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第28話 お散歩2

 主にならうようにタロウも「ワンッ!」とえた。


 河川敷の道を、俺と片瀬とタロウ、二人と一匹で散歩する。


 誰かと散歩するのも中々に面白い。そう思えたのは、新しい発見があったからだ。片瀬の歩調に合わせて知った、普段の俺はやたら歩くのが速かったのだと。


 自分だけでじゃまず気付けない。ニュースのライブ映像でよく映しだされている渋谷のスクランブル交差点とかでなら、一瞬で溶け込める歩行速度なんだろうが、ここでじゃ少し、速すぎる。そういう気付き。


 同じ道、同じ景色のはずなのに、歩みを少し遅くするだけでこうも見方が変わってくるのだ。そりゃ人の一生で得られる経験、知識は限られてくる。際限ないとさえ思えてしまう、それほど世界は広いんだから。


 たかだか歩くのが速い遅いで世界を語るのもどうかと思うけど。


 いちいちスケールを大きくするの止めなさいと自分で自分に突っ込みを入れていると、不意に前を行くタロウと目が合う。


 ちんたら歩く俺と片瀬を待っている。これで追いつてもまた先に行ってしまうのだろう。さっきからそれの繰り返し。


 ペットは飼い主に似るとかよく言うけど、ありゃ嘘なんでは? そんな疑問が浮かんでしまうくらいタロウは活発な子だ。


「花厳君は、よくここに散歩にくるの?」


「あ~、そうだな。毎日ってわけじゃないけど、ちょいちょいくるな」


「そうなんだ。おばあちゃんと親し気だったけど、ここで仲良くなったのかな?」


「まぁ、そんな感じだな」


 俺は曖昧あいまいに答えた。真実を口にするのはなんとなくはばかられる気がしたから。


「……ごめん、知らない振りしちゃったけど、実は知ってるんだ。花厳君、おばあちゃんを助けてくれたんでしょ?」


「……知ってたのかよ。なんだ? 俺が鼻高々に語るかどうか試したのか?」


「う~ん…………ちょっぴり、ね」


 片瀬は右手の親指と人差し指をCの字に作って申し訳なさそうに笑う。


「てかなんで知ってんだよ」


「おばあちゃんがね、嬉しそうに話してたの。花厳君は心優しい恩人だって。今でも花厳君の名前、よくでてくるんだよ?」


「え、なに、俺って片瀬家では有名人なの? やだ、困っちゃう」


「ははッ、すっごいテキトー。ひょっとして照れ隠し?」


 口元を押さえ揶揄からかうように言ってきた片瀬。話し始めこそシャイがでるものの、言葉を交わしていく内に小悪魔チックになっていく。柊と三人で出かけた時もそう言う節が見て取れた。


 案外、今目の前にしている彼女が本性なのかもしれない。


「おばあちゃん、すごく感謝してた。同じくらい、あたしも感謝してるんだ。おばあちゃんを助けてくれてありがとう、花厳君!」


「最初から素直に感謝されてたら良かったんだがな……先にちょっぴり試されちゃってるからな」


「ごめんごめん。私〝も〟ね、ちょっとだけ捻くれてるんだ。だから許して?」


 彼女は揶揄うような笑みをキープしたまま、両手を合わせて許しをいてきた。

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