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第34話 保護して庇護して独占したい2(片瀬視点)

 花厳君とはクラスが別だったこともあり、言葉を交わすことはおろか、顔を合わせる機会すらほとんどなかった。


 というより、たとえ同じクラスになったとしても、言葉を交わせなかったと思う。


 時折、廊下ですれ違ったりもしたけれど、彼はいつも一人で、話しかけるなオーラを纏っていた。誰かと親しくしているところを見たことがない。多分、クラスでもそうなんだろう……あたしはそう察していた。


 そして実際にそうだった。彼のクラスにいる友達に用があってお邪魔した時が、答え合わせの瞬間だった。


 イヤホンを耳に装着し、机に突っ伏している彼の周りには誰もいない。


 他の人達も皆、彼をまるで気にしていない。


 一匹狼とか、孤高を気取る不良じゃない…………空気、それが彼を表すのにもっともわかりやすい言葉だった。


 月日が流れ、周囲が新しい環境に慣れていく中でも、彼だけは一人を貫いていた。

 自分で言うのもなんだけど、学校で一番彼を気にしていたのはあたしだったかもしれない。


 好きだからとかじゃなく、ただなんとなく気になっていた。


 彼の印象が大きく変わったのは文化祭の日だった。


 多くの人が来場し、賑わっていたあの日に、偶然あたしは目にしてしまった。いや、彼を見かける度に目で追っていたあたしだから気付けたとも言える。偶然じゃなく必然だったと言える。


 その日、お祭り騒ぎの空気にも関わらず、相も変わらず空気に徹していた花厳君が、ある他校の女子集団を目にした瞬間に表情を強張らせたのを、あたしは見逃さなかった。


 今まで表情という表情、感情という感情を表に出してこなかった花厳君の、初めて見せたものが……恐怖だった。


 失礼な感想だけど、女子集団に特筆すべき点はなかった。当たり障りのない女の子、そんな感じ。


 なのに彼は逃げた。顔を俯かせ、バレないように足早に。


 あの集団の中の誰か、それとも集団そのものと、過去になにかあったのかもしれない。でなければあの過剰なまでの反応を説明できない。


 …………そうなんだぁ…………そうなんだぁ…………。


 でも、そんなこと、あたしにはどうでもよかった。


 ……………………可愛いなぁ。


 優しそうには見えなかった。どうしても怖そうが先行していた。


 けれどそれはあたしの勘違い。花厳君は怖くなんかない、むしろ花厳君が他人を怖がっている。


 そう思うと、もう可愛くて可愛くて仕方がなかった。臆病で繊細な心を隠すため

に、あえて突き放すような態度をとっているようで。


 攻撃的な人ほど実は内面が脆い。それを悟られないよう攻撃的になる。攻めているんじゃない、自己防衛の一種。


 本当は弱いのに強がっている……そんな一面を見せられたらもう――――たまらなくてしょうがない。


 以降、花厳君に対する見方が百八十度変わった。なにをするにも可愛く映ってしまい、日に日に守ってあげたいが強くなっていった。

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