第29話 お散歩3
「〝も〟ってなんだよ〝も〟って」
「〝も〟は〝も〟だよ。花厳君もかなり捻くれてるでしょ? あたしなんかじゃ比べ物にならないくらい」
「いやいや、言うほど俺のこと知らないでしょうに」
「言うほど知らなくてもそう思えちゃうんだから、よっぽどだと思うよ?」
すぐさま切り返してきた片瀬。なるほど、自分で言うだけあって中々に捻くれている――そう感じさせる言い回しだった。
「……まぁ、否定はしないけども。というかお前、キャラ変わりすぎじゃね?」
「と、いうと?」
ニヤニヤしながらわざとらしく首を傾げる片瀬。なにについてかを知っていて聞き返しているのは明らかだ。
「さっきまで内気で口下手な女の子って感じだったのに、今じゃ見る影もない。一体どっちが片瀬の素なんだ?」
「あ、そういうこと。ん~、どっちが素なんだろうね~」
片瀬は人差し指を唇に当てて、いかにも悩んでますみたいなポーズをとる。どうにも噓くさい、振りにしか見えない。
「どっちもあたし、かな? でも強いて言えば……今の方があたしらしい、かも?」
「つまり、自分でもよくわかってないと」
「そういうこと! 花厳君はどっちのあたしが良い?」
「また困る質問を……そうだなぁ」
仕返しってわけじゃない。これは俺の癖のようなもの。答えを既に有しているのに考える振りをする。あっさりとは真逆、くどいやり方。
その様を見て、片瀬はくすりと笑う。
「どっちでもいいは、なしだからね?」
答える前に釘を刺されてしまい、振りは振りでなくなる。
……もし、ここで俺が内気な方が良いと答えたら、すぐに彼女は切り替わるのだろうか。
好奇心とまではいかないけれど、試してみたいとは思った。
「…………強いて言うなら、オドオドしてる方、かな」
「そっか」
そう短く返してきたのも束の間、片瀬の顔が徐々に赤くなっていく。
「――ふ、二人だと、ちょっと緊張しちゃうね。花厳君」
次の瞬間には捻くれ者の片瀬は消え、俺が抱いていた印象通りの片瀬になっていた。
再現、という単語が頭の中に浮かぶ。内気で口下手でオドオドしている姿は片瀬らしくもあったが、同時に胡散臭くもあった。
彼女はどっちもあたしと言っていたが、捻くれ状態の時の方が、生き生きとしていた気がする。
憶測の域を出ない。けど、多分――片瀬は見かけによらず、曲者だ。