第35話 保護して庇護して独占したい3(片瀬視点)
柚希ちゃんはあたしの気持ちを知っている。知っていると言っても、花厳君に好意を抱いているという仮初めのものだけど。
なにごとも真っ直ぐで誠実な柚希ちゃんにしては、随分とやり方が汚く、そして浅かった。
それだけ焦っていたんだろう。極端に視野が狭くなってたんだろう。なにせ想い人が親友であるこの〝あたし〟を好いているんだから。
けれど、柚希ちゃんに利用されることで生じるデメリットは一切なかった。むしろメリットしかなかった。だって、あたしと花厳君をくっつけようと必死になってくれるんだもの、突っぱねる理由なんかどこにもないじゃない。ウィンウィン。
けれど、結果として空振りに終わった。柚希ちゃんの叶うはずのなかった恋も終わった。盲目だった彼女が目を覚ましたことで迎えた結末。改心するようなキッカケがあったんだと予想しているけど、別にそれを探ろうとは思わない。
結局、柚希ちゃんは狡猾になりきれなかった。元々が真面目な子だから、無理ないこと。そこが信頼できるとこであり、あたしも柚希ちゃんをかけがえのない友達と思えるとこでもある。
でも、同じ轍を踏むつもりは毛頭ない。花厳君に対して抱くこの気持ちは、恋とは呼び難いものだけれど――絶対に。
静観してるだけはもうやめだ。人に任せるのもやめ、ここからはあたし自身が動く。
だから今日、花厳君と二人きりになれたのは本当にラッキーだった。
さっきの告白はいわば布石。花厳君に振らせることが狙いだった。
よくある話でしょ? 振った相手を意識しちゃって、恋が遅れて実るなんてことは。
けど、それだけじゃ盤石とは到底言えない。希望的観測すぎて心許ない。
「…………ふふ、つくづくあたしはついている。状況に恵まれている」
それでも、問題はなに一つない。だって、欠陥を埋めるのに十分で、手頃で、扱いやすい〝片思い〟が、近くに転がっているんだから。利用しない手はない。
「…………雨?」
ポツリ、ポツリと、アスファルトに染みがついていき、それは徐々に面積を広げていく。
「ふふ、ふふふ……楽しみ」
天を仰いであたしは微笑む。
これから先は、どうしても〝悲しい表情をする機会〟が多くなるから――だから今のうちに笑っておこう。
「……待ってるよ? 花厳君」
第一章 完