋がらない日があることを、私はたびたび経験していた。
だがこうなると、やることがない。朝ごはんも来ない、ネットも繋がらない。
仕方ないからベットに寝っ転がって、マンガを手にする。
遅い………
朝ごはんが届かないことで私は不安になっていた。
いままで数分の遅れで配膳されることがあったが、
今日は30分以上も遅れている。
仕方ないので、私はナースコールを押して、催促をすることにした。
特別隔離態勢にある私の病室に、わざわざ人を呼び寄せるのが嫌で
ナースコールは極力使わないようにしていた。しかし背に腹は変えられない。
ボタンを押し、相手の対応を待つ・・・・・・・・・・・
10秒経っても、20秒経っても、相手は出なかった。
それで私の不安はさらに増すことになった。
この部屋は外から電子ロックをされており、
私は中からロックを外すことができない。
このまま食事が届かなければ、私は餓死してしまう………
そんなことが頭をよぎったが、考え過ぎだと頭を振い、
今度はテレビを見ることにした。
電源が入っているのにもかかわらず、テレビ画面は砂嵐のまんまだ。
どのチャンネルに合わせても、そのノイズが消えることはない。
今まで経験しなかった不可解な出来事が重なり、私の不安はピークに達していた。
テレビもネットもなければ、この病室は、世界から切り離された場所なのだ。
そのことは知っていた。しかし改めて経験して見ると、とても怖い。
落ち着け、そう自分に言い聞かせながら、時間が過ぎるのを待った。
今の状況が時間が解決してくれると願って………
悪い悪夢を見て目が覚める。途方もなく嫌な夢だった。
思い出そうとしても、おぼろげにしか思い出せないのだが、
とにかく私は最悪な起き方をしたのだ。
全身には汗をビッショリとかいていた。すぐに私は気がついた。
部屋の電気がすべて消え、この部屋の温度がいつもより途方もなく暑いのだ。
この部屋は外気と遮断するために独自の空調システムを使っていると
聞いたことがある。その空調システムのおかげで、この部屋の室温、湿度は
一定に保たれているのだ。
だからこのように温度が厚くなったということは
そのシステムが停止されたということだった。
ベットから身を起こし、非常灯の明かりを頼りに
照明のスイッチに触れる。しかしなんの反応もない。
照明だけではない。テレビもパソコンも電源が入らない状態だった。
これは明らかに非常事態だ。
ナースコールを押して助けを求める、しかし誰も出ない………
この密室に私は完全に閉じ込められた、おまけに電気もつかない。
最悪な状態だった。
暗闇の中で時間だけが過ぎている。空調の止まった部屋は暑く、まるでサウナのようであった。
このままでは死んでしまう・・・・・そう思った時、私はあることに気がついた。
電源が落ちているのだから電子ロックが開いているのかもと。
私は部屋の中のロッカーを開け、緊急時用の遮蔽スーツを身につけた。
これで外に出ても、他の人を感染させなくて済むのだ。
スーツは想像以上に重かった。鏡の前で着た姿を見るとまるで
宇宙船のパイロットだ。だがこれで外に出れる。
私は自室の扉を力いっぱいこじ開けた。
重たいが、徐々に開いている手ごたえを感じる。
両腕に力を込める。思えばこんな力仕事をしたのは初めてだ。
しかし、火事場のなんとかというやつでどうにか扉を開けることに成功した。
ここからは私の知らない風景が広がっていた。
病室のすぐ外にはエアロックがあり、ここでウィルスを殺菌していたらしい。
しかしそのエアロックもいまは作動しない。
エアロックを通り過ぎると、白い廊下に出た。
廊下も病室と同じように停電しており、非常灯のみが
頼りなさげに辺りを照らしていた。
その非常灯に沿いながら通路を歩いて行く。
しばらく歩くと、視界に何かが入ってきた。
"それ"は私の行く手を塞ぐかのように廊下の真ん中にあった。
暗くて何かは分からないが、結構な大きさの"もの"らしい。
私は慎重に足を進める。
「ひっ!?」
近くに寄り、そのモノの正体を知った私は、つい悲鳴をあげてしまった。
それは人間だった……… いや……… 元人間であったものだと言った方が
正確だろう。
その遺体は服装から見て、ここの看護婦のものであった。
いきなり死体を見せられた私はパニックになりそうになった。
まるで遮蔽スーツの酸素の量が極端に減ったような、そんな感覚にも陥る。
喉の奥から出てきた、嘔吐物を吐きだした方が楽になるかもしれないが
このスーツを着て、そんな行為をするわけにはいかない。
吐き気を我慢し、なんとか近くにあった部屋に入る。
部屋に入り、扉を背にして息を整える。
顔と背中に脂汗をかいているのが分かる。
このまま自分の部屋に戻りたかった。しかし、何が原因で
こんなことになっているのか突き止めないといけない、そんな気もしていた。
もう少し、ここでゆっくりとしていたかったが、スーツの酸素にも限界がある。
とりあえず、この部屋を調べるために、私はゆっくりと腰をあげた。
壁沿いを見渡すとそこに非常用の懐中電灯があることに気づけた。
それを取り、スイッチを入れる。
その電灯から出た、光は部屋の中を照らす。
どうやらここは事務室らしい。簡素な机が並んでおり、その上には書類の山が
出来上がっている。
書類にざっと目を通すが、特に目に留まる記載はなかった。
まあ、ライトを手に入れただけでも、大きな収穫だと思うしかない。
あの廊下に出るのは、正直嫌だが、ここでゆっくりしていても
仕方がない。私は意を決して、廊下への扉を押しあける。
遺体の様子を見るのが、嫌だったので、ライトを消し、壁越しに
手を当て、廊下を進む。
廊下は果てしなく長かった。暗闇とそこに転がっている数々の
死体がそう感じさせただけなのかもしれないが・・・・・・
しかし、それでも私は、歩むことをやめなかった。
しばらくすると徐々に視野が明るくなっていることに気がついた。
それは明らかに日の光である。それを感じた私は、歩みを速める。
コンクリートの階段を上がる。B3、B2、B1………
そしてやっと、私は地上へとたどり着いた。
私は暗闇から解放され、安堵のため息を漏らす。
しかし、そうゆっくりもできない。
人を探して、今の事態を知らなければいけないのだ。
だが院内を回り、私は絶望の淵に追い込まれた。
そこには誰もいなかったのだ。
廊下、病室……… どこにいっても、いるのは
死体だけだった………
死体に囲まれ、私の精神は限界に達していた。
何故みんな死んでいるのか………
そんな状況で生きている自分が恨めしいほどだった。
廊下に力なく、腰を降ろしていと、遠くの方で
電子音が鳴っていることに気がついた。
誰かがいる!?そんな希望を胸に、私は立ち上がり、
その音源を目指す。
その音がしていた部屋の扉には院長室のプレートがあった。
その扉を開け、その音の主を探す。
それはファックスであった。おそらく病院の非常用電源を使い送られて来たのであろう。
私はその紙を見る。
内容は英語で書いてあって、分からなかった。しかしその文章内に
知っている単語が一つだけあった。
B273−αウィルス。
この単語は知っている、知らないわけがない………
このウィルスこそ私の病気の原因なのだから………
第五節 好奇心
私は暗闇のなかで黙々と辞書を引いていた。
その手には先ほどのファックスとドーナッツが握られている。
あの後、私は食料と予備の酸素ボンベを持って病室に戻り、ファックスの
解読に勤しんでいた。
懐中電灯の光だけで辞書を引くのは疲れるが、上でスーツを着て作業するよりは楽であった。
そんなに長くない文章であったが、翻訳するのに相当な時間を費やしてしまった。
院長室から失敬してきた腕時計は4時を指している。
まあとりあえず翻訳を終えて文章をまとめてみる。
彗星の接近により、未知のウィルスが蔓延、世界の80%の人々が死亡。
その病原菌はB273−αウィルスに酷似しているという内容だった。
このファックスが送られたのは今日の午前2時と記されている。
おそらくその時点で80%の人が死んでいるのなら、今はもっと悲惨な状況なのだろう。
もしかしたら私しかこの世にはいないのではないだろうかと不安が脳裏をよぎる。
だが、私にはある考えが浮かんでいた。今、部屋の扉は開いているのだ。
もし、ここを出て、外の世界を見られたら……
そんなことを考えている場合ではないことは分かっている。しかし、私にとって外に出る
唯一無二のチャンスなのだ。
この感情はいままで自分が押し殺してきたものである。病気だと自分に言い聞かせ、隠して来たのだ。
でも…… 外に出たい!!
その気持ちを抑えきれずに、私は外へと飛び出した。
病院を出たときに、私は思わず目を瞑ってしまった。上空から光が差し込んでくるのだ。
その光は蛍光灯が放つそれとは違い、とても優しく暖かだった。
スーツで重くなった体を引きずりながら、敷地の出口を目指す。
敷地内にも死体がたくさん転がっていたが、それを目に留めぬように進んだ。
スーツは重かったが、本物の世界を見れるという気持ちが、私の足を早めさせた。
そしてついに敷地の門までたどり着いた。もとは厳重な警備の門であったそこも
今や無人だ。いや、警備員姿の男性が詰め所の中で死んでいることがガラス越しに
見えた。
敷地を出ると、とたんに広い道路が目に映る。どうやらここは市街地からあまり
離れていないのだろう。
その道路に沿って道を歩く。
道路には数々の車が並んでいたが、運転手を失った車は決して動かない。
しばらく行くと、ビル街に出た。だがそこは音のない世界であった。
街の中は死んだように静かであった。夕暮近い太陽の光が作る影はとても不気味であった。
しかし私はその不気味さと好奇心を天秤にかけても後者のほうが上回っていたらしい。
足を止めずに、道を歩く。
道路には数々の死体が転がっていた。せめてもの救いは、その人たちが眠ったように死んでいることだった。
これが全員、苦しい表情をしていたら私は耐えられなかったと思う。
しばらく街を歩く。行くところなど考えてなかったのが災いして、体力だけが
減っていった。そんなときに目に留まったのが、大手のコンビニエンスストアだった。
自動ドアをこじ開け、中に入る。店の中は真っ暗で人の気配は無い。
当然ながら死体はあるのだが。私より少しだけ歳の上の女の子がカウンター裏で倒れていた。
店の中をしばらく見る。そこには私が食べたことの無い、お菓子やお弁当がいっぱい並んでいた。
その中でもアイスが目に入った。ボックスに入っているアイスは数が多かったお陰か、溶けずに無事だった。
その残ったアイスとお弁当をカゴに詰めると私は店の出口を目指した。
これが日常だったら、私は犯罪者なんだろうか?
そんな罪悪感を抱えながら扉を出る。
「ごめんなさい……」
その呟きは虚しく誰もいない空間へと消えていった。
第六節 私だけの夕陽
道を行くと、私の前に大きな建物が見えてきた。
それは展望台だった。それは最近オープンしたとテレビでも報道されていたものだった。
私はそこへと行くことにした。もちろん考えなど無いのだが。
タワーの中はガラリとしていた。おそらくは今日はまだオープンもしてなかったのだろう。
やはりエレベーターは止まっている。なのでかなりの距離を非常階段で上がることになった。
途中で諦めたくなったが、私は階段を上り詰めた。
最期の一段を上がったときには太陽は真っ赤に輝き、街を染めていた。
「キレイ………」
この風景は自分が生きてきた中で一番美しいものだった。
テレビ画面を通さない、自然の美……
この風景を見るだけで自分の人生に意味があったのだと思えた。
彼女はヘルメットを外す。
その瞬間に新鮮な空気が肺を満たす。肌に触れる風は思った以上に冷たかった。
深呼吸をするごとに涙が溢れてくる。
「やっぱり……死ねないのか」
私はいつ死んでもいいと思っていた。いや最初から生きてもいなかったのかもしれない。
狭い部屋に閉じ込められ、毎日毎日行われる検査。
だが皮肉なことに、誰もいない世界で私だけが生き残っている。
これは神様の気まぐれなのだろうか、それとも悪魔の所業なのか。
かごの中を探り、そこにあったアイスを口に含む。
冷たさと甘さが瞬時に口に広がる。
それは今まで食べた何よりも美味しかった。
「あっ…… 当たり……」
もう交換できるはずの無いその棒を私はポケットに大切にしまった。
感想とかあればお願いします。